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パナマ運河、アメリカ合衆国とカナダの領土がある北アメリカ大陸と南米の国々が領土を有している南アメリカ大陸を結び付けるように位置するパナマ共和国を横断して太平洋と大西洋を繋ぐ全長80キロメートルに渡る運河で、海上貿易の約5パーセントの物資が行き交う重要な海上交通路となっている。
今、俺が居るのはパナマ共和国に隣接しているコスタリカの首都サン・ホセに来ており服装も白い半袖ポロシャツの上に黒いメッシュ地のベストを羽織り、下はデニムのパンツを履いてはいるが、当然のこととして休暇で来ているわけではなく原子力空母エイブラハム・リンカーンから海軍輸送機C‐2グレイハウンドに搭乗して一度本国へ向かい、その後は運転手付きの陸路を使ってサン・ホセまで辿り着き乗せられてきた車輌と別れたところだ。
原子力空母エイブラハム・リンカーンから移動する際は、俺が1番目ということもありC‐2グレイハウンドに乗り込む時に見送りに来たマイクとスティーブの2人に
「次に会う時は、必ず俺が奢るから2人とも元気でなぁ」
と右手を挙げて声を掛ける。
マイクとスティーブは、笑顔を見せると右手を突き出して親指を立てるサム・アップで答えてくれ、決して「サヨナラ」等とは言わないことにしている。そう、「サヨナラ」を言う時は戦友が与えられたミッション等を従事中に戦死したような場合に帰還してきた遺体や本国内に設けられた墓に対して使う言葉としており、必ず生還して再び顔を遭わせることが前提である以上は相手に掛ける言葉とすれば「元気でなぁ」というが暗黙の了解となっている。
今回、俺に与えられたミッションは現在のパナマ運河の通航に関する管理権が、香港に拠点を置いている中国の国営企業が掌握しており、その状況は言葉を変えれば中国が自国の領土から離れたパナマ運河を国家の管理下に置いているのと同義語となり、国際貿易の要となる輸送用船舶の航行は中国による匙加減1つということで世界的な影響力を拡大させることになる。そのような状態が、アメリカの直ぐ近くで行われているという事は当然アメリカとしても受け入れ難く、パナマ運河から中国の影響力を排除したいと思案している。
そこで、俺がミッションとして派遣されたわけだが、重要なのは露骨にアメリカが中国の影響力を排除する目的で軍事力を行使しては世界各国から非難の的になってしまうのは明らかで、そのような状態は流石に回避しなければならないので何等かの謀略を駆使して最終的にパナマ運河の通行管理権を中国の国営企業が放棄するように仕向けるのだ。
ただし、俺とてパナマ共和国の内情や地理に精通しているわけではないのでパナマ共和国に詳しいCIAのエージェントであるコーディネーターと行動を共にしないわけにはいかない。
そのため、コーディネーターとの接触を図るためにサン・ホセの街中でコーディネーターが現れるのを待っている状態なのだ。
ミッションで予定されているコーディネーターとの待ち合わせ場所で、スペイン語が行き交う人混みをぼんやりと眺めていると背後から
「すみませんが、アメリカの方ですか?」
と穏やかな声で問い掛けてくるので、俺は声が聞こえた方へ振り向き
「ええ、そうですが」
と答えると目の前には、スポーツタイプの黒っぽい偏光サングラスを掛けた俺と同い年くらいの中南米系の男性が立っている。
「そちらの西海岸は、コスタリカのような温暖な気候で過ごし易いですか?」
と合言葉を口にしてきた。
「確かに、西海岸は過ごし易いですが東海岸も悪くありませんよ」
と俺は微笑んだ表情を何とか作って合言葉に答える。
それを聞いた相手は満面の笑顔を見せて右手を差し出してくる。
その相手の右手を握って
「初めましてジョウジ・カタギリですが、呼び難いならジョージでも構いませんよ」
と自己紹介をする。
「私は、ジェシー・クラウドマンと言います。今回はよろしく」
と名前を名乗ってくれた後に
「早速ジョージと呼ばせて頂きますが、ジョージは作り笑顔が得意じゃありませんね。予め、貴方の特徴を聞いていたから良さそうなものですが、あの笑顔じゃ知らない相手は完全に警戒して声を掛け難いですよ」
と言って笑っている。
確かに俺は表情を上手く作るのは苦手な方で、特に嬉しいとか可笑しいといった感情もないのに笑えと言われても自然に笑顔を作ることが上手くできない。
しかし、初対面の相手から率直に言われるとは思っていなかったが、かと言って気分を害したかのようにブスッとした顔をしてもいられないので自然に苦笑いを浮かべて
「確かに、感情とは別の表情を作るのは苦手ですね」
と答えるのが精一杯だ。
目の前のジェシーは
「失礼しました、初対面の方に少し言葉が過ぎたようですね。でも、お陰で貴方が充分信頼できる方と分かりましたので安心しましたよ」
と言って笑顔ながらも申し訳なさそな雰囲気を醸し出している。
とにかく、このコスタリカでコンビを組んでパナマ共和国までを一緒に行動する相手との信頼関係を少しでも築くことができたのであれば、少しくらい言葉が率直過ぎたとしても気に掛ける程のことではない。
初対面の挨拶も済んだところで
「では、これからどうしますか?」
とジェシーが聞いてくるので
「出来ればパナマ運河の管理をしている中国企業を一目でも良いので見ておきたいんだが」
と直ぐに俺が言う。
それを聞いたジェシーが
「分かりました。丁度、車もありますから中国企業の社屋がある所まで案内します」
と言ってくれて、車を駐車している所へ案内してくれる。
路駐されていた車は、白いセダンタイプの車で日本の中古車のようでホンダのアコードのように見える。
ジェシーがジーンズの右ポケットから車のキーを取り出して運転席側のドアを開けると連動して他のドアもカタンと音がして施錠が解かれると
「それじゃ、ジョージは助手席に乗ってください」
と声を掛けてジェシーは運転席へ乗り込む。
俺も自分で助手席のドアを開けてシートに座ると車のBピラー上部に備わっているシートベルトに手を伸ばして装着する。
俺がシートベルトを装着するのを確認したジェシーは、車のキーをイグニッションへ差し込んで捻りエンジンを始動させると、日本車特有の静かにエンジンが稼動してアイドリング時もエンジンが動いているのか不安になるくらいに車内は静かだ。
ジェシーがブレーキペダルを踏み込んでオートマチックトランスミッションをドライブモードへ移動させて比較的静かに車を発進させる。




