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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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200/211

200

茂みの隙間から未だ距離は充分にあるが、ルシェンコ・ボルツォフの別荘が徐々に見えてくる。

幸いにも、ここまでの道のりでは数頭のシカ類との遭遇はあったものの、全て俺の存在を知った瞬間に茂みの奥へ走り去って消えて行った。

もう338ラプアマグナム弾薬の射程距離になっているが、何せ森林の中では障害物となる樹木が多く自生しており、幾ら弾薬の射程圏内と言っても安易に発砲したところで途中にある枝等の障害物と弾丸が接触して、何処へ弾丸が飛翔していったのかさえ分からなくなり、単に弾薬の浪費にしかならず無意味な発砲となる。

しかも、現状ではルシェンコ・ボルツォフの別荘に銃器の扱いに慣れたボディガードの存在があるのかも分からないだけでなく、これからミッションが終了してロッジへ戻るまでの間にルシェンコ・ボルツォフ達が遭遇したようなクマとの遭遇さえ無いとは言えないのだから、ルシェンコ・ボルツォフの殺害に成功しただけで気を許して無闇な発砲等していられず、少しでも無駄な弾薬は使いたくないのが本当のところだ。

徐々に、ルシェンコ・ボルツォフの別荘までの距離が狭まってきているが、前回の偵察を行った際に200メートル付近に接近した時点でアサルトライフル銃の銃撃を受けているのだから、油断して200メートル以内にまで近寄ると前回と同様に銃撃されないとも限らない。

あくまでも俺の目測なのだが、ルシェンコ・ボルツォフの別荘まで500メートル手前くらいまで辿り着いた時に、前方11時の方向から「ガサッ、ガサッ」という叢を動物が分け入って来るような音が聞こえてくる。

最初のうちは、前回の偵察を踏まえて周辺に野生動物が近寄るはずがないと気を許していたが、11時の方向で距離にすれば30メートルくらい先にある叢の一部分だが揺れているところが目に入ると生い茂る茂みの中から黒い大きな動物の姿が見えてくる。

俺も流石に一瞬だが動きが止まり、その動物を凝視すると明らかに先程射殺したクロクマと同様の体格サイズをしているクロクマである。

クマと言えども余程興奮状態でもない限りは人間を見たからと言って無暗に襲ってくるわけではないが、ただ匂いには敏感なので餌になるような食い物を持っていれば、その食い物を奪い取ろうとして接近してくる可能性は捨てきれない。

何と言っても、顔の造りが犬のように鼻先が長いことから人間以上の嗅覚神経が通っており嗅覚能力は人間の数万倍とも言われているから、少しの匂いも見逃さずに食い物があると判断すれば冬籠り前で異常な食欲がある時期だけに尚更である。

一瞬、頭を過ったのはルシェンコ・ボルツォフの死亡を確認するためにクロクマが覆い被さった状態の死体に近寄ったため、靴底に流れ出た血液の一部を踏み付けている可能性があり、もしも靴底に付着した血液の匂いに反応するようだと俺の方に関心を寄せて近付いてくるかもしれないということだ。

ただ、その場合にはクロクマとの距離が50メートル以下の状態となっているので、TFMボルトアクション・ライフル銃は射程距離が短過ぎて使えないことになる。

単に、ライフル銃から弾薬を発砲するだけなら使用できないこともないが、スコープを使って照準しようとしても装着しているスコープの倍率が最低倍率は等倍ではなく3倍からなので、3倍の倍率では30メートル以下の至近距離となれば照準どころの話ではなくなる。

この射程距離では、左腰のホルスターに差し込んでいるニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を使用する以外に選択肢はない。

ただし、どんなに狙いを定めたとしても1発でケリが着く相手ではないので6発全弾を撃ち込む覚悟で発砲しなければならないことになる。

俺は、左手に持っていたナイロン製のソフトケースを離してから左腰のホルスターからニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃を抜き出してクロクマにマズルを向けて両腕で構え、右手の親指でハンマーを起しコックしてフロント・サイト越しにクロクマの鼻先あたりを狙う。

微かな記憶だが、射撃仲間の1人でハンティングも趣味にしている人物からクマの急所の1つとして鼻先であることを聞いたような気がするので、今はクロクマが正面を向いて俺に向かってきている状況で、心臓等を狙うにしても狙点を捉えられないので一種の懸けではあるが狙点とする。

トリガーに左手の人差し指を添えて、比較的ゆっくりとした感じで接近しくるクロクマを捉えながらトリガーを引き始め、シングル・アクションであるためトリガーを引く最初の3ミリメートルくらいは抵抗も少なくスムーズにトリガーを引く事ができ、その後はトリガーに抵抗を感じてくるのでトリガーを引いている左手の人差し指に力を加えていくのだが、ここで一挙に力を加えるとトリガーが切れた瞬間に勢い余って利き手側に拳銃本体が引っ張れるような状態となってマズルが狙点から逸れることになるので、野生のクロクマが徐々に接近してくるので焦る気持ちが湧き上がってくるが、とにかく人差し指に込める力は徐々に強くしていくよう心掛ける。

