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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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首都パナマシティは、太平洋に面したパナマ運河の入り口となっているだけはなくパナマ共和国の政治、経済、文化の中心地となっている。また、中南米の有数の金融センターとしても認識されている関係上、世界各国の銀行が進出しているので街中は結構高層ビルが多い。

そんな高層ビル群の一角に、パナマ運河の通航管理権を有する中国国営企業のオフィスがあり、そのビルの近くにジェシーは車を路肩に駐車させてエンジンを切る。

時刻は夕暮れ近くとなり退社時間が迫ってきているので、俺は極力自然さを装いビルの出入口をルームミラー越しに偵察し、ジェシーはデジタルカメラを使って退社してビルから出てくる人間達を丹念に撮影している。

周囲は高層ビルに囲まれている関係上、影になって光量が不足気味ではあるが画素数の高いデジタルカメラであるならば、後でコンピュータにダウンロードしてから画像に補正を加えれば充分に人物の判別が可能にはなる。

そうして2人で観察しているのだが、問題はパナマシティも決して治安が良いわけではなく主に旧市街地周辺やスラム街がデンジャラスゾーンとされているが、夕方近くのビジネス街だからと言って油断していると風体の悪そうな連中が襲ってこないとも限らない。

ビジネス街と言っても、ひったくり等を行った場合にはビルの路地へ逃げ込むことも可能だろうし、退勤間際の時間帯ともなれば基本的にビジネス街を職場としている人間は、今日の仕事を終えて緊張感が薄れてもいるだろうから格好の金づるとして狙われる可能性は比較的高い時間帯だと言える。

道中で準備したコンバットユニット・レイル1911拳銃をコンディション1の状態にしていたのは、決して護身用という意味ではないにしても左腰のヒップホルスターにコンディション1の状態で携行しているので、まさか発砲する事態にまではならないと思うが、即応体制は取れているので周囲に注意さえしていれば直接狙われたり、近くで発生した事件に巻き込まれる事態にはならないだろう。

そろそろ完全に退勤時間がピークを迎える頃、マークしている中国国営企業の社屋ビルの地下駐車場からヘッドライトを点灯させた1台の高級そうなセダンタイプの車が出てくるのが見える。

一般道へ合流する際に、セダンタイプの車両が一時停止をしているので、車両はシルバーのメルセデス・ベンツであることが判明して観察するには絶好のチャンスであると同時にジェシーにとってもシャッターチャンスとなっている。

車両の感じからすれば後部座席に座っているのは重役か、或いは社長ということになるのだが、如何せん相当薄暗くなってきて光量が不足気味なので暗い車内の人物を仔細に観察することができないのと同乗しているボディーガードの様子もよく分からない仕方がないので、この場を去った後にジェシーがパソコンへ画像をダウンロードした段階で鮮明に加工された画像で観察するしかない。

それから1時間ほどを粘って退社して行く重役らしき人間達を観察し終えると、気が付けば時刻は19時を過ぎている。

流石に、重役クラスであれば余程の事態にでもならない限り19時を過ぎてもオフィスに居ることはないだろうから、今日のところは撤退することにする。

ジェシーの話では、パナマシティに絶好の宿泊場所を準備しているとのことだがコスタリカからの移動時間等で時間を喰われたので、未だにホテルのチェックインすら行っていない。

ジェシーは、使用していたデジタルカメラを仕舞うとホンダ・アコードのエンジンをイグニッションさせて再始動させると路肩から本線車線へアコードを移動させて一路、宿泊予定の場所へ向かう。

ジェシーから宿泊場所を予め確保しているとの話を聞いていたので、パナマシティの繁華街にあるビジネスホテルだと勝手に思っていたが、ホンダ・アコードの進行方向はパナマ運河とは反対方向の山手側へ向かっている。

徐々に、高層ビル群を抜けてしまうと雰囲気的にはビジネスホテル等があるようには見えないどころか、下手をすれば高級リゾートホテルでも立地してそうな感じになってくる。

確かに、今回のミッションはアメリカの国益から考えても重要な内容であることは充分に理解できるが、だからと言って何日間も宿泊する可能性があるような状況下で高級リゾートホテル等を手配するような予算があるとは到底思えない。

だが、運転席のジェシーは迷うことなくステアリングを操っているので、道を間違えているということもないだろうが、些か不安になってきているとジェシーをスピードを緩め始めて直ぐに、ウインカーを上げたのはパナマのアメリカ大使館の手前であった。

