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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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潮風を受けながら日没後となった闇夜の空を飛行するCH‐53シースタリオンに搭乗して、イラン側の領土である海岸線を目指して低空飛行しているが、前回と同様に海岸線近くの高度3メートルくらいでCH‐53シースタリオンはホバリングを始めるので、そこから浅瀬の海へ降下しなければならない。

陽が暮れて間もない時間なので、海水そのものは水温が未だ低いわけではないが、少なくとも腰から下が完全にずぶ濡れとなって水分を含んだズボンと下着は海水を含んで重いだけでなく、着用していても決して心地よいものじゃない。

体力強化訓練のように腰から下に軽めのウエイトを装着したような感じで、浅瀬の海から砂浜へ打ち寄せる波に邪魔されながら移動すると、低空でホバリングしているCH‐53シースタリオンが巻き起こしている風が濡れたズボンを冷やして体温が奪われるので、赤道近くの中東と言えども若干の肌寒さを感じてしまう。

暗闇の波打ち際に海兵隊遠征隊のメンバーと俺達3人が集結して、作戦指令書に記載されている襲撃ポイントの位置を再度確認してから、行軍の方向を定めて砂浜を歩き出す。

今回の襲撃ポイントで保管されているのは飛行タイプの爆弾ドローンなので、前回よりも位置する場所が内陸側となるので行軍する距離も当然長くなり移動時間も掛かってしまう。

しかも、水上用と違って飛行タイプともなれば襲撃を受けた際にドローンを飛行させることができるので、闇夜に紛れて飛行されてしまえば銃器によって撃墜するのは至難の業と言っても過言ではない。

よって、敵に接近していることを悟られることなく近付いて攻撃を開始した際には、手榴弾等によって第一にドローンを破壊することを念頭にした攻撃を実行しなければ目的を達成することができないだけでなく、爆弾ドローンを飛行させしまえば、逆襲のために特攻を仕掛けてくる可能性もあるので死傷者を出すことにも成りかねない。

その際には、前回のように海兵隊遠征隊チームからの支援要請を待っているだけではなく、俺達もアクティブに後方からの支援攻撃を加えていく必要がある。

ただし、前回との違いがあるとすれば今夜は満月なので月明りがある関係で、肉眼による視界が決して悪いわけではなく比較的周囲を視認するのに苦労をすることはなく暗視用ゴーグルを早々に使用しなくても済むのだが、逆に言えば敵からも俺達を発見するのが容易であることの裏返しでもあるので、充分に警戒しなければ前回同様にミッションを失敗することにもなりかねない。

CH‐53シースタリオンから浅瀬に降下してから5キロメートルくらいは行軍しただろうか、ずぶ濡れのズボンも多少半乾きとなり冷えた身体が汗ばんできた頃に視界の先に僅かではあるが、建物らしき姿が何となく確認できた。

すると、海兵隊遠征隊チームのリーダーがマイクに近寄り左手にある大きな岩を指差して

「デルタの3人は、この岩の上から後方支援を実施してもらえるか?」

と聞いてくる。

前回までは、多少ともデルタ・フォースに対して信頼が薄かったような感じのリーダーも情報内通者を突き止めたマイクに対しては信頼してきているようで、前回のように上から目線の命令的な言い方ではなく、対等な感じの接し方に変化している。

リーダーから聞かれた大岩を見上げたマイクは

「オーケー、このくらいの岩なら3人共登れそうなので海兵隊遠征隊の方が良いなら、ここから後方支援に当たれるよ」

とリーダーに答える。

そのマイクの答えを聞いたリーダーは満足そうに頷いて

「それじゃ、ここから頼む」

と言い残して小走りで行軍の先頭へ向かい、海兵隊遠征隊のチームを率いて襲撃ポイントである施設を目指して行った。

残った俺達はマイクの周囲に集まると

「たぶん、これくらいの岩ならバックパックを踏み台にすれば攀じ登れそうだ」

とマイクは言って、自分の背負っていたバックパックを降ろして大岩の隣へ置くとバックパックに片脚を載せて両手を岩の頂上部分に掛けると、バックパックから飛び上がるようにして大岩の頂上へ這い上がる。

3人の中で最も体格が良いマイクが大岩の上へ這い上がったので、俺はマイクのバックパックを担ぎ上げてマイクに渡してから、自分のバックパックをマイクへ渡して大岩の頂上部に置いてもらい、次いでメインアームであるカスタム・ボルトアクションライフル銃をマイクに手渡して大岩の頂上へ置いてもらってから、両腕を伸ばしてマイクに掴んでもらって引き上げてもらい大岩の上へ移動する。

