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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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日没近くになってくる頃から、徐々に風が強くなってきた。

この状態で出撃に出れば輸送ヘリコプターも相当な風に煽られることとなり、一緒に行動する連中に新兵が居るような場合だと、風の影響で揺れる輸送用ヘリコプター内で船酔い状態を発症して大変な事になるが、今回のメンバーならば強風での輸送用ヘリコプターによる移動も経験済みだろうから船酔い状態となる人間もいないとなるのは助かるが、目的地付近に到着した際に前回と同様、ヘリコプターからの降下となると風の影響を受けて体勢を崩して負傷するケースもあるので、そちらの方が気になるところではある。

時計が19時50分を示したところで、飛行甲板の上に立っているだけで身体が風に飛ばされそうになっているところへ、3機の輸送用ヘリコプターCH‐53シースタリオンと2機の攻撃型ヘリコプターAHー1Zヴィパーがメインローターをアイドリング回転させていることで巻き起こしている乱流によって、殆ど嵐の中に居るような状態にも関わらす、前回の出撃で負傷者を除いた海兵隊遠征隊のメンバー達がCH‐53シースタリオンへ次々と搭乗を始めているのに続き、俺達3人も身体をフラつかせながらCH‐53シースタリオンへ乗り込む。

出撃に参加する全員が3機のCH‐53シースタリオンへ搭乗を完了したところで、CH‐53シースタリオンが離陸を始めるが飛行甲板から離れた時点で強風に煽られて機体が大きく揺れるので、CH‐53シースタリオンの後部貨物室の床で直に腰を降ろしていても隣同士で身体をぶつけてしまうようになる。

前回の出撃では比較的風も穏やかだったので後部のスライドドアは開けっ放しにしていたが、今夜の状態でスライドドアを開けっ放しにしようものなら機内に風が入り込むことで飛行姿勢を乱しかねず、そうなれば単独での墜落だけでなく、場合によっては僚友機も巻き込んでの衝突事故にも繋がるので、後部のスライドドアは離陸前に閉じられている。

機内の雰囲気は、前回での失敗を踏まえて各自に気合が入っているためなのか、変に静まり返って張り詰めた空気に包まれ、何処となく殺伐としている。

確かに、これから命を懸けた殺し合いの現場へ赴くので、小学生が遠足へ行くように楽しくウキウキしたような感じには到底ならないのは当然だが、襲撃のメインである海兵隊遠征隊のメンバーとしても任務の殆どが国外での作戦行動が主であることから、基本的には作戦失敗ということは許されず、その意味では今回の作戦失敗は彼等のプライドを傷付けたことにもなるので、名誉挽回という思いが強いために一層気合いが入っているので、彼等が醸し出す空気感として強く感じているのかもしれない。

それに、後方支援として従事している俺達3人にしても死者が出ていないのは、不幸中の幸いにしても作戦の失敗という事実は当然受け入れ難く、今回こそは何としても無事に成功して欲しいと心から願うばかりである。

吹き荒れる風の中を飛行するCH-53シースタリオンは、暫くすると急に左旋回を始めて原子力空母エイブラハム・リンカーンへ戻るルートとなりヘリコプターの機長も

「こちら、アンダードッグ2。こちら、アンダードッグ2。了解、作戦終了これより帰還する」

などと原子力空母エイブラハム・リンカーンの管制へ無線連絡を入れている。

現時点で、昨夜に襲撃した敵の爆弾ドローン保管施設へ行軍するための海岸線にさえ到着しておらず、まして爆弾ドローン保管施設への攻撃すら行われていない状況で機長が無線で作戦終了とは一体何事なのか?