確かに、ジェシーは宿泊場所を確保しているとは言っていたが一言もホテル等とは言ってなかったが、まさか大使館を宿泊地にしているとは想像もしていなかった。しかし、下手に一般のビジネスホテル等に宿泊して情報漏洩や夜襲を受けるよりは大使館なら多少は安心できる。

アコードを大使館の正面ゲートで一時停車させると、制服姿の警護員が5.56×45ミリメートルNATO弾薬を使用するM4アサルトライフル銃を持ってアコードに近付いてくると

「どのようなご用事でしょうか?本日の大使館での業務時間は終了していますのでパスポートの紛失等でしたら、明日の午前10時に再び来ていただくことになりますが」

穏やかな口調ではあったが、手にしたM4アサルトライフル銃を何時でもアコードの車内へ発砲できるような体勢を取っている。

運転席側のパワーウィンドウを下げたジェシーが

「今日から、こちらの大使館でお世話なることになっている人間です」

と言ってCIAが偽造した外交官パスポートを提示する。

ジェシーが提示したパスポートを受け取った警護員は、パスポートを開くと無線を使って正面ゲートの詰め所に居る仲間へパスポートに記載されている内容を連絡すると

「助手席に居る方も一緒でしょうか?」

穏やかな笑顔ながらも鋭い視線を俺に向けてくるので、ジェシーと同様にCIAが偽造した外交官パスポートを提示すると、俺のパスポートを受け取った警護員はパスポートを開いて記載内容を詰め所に居る仲間へ無線連絡を入れる。

暫くすると、詰め所で大使館へ訪れる予定者リストの照合を行っていた仲間から無線連絡があったのか

「只今、お2人の確認が取れました。どうぞ、大使館敷地内へお入りください」

と警護員は言って、提示していたパスポートを俺達2人へ返却してから左手で進行方向を示してくれる。

警護員から返却されたパスポートを受け取ったジェシーは、外交官パスポートをダッシュボードの上へ置いて、開けていたパワーウィンドウのスイッチを操作して窓を上げる際に

「それじゃ、お疲れ様」

と言い残して徐行スピードでアコードを発進させる。

大使館裏手の駐車スペースにアコードをバックで駐車させたジェシーが、センターコンソールボックスから1通の紙封筒を取り出して、手で封を切ると中からプラスチック製の名刺サイズくらいのカード2枚を取り出して、その1枚を俺に寄越してくる。

「これは、こちらの大使館を出入りする際に使用するカードキーになっていますが、見ての通り顔写真がプリントされていますので身分証明にもなっており、仮に我々を襲ってカードキーを強奪しても大使館玄関で常駐している警護員にカードを提示して、カードを受け取った警護員がカードリーダーにカードを接触させないと玄関ドアのロックは解除させられないので、くれぐれも紛失しないように注意してください」

と説明される。

ジェシーから渡されたカードの表面を見るとカラー印刷で俺の顔写真が印刷されているほか、氏名等の情報についても偽造パスポートに記載されているのと同じ内容が印字されている。

そのカードを羽織っているベストの右胸ポケットへ仕舞ってから、助手席側のドアを開けて車を降りると後部座席へ置いていた俺のバックパックを取り出す。

取り出したバックパックを右手に提げて、運転席側のドアを開けて車を降りたジェシーの後に続いて大使館の正面玄関へ向かうと、正面玄関の前にはM4アサルトライフル銃を持っている警護員が俺達へ鋭い視線を向けて

「カードキーの提示をお願いします」

と言って近付いてくる。

今回の相棒となるジェシーは、これまでのCIAからのミッションで大使館での寝泊まりの経験があるのか慣れた様子でカードキーを警護員へ渡すので、俺もジェシーに倣って警護員へカードキーを提示する。

俺達2人のカードキーを受け取った警護員は、正面玄関左側にある詰め所に繋がるポストのような開口部へカードキーを差し出すと詰め所内に居る警護員がカードキーを受け取ってカードリーダーにカードキーを翳す。

待つほどの事もなく、「ビーッ」という小さなブザー音の後にガッチャという玄関ドアのロックが解除された音が聞こえると、詰め所から戻されたカードキーを受け取った警護員が俺達2人にカードキーを返却してから玄関ドアを開けてくれる。

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