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ジェシーの運転するホンダのアコードで大使館正面ゲートを通過するために一時停止をすると事前に連絡をしていたとは言え、流石に間近で俺達を見た警護職員はギョとした驚きの表情を浮かべて1歩後ずさりをしたが、直ぐに事前連絡の事を思い出したのか制帽に軽く右手を添えて敬礼した後、正面ゲートを開けてくれる。
目の前の道路は深夜という時間帯のためか、殆ど車両が走行等しておらず空いているので目的地へ向かってストレスを感じることなく走行ができる。
大使館からシー・ユーシュェンが監禁されちる雑居ビルまで昼間であれば普通に走行して30分以上は間違いなく掛かるのが、この調子ならば10分と掛からずに到着してしまいそうだ。
擦れ違う建物は殆ど照明が消されているが、道路脇の街路灯だけが煌々と照らし出している人気のない風景を目にすると、何となく戦火によって破壊されて瓦礫と化した街並みを連想させる。
案の定、目的地までは10分も掛からずに到着すると雑居ビルの周囲には人影1つ見当たらないと思っていると、雑居ビルの狭く暗い路地に10人近くの海兵隊チームが潜んでおり、現場に到着した俺達が乗っている車両を暗がりからSIGのM17拳銃を構えて瞬時に発砲できる体勢で監視している。
ただし、海兵隊チームも全員が戦闘服を着用せずにジーンズにTシャツやポロシャツを着用した上にボディアーマーを羽織り、その上にナイロン製のマルチカムベストを身に付けている。
また、全員の手にはアサルトライフル銃やカービン銃、更にはサブマシンガンさえ携行してはおらず、ハンドガンのM17拳銃を携行しているが通常のバレル仕様ではなくスライドから15ミリメートル程突き出し、先端から10ミリメートルまで雄ネジが切られているスレイテッドバレルにリコイル・ブースターを備えたサウンド・サプレッサーが装着されているのを手にしている。
ちなみに、リコイル・ブースターとはサウンド・サプレッサーをセミオートマチック拳銃の全てがそうではないにしても装着した場合、サウンド・サプレッサーの内部構造が幾つかの隔壁で仕切られ小部屋のように分けられており、弾薬を発砲すると弾丸を押し出すための発射ガスもマズル後方へ向けて進むのだが、弾丸自体はマズルから撃ち出されても発射ガスの大部分はサウンド・サプレッサーの隔壁によって形成される小部屋のような所へ流れ込むことになり、それによって小分けに分割された発射ガスが急速に冷却されてサウンドサプレッサー本来の機能を発揮することになるのだが、一方で隔壁によって形成された小部屋へ発射ガスが流れ込んだ際にはサウンドサプレッサーを前方へ押し出す力が発生してしまう。
そのため、サウンドサプレッサーが取り付けられているバレル自体も前方へ引っ張れることになって、弾薬を発砲後に空となった薬莢を排出するために後退するスライドの動きを阻害することになって回転不良となる。
そのため、バレルとスライドが連動するような構造のセミオートマチック拳銃にサウンドサプレッサーを装着する場合には、バレルとの連結部分が別パーツとなってサプレッサー部分との結合部にスプリングが配されて、発射ガスがサプレッサー部の小部屋へ流入しても前方へは動かず、逆にバレルを後方へ押し出すような動きをするようになって、スライドの後退動作を阻害しないような作りとなっている。
米軍の制式採用となったSIGのM17拳銃も、バレルとスライドが弾薬を発砲後に5ミリメートルくらい連動して後退するような構造となっているので、サウンド・サプレッサーを装着して使用する際には、リコイル・ブースター機能をもったサウンド・サプレッサーを使用しないと的確な作動とならない。
ちなみに、海兵隊チームがサウンド・サプレッサーを装着させているのであれば使用されるのは9×19ミリメートル弾薬でも、弾丸の重量が147グレイン(9.5グラム)の比較的重いタイプを使用していることになる。
サウンド・サプレッサーを使用する場合には、その効果を最大限に生かすために弾丸の初速が音速以下の亜音速である必要があり、9×19ミリメートル弾薬は秒速350メートルと音速を超えるようになっているのだが、弾丸の重量が147グレインの比較的重い弾薬を使用すると秒速300メートルに下がって僅かではあるが音速を下回ることになる。
