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その日は、一日中雨が降り続き南国のイメージがあるパナマ共和国であっても日が暮れる時間を迎えると少し肌寒く感じる。
俺とジェシーは、国営企業のCEOを観察するために外出することなく、一日中大使館の部屋に籠っていた。
理由は、何も外が肌寒いからということではなくCEOが退社してから、パナマの比較的若い連中が組織しているチンピラグループが誘拐を実行するので、その様子を確認するべくCIAが飛ばしているドローンの映像がパソコンで視聴するためジェシーが調整作業をしているのを手伝うためであった。
俺達が下手にチンピラグループの様子を偵察するために犯行現場近くに居たことで、パナマ共和国の警察当局からマークされるのはミッションの遂行上として好ましくはないので、とにかくチンピラグループが行う犯行はドローンによって映し出される画像によってのみ把握することになる。
ドローンの操作については、遠隔操作となっているがCIAにもドローンの操縦に熟知した人間が担当しているのだろうから、CEOを誘拐してから連れ去る隠れ家まで確実にフォローすることに失敗すれば、その後に遂行するミッションに支障を来たすことになってしまう。
特に、このミッションではパナマ共和国の警察当局とは協力関係にはない状態なので、CEOが誘拐された後に追跡が失敗するようだと俺達が誘拐犯を探しているのをパナマ共和国の警察関係者に悟られるわけにもいかない。
だが、現時点で目の前のジェシーが準備したパソコンの画面に映しだれている画像は、雨天の夕暮れを迎えているために光量が不足しているのと少しでも明るい画像を得る為に、ドローンに搭載しているカメラ用ライトを点灯させることもできないので相当に暗くしか映し出されていない。
そこで、ジェシーはパソコンを操作して映し出される画像を赤外線用カメラの画像に切り替えると、パソコンのモニターに映し出される画像がフルカラーから瞬時に赤外線画像特有の白黒のような画像に切り替わるが、先程までの暗い感じがして詳細が判別つかないカラー画像よりも画像全体の輪郭がハッキリとして見える。
パソコンのモニター画面に映し出されているのは、中国国営企業社屋の正面玄関前を上空から望遠レンズで捉えているもので、時刻が17時近くとなっていることからCEOのシー・ユーシュェンがシルバーのメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの後部シートに座って退社する頃になってきている。
黒っぽく大きな穴にしか見えない社屋の地下駐車場の登り口に車両が接近してきているのか白っぽくヘッドライトの光が映し出され、地下駐車場の入り口から出てきたのは外観から判断してシー・ユーシュェンが乗車しているシルバーのメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスだと思われる。
地下駐車場から出てきたメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスは、右折のためにウィンカーを点滅させながら一般道との合流手前で、一般道を走行している車両を確認するため一時停止したかと思うと、直ぐに右折を開始して一般道へ乗り入れる。
一般道を走行するメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスを追尾するようにドローンの画像が追い掛け始めると、メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの進行方向側の中国国営企業社屋から少しだけ離れた路地から黒っぽく映し出されているセダンタイプの車両と続けてグレーに映し出されたワゴン車が、パソコンの画面越しであっても確実にシー・ユーシュェンが乗車しているシルバーのメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの尾行を開始しているのが分かる。
俺やジェシーのような人間からすれば、可成りお粗末な尾行のやり方には見えてしまうが、お陰でシー・ユーシュェンを誘拐する実行犯であることが一目で認識できるので良い意味で有難い。
メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスが、オフィス街を抜けて道路の往来が比較的少ない高級住宅街へ向かう道路になってくると、日没を迎えたほかに街路灯やオフィス街のライトが少なくなり周囲が暗くなってくるので、赤外線カメラが写し出している画像がより鮮明に見える。
暗がりを走行しているメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの輪郭がハッキリと見え出した瞬間に、メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスが急停車をすると前方には中型トラックがバックで路地から一般道へ出てきて道路を塞いでいる。
メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスを尾行してきたセダンタイプの車両が、メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスがバックできないくらいに車間を詰めて停車し、ワゴン車に至っては反対車線に停車してメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの逃げ道を完全に塞いでしまっている。