その瞬間は、実にあっけない程に訪れ強い抵抗があったトリガーが急に抵抗が無くなったかと思うと、「ドォーンッ」という大きな発砲音が響きニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のグリップを握っている手のなかで、まるで拳銃自体に意志でもあるかのように掌から逃れるような感じでニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃が暴れて上方には姿の見えない何者かが力ずくで引っ張り上げるかのように持ち上げるのと同時に、いつも撃ち慣れているセミ・オートマチック拳銃の反動よりも強烈な衝撃が襲ってくる。

これは、何も強力な44マグナム弾薬を発砲したために発生していることではなく、リボルバー拳銃全般に言えることで、セミ・オートマチック拳銃の場合は発砲の直後にチャンバー内にある空薬莢を排出するためスライドが後退するのだが、そのスライドが後退するのに必要な動力として反動パワーの何割かが消費されることで若干だが射手に伝わる反動はマイルドに感じられるが、リボルバー拳銃の場合では発砲後に空薬莢等を排出するようなギャミックは備えられておらず、更に発砲によって発生する反動を利用するような機構もないので、発砲による反動は全てダイレクトに射手の身体に伝わるために反動が強く感じられることになる。

俺が放った44マグナム弾は、狙い通りにクロクマの鼻先へ命中すると霧状になった血飛沫が見えた瞬間に、クロクマは両の前脚で被弾した鼻先を押さえるようにして蹲る。

その間に、俺は事前訓練の通りにハンマーをコッキングして次弾の発砲に備えていると、鼻先を被弾したクロクマは前脚で鼻先を押さえた状態で身体を激しく左右に振っていたが、左右に激しく動くのを止めた途端に鼻先を押さえていた前脚を離して、激しい憎悪に燃えた目を俺に向けると鼻から吹き出して血だらけとなった口から牙を剥き出しにして「グォーッ」と吠えてきた。

俺は、咄嗟にクロクマが攻撃のために俺に向かってダッシュしてくると判断して2発目も鼻先に狙いを定めてトリガーを絞り落とし、再び「ドォーンッ」という発砲音と共にニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のマズルは上方へ勢い良く跳ね上がる。

再び至近距離から44マグナム弾が被弾したクロクマからは、被弾した鼻先付近から何かが吹っ飛んだように見えたが、この状況では吹っ飛んだものが何なのか確認している余裕はないので、俺は直ぐに右手の親指をニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のハンマーを起すためにチェッカリングが施されたハンマー・スパーに掛けてコッキングを始め3発目の発砲準備を行う。

ハンマーのコッキングが出来て、再度クロクマへマズルを向けて狙いを定めているとクロクマの鼻先はグチャグチャに変形して血だらけになっているのが分かるが、それでもクロクマは俺に対する憎悪と敵意を剥き出しにして襲い掛かろうとしているので、俺も遠慮することなく3発目の44マグナム弾をクロクマの右目に向けて発砲する。

轟音が響き渡り、ニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のマズルは仰角45度くらいに跳ね上がり、放たれた弾丸はクロクマの右目の上部辺りに人間で言えば瞼の辺りに命中して、クロクマの頭部からは霧状になった血煙が噴き出すのと同時に肉片のような物が吹き飛ばされるのを目にする。

ライフル弾ではないものの至近距離から頭部に44マグナム弾が被弾したことで、流石のクロクマも相当なダメージを被ったため後ろ足では立っていられなくなったのか、完全に尻が地面に着いてしまっているのと唸り声が相当に弱々しくなってきている。

クロクマが相当のダメージを受けて弱っているのが分かりはしたが、ここで情けを掛けてやれるくらいに余裕のある状況ではないので、俺は4発目の発砲に備えて直ぐに右手の親指をハンマースパーに掛けてコッキングを始めると同時にクロクマの近くへ走り出す。

クロクマに対して止めを刺すために接近を試みるが、流石に10メートル以内まで近寄るようなことをすればクロクマも最後に力を振り絞って逆襲してくる可能性があるので、クロクマの手前15メートル程の超至近距離に近付いてニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃からクロクマの胸部へ向けて4発目を発砲する。

度重なる44マグナム弾を被弾したことで確実に瀕死の状態となっているクロクマは、胸部に被弾しても蹲ることもなく尻餅を突いたような姿勢で上半身をふら付かせているだけとなった。

そんな状態のクロクマに構うことなく5発目の発砲を行うために、右手の親指はハンマー・スパーに掛けてコッキングを終えて、マズルはクロクマの4発目と同じ胸部へ向けて発砲する。

ほぼ4発目と同じ箇所へ5発目も命中し、この時になって初めて「バキッ、バキッ」という骨が砕ける音が聞こえてきたので、44マグナム弾によってクロクマの胸骨が折れたことを認識する。

その直後、尻を着いて座り込んだような姿勢でいたクロクマが横倒しとなって口から血を吐き出すが、その血は負傷している鼻からのものなのか2発の44マグナム弾を胸部に被弾したことで心臓が破壊されてのものなのかは判断がつかない。

漸く横倒しとなったクロクマへの止めとして、6発目の発砲に備えてコッキングしていたニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のマズルをクロクマへ向けた状態で、倒れているクロクマの背後へ回り込んでクロクマの頭部へニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のマズルを1メートルくらいの距離から発砲する。

至近距離から44マグナム弾を被弾したことで、クロクマの頭部が一瞬だけ動くが脳まで完全に破壊されている以上、俺に対して反撃を行うことは不可能となった。

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