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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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多少とも想定外ではあったものの、俺も初めてハンドガンでクマを仕留めることになった。

やはり、射撃仲間から聞いた話は本当でライフル弾よりは威力の劣る44マグナム弾を6発も消費しなければクロクマを始末することができないわけである。

俺は地面に落としていたナイロン製のソフトケースを拾い上げると、その場に腰を降ろして左手に持ったニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のローディング・ゲートを右手で開いてシリンダーに残っている空薬莢を太いバレルの4時の位置にあるエジェクション・バーを後方へ押してチャンバーから空薬莢を排出させる度に、ベストの右ポケットから44マグナム弾薬を1発だけ取り出してシリンダーのチャンバーへ装填していくのを繰り返す。

6発分の空薬莢を排出して、新たな44マグナム弾薬を装填し終えて開いたローディング・ゲートを閉じて、いつでも発砲可能な状態にして左腰のホルスターへニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を差し込む。

今、目の前に死体と化したクロクマを始末することには成功したが、これからルシェンコ・ボルツォフの別荘へ赴いて建物内に居る連中を始末しに行く途中や狙撃を実施中、或いは狙撃を終えてロッジへ引き返す際に野生動物と遭遇する可能性は捨てきれないばかりか、目の前のクロクマからは流出した血液の匂いが周囲に漂っているので、草食獣は怯えて近寄らないだろうが肉食獣は血の匂いに吊られて近付いてくるであろうことは充分に想像ができるので、それらに対応する意味でも今のうちにニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃にリロードしておくのはマストな準備と言える。

地面に落としていたソフトケースを再び左手に持って、ルシェンコ・ボルツォフの別荘へ接近ため軽快に歩き出す。

目測では、そろそろルシェンコ・ボルツォフの別荘までの距離が250メートルくらいの地点には辿り着いたように感じるので、周囲を見廻して狙撃を行うのに最適と思えるような場所を探し始める。

ここでの狙撃は、伏せた状態で発砲するプローンというのは選択し難いので、片膝を立てた状態で発砲を行うニーリングか、或いは地面に座った状態で発砲するシッティングができる場所ということになる。当然、立ち上がった姿勢の立射となるスタンディングも可能ではあるが、立射となれば茂みから上半身が完全に丸見えの状態となるので、仮にルシェンコ・ボルツォフのボディーガードであった者が居残りしてる場合には恰好の標的になって集中砲火を受けることになってしまうので、最初から選択肢として除外される。

暫く周囲を探していると手頃な感じの茂みを見付けることができたので、右肩に担いでいたTFMボルトアクション・ライフル銃を降ろしてから、スコープのプラスチック製保護キャップを跳ね上げてから、ベストの右胸に仕舞っている携帯電話を取り出して凡そではあるが別荘までの射程距離を入力すると、瞬時にスコープのエレベーション修正量が算出される。

俺は、携帯電話に表示されている算出結果を元にエレベーション・ダイヤルを弄る前にエレベーション・ダイヤルの上部にあるゼロ・セット・ボタンを使って、TFMボルトアクション・ライフル銃に装着しているスコープのエレベーションをゼロインした時の状態へ戻しておく。

全てのスコープに備わっているわけではないが、ある程度の上位機種になれば備わっている機能で、ゼロインを行った後にゼロインをした状態のセットをしておくことによって、その後の使用でエジェクション・ダイヤルを弄ったにしてもセロ・セット機能を使用すれば瞬時にゼロインを行った際の状態に戻すのことができるのだ。

如何に、記憶力がある射手であっても戦場や猟場等ではゼロインを実施した状態と同じ射程距離からの狙撃という条件は望めず、その場での射程距離に合わせてスコープのエレベーションを修正しなければならなくなり、最初のうちは1度目の修正量を覚えているので新たな修正量は1度目の修正量との差だけを調整すれば済むが、それを何度も繰り返していれば記憶も混乱して正しい修正量が分からなくなり、適性な修正が行えないままで狙撃を実施せざるを得なくなってしまうことから、ゼロ・セット機能を使用することで常に最初のゼロイン状態へ戻しておけば、手元にある修正量ソフトでの計算結果を信用してダイレクトにエレベーション・ダイヤルを必要量だけ回せば済むことになる。

