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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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その日は、朝から雲一つなく真っ青な晴天に恵まれているためルシェンコ・ボルツォフも出猟に出る気になったのか、手元にある携帯電話で接続してルシェンコ・ボルツォフをマークしている画像には、既にルシェンコ・ボルツォフが別荘を出発して猟場へ向かっているのがプロットされている。

俺は、朝食を摂り終えて洗顔や歯磨きを済ませて出猟のように見せ掛けるための着替えを行っているところで、ルシェンコ・ボルツォフが別荘を出発したと言っても身近な距離での尾行を行うわけではないので、余り急ぐ必要はないし俺が本気で歩いて行けばルシェンコ・ボルツォフ達を射程圏内に捉えるのは大して難しいことではない。

今日は、チャンスさえあればルシェンコ・ボルツォフの狙撃を行おうと思っているので茂みに紛れて射撃姿勢を取った際に目立たぬよう迷彩柄の服装を身に着けることにした。

サングラス代わりのシューティング・グラスを掛けて、携帯電話の画面に映し出されているルシェンコ・ボルツォフの位置を確認したところで、森林の中へ歩を進める。

今のうちは、野生動物の遭遇に注意を払っていればルシェンコ・ボルツォフ達の後方200メートル前後にまで迫る最中にシカ類等の草食獣との遭遇ならば、俺の姿を見付け次第に走って逃げてくれそうだが、問題なのはピューマやコヨーテ等の肉食獣に加えてクマと遭遇することで、実際問題として目前に出現するようなことになれば厄介なことになってくる。

ピューマやコヨーテくらいならば、ニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃によって初弾を命中させれば充分に始末することができるが、クマともなれば44マグナム弾薬1発でケリが着くような相手ではなく、以前に射撃仲間でハンティングもしている連中から聞いた話では、ロッジで宿泊していた深夜に食い物を漁る目的でクロクマが襲撃してきた際には、バックアップ用に持参していたニュースーパー・ブラック・44マグナム拳銃のシリンダーに装填していた6発を全弾発砲して何とかクロクマを撃退したとのことなので、ルシェンコ・ボルツォフ達を追っている最中にクロクマやグリズリーと遭遇にでもなれば338ラプアマグナム弾薬を使用するTFMボルトアクション・ライフル銃でなければ到底相手にできるものではない。

ただ、そのような事態となってTFMボルトアクション・ライフル銃を発砲すれば間違いなくルシェンコ・ボルツォフ達に居場所を知らせることになってしまうので、その時にはルシェンコ・ボルツォフを今日中に狙撃するのは諦めなければならなくなるだろう。

そう言った意味では、周辺に野生動物が生息しているアラスカの猟場と言えるような場所での狙撃は厄介であると改めて感じる。

今も、ルシェンコ・ボルツォフ達が猟場へ移動しているのを追跡している状況で、少し前方で「ガザッ」という叢を動物が踏みしめるような音が聞こえる度に一瞬でも緊張が走るくらいに敏感となっている。

幸いにも、今のところは姿を現した動物はムース等のシカ類だったので事なきを得ているが、いつ何時にクマの類が現れないとも限らないので気が休まる暇がない状態だ。

そうしているうちに、携帯電話の画面を何気に覗くとルシェンコ・ボルツォフ達の後方400メートルくらいの位置に着いていることを自覚する。

ここまで来れば、仮に野生動物と遭遇するような機会があったとしてもルシェンコ・ボルツォフのハンティング対象として銃撃してくるだろうから、その間に俺はターゲットを狙撃可能となりそうな場所を探して、そこからルシェンコ・ボルツォフを射殺することに専念すれば良いことになる。

狙撃のチャンスは、数日前に見たハンティングの様子からしてルシェンコ・ボルツォフは止めの発砲くらいだろうから、ボディーガードがアサルトライフル銃で半殺し状態にして殆ど動けぬ瀕死の動物を至近距離から射殺するのだろうから、ルシェンコ・ボルツォフが照準している最中か、或いは獲物に止めを刺して記念撮影を行う際が絶好のチャンスとなり、ルシェンコ・ボルツォフを狙撃した後に手間の掛かるボディーガード達を始末すればミッションは完了となる。