そのためサウンド・サプレッサーを拳銃に取り付けて使用する際は、弾丸の重量が重いタイプの弾薬を準備するか、或いは創薬量を減らした減装弾薬を用いて初速が音速を超えないようにする必要がある。
ジェシーは、アコードを雑居ビルの反対側の路肩へ停車させるとヘッドライトを消してサイドブレーキを掛けてからエンジンをストップさせる。
それから、ゆっくりとドアを開けて顔中を黒くペイントとした俺とジェシーがアコードから降りる際には、海兵隊チームに見えるよう両手を挙げて降車する。
深夜で周囲も暗い中で顔中もフェイスペイントで黒塗りにしている関係で人相が判別できない状態では、例え味方であっても互いに確認が取れるまでは相手に対して攻撃する意思がないことを示さないうちは、何時銃撃されるか分からない緊張した状況となる。
俺とジェシーは、両手を挙げたままで海兵隊チームに近寄ると海兵隊チームの1人が近寄り
「パナマの夜明けは何時ですか?」
と合言葉を言ってきた。
それを聞いたジェシーが
「天気が良ければ5時30分には太陽が上がってくると思いますよ」
と答える。
それを聞いた目の前に来た海兵隊チームの1人が合言葉が合致したことで、右手を挙げて後方へ向けて手を廻して合図をすると、路地で待機していた他のメンバー全員がサウンド・サプレッサー付きM17拳銃のマズルを下へ向け、一様に力んだ身体が脱力していく。
右手を挙げて手を廻していた海兵隊チームの1人が
「私は、スレード上級曹長」
と名乗って右手を差し出してくるので、その右手を握って
「俺は、ジョウジ・カツラギ准尉だ」
と答えて右手を離すと
「私は、CIAのエージェントでジェシーと言います」
とジェシーが直ぐに自分の名前を言ってスレード上級曹長と握手をする。
「早速、これからミッションを遂行するが、2人には雑居ビルの出入口を見張って欲しい。俺達が監禁部屋へ突入して部屋に居るチンピラグループは全員射殺するが、部屋に居るのがチンピラグループの全員とは限らないだろうから、もしチンピラグループらしき人物が現れたなら2人で、そいつを始末してもらいたい」
とスレード上級曹長が言ってくる。
確かに、俺達はシー・ユーシュェンの奪還作戦において遂行チームに加わるサポート役のような立場なので、別に異論はなく頷いてみせるとスレード上級曹長は満足そうな表情を浮かべて、後方の路地に待機しているメンバーへ雑居ビルへ突入の合図を行い、メンバー全員が足音を立てないよう小走りで雑居ビルの入り口へ向かう。
一番最後に雑居ビルに向かったスレード上級曹長が咽頭マイクを使って
「今からディスコへ入る」
と暗号でミッションをスタートさせたことを作戦本部へ連絡して、雑居ビルの中へ消えていった。
海兵隊チームが突入して3分もしないうちに、シー・ユーシュェンが監禁されている部屋の辺りから微かながらも連続した発砲音が聞こえてくる。
幾ら、サウンド・サプレッサーを装着した銃器であってもテレビ・ドラマや映画のように銃器を発砲しても無音とか「プシュ」といった発砲音になるわけではなく、あるまでも音量が小さくなる程度にしかならない。
海兵隊チームが使用している9×19ミリメートル弾薬の場合であれば、せいぜいテレビでドラマや映画を視聴している際の発砲音くらいの音量にはなるので、発砲した場所から比較的近い所に居れば微かであっても発砲音は聞こえてくるし、まして今の時点ならば深夜で周辺も比較的静かなので小さいながらも発砲音であることは認識できる。
ただし、部屋の中に居るチンピラグループのメンバーは全員が熟睡状態のところを至近距離で撃たれているので、間違いなく即死状態と言って良く悲鳴や呻き声1つ聞こえてくることはない。
俺とジェシーは海兵隊チームが雑居ビルへ突入した後、直ぐに海兵隊チームが潜んでいた路地へ移動して雑居ビルの出入口を監視していたが、雑居ビル内のシー・ユーシュェンが監禁されている部屋がある上方から連続的に聞こえていた発砲音が止んで静かになった頃、微かに車両のエンジン音が接近してくるのを知覚した。