スコープの修正量計算ソフトの計算結果は、相変わらず小数点以下の数値まである値となっているので、ダイレクトに修正することはできないから小数点以下の値についての処理は個々の射手による匙加減といったところで、それこそがスナイパーとしてのスキルの差が表れるところである。

今回の狙撃について言えば、射撃姿勢をニーリングで行うつもりでいるので水平発射か若干の仰角がつく撃ち上げということになり、射程距離も250メートルから300メートルの間であるのは間違いがないことを踏まえ、使用する弾薬が338ラプアマグナム弾薬からして発射された弾丸のドロップ量は多くなるとは考えられないず、逆に上昇している弾道となるはずである。

元々。338ラプアマグナム弾薬は1980年代に軍のスナイパーが長距離狙撃用として開発された弾薬で、アフガニスタン紛争やイラク戦争で使用された実績があり、最大有効射程距離は1750メートルとなっており射程距離が1000メートル以内であれば軍が使用するボディアーマーを貫通させる威力を有している。

それ程の威力がある338ラプアマグナム弾薬であるならば、射程距離が300メートル以内であるならば人間1人くらいは軽く貫通して後方に居る人間さえも射殺することが可能と言える。

ニーリングのポジションをとり、充分に上体を安定させてTFMボルトアクション・ライフル銃を構えてスコープを覗くが左手の人差し指は未だトリガーに掛けてはいない。

幸運にも風は殆ど無いように感じられるので、前回の偵察でも覗いてみたリビングルームへスコープを向けてみると、レースのカーテンが引かれているのでハッキリとは見えないまでも室内に人物が居ることくらいは充分に認識できるし、男女の識別も充分に可能となっている。

リビングルームには、ルシェンコ・ボルツォフの若い愛人と思える2人の娘がソファーで横になっているのがスコープ越しに確認できる。

養ってくれているルシェンコ・ボルツォフは、既に死亡しているのに随分と気楽な状況だと思ってしまうが、そもそもソファーで寝そべっている娘達はルシェンコ・ボルツォフが死んだことを分かるわけがないので、その気楽な生活もルシェンコ・ボルツォフの死を認識することなく終わりが告げられることになる。

映画やドラマ等では、男性主人公が女や子供は撃たない等というセリフを口にするシーンを見受けるが、俺は必要とあれば女性だろうが子供であっても一切の容赦はしない。

それは、過去に従事した中東でのミッションで15歳くらいの少女だったが、道端で俺の相棒に花を売りに来たのだが見た目が幼く感じられたため、俺と相棒は気を許してしまっていたのだが、15歳の少女は相棒の目の前で花束に隠していた爆弾を起動させて自爆し、当然だが相棒も少女の自爆に巻き込まれて爆死したのを少し離れた場所から目撃した経験があるので少しでも危険を感じたような場合には、その相手が女性や子供であっても一切の躊躇もなくトリガーを引けなければ簡単に死の世界へ旅立ってしまわなければならなくなる。

白いレースのカーテン越しに、若いルシェンコ・ボルツォフの愛人と思われる娘の1人をスコープのレティクル・センターに捉え、風の状態を感じ取るが近距離であることを踏まえても、弾道に影響を与えそうな横風等は吹いていないと言っても良い。

また、俺の居る位置から発砲すれば狙っている娘の身体を弾丸は貫通して、もう1人の娘さえも被弾させることが可能となるかもしれないと思いながら、左手の人差し指をトリガーに添えて安全装置を外してからトリガーを引き始める。

「ドォーンッ」という発砲音と共にTFMボルトアクション・ライフル銃のマズルは、上方へ向けて引っ張られリボルバー拳銃であるニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃と似たようなダイレクトな反動が身体を襲ってくる。

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