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中国国営企業社屋の周辺に集まった人混みを避けるようして、比較的静かというよりも大人しく見物を終えてホンダアコードを駐車させていた場所へ戻ることにする。
何せ、双眼鏡等を使って本格的な偵察が出来ないのでは、単なる野次馬と大差はなく重要な情報を得ることも叶わない。
俺とジェシーがアコードの車内に乗り込み、それぞれのドアを閉めた時だったが何気に前方へ視線を向けると目の前を横切るワゴン車が目に入った。
そのワゴン車は、シー・ユーシュェンをチンピラグループから奪還したミッションで鎮静剤によって意識が朦朧としていたシー・ユーシュェンを載せていた車両に似ているような気がしたので、ジェシーにワゴン車を尾行して様子を見たいとリクエストしてみる。
特に質問をすることもなく頷いたジェシーは、駐車スペースから慌てることなく比較的ゆっくりとした徐行スピードでホンダのアコードをスタートさせると、ワゴン車との間に2台分の車両を挟んで尾行を始めてくれる。
この様に、尾行する相手の直ぐ後ろに位置するのではなく、少なくとも車両での尾行では数台の無関係な車両を挟んでの尾行が最もバレずに行うことができ、不慣れな者ほど対象者を見失うのを恐れて直後で尾行すれば、対象者の方も暫くすると尾行に気付くことになり、決して望ましい尾行とは言えない。
無関係な車両を挟んでいるので、俺達が尾行をしていることがワゴン車の方に悟られる心配は殆んどないのだが、ステアリングを握っているジェシーがからは
「どうして、あのワゴン車を尾行しようと?」
と前方へ視線を向けながら俺に質問してくる。
「チンピラグループからの奪還作戦で、シー・ユーシュェンを乗せたワゴン車を覚えているか?」
と俺が話した瞬間に
「あっ」
とジェシーが気付いて声を上げた。
「しかし、ワゴン車のナンバープレートまで覚えているわけじゃないので、確実な事じゃないがなぁ」
俺はワゴン車が過ぎ去った方へ視線を走らせながら答えるが、最初にワゴン車を目にした瞬間に感じた直感からは全くの見当違いであるとは考えていない。
その時、前方のワゴン車は右のウィンカーを点滅させて路地へ入っていくが、その先には中国国営企業社屋の裏手に行き着くはずなので、単なる偶然にしては出来過ぎているような気がする。
前方を走行するワゴン車は、途中で曲がったり停車することなく中国国営企業社屋の裏手へ向かって走行している。
そのワゴン車は、中国国営企業社屋の裏手に差し掛かるとブレーキランプが点灯して停車するので、ジェシーは慌てることなくホンダ・アコードを社屋の手前となる路地へ左折して直ぐにアコードを停車させてから、俺とジェシーはワゴン車を偵察するために車両から降りて、路地の交差点まで小走りになって向かい身体を隠しながら様子を伺っている。
暫くブレーキランプを点灯させていたワゴン車は、急に「ガァーッ」という音と共にスライドドアが開くと、ぐったりとした状態の男を2人の男達が両脇を支えながら素早くワゴン車から降ろしている。
中国国営企業社屋の植え込み近くで、ぐったりとした男を座らせるような姿勢にすると両脇を支えていた男の1人がズボンのポエットから何やら銀色の小さな容器を出して、その容器の蓋を開けるとガーゼのような物を右手で取り出し、右手に持ったガーゼをぐったりとしている男の鼻に寄せると、ぐったりとしていた男は一瞬だが身体をブルッと震わせると意識をと戻したような感じとなっているのが、遠目から見ても分かる状態になったところで2人の男達は、植え込みに座らせた男をそのままにして急ぎワゴン車へ乗り込むと、ワゴン車はスムーズに走り出して中国国営企業社屋を過ぎた路地へ曲がって行ってしまった。
残された男は、暫く植え込みに座り込んでいたが徐々に意識が戻ってくると寝ぼけたような目をして周辺を見渡している。
だが、その男は顔中を無精髭に覆われているが風貌からしても誘拐されたシー・ユーシュェンであるのは間違いなく、恐らく暗号資産によってチンピラグループが指定した口座に振り込まれた後、CIAの秘密口座へ送金されたのを確認してシー・ユーシュェンを開放したのだろうが、果たして目論見通りにシー・ユーシュェンの洗脳まで完了しているのだろうか。
意識が徐々に正常へ戻ってきたシー・ユーシュェンは、疲労困憊といった感じで立ち上がると酔っ払ったような頼りない足取りで社屋の正面玄関へ向けて歩き出していく。
確かに、今のような状態となっているシー・ユーシュェンが中国国営企業の正面玄関へ現れることになれば、それまで誘拐を否定していた国営企業のアナウンスは嘘だったということに成り兼ねない。
それを悟った俺とジェシーは、アコードへ戻ると直ぐにアメリカ大使館へ引き返すことに決めた。
あの状態で正面玄関前にシー・ユーシュェンが姿を現したならば、国営企業の正面玄関前が集まったマスコミ等で騒然した状態になるのは目に見えており、それを敢えて現場で目撃する必要もなく大使館の落ち着いた部屋でジェシーのパソコンを使ってネットで検索すれば充分に確認ができる。
ここまではCIAのシナリオ通りの展開となったのを実感しつつ、ジェシーがドライブするアコードで騒然とし始めた中国国営企業の周辺を抜けて一路アメリカ大使館へ向かう。
大使館の部屋へ戻り、ジェシーに頼んでパソコンを起動してもらいネット検索ができる状態にしてもらって、早速にも「シー・ユーシュェン 誘拐」というワードを入力してみると中国国営企業の正面玄関前に無精髭を蓄えたシー・ユーシュェンの姿を捉えた動画がアップされているのを見付けるのに苦労することはなかった。
これで、中国国営企業がシー・ユーシュェンの誘拐を否定していたのが嘘ではないかといった論調がSNS上でも大勢を占めてきており、まさに炎上となっているのがハッキリとしてきた。
それを受けて中国国営企業は、本日の19時に改めて会見を開くようで何が語られることになるのかネット上では興味津々というところである。




