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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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ジェシーがCIAへ中国国営企業パナマ支社のCEO誘拐作戦に関する提案をメールしてから数日間は、CIAからの回答を待つ意味でも中国国営企業の社屋から離れた場所に車を停めて歩道を行き交う人混みに紛れて観察を続ける。

その結果としてシー・ユーシュェンの行動パターンが少しずつ判明し、奴は午前10時少し前にシルバーのメルセデス・ベンツ・マイバッハSクラスに乗って出社し、それ以降は社屋に1日中留まっている日もあれば全日をメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスに乗って社外を出て各種関係先を廻っていることもあるが、概ね17時少し前にはメルセデス・ベンツ・マイバッハ・Sクラスで退社するという日常を送っている。

しかも、出社と退社の際にはボディーガードと思える人間が助手席に1人しかおらず、そのボディガードも見た感じでは軍人上がりというよりは警察関係上がりのような雰囲気なので、ボディーガードに対する対処もパナマの地元チンピラグループが襲撃したとしても武器さえ携行させてやれば其ほど難しいこともなそうである。

3日目の観察を終えて、大使館建物の与えられた部屋へ戻ってから俺はジェシーに

「パナマのチンピラグループに武器を与えてやるとしたら、バジェット・ガンでハンドガンのみの方が無難だなぁ」

と言ってやる。

バジェット・ガン(安価な銃器)は、アメリカ国内で最も出回っている銃器のカテゴリーで個人での銃器所持が認められていない国では、アメリカ国内で銃器を所持している人間の殆どがスターム・ルガー、スミス・アンド・ウェッソン、コルト、グロック、シグ・サワー、ヘッケラー・ウント・コッホ等といったメジャーなメーカーの銃器を持っていると思われがちだが、メジャーな銃器メーカーの製品で比較的安価な部類で使用するのが9×19ミリメートル弾薬だと600ドル近くの値段となり、それに消費税や各種の手数料を加えれば支払い総額が日本円にして約8万円を超えることになり、幾ら自衛のためとは言え一般の庶民が気軽に購入できるものではない。

ましてや、自衛のために必要とは思っていても銃器を購入するのに高い金額を使いたくないと考えている人間も割と多いので、バジェット・ガンであるならば銃器本体だけで5万円以下で購入でき、1箱50発入りの9×19ミリメートル弾薬も安い物なら3,000円程度で購入できるので10万円以下でセルフ・プロテクション用のガンが所持できることにはなる。

ただし、安価であるための理由が明確で弾薬を発砲するために必要となる銃器本体の強度が求められるバレルやハンマー等はスチール製となっているが、それ以外のパーツはポット・メタルと言われる亜鉛合金製になっており、亜鉛合金製ならば日本のモデルガンに使用されている金属と殆んど一緒と言っても間違いない。それでも、最低限の強度を有していれば実弾を発砲する銃器が普通に販売されているのだ。

そのため、メジャーな銃器製造メーカー製の銃器が数万発の使用に耐えられる強度を有しているのに対し、バジェット・ガンでは1,000発くらいの発砲にしか耐えられない造りとなっており、しかも銃器内部を完全分解までできない造りの構造となっているのでパーツ交換もできないため累計の発射弾数が1,000発くらいとなると使い捨てとなってしまうような銃器である。

だが、1カ月で20発くらいの練習射撃を行ったとしても1年間で発砲するのは240発となり、累計で1,000発に達するのは5年くらいは掛かると思えば充分に元を取ったとも言える。

それにバジェット・ガンを購入するような層は、購入直後に射撃練習で20~30発を撃った後は殆ど銃器を射撃することがないばかりか、現実にセルフ・ディフェンスのために銃器を発砲するような場面に遭遇する機会がないままで一生を終える人間もいるのだから、1度バジェット・ガンを購入した後に追加のバジェット・ガンを購入することもないといったケースも決して珍しいわけではない。


俺の新たな提案を聞いて納得したジェシーは、その内容をパソコンで打ち込みメールとしてCIAへ送信する。

それから3日後に、CIAからジェシーのパソコンにメールが送られて中国国営企業CEOの誘拐作戦が立案されて1週間後に実行されることとなった。

作戦内容としては、ジェシーと別のエージェントが利用できそうなチンピラグループを選別した上で接触して、大金を稼げるプランとしてCEOの誘拐を提案して食い付いたグループにバジェット・ガンと弾薬を提供した上でCEOが退社したタイミングで誘拐を実行させるとしている。

その際の尾行等については、基本的にドローンを使って空からの尾行によって行うこととし、俺達が直にチンピラグループを追跡するような事はなく。俺とジェシーが出動するのはチンピラグループからCEOを奪還する際の襲撃部隊に加わることになっている。

