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酔っぱらったチンピラグループの1人を予定外で射殺することにはなったが、そのハプニング以外は問題なく夜明け前にはパナマのアメリカ大使館へ戻ることができた。
形の上では、一応ミッションは終了したと言っても良いのだがシー・ユーシュェンを洗脳してパナマ運河の通航管理権を中国の国営企業が放棄しないうちは、CIAから新たなミッションが追加で命令されてくる可能性もあるので、パナマ共和国から撤退させてもらえそうにない。
パナマのチンピラグループから奪い取ったシー・ユーシュェンの洗脳が如何ほどの時間を要するものなのか、そう言った関係の知識には全く疎い俺には知りようもないことだが、少なくとも今日中には5,000万ドルの身代金が中国の国営企業から暗号資産に置き換えられてCIAがチンピラグループのために用意した仕掛けを施している口座へ送金されることになる。
当然、身代金を送金すれば国営企業側とすればシー・ユーシュェンの開放を求めてくるのは必至で、どの様な方法でシー・ユーシュェンを開放するつもりなのか分からないが俺にとっては開放された後に、中国の国営企業がパナマ運河の管理権を放棄するかが最も重要な事になってくる。
そんな事を思い描きながら、駐パナマ共和国アメリカ大使館で割り当てられた部屋のテレビを点けてみるが、どのチャンネルもスペイン語による放送のみで英語で放送されている番組は1つもないだけでなく、英語による字幕すらないのでニュース番組を見たいのだが思うに任せない。
しかし、画像だけを見ていると所々でシー・ユーシュェンが誘拐されたと思われるようなニュース映像が流れてくるのは分かるが、肝心の報道内容が全く分からいので、どの程度まで情報が報道させているのか釈然としない。
そこでジェシーに相談してみると
「そんな事なら、早く言ってくれれば私のパソコンで英語表記になっているネットニュースを読んでみたらどうですか?」
ジェシーは直ぐにパソコンを起動させてインターネットが見られる環境にしてくれたので、早速ジェシーのパソコンの前に座った俺は検索サイトでシー・ユーシュェンの名前を入力して調べてみると誘拐事件がトップで表示されているので、片っ端に関係する記事を読んでみると事情を知らない連中が読んだのなら何も疑う事なく信じるような内容ばかりが記載されており、別に予めCIAがマスコミにリークする予定の内容を見たわけではないが、書かれた内容からは明らかにCIAがリークした資料によって書かれているのは概ね間違いない。
内容の殆どが、パナマ運河の通航管理権を有している中国国営企業のCEOであるシー・ユーシュェンが、数日前に退社した家路の途中で何者かに誘拐されたと思われるが、中国国営企業側は誘拐の事実を否定しておりシー・ユーシュェンは通常通りに出社しているとされているが、どのマスコミもシー・ユーシュェンの姿を確認していない。
しかし、シー・ユーシュェンが誘拐されたとされる日以降に、なんの前触れもなくパナマ運河の通航料が通常よりも大幅に値上げが実施され、それは誘拐されたシー・ユーシュェンの身代金を確保するために中国国営企業側が行ったのではないかと海運関係に詳しい専門家の見解が示されている。
また、パナマ共和国の警察当局からは中国国営企業側からCEOであるシー・ユーシュェンが誘拐されたと言った通報がないので、パナマ警察当局としては誘拐事件の発生はないものの認識しており、仮にシー・ユーシュェン以外の人物であっても誘拐事件が発生したのであれば迅速に警察へ通報し、安易に誘拐犯側との取り引きに応じることなく犯罪を撲滅する観点から、是非とも警察との協力関係と築いて対応して欲しいといったコメントまで出されている。
現時点では、それ以上のことまで記事として出ていないがSNS上では、憶測と言った感じで間違いなくシー・ユーシュェンは誘拐され中国国営企業は誘拐犯との取り引きを極秘裏に行うために、パナマ運河の通航料で身代金を準備しているのではないかと噂が広まっているだけでなく、それが事実であれば高額な通行料を支払うことになった国では国内の物価上昇を招く引き金に成り兼ねず、中国国営企業のCEOを救出するために関係のない他国の経済が影響を受ける事態となれば、断固として中国に抗議すべきあると言った過激な内容が多く投稿されている。
これらを見れば、情勢的にCIAが描いている目論見通りの展開になっていると言え、これで本日中に国営企業側が既に死亡しているチンピラグループが指定した口座へ暗号資産を送金することになれば、その大金は全てCIAが手中に収めることになり、それを確認したCIAが更なる情報をリークすれば中国国営企業側は世論から更に厳しい批判を受け窮地に追い込まれることになる。
それらの情報を確認したところで、俺は中国国営企業側の状況が知りたくなってジェシーに
「中国国営企業側の状況を知りたくないか?」
と問い掛ける。
「これから中国国営企業を偵察に行くつもりですね、ジョージも結構人が悪いなぁ」
ニヤニヤと笑いながらジェシーは言ってくるが、俺に「人が悪い」と言いながらも中国国営企業へ偵察に行くのを拒んではいない。
ジェシーは、起動させていたパソコンをシャット・ダウンさせると徐に椅子から立ち上がり
「それでは、ジョージの希望通りに中国国営企業の様子を偵察に行ってみましょうか」
と至極真面目な表情を浮かべて言って部屋のドアノブに手を掛ける。
そのジェシーの後に続いて俺も部屋を出て、2人で大使館裏手の職員駐車場へ向かいホンダのアコードに乗り込む。
大使館の正面ゲートを通過する際には、深夜に出掛けた時には違い俺とジェシーの顔もフェイスペイントで黒塗りにしているわけではないので、警護職員からも何も警戒されることなくスムーズにゲートを通過してホンダアコードを一般道へ乗り入れさせ、中国国営企業の社屋があるエリアへ車を走らせる。
あまり想像していなかったが、中国国営企業の社屋周辺には野次馬と思われるような人間達と一部のマスコミが集結して一種異様な雰囲気となっており、通常業務に支障が生じ兼ねない状態を恐れた国営企業側は、警備員に加えてパナマ警察へも通報したためか、警察官までが国営企業社屋周辺の人だかり排除を行っているような有様となっている。
そのため、俺達が乗っているホンダアコードも多少離れた場所へ駐車せざるを得ず、ホンダアコードを駐車した場所から徒歩で人だかりから離れて国営企業の社屋が望める場所へ向かう。
ただし、目的の場所へ到着したのは良いが国営企業の様子を偵察するためとは言え下手に双眼鏡等を使うと、逆に人だかりを集める結果に繋がるだろうし国営企業側やパナマの警察当局からも目を付けられることになるので、極力目立たぬように装いながら裸眼で社屋を眺める程度となる。
今のところ、中国国営企業に特段の変化は無さそうに感じるが数日中に起こるであろうCIAの次なる情報リークによって、果たして如何ほどの状態となるのか一抹の不安を感じないわけではない。




