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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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敵の施設は、海兵隊遠征隊のメンバーが投擲した手榴弾の爆発を引き金として、保管している数機の爆弾ドローンが誘爆の連鎖を引き起こしたことで半壊に近いくらいに損壊し、建物内に居たイスラム武装組織の戦闘員十数名が死傷することになった。

少なくとも、この時点で今回ミッションの目的は概ね遂行したことに成功しているので、後は敵の施設が襲撃されたことに伴って駆けつけて来るであろうイラン正規軍である革命防衛隊やイラン国内に潜伏しているイスラム武装組織の援軍が集結する前に素早く撤収することができれば、今回の作戦は確実に成功したと言っても良い。

実際、敵の建物が半壊するような状態となった時点で

「任務完了、任務完了、各自撤収のため集合せよッ」

という海兵隊遠征隊チームリーダーが無線を通して、施設内で展開中のメンバーに告げられているのがイヤフォンを通して聞こえくる。

その無線を聞いている間にも、俺とスティーブはアサルトライフル銃を構えたままで後方支援としてスコープ越しとは言え警戒を続けているが、例えスコープの倍率を落としたとしても接眼レンズに映し出されている範囲は決して広くはないので、その点は俺とスティーブの後方で双眼鏡タイプのスポッティングスコープを覗いているマイクが注意深くフォローしてくれている。

この段階では、半壊した敵の施設から脱出した戦闘員からの逆襲といったこともあり得ないわけではないが、イランの革命防衛隊やイスラム武装組織の援軍が駆けつけて新たな戦闘が始まることを警戒しなければならない。

俺とスティーブなら、後方支援の援護射撃ということもありセミオートでの発砲であったために大した弾数を消費したわけではないので、仮にイランの革命防衛隊やイスラム武装組織の援軍による襲撃があったとしても多少の反撃を行うことは可能と言えるが、攻撃のメインである主力の海兵隊遠征隊のメンバーは敵の爆弾ドローンを保管している施設と施設内に居る戦闘員を殲滅するのを目標としている関係で、装備している大半の武器を使用しているだろうから、革命防衛隊やイスラム武装組織の援軍が来襲してきた場合に如何ほどの戦力が残存しているのか心許ない。

そういった意味では一刻も早く撤収を始めて、迎えの輸送用ヘリコプターと援護の武装ヘリコプターと合流して原子力空母エイブラハム・リンカーンへ帰還するのに越したことはないと言える。

「こちら、イーグル・ワン。こちら、イーグル・ワン。デルタ・ワン、聞こえるか?」

と海兵隊遠征隊チームリーダーが無線を通して暗号を使い俺達に呼び掛けてくるので

「こちら、デルタ・ワン。聞こえているぞぉ」

とマイクが返答する。

「こちら、イーグル・ワン。今からデルタ・ワンと合流して撤収を始める」

海兵隊遠征隊チームリーダーが伝えくるのを聞いたマイクは

「了解、イーグル・ワンが合流してくるまでの間、デルタ・ワンは周囲の警戒態勢に移行する」

と海兵隊遠征隊のチームリーダーへ伝える。

「了解、デルタ・ワンへ接近した時点で改めて連絡するので、俺達を誤射しないようにしてくれ以上」

海兵隊遠征隊のチームリーダーが言ってくるのを聞いたマイクが

「了解した。イーグル・ワンが接近した時、顔中が髭だらけの奴を先頭にして来なければ発砲することはない以上」

とマイクが得意のジョークを交えて答える。

単なるイメージだけの話なのだが、中東系の男性戦闘員は顔中が髭だらけにしているイメージがあるので、マイクも海兵隊遠征隊のチームリーダーへ返答する際に間違ってもイスラム武装組織の戦闘員や革命防衛隊と見間違いそうな人物を先頭にして来るなと言いたかったんだろう。

無線通信を終えたマイクは、手に持っていた双眼鏡タイプのスポッティングスコープを一旦バックパックに仕舞うと、大岩の上からバックパックを落として身軽になった状態で右手にはカスタム1911拳銃をホルスターから抜き出し、左手には俺が支給されたカスタム・ボルトアクション・ライフル銃を持って大岩の上から地面へ飛び降りる。

高さ2メートル程度なので、身軽になった状態ならば膝のクッションを充分に使うことで怪我をすることなく地面へ降り立つことができる。

俺とスティーブも自分のバックパックを地面へ落とし、更にスティーブはSR‐25M110アサルトライフル銃を収納していた強化樹脂製ケースを閉じてからバックパックと同様に地面へ落とす。

