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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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アメリカ本国と中国の間で、どの様な交渉が行われてパナマ運河の通航管理権が譲渡されたのかまでは俺の知るところではないが、シー・ユーシュェンが飛び降り自殺をしてから1週間くらいの交渉期間で、パナマ運河の通航管理権はアメリカへ譲渡されたようで中国国営企業はパナマ共和国から完全撤退を表明するに至った。

これによってアメリカは、正にお膝元であるパナマ運河を自らの管理下に収めることに成功して当初の目的を達したことになり、舞台裏で権謀術数を労して獲得した権益こそが真の意味での外交になるわけである。

ただし、それによって得られるであろう各種の成果については、今後とも俺が生きている間は決して顔を合わせることもないような政府の高官達が利用することであり、例えどんなことがあったとしても単なる駒でしかない兵士に得られた権益の一部でも活用できるものではなく、ただ国を守るためという大義名分の元で俺自身が自らの時間と能力を僅かな金に換えているに過ぎない。

そして、今回もミッションは無事に終了したのでCIAのエージェントであり、このミッションの地元コーディネーターであるジェシーが運転するホンダ・アコードの助手席に座ってパナマ共和国を離れようとしている。

1つのミッションが終了して生き延びている限りは、新たなミッションの命令を受け取るために指定された軍の基地へ出向かねばならなず、それが僅かな金銭を受け取るための義務となっている。

赤道近くのパナマの暑さから逃れてと言っても、俺が幼少の頃に暮らしていた日本等の東南アジア特有の湿気を多く含んだ蒸し暑さとは種類が違うものの、最初にジェシーと合流したコスタリカへ戻り少しでも赤道から離れてはいるが、コスタリカ自体も未だ南国ではあることに変わりはない。

コスタリカの街中へ入り、予め連絡されていた広場へアコードを向かわせてもらうと多くの車両が路上駐車しており、その中の1台が伝えられている特徴に合う車体の色がグレーで使い込まれた感じで中古車ぽっいジープ社製グランドチェロキーラレード4WDが無造作に駐車されている。

ジェシーは、アコードをそのラレード4WDの脇に停めてくれるので俺はアコードを降りて、ラレード4WDに近寄り左前輪でしゃがみ込んでホイールハウスの上部裏側に手を差し込んでみると車のキーがガムテープで貼り付けられているのを発見する。

発見した車両のキーをガムテープごと剥がし取ってから、左手に持った車両のキーをアコードの運転席から窓ガラスを下げて見ていたジェシーに示してやると、ニッコリと微笑んだ後に右手で軽くバイバイと手を振ってアコードをスタートさせて別れることになる。

俺も笑顔までは作れなかったものの左手を軽く肩の高さにまで挙げて、ジェシーに別れの挨拶をジェスチャーで示すと、ジェシーは軽くクラクションを2度鳴らして去って行く。

そのジェシーのアコードを見送りながら、手に持った車両のキーを使って運転席側ドアのロックを開錠して車内に乗り込み、シートに座るとシートベルトを締めてエンジンのイグニッションをスタートさせてみる。

多くの人間が出入りするような場所に路上駐車させているので、盗まれないためにもエンジンは相当に調子が悪いものと判断して覚悟していたのだが、予想に反してエンジンは新車かと思うくらいに元気良く始動して心配する必要もないくらい軽快に動いている。

フロントのガラスが多少とも埃っぽいのでウィンドウォッシャーを噴出させてワイパーを動かすと前方の視界が良くなったので、ブレーキペダルを踏んでシフトノブをドライブモードへ入れてアクセルペダルを優しく踏み込んでやるとラレード4WDはスムーズにスタートする。

これからは、俺1人のドライブでアメリカまで運転して行かねばならないので、途中でコンビニエンス・ストアへ立ち寄って飲み物を購入するが、間違っても炭酸飲料だけは購入しないことにしている。

アメリカに限らず、南米でも炭酸飲料は俺からすれば異常とも思える程に甘ったるくて必要以上に喉が渇くような感じがするし、それに炭酸ガスで腹が膨れると長時間のドライブでは睡魔に襲われて下手をすれば衝突事故を起こさないとも限らない。

第一、俺のような仕事は身体が資本となるので甘過ぎる炭酸飲料は身体に悪いので、炭酸飲料よりも少しだけ割高になるが1リットルのペットボトル入りの緑茶を購入した。

余り他人との会話が得意ではない俺としては、一人旅の方が気楽ではあるものの周囲の景色も大して変わり映えもなく、殆ど変化に乏しい真っ直ぐな道路をドライブしているのは本当に退屈な感じとなり、気を許すと睡魔が襲ってきそうだ。

この状態でドライブを続けていても、ふとした瞬間に居眠り運転となって事故を発生させる可能性が強くなってきたので、道路サイドで食事を提供してくれる店が目に入った段階でラレード4WDをフードショップの駐車場へ入ることにした。

時間的には、少し早いが夕食を摂ってから駐車場で仮眠をして意識が正常になったところで運転を再開すれば、例え深夜近くになったとしても充分にアメリカ国内へ入国することができる。

ラレード4WDから降りて、店内へ入る前に大きく背伸びをして眠気を体外へ追いやることにしてから店に向かって歩き出そうとするが、左腰のベルトへ装着しているホルスターが空の状態となっていることが気になる。

これと言って人の出入りが多そうな店でもないので大丈夫だと思いながらも、やはり気になってしまうので、一度ラレード4WDへ戻ってバックパックに仕舞っているコンバットユニット・レイル1911拳銃を取り出して、左腰のホルスターへ差し込むと不思議なくらいに落ち着く自分が居ることに思わず1人で苦笑いを浮かべてしまう。

こんな風になってくると自分自身でも一種の職業病だと思ってしまうのだが、だが体の何処で銃器の重みを感じていないと謂れのない不安を覚えてしまうのだから仕方がない。

この調子では、仮に軍を除隊する日を迎えたとしても常に銃器を携行していないと精神的な不安を覚えてしまう癖はなくならないのかもしれない。

左腰のホルスターにコンバットユニット・レイル1911拳銃を差し込んで銃器の重みを感じたことで、精神的に落ち着いた気分となってフード・ショップの店内へ向かう。

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