その状況を異常と判断したのか、メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの助手席側のドアが開いてボディガードと思われる男が降りてくると前方で道を塞いでいる中型トラックに右手を伸ばして、早く道を開けろといったようなジェスチャーをしながら中型トラックへ近寄っていく。
もう少しで中型トラックの助手席側へボディガードの男が近付いた瞬間に、中型トラックの助手席ドアの窓から小さな閃光が2度点滅するのが見えると、中型トラックに近寄っていたボディガードの男が心臓近くの胸部を押さえながら路上に倒れ込むのが映し出される。
それを合図にでもしたかように、中型トラックの運転席と助手席のドアが勢い良く開いて2人の男達が拳銃を構えて降りてくるのと同時に、メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの後方に停車しているセダンタイプの車両とワゴン車の全てのドアが開いて男達が一斉に拳銃を構えて降りてくる。
車両から降り立った男達は手にした拳銃のマズルをメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスへ向けて車両を包囲しながら近寄り、中型トラックの運転席から降りてきた男が持っている拳銃をメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの運転席へ向けると5発くらい発砲を始めパソコンのモニターには発砲による小さな閃光が連続して点滅する。
運転席へ発砲した男が、メルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスの運転席のドアへ近付き複数の弾丸が着弾したことで孔だらけになっている運転席ドアの窓ガラスを持っている拳銃を何度も叩きつけて割っている。
運転席ドアの窓ガラスに片手が入るくらいの孔を拡げた男は、左手を孔が開いているガラスへ突っ込み運転席ドアのロックを開錠すると、運転席ドアを開けて死体と化した運転手を車外に引き摺り出して路上に放置する。
その間、別の男達は後部座席に乗っているシー・ユーシュェンへ持っている拳銃のマズルを向けて車外へ降りてくるように叫んでいるように見えるが、シー・ユーシュェンがなかなか車外に降りてこないことに業を煮やし、運転手の死体を車外へ引き摺りだした男が運転席ドアにある車両のロックボタンを操作して全てのドアのロックを開錠する。
後部座席ドアのロックが開錠されたのが分かった別の男達は、両方の後部座席ドアを開けると車内に居るシー・ユーシュェンへマズルを向けて車両から降りるように催促しているように見える。
俺は、パソコンのモニターでしか状況が分からいのと音声までは聞こえないので何とも言えないが、拳銃を手にしている男達から脅されたのか或いは促されたのか両手を肩の高さにまで挙げた背広姿のシー・ユーシュェンらしき人物が左の後部ドアから降りてくる。
車外に出てきたシー・ユーシュェンらしき男の脇に、手にした拳銃を突き付けて近付いた男がシー・ユーシュェンらしき男の腹部に何かを突き刺すような行動をするのが見え、チンピラグループの1人が勇み足でナイフでも突き刺したのかと判断して「あっ」という声を上げてしまう。
しかし、隣にいるジェシーは至極冷静な声で
「彼等には、シー・ユーシュェンを確保する時のためにスタンガンも供与していますので、恐らくスタンガンで暴れられないようにしたのでしょう」
と答えてくる。
バジェット・ガンをチンピラ達に供与するのは提案していたが、まさかスタンガンまで供与するとは大層念入りに詳細な計画を立案したのだろう。
確かに言われてみれば、決してシー・ユーシュェンは高齢者という年齢ではないので誘拐拉致となった場合に、チンピラ達の隙を突いてチンピラ達に供与した拳銃を奪って反撃してこないとも限らない。
そうなれば、幾ら金蔓だとしても誘拐したシー・ユーシュェンに撃たれて死ぬかもしれない事態となれば、大金を得るのためシー・ユーシュェンを生かす目的としてもチンピラグループが自らの死を選択するとは思えず、銃撃戦が展開されてシー・ユーシュェンが射殺される可能性すらあり、だったらチンピラ達にスタンガンも渡して金蔓であるシー・ユーシュェンをトラブルなく拘束するのに使用させておけば、少なくともシー・ユーシュェンに隙を見せて拳銃を奪われ銃撃戦となるリスクを低くすることができるだけでなく、シー・ユーシュェンを射殺するような事態になる心配も低減する。
スタンガンによって、身体の自由が奪われたシー・ユーシュェンが抵抗することなく、路上に崩れ落ちるとチンピラ数人が集まってシー・ユーシュェンの手足をナイロン製の結束バンドを使って拘束してワゴン車の荷台へ担ぎ入れてると、全員が一斉に車両へ分乗して犯行現場を急いで離れる。
セダンタイプとワゴン車は同じ方向へと逃走を始めるが、中型トラックは2台とは別の方向へと走り出しているが、彼等とシー・ユーシュェンを監視しているドローンはシー・ユーシュェンが乗せられているワゴン車を迷うことなく追尾しており、中型トラックは最初から無視している。