そこで、俺は大使館の職員に近くに射撃レンジがないかを聞いてみるとラッキーなことに大使館の地下に25メートルの射撃レンジを備えているとのことであった。

それは、大使館を警護している職員達や大使館職員が空き時間を利用して射撃練習を行える環境を作ってやることで、いざ銃器を使用するような場面に備えられるようにする目的のため地下射撃レンジを備えているそうである。

それを聞いた俺は、直ぐに地下射撃レンジを使用させて欲しいと希望すると大使館職員は笑顔を見せて、地下の射撃レンジは大使館の業務時間内であれば基本的に常時オープンにしているので自由に使っても構わないとのことであった。

俺は、ジェシーに声を掛けて地下の射撃レンジで射撃練習をしなかと誘ってみると

「そうですね、襲撃部隊に加わるのであれば今から射撃練習をしていないと本番で味方を間違って誤射するかもしれませんから一緒に演習させてもらいます」

笑顔を見せながら部屋を出てくる。

大使館地下2階にある射撃レンジへ入ると、都合良く誰も使用していないので射場手前の部屋の壁に掛けているイヤーマフラーを借りて首に掛け、壁際に置ているキャビネットからペーパーターゲット2枚を取り出して、1枚をジェシーへ渡す。

本来ならば野外であっても数多くの弾薬を発砲するのであれば、拳銃と言えども発砲音と衝撃波によって耳には相当の負担が掛かるのでイヤーマフラーを装着しなければ将来的に聴覚障害を引き起こすことになってしまう。

俺とジェシーが各自の射座の小さなテーブルに着くと、テーブルの天板から上を仕切るボードを取り付けている柱に取り付けられているスイッチの1つを押すと、ウィーンというモーターの回転音と共にペーパーターゲットを取り付けるための金属枠が目の前へ移動してくる。

その枠にペーパーターゲットを装着して、柱に取り付けられている別のスイッチを押すとペーパーターゲットが電動で離れていくが、当然なのだが移動している途中でスイッチを切れば25メートルの範囲内で任意の位置でペーパーターゲットを設置して射撃することも可能である。

俺とジェシーは、スイッチを入れっぱなしにしていたのでペーパーターゲットは25メートルの位置で止まる。

俺は、左のやや背中側にあるヒップホルスターからコルト社製のコンバットユニット・レイル1911拳銃を抜いてから、一度マガジンを取り出しておいてコンバットユニット・レイル1911拳銃の外観をチェックし発砲に際して支障のある傷や不具合がないことを確認する。

隣の射座に居るジェシーが俺の方を覗き込んで

「やはり、ジョージも1911拳銃を使用しているんですね」

と言ってきた。

ちなみに日本では1911拳銃を「ガバメント」若しくは「ガバ」等と呼んでいるが、アメリカでは「ガバメント」というのはM1911拳銃かM1911A1拳銃のモデルのみを意味しているので、それ以外の1911モデルの拳銃は「ナインティーン・イレブン」と呼ばなければ通用しないし、ましてや「ガバ」と呼んでも通用しないどころか「何だそれは?」と質問されるのがオチである。

確かに、俺が陸軍に入隊したばかりの頃はM1911A1拳銃が支給されて射撃訓練を受けたのと、古参の先輩兵士からは45ACP弾薬を使用するM1911A1拳銃の信頼性や威力についての話を嫌という程に聞かされていたので、いつの間にか俺自身も1911系拳銃の信奉者になっている。

ジェシーに覗き込まれた俺は

「ああっ」

とだけ呟いてから

「ところで、ジェシーが使っている拳銃は?」

一旦イヤーマフラーを外して聞いてみると

「私は、コイツを使っています」

と言って右腰のホルスターから拳銃を抜いて見せてくれる。

ジェシーの右手に握られているのは、射撃競技用のモデルとして名を馳せたSTI社が社名を2020年5月に変更してから、製造するモデルも射撃競技用から実践向けを意識したモデルへ移行してSTACCATO社となったPモデル拳銃であった。

Pモデル拳銃は、使用する弾薬が9×19ミリメートル弾薬となりマガジンには17発も装填できるようになっている。昨今の拳銃での銃撃戦では「ワン・ショット・ワン・キル」という考え方ではなくて、複数発を相手に命中させることで相手の攻撃力を奪う方向なので1つのマガジンに可能な限り多くの弾薬が装填できるファイヤー・パワーのある銃器が歓迎されている。

その点では、ファイヤー・パワーがあって尚且つ拳銃の操作方法も単純化されているグロック拳銃ほどではないにしても、操作が1911拳銃に準じているPモデル拳銃もアメリカ国内の法執行機関での採用シェアーを伸ばしていると聞いているし、以前は射撃競技用に特化したモデルを手掛けていた関係なのかもしれないがSTACCATO社がリリースしているモデルは総じて射撃精度においても結構評判が良い。

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