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未だ遠方のようではあるが、車両のエンジン音が徐々に接近してきているのを知覚した俺とジェシーは、腰のホルスターからコンバットユニット・レイル1911拳銃とSTACCATO Pモデル拳銃を抜き出して、エンジン音が近付いている方向へ視線を送る。
雑居ビルの1つ手前にある交差点は、近付いている車両のヘッドライトと思われる明かりが徐々に光度を増してきているのが分かるので、間違いなく雑居ビルに接近して来ているのは明白である。
左手に握っているコンバットユニット・レイル1911拳銃のマニュアル・セーフティ・レバーにそっと親指を載せてはいるが、接近している車両が雑居ビルの近くに停車して明らかにミッション遂行の支障となるのが判明するまではコンディション1の状態をキープしておく。
それは、ジェシーが持っているPモデル拳銃も1911系拳銃と同様の操作形態なので、ジェシーもマニュアル・セーフティをオフにせず俺と同じくコンディション1の状態をキープしている。
何れにしても、発砲の必要性が明らかとなったとしてもマニュアル・セーフティを解除してコンバットユニット・レイル1911拳銃やPモデル拳銃を発砲するのに1秒も掛からないので、現段階では慌てる必要は何1つない。
交差点の端から点灯している車両のヘッドライトが見えてくるとスピードを落として雑居ビルの方へ曲がって来る関係で、俺達はヘッドライトの光を正面から浴びる状態となってワゴン車が2台連なって来ている以外に詳細を視認することができない。
恐らく、シー・ユーシュェンが監禁された部屋へ突入した海兵隊チームがシー・ユーシュェンの奪還に成功して撤退するために呼び寄せた車両だとは思うのだが、現時点では確認ができないので下手に気を許すわけにもいかず、ただ目を凝らして車両の状態を監視する以外にない。
2台のワゴン車は、雑居ビルの前に静かに停車するとヘッドライトを消してから、先頭のワゴン車の運転席側ドアが開いてドライバーが両手を挙げて降りてくると
「海兵隊チームの撤退のために来た」
と比較的大きな声で言ってくるが、俺達2人が居る場所まで把握していないので、顔を向ている方向は全く見当違いな場所を向いて声を掛けている。
ドライバーの言葉を聞いた俺とジェシーは、互いに拳銃を構えた状態で路地から出てワゴン車から降りてきたドライバーにマズルを向けて近寄ると、雑居ビル内の階段を慌ただしく降りてくる複数人の足音が聞こえてきた。
階段を先頭で降りてきたのは、突入したチームのスレード上級曹長で俺達を見るなり
「彼等は、俺がターゲットの奪還に成功したので撤退のために呼んだんだ」
と言うなり駐車している先頭のワゴン車のスライドドアを開けると、スレード上級曹長の後ろから階段を降りてきたメンバー2人が頭部に黒い頭巾を被せてぐったりとした状態の男を両脇から支えながら来ると、スレード上級曹長が開けたワゴン車の後部座席へ支えている男を乗り込ませる。
今、ワゴン車へ乗り込ませたのが誘拐したシー・ユーシュェンだと直感的に判断した俺が
「シー・ユーシュェンか?被弾したのか?」
とスレード上級曹長に問い掛ける。
「いや、チンピラグループへの襲撃を行う前に、鎮静剤を注射して大人しくしたんだ。そのままにしていては発砲音を聞いた瞬間に暴れられて、誤射する可能性もあったんで、鎮静剤を注射して直ぐに頭巾も被せて奴の視界も奪っている」
確かに、頭巾を被せられているシー・ユーシュェンはワゴン車の後部座席へ乗り込ませていても一向に暴れる気配がなく、意識朦朧となっているのかぐったりとしたままでシートに凭れ掛かっている。
その間にも、雑居ビルの階段を降りてくる海兵隊チームのメンバーが次々と2台のワゴン車に分かれて乗り込み出発準備が整うと
「スレード上級曹長、全員乗車完了」
と先頭のワゴン車へ最後に乗り込んだ海兵隊メンバーの1人が報告する。
スレード上級曹長は報告したメンバーの方を向いて頷き
「これで我々は撤退するので、アンタ達も直ぐに撤退したほうが良いぞ」
スレード上級曹長は、そう言って2台目のワゴン車に乗り込むとワゴン車はヘッドライトを点灯させて走り出し、来たルートの方へ走行していく。
2台のワゴン車を見送った俺とジェシーも駐車しているホンダのアコードへ戻ろうと歩き出した瞬間、泥酔したような呂律の回らぬ声が聞こえてきた。
パナマ共和国の公用語であるスペイン語なのだろうが、スペイン語が全く話せない俺には何を言っているのか理解できない。
隣に居るジェシーは
「マズい」
と小さく呟き
「ジョージ、急ぎましょう。あの酔っ払いはチンピラグループの1人ですよ。泥酔して分け前をもっと俺によこせと喚いています」
とジェシーは言って小走りでアコードへ向かうので俺も一緒に小走りになる。
しかし、運悪く酔っ払いは俺達2人に気が付いたらしく
「おい、そこの2人、俺の金を持って何処へ行くつもりだぁ」
と酔っぱらった声で喚き、殆ど残りが少なくなっていたラム酒の酒瓶を投げ捨てて、腰のベルトに差し込んでいる拳銃を抜き出すと「パンッ」という音と共に何の前触れもなく発砲してきた。
拳銃を発砲したチンピラは、泥酔していることで足腰に力が入っていないので反動によって尻餅をつくが、再び懲りることなく拳銃を構えて俺達の方へマズルを向けてくる。
チンピラが放った1発目は俺達の遥か上方へ逸れていくが、酔っ払いが銃を発砲するのだから偶然に俺達2人のうち片方が被弾しないとも限らない。
仕方なく、俺は酔っぱらったチンピラの方へ振り向き様に腰のホルスターからコンディション1状態のコンバットユニット・レイル1911拳銃を引き抜き、マズルが前方斜め下を向いた瞬間に左手の親指でマニュアル・セーフティ・レバーを押し下げ、左手の親指はマニュアル・セーフティ・レバーに載せたまま、トリジコンが挿入されてライトグリーンに光っているフロント・サイトを酔っ払いの胸部中央へ合わせるとトリガーを2度連続して引くダブルタップで発砲する。
深夜の静まり返った街中に「ド、ドーンッ」という45ACP弾薬が2連射された発砲音が響き渡るが、初弾と2発目の間隔が殆ど空いていないので1発分の発砲音にしか聞こえない。
230グレイン(15グラム)の弾丸を2発も連続して胸部に被弾したチンピラは、射程距離が10メートルであるにも関わず胸骨が砕ける「バキッ、バキッ」という鈍い音と共に胸部を貫通した弾丸が後方へ飛び出した後、右手に持っていた拳銃を放り出して仰向けに路上へ倒れ込みピクリとも動かなくなり、倒れたチンピラの身体の下には心臓が完全に破壊されたことで、大量の血液が背中側に大きく開いた射出孔から流れ出して大きな血の池を作っている。
アコードのドライバーシートに座ってイグニッションを捻ってエンジンを始動させたジェシーは
「ジョージ、早く車に乗って」
と俺を急かせてくる。
俺は、急いで助手席ドアを開けてシートに座るとシートベルトを締めないうちにジェシーがアコードをタイヤを鳴かせて走らせ始める。