これで、俺とスティーブは手にしているのがメインアームだけとなって多少は身軽な状態となったので、とは言ってもSCAR‐Hアサルトライフル銃とSR‐25M110アサルトライフル銃の重量はスコープやバイポッド、更には弾薬が装填されているマガジンを装着しているので6キログラムを超える重さにはなっているが、20キログラム超える重量があるバックパックを背負った状態よりは遥かに膝への負担が少ないので、高さ2メートルくらいの大岩からメインアームを持った状態で飛び降りたとしても膝のクッションによって怪我なく着地することができる。

地表へ降り立った俺達3人は、バックパックを背負った状態で先程まで登っていた大岩を背にするにして周囲の警戒を始める。

幾ら月夜といっても、日中と比べれば明らかに視界が充分には効かないのに加えて、軍では気配を消すような訓練も行っているので敵に背中を取られないように注意して警戒を行わないと、気付かぬうちに敵に背後を取られて後頭部を撃ち抜かれるか、或いはナイフで喉を切り裂かれることになってしまう。

俺とスティーブはメインアームであるアサルトライフル銃を構え、マイクはサイドアームであるカスタム1911拳銃を右手に持って前方へ集中して警戒にあたっていると、30メートルくらい前方に十数人の集団が極力足音をさせないように注意しながら近寄ってくるのが視認できる。

恐らく撤収中の海兵隊遠征隊のメンバーだとは思うが、未だに海兵隊遠征隊のチームリーダーからの無線連絡はないので、安易に味方だと気を抜いてしまうわけにはいかない。

すると隣に居るマイクが、右手に持っていたカスタム1911拳銃のマニュアルセーフティを解除する「カチッ」という音が聞こえてマズルを近寄ってくる集団へ向けると

「こちら、イーグル・ワン。デルタ・ワンが警戒中なのを確認した。デルタ・ワンとの距離は20メートルくらいなので間違って発砲してくるなよ」

海兵隊遠征隊のチームリーダーからの無線がイヤフォンに飛び込んでくる。

その無線通信を耳にすることで、張り詰めていた警戒心を多少とも緩めることにはなるが、近付いて来る海兵隊遠征隊の後方等から敵の追っ手が接近している可能性もあるので、完全に警戒心を解くわけにはいかない。

近付いて来る集団の全容が徐々に視認できるようになり、間違いなく接近してくるのは海兵隊遠征隊のメンバーであることが確実に分かった。

日頃からの訓練によって近寄ってくるメンバーには、疲労困憊といったような感じは見受けられないが、少し前まで命の遣り取りとも言える戦闘を終えた直後ということもあり月明りの中で目にするメンバーの表情には僅かではあっても疲労を感じさせるものが見て取れる。

俺達の姿を認めた海兵隊遠征隊のメンバーは、一応に微かな笑顔を見せて近付いて来る。確かに、ほんの少し前まで自らの命を狙ってくる敵と対峙していたのに比べれば、殺意が全くない味方であれば俺達3人であっても充分に安堵したくなる気持ちは充分過ぎるほど理解できる。

だが、そんな安らいだ雰囲気を打ち壊すように海兵隊遠征隊の後方500メートルくらいの位置に、ヘッドライトを光らせた車両が曲がり角を曲がってきたのか突然現れたかと思うと徐々に接近してくる。

それに気付いたマイクが

「敵の追っ手が接近してくるぞぉ」

と大声で叫ぶ、マイクの大声を耳にした海兵隊遠征隊のメンバーは全員が後方へ振り向くと、一斉に手にしたSCAR‐Hアサルトライフル銃をニーリングのポジションで構えて発砲を始めるが、先程の戦闘での名残りでセレクターレバーを変えていないのか発砲している殆どがフルオート射撃となっており、直ぐにマガジンを空にして予備のマガジンにチェンジしなければならなくなっている。

俺とスティーブも狙撃を行なおうとSCAR-Hアサルトライフル銃とSR‐25M110アサルトライフル銃を構えると

「風の方向と風速は、敵の施設を狙撃したのと変化はない」

マイクは、急いでバックパックから取り出した双眼鏡タイプのスポッティングスコープを覗いて教えてくれる。

それを聞いたスティーブがいち早くSR‐25M110アサルトライフル銃のマズルを接近してくる車両へ向けるが

「うわっ」

と言ってから、スコープの前方へ取り付けている暗視カメラを外そうと藻搔き始めている。

接近してくる車両は、俺達に向かってヘッドライトを点灯させているので暗視カメラで車両を捉えようとすれば、真面にヘッドライトの光を受けることとなり暗視カメラには光量が強過ぎてハレーションを起して映し出される画像は白色にしか見えなくなってしまう。