その疑問は、俺1人だけではない証拠として機内には少し異様な雰囲気に包まれていくが、隣にいるマイクは苦笑いの表情を浮かべ

「全員、聞いてくれ。恐らく、海兵隊遠征隊のリーダーとリーダーが選んだ別の隊員が、それぞれ搭乗しているヘリコプター内で説明を始めていると思うが、今夜の襲撃作戦はブラフだったんだ」

と言い出した。

それを聞いた俺は

「マイク、それはどういう意味だ?」

これは機内に居るスティーブを含め他の連中も同様の疑問を抱いていると思い問い質す

「皆を騙すような事をして申し訳ないと思っているが、皆も気付いている通り前回のミッションが失敗となったのは、紛れもなく敵に情報を漏らした内通者がいたことが原因なのは分かっているが、その内通者を見付け出さない限りは今後のミッションが成功する可能性が少ないため、原子力空母エイブラハム・リンカーンの艦長、海兵隊遠征隊チームリーダー、そして俺の3人で協議して内通者を炙り出すためにブラフの出撃計画を立案して準備したんだ。そして、ヘリコプターの機長が先程、作戦終了の連絡を受けたという事は空母エイブラハム・リンカーン内で内通者を拘束したんだと思う」

とマイクが一気に説明する。

それを聞いた俺を含めた全員が、途端に緊張の糸が切れたようになって口々に喋り始めるが、殆どが誰が内通者だったのかという点に集中する。

「一体、誰が内通者だったんだ?」

と海兵隊遠征隊の1人がマイクに質問するが

「それは、俺だってわからねぇよ。とにかく、エイブラハム・リンカーンへ戻ってからじゃなきゃ」

とマイクが答える。

しかし、機内に居るスティーブや海兵隊遠征隊の連中は納得できなかったようで、未だに色々と言い出している。

だが、冷静に考えれば艦長や海兵隊遠征隊のチームリーダー、そしてマイクが内通者を突き止めているならば、こんな手の込んだような事をする理由がない。第一、もし内通者の検討がついているなら最初から艦長の権限で、その人物を拘束し艦内の懲罰房で監禁すれば済む話で、その後は本国へ強制送還して軍法会議へ出廷させるだけである。

生死の遣り取りがなくなったことで緊張の糸が切れたものの、肝心の情報内通者が誰なのか分からない状態でCH‐53シースタリオンは、原子力空母エイブラハム・リンカーンの飛行甲板へ着陸すると、搭乗していた海兵隊遠征隊のメンバーは一斉にブリッジへ向けて走り出すが、海兵隊遠征隊チームのリーダーが先頭に立って両手を広げブリッジへ向かうメンバーを制し

「仲間が負傷するような事態となったから、内通者が誰かと知りたい気持ちは分かるが、決して取り乱して海兵隊の名誉を傷つけるような真似だけは決してするな、そんな事をしても負傷した仲間は決して喜ばないことだけは忘れるなッ」

と言って多少とも血気に逸るメンバーに忠告をする。

正直に言えば俺達も内通者については正体を知りたいところだが、海兵隊遠征隊のメンバーと一緒になってブリッジに雪崩れ込んでも状況が混乱するだけで、終いには艦長から艦内の規律を保持するという名目で全員が懲罰房へ軟禁されることになってしまう。