その後、スティーブも俺と同様にマイクにメインアームやバックパックを大岩の上に取り上げてもらい、両腕を掴んで引き上げてもらって岩の上へ移動する。

これで3人全員が大岩の上に移動できた。

岩の上は比較的平坦で、俺達3人が寝返りをするのは難しいにしても仰向けで寝ることくらいは出来そうな広さとなっている。

そこで、スティーブはSR‐25M110アサルトライフル銃を強化樹脂ケースからアッパーレシーバーとロアレシーバーを取り出して組み立て始めるが、アッパーレシーバーの上部レイルには前回のミッションで使用したスコープと、スコープの前方に装着した暗視カメラが取り付けたままとなっているので、アッパーレシーバーとロアレシーバーを結合して、7.62×51ミリメートルNATO弾薬を装填してあるマガジンを装着すれば、直ぐにでも発砲できる状態となっている。

一方の俺は、支給されているカスタム・ボルトアクションライフル銃では暗視カメラ等を装着できないので、前回と同様にマイクからSCAR‐Hアサルトライフル銃を借りて後方支援のための狙撃を行うことになる。

最初、俺とスティーブは射撃姿勢が安定する伏せ撃ち姿勢であるプローンとなってスコープの接眼レンズと対物レンズの保護キャップを外して覗いて見たが、岩の上からプローンの射撃姿勢では海兵隊遠征隊が襲撃する施設の塀が邪魔となって施設内が殆ど見ることができない。

そのため、俺とスティーブは片膝立ちのニーリングという射撃姿勢に変更して射撃を行うことにしたが、必要に応じては立射のスタンディングポジションも併用しなければならない。

何せ待機した大岩の上と言っても、高さが2メートルちょっとしかないのでニーリングのポジションでも施設内の全景が把握できる状態ではないので、射撃姿勢としては安定感が低くなるスタンディングポジションでの狙撃も行わないわけにはいかない。

後ろで控えているマイクは、バックパックから双眼鏡タイプのスポッティングスコープを取り出して敵の施設を監視している。

暫くすると耳に装着しているイヤフォンから

「これから、目標の施設への攻撃を始めるが第一目標は敵の爆弾ドローンの破壊、第二目標は施設内に居る敵の戦闘員の殲滅となる」

慌ただしく海兵隊遠征隊のチームリーダーらしき男性の声が聞こえてくる。

その直後に

「ゴーッ、ゴーッ」

という襲撃開始の合図がイヤフォンから聞こえる。

施設の方向から「タン、タン、タン」という連続する発砲に続いて、「ボンッ」という手榴弾が炸裂する音も混じって聞こえてくる。

スコープで施設の2階を覗いていると、幾つかの窓が全開となってAK‐47アサルトライフル銃が連射されるマズル・フラッシュの発火炎が見えるので、そこへ後方支援の発砲をしようとすると

「施設建物までの距離は135ヤード(124.33メートル)で、風は7時の方向から1時の方向へ秒速1メートルで吹いている」

直ぐにマイクが風の状況を知らせてくれる。

今の場所から敵の施設までの距離が135ヤードならば前回の狙撃距離と大して違わないのでスコープのエレベーション・ダイヤルを弄る必要はないと判断し、ターゲットとの位置関係から若干ながらも撃ち上げとなって弾道が低伸して狙点より上方へ着弾するのと、風による影響は7時から1時の方向ならば弾道が右方向へ大きく流される心配もないと思い、スコープのレティクル・センターをズバリ開け放たれた窓の中央へ合わせて、グリップを握っている左手の親指でセレクターレバーを「SAFE」の位置から「SEMI」へ切り替えてトリガーを絞り始める。

「ドッドンッ」という発砲音がするのは、隣でSR‐25M110アサルトライフル銃を構えていたスティーブも同時に発砲したためで、2人のアサルトライフル銃のエジェクションポートから勢い良く吐き出された空薬莢は、今いる岩の頂上に落ちることなく地面へ向けて落下していく。

「2人の狙撃は、どちらも窓から発砲していた敵にヒットしたが、続いて別の敵が引き続き2階の窓から発砲を再開しているので、今度は2人とも下の窓枠付近を狙って発砲しろッ」

とマイクが的確に指示を出してくる。

最初に狙撃した敵は、目の前にいる海兵隊遠征隊のメンバー以外に遠方からの狙撃がないものと思って開け放った窓にスタンディングの射撃姿勢でAK-47アサルトライフル銃を発砲していたが、その人間が狙撃されたことを知った別の戦闘員達はスタンディングの射撃姿勢から片膝立ちのニーリングに移行して発砲を継続している。

ただし、俺とスティーブの発砲によって敵にも後方支援のスナイパーがいることが分かってしまったので、1人の敵は俺達の方へも発砲してくるのだが固定サイトを使った肉眼による照準であることに加えて、俺達がいる場所をハッキリとは認識できていないので発砲をされても数メートルくらいは逸れた空間を弾丸が飛び去っていく「ブーンッ」という衝撃波が聞こえるくらいで、俺達3人を直接捉えてはいない。

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