その間にも、接近してくる車両からは独特な発砲音からAK‐47アサルトライフル銃2挺でフルオート射撃が開始され、海兵隊遠征隊のメンバーも数名は予備マガジンへ交換を済ませて応射しているが、接近してくる車両のヘッドライト周辺には命中しているようだが乗車している戦闘員へヒットさせてはいない。

そうしているうちに、数名の海兵隊遠征隊のメンバーがボディアーマーや右肩に被弾して地面に倒れ込んでしまう。

確かに、ボディアーマーアーマーはピアシング弾と呼ばれるボディアーマーを貫通させる威力のある弾丸でなければ、命中しても弾丸の進行を食い止めて身体的な致命傷を負うことはないが、それでも高速で飛翔してくる弾丸のパワーに対してまで無力化できるわけではないので、ボディアーマーに被弾した瞬間はプロボクサーからストレートパンチを受けたような衝撃を体感することになり、如何に訓練をしている軍人であっても平然としていられるわけではない。

俺は、マイクの方に借りていたSCAR‐Hアサルトライフル銃を返すとマイクが持っているカスタム・ボルトアクション・ライフル銃を受け取って構え始める。

カスタム・ボルトアクション・ライフル銃に取り付けているスコープを覗くと、ヘッドライトの光を真面に受けているとは言え光量不足のためか、接眼レンズに映し出される画像は少々暗く見えるものの暗視スコープや暗視カメラのように光量が強過ぎてハレーションを起すようなことはない。

右手でボルトハンドの取っ手を握って上方へ持ち上げてから後方へ引いてから、そのままの状態でボルトハンドを前方へ押し込みボックスマガジンに装填している6.5クリード・モア弾薬をチャンバーへ送り込んでから、スコープの中央左側にあるレティクルを赤く点灯させるイルミネーション・スイッチをオンにして、迫り来る車両のヘッドライトへスコープを向けて眩しさに耐えながら、ヘッドライトの僅か上方へレティクルのセンターを合わせてトリガーを引き絞る。

今の俺は、スタンディングという立射のポジションでライフル銃を構えているので、迫り来る車両の乗員を狙撃するのならば位置関係的には若干撃ち下ろしとなるので、6.5クリード・モア弾薬を使用した経験はないにしても弾道は僅かに低伸するはずなので着弾位置はレティクル・センターよりも若干上方になるので、ヘッドライトの上方へレティクルのセンターを合わせて発砲すれば、少なくとも車両に乗り込んでいる人物には命中するはずである。

「ドンッ」という発砲音が響き渡ってカスタム・ボルトアクション・ライフル銃から弾丸が放たれるが夜間であってもマズルの先端から発射炎が殆ど見えないところを見ると弾丸がバレル内を通過している時点で弾薬の装薬が完全燃焼しているに違いなく、それにも関わらず思っている以上に反動が強くはないのでマズルも想像以上に上方へ持ち上がったりしない。

初弾だけで簡単に車両をストップさせられないと思っていた俺は、フォアエンドを握っていた右手でボルトハンドの取っ手を握って上方へ持ち上げてから、勢い良く後方へ引くとエジェクション・ポートから空薬莢が弾き出されていくのを右目で捉えたところで、後方へ引いていたボルトハンドを前方へ押し込むと、右手にはマガジン最上部にある次弾がチャンバーへ押し出されていくのを感じながら、前方へ押し込んだボルトハンドがストップしたところで、ボルトハンドを下方へ倒してチャンバーを完全に閉鎖してロック状態にしてから、右手をボルトハンドから離してフォアエンドへ戻す。

再びスコープを車両のヘッドライト付近へ戻していると

「初弾は、ドライバーの左腕に命中したようだ。後、2インチくらい9時の方向を寝ればドライバーの心臓にヒットするぞぉ」

とマイクが修正点を教えてくれる。

それを聞いて、レティクルのセンターをヘッドライトの上方で丸いライトの9時方向のライトの端に合わせてからトリガーを引き絞る。

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