少なくとも俺達3人は、逸る気持ちを抑えて騒ぎが収まるのを待つことにして、割り当てられた部屋へ戻ることにした。

部屋へ戻って1時間以上は経過した頃になってマイクが

「そろそろ、ブリッジへ行って艦長か副長にでも状況を教えて貰いに行こうか?」

と言って俺とスティーブを誘ってくる。

全く状況を把握できていない俺とスティーブは、内心面白くはないので黙って頷いてマイクと一緒にブリッジへと向かう。

ブリッジ1階司令部のドアの前でマイクがノックして

「マイク准尉以下2名入ります」

と言ってドアを開くと司令部内には艦長と副長、それに数人の下士官が規律保持のために控えていて入室してくる俺達へ一斉に視線を向けてくる。

「失礼します」

と俺達は言って司令部へ入室してドアを閉めると艦長と副長に敬礼する。

それを見た艦長が僅かに微笑むと

「諸君等も当然、内通者について知りたいだろうな。特に、マイク准尉は君が怪しんだ人物だったか確かめたい思いもあるだろうし」

そう言うと艦長が佇んでいるテーブルの空いている箇所を指し示す。

艦長が指し示す場所へ向かうと

「マイク准尉、確かに君が睨んだ通り内通者はベンジャミン二等兵だったよ」

艦長は静かな声で語った後、首をうな垂れて下を向く。

マイクは艦長を見詰めたまま黙っていたが、艦長の言葉を聞いた俺とスティーブには艦長の声が静かであった分、信じられない程の驚きがあったが

「マイク、何時からベンジャミンを怪しいと思ったんだ?」

スティーブが艦長にではなくマイクに質問する。

「いや、昨日の夜に部屋で3人だけの時に、俺が艦内で掴んだ情報を幾らで提供しているのかって聞いただろう。あの時は2人とも答えなかったが、その後も頭の中で考えているうちに、今朝になって目が覚めると気が付いたんだ。情報を提供した先がイスラム武装組織だとしたら大した金額を支払うことはないと考えれば、情報を売った奴は相当金に困っている可能性があり、しかも艦内で情報を入手するには上官くらいしか入らない部屋の前で立ち聞きしたり、最もらしい口実で部屋の中に入らない限り情報を入手することはできない筈だと、そうなれば上官達から色々と用事を言い付けられて動き回っている人間ならば、誰一人としてそいつを怪しむ人間なんていないだろうし、仮に目に付いたとしても艦長や副長から何か用事を言われてるんだろうくらいにしか思わないだろう」

と少し寂し気な苦笑いを浮かべて答える。

「しかし、最初の襲撃は司令部の金庫に入っていたじゃないか?」

スティーブが最もな質問をすると

「確かに、最初の襲撃はペーパーに書かれたメモで金庫に入っていたが、何も今回だけに限って情報を漏洩したのではなかったとしたらどうなる?これまでに金庫を開錠するためのナンバーを偶然にも知ることができたとしたら、開錠するのは難しいことじゃない」

マイクはポツリと答えて俯く。

確かに今回の情報漏洩が初めてじゃないとすれば、そして何等かの偶然で金庫の開錠ナンバーを知ることになって情報提供をして何処からか金を得ていたとすれば、金庫の中にある機密情報を入手するのは困難な事ではないし、仮に司令部内に居るところを誰かに見付かったとしても、艦長か副長からの命令で資料等を取りに来たとでも言えば、それ以上のことを詮索するような人物がいるわけがない。

「今朝、思い付いた時は間違いであって欲しいとは思っていたが、今回のミッションは未だ終わっていないのに情報を漏洩した内通者を発見しないことには敵に返り討ちにあって味方が次々と殺されることになる。だから、敢えて艦長に伝えたんだが、奴が確かに内通者である確証を掴まないことにはミッションの遂行が妨げれられるので、海兵隊遠征隊のチームリーダーを呼んでもらって一芝居打つことにしたんだ」

マイクが力無さ気に言うと口を閉じてしまった。そもそも、マイクも散々苦労を重ねてデルタ・フォースに転属した苦労人なので、未だ若く苦労しているベンジャミン二等兵が内通者でないことを願っていたのかもしれない。

そのマイクの様子を見ていた艦長が

「私も今朝、マイク准尉からベンジャミン二等兵が内通者じゃないかと言われた時には、流石に半信半疑だったが疑った理由を聞いているうちに可能性があると思えてきて、マイク准尉から提案された偽の出撃を採用してベンジャミン二等兵の行動を監視していたんだが、諸君等がCH‐53シースタリオンで出発する時に彼は飛行甲板下の格納庫から航空機を飛行甲板へ持ち上げる物資エレベーターの隙間からレーザーポインターを使って、イラン側へモールス信号を送っていたのを警備兵が発見したので現行犯として身柄を拘束したんだ」

とベンジャミン二等兵の身柄拘束までを説明してくれる。

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