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笑みに包まれ満足気な表情のルシェンコ・ボルツォフにボディーガードの1人と思われる男が、掌サイズくらいの金属ケースから1本の葉巻を取り出して身に着けているベストの胸ポケットから葉巻の吸い口を作るためのシガーカッターを出して、葉巻の端をカットした後にルシェンコ・ボルツォフへ渡すと、その葉巻を無造作に受け取ったルシェンコ・ボルツォフが微笑みながら口に咥える。
そこへ、葉巻を渡したボディーガードがジッポーライターを取り出して点火すると、その火が着いたジッポーライターをルシェンコ・ボルツォフが咥えている葉巻の近くへ寄せるとルシェンコ・ボルツォフは咥えている葉巻の先端をジッポーライターの炎へ寄せて何度か頬を凹ませて口から煙を吐き出す動作で葉巻の先端に火を点ける。
火を点けた葉巻を口に咥えたルシェンコ・ボルツォフは、仕留めた牡のムースに近寄って横倒しになっているムースの首の付け根あたりを跨いでから、両手でムースの角を掴んで顔を持ち上げるようなポーズをしているところに、ボディーガードが持参しているデジタルカメラでポーズを決めているルシェンコ・ボルツォフの姿に向けて何度かシャッターを切る。
ハンティングが成功した記念写真の撮影を終えると、ルシェンコ・ボルツォフは口と鼻から葉巻の煙を吐き出しながら仕留めた牡のムースから離れると、口に咥えていた葉巻を右手の人差し指と中指の間に挟んで後方へ視線を送ると控えていた数人が横倒しとなっているムースへ群がるように近付くと、それぞれが大小のナイフを取り出してムースの解体を始める。
その様子を離れた場所から眺めていたルシェンコ・ボルツォフは、何事かを言ったようでルシェンコ・ボルツォフとボディーガードの2人が、ムースの解体作業をしている男達を置き去りにして去って行く。
恐らく、ムースの解体作業をしている男達はルシェンコ・ボルツォフが契約している剥製制作会社の人間達なのだろうと思われ、その場でルシェンコ・ボルツォフが仕留めた獲物を解体でして、剥製を制作するのに必要な皮と骨だけにして剥製制作工場へ送ることになっているのかもしれない。
そうなると、今日のルシェンコ・ボルツォフの出猟は終了ということになり別荘へ戻ることになるだろうから、ルシェンコ・ボルツォフとボディーガードの3人を慌てて尾行しなくてもルシェンコ・ボルツォフの別荘ならば、予め指令書に貼付されていたCIAの情報で把握しているので別荘の場所は頭の中に入っているので、凡その方向は分かっているので3人を尾行しなくても俺1人で行ける。
ルシェンコ・ボルツォフとボディーガードの3人が去ってから、双眼鏡をナップザックに仕舞ってムースの解体作業を行っている連中に気付かれぬよう音を立てずに注意しながら、その場を離れてルシェンコ・ボルツォフが向かうであろう別荘へ移動を始める。
暫く歩いていると、微かだが前方から葉巻の香りが漂ってくるのを感じられるのは、ルシェンコ・ボルツォフの歩く速度にボディーガードの2人も歩調を合わせているからで、この程度の山道に慣れている俺の方が3人に追いついたからかもしれない。
何と言っても軍隊の経験もなく、幾らギャングのボスであったからと言って体力が充分に備わっているとは思えず、ある程度の金を手にしてから以後は自分好みの女達を囲って夜のベッド運動に勤しむくらいが関の山だろうから、アラスカの山の中を体力のあるボディーガードの連中と同じような速度で歩いたなら直ぐに根を上げるであろうことは容易に想像がつく。
連中との距離が思っていた以上に接近してしまったので、より一層の注意を払って少なくともボディーガードの2人に気付かれないようにしなければならないが、一方で助かるのはルシェンコ・ボルツォフが葉巻を吸っていてくれるために周囲に葉巻の香りが撒かれているので、周囲にいる野生動物が近寄って来なくなることで野生動物との遭遇にまで注意を払う必要が少なくだけでも助かる。
歩調を意識して極力ゆっくりと歩くようにして、前を歩いているルシェンコ・ボルツォフとボディーガード2人との間隔を空けるようにして尾行を続けていると、前方の木立の隙間から人工的な光が見えてくるのに気付く。
その時、男の濁声で何かを喋っているのが聞こえるが、言葉が英語ではなさそうなので何を喋っているのか分からない。
一瞬、俺の存在に気付いて襲撃してくるのかと肝を冷やしたが、ボディーガードの2人が待ち伏せを仕掛けてきている気配がないばかりか、アサルトライフル銃を発砲してくる様子もなく、しかも濁声の後に別の男の声が聞こえてきているので、俺とは関係のない何かについて話し合っているのかもしれない。
俺に対する攻撃を行うこともなく、ルシェンコ・ボルツォフとボディーガードの2人は、目の前に現れた建物の中へ消えいくのが見える。
俺は、直ちに茂みが多く建物内からも存在に気付かれないような場所を見付けて、暫く建物を観察してみることにした。
スパイ映画等であれば、ここで誰にも気付かれることなく建物内に侵入して1人ずつ始末していくのだろうが、現実はそんなに甘くはなく映画のようなことが簡単にできるのなら、長距離射程から狙うよりも至近距離から狙った方が確実性が高いのだから俺のようなスナイパー等は必要とされるはずがない。
屋外は、未だ日暮れにはなっていないのでルシェンコ・ボルツォフの別荘はカーテンが白いレースの物しか引いていないので、内部の様子が薄っすらとはであるが視認できる。
たぶん、俺の居る場所から見えているのは1階のリビングルームだと思うのだが、ルシェンコ・ボルツォフが3人掛け用のソファーで両脇には20歳前後と思われる若い女を侍らせて座っているように見える。
それ以外には、ボディーガードの2人とスーツ姿で眼鏡を掛けているインテリ風の男が1人だけのようだ。恐らく、眼鏡を掛けている男がアメリカの銃器製造メーカーから株式を取得するための交渉役なのだろう。
ここから見た感じでは、眼鏡の男が頻りにルシェンコ・ボルツォフへ交渉過程を報告しているように見え、ルシェンコ・ボルツォフは両脇の若い女の身体を触ってニヤつきながら眼鏡の男からの報告を聞いて時折頷いている。
徐々に室内の様子がレースのカーテン越しであっても鮮明に見えていると思ったら、日暮れが始まり周囲も暗くなってきている。
ルシェンコ・ボルツォフの別荘でもリビングルームのドアが開いて正装姿となっている初老の男が入室してくると、ルシェンコ・ボルツォフに一礼してから窓に厚手のカーテンを引いたので、これで俺は内部の様子を見ることが叶わなくなってしまった。
これ以上、ここで粘ってみても大した収穫があるわけでもないしルシェンコ・ボルツォフとの接触も初日であることを踏まえて、一旦は自分のロッジへ引き返すことに決めた。
余り周囲が暗くなってからでは、引き返す途中でグリズリー等と遭遇したのでは、ターゲットであるルシェンコ・ボルツォフの別荘近くで銃声を響かせることにもなり、それがきっかけとなってルシェンコ・ボルツォフ自身とボディーガード達に不必要に警戒されると本来の目的である狙撃が一層困難な状況となってしまう。