暫くすると前方からアサルトライフル銃をフルオートで発砲している音が聞こえてくるので、雇い主であるルシェンコ・ボルツォフが確実に獲物を仕留めるために動物を半殺しにするためのボディーガードの事前射撃がスタートしたのだろう。

しかし、ボディーガードがフルオートで狙った獲物を半殺し状態にして瀕死の状態となっている野生動物に、ライフル銃からすれば至近距離とも言えそうな場所で光学照準器等を使う必要性すらない状態で止めを刺すのはハンティングと言えるのかは甚だ疑問ではあるが、そのようなハンティングごっこを展開してくれるお陰で、暗殺命令が下されているルシェンコ・ボルツォフのような男を確実に狙撃するチャンスが巡ってくるのだから奴のハンティング方法について疑問を呈しても意味はない。

可能であれば、茂みと一体化できて100メートルも離れると見分けのつかないギリースーツを着用したいところだが、今回のミッションでは支給されていないので、俺のスキルを総動員して狙撃位置が、相手にバレることのないようにしてルシェンコ・ボルツォフの狙撃を行わなければならない。

足音を立てぬように小走りとなってルシェンコ・ボルツォフ達との距離を詰めて、奴等の姿が確認できる所にまで接近すると、ルシェンコ・ボルツォフと2人のボディーガードが迷彩服を着用しており、未だにボディーガードがアサルトライフル銃を連射している姿を捉えることができる位置にまで来れた。

俺は、周囲を見廻して姿を隠せるような茂みを急いで探すと、10メートルほど登り斜面となっている辺りに都合の良さそうな茂みを発見して、その斜面を登り始める。

心の中では、俺が狙撃位置に辿り着くまでボディーガードが連射を終わらせることのないよう祈りながら、とにかく音だけは出さないように注意を払って斜面を息を切らせることなく駆け上がる。

茂みの裏手に蹲り、ルシェンコ・ボルツォフ達からは死角となるようにしてから右肩に担いでいたソフトケースを降ろして、ファスナーを引いてケースを開けると収納していたTFMボルトアクション・ライフル銃を取り出し、フォアエンド前端部に装着しているバイポッドの脚を起して、ライフル銃が安定できる場所を探して置くと腹這いとなってルシェンコ・ボルツォフの姿を見ながらバイポッドの脚の長さを調整する。

338ラプアマグナム弾薬5発を装填しているボックス・マガジンは既に銃本体へ装着しているので、右手でボルト・ハンドの取っ手を握ってからボルト・ハンドを上方へ持ち上げてから後方へボルトを後退させる。

ボルトの後退がストップとなったところで、今度はボルトを前進させるためにボルト・ハンドを前方へ押し込むとボルト・フェイスがマガジン最上部の338ラプアマグナム弾薬のヘッド部に接する感触が伝わってくるので、そこからは派手に金属音が鳴らないように注意して慎重に押し込み、338ラプアマグナム弾薬をチャンバーへ送り込む。

エジェクション・ポートから完全に内部が見えなくなった所で、ボルトの前進はストップとなるので右手で握っているボルト・ハンドを最初の位置へ戻すように下方へ下げて完全にチャンバーを閉鎖してからスコープの接舷レンズ部と対物レンズ部に取り付けている樹脂製の保護キャップをそれぞれ跳ね上げて、利き目である左目で接眼レンズを覗き込む。

着用しているベストの左胸ポケットの中にある携帯電話を右手で取り出してから、スコープのエレベーションを計算してくれるアプリケーションを起動させてターゲットであるルシェンコ・ボルツォフまでの凡その距離を入力すると瞬時に計算結果が表示されるが相変わらず小数点付きの値となっているので、その答えを参考にスコープ本体中央の上部になるエレベーション・ダイヤルのノブを廻してレティクルの調整を行う。

ただし、ターゲットであるルシェンコ・ボルツォフまでの距離は凡そ250メートルくらいになっているが、ターゲットとの位置関係は俺がターゲットより高い位置に居るので撃ち下ろしとなるので、発砲した弾丸の弾道は低伸して上方へシフトするのでエレベーション・ダイヤルで調整しようかと思ったが、携帯電話のアプリケーションが算出した水平発砲時の場合におけるエレベーションの修正値を下手に修正することなく小数点以下のみ切り捨ててエレベーション・ダイヤルを回すことにする。

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