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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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空母エイブラハム・リンカーンの艦長による事情聴取が終わり、俺達3人は割り当てられた部屋へ戻って各自のベッドに横になるが、事情聴取によって俺達が情報漏洩元という疑いについて完全に晴れたわけではないものの、かと言って疑いが濃くなったわけでもなく何とも中途半端な状態となってしまっている。

しかし、司令部に居合わせた全員の認識としては今後のミッションを円滑に遂行するためには、何処から情報が漏洩したのかと誰が敵に情報を提供したのかを突き止めなければいけないという点で一致したところで散会となった。

何れにしても、この原子力空母エイブラハム・リンカーン内でしか情報を得る機会はないだろうし、キャッチした情報を如何なる手段で敵へ伝えたのか疑問は深まるばかりになるが、情報漏洩を行った犯人が艦内にいるのは間違いない。

そして、その思いは部屋の中にいるマイクやスティーブも同じようなことを考えていたのか、突然マイクがベッドから起き上がり

「なぁ、機密情報を艦内で入手したとして、それを幾らで売っていると思う?」

とマイクが唐突に口にする。

マイクから、そう聞かれても検討もつかないが情報を売った先はイスラム武装組織であることは間違いないとして、国家規模の財政力を有しているとは思えない反政府組織が如何ほどの情報料を支払ってくれているのだろうか?

大体、情報を敵に漏らした段階で軍法会議の対象となるばかりか、スパイ防止法違反となって刑事訴追の対象になり、軍籍を剥奪された挙句に禁固刑で10年以上は刑務所暮らしになるのは目に見えている。

そんなリスクを犯してまで情報内通者は、決して高額とは思えない情報料を得ているのだとすれば、相当に金銭的な窮状を抱えている人物ということにはなる。

俺とスティーブが何気にマイクが口にした疑問の答えに窮していると

「何れにしても、この原子力空母エイブラハム・リンカーンに乗船している人間以外にはいないんだから、何れは判明すんだろうなぁ」

とマイクが再び独り言のように呟く。

そのマイクの言葉が発せられた後、部屋には何とも言えない重たい空気に包まれて3人とも口を開くことなく、悶々とした状態で何時しか眠りに落ちていった。


翌朝、何処となく釈然としないままで3人揃って朝食を摂った後、部屋に戻ると突然マイクが

「ちょっと思い出した事があるから、艦長の所へ行ってくるわ」

と言い残して部屋を出て行く。

マイクが「ちょっと」と言って部屋を出て行ったので、暫くすれば戻ってくるものと思っていたが、実際に部屋へマイクが戻ってきたのは昼近くであった。

流石に「ちょっと」というには結構な時間が掛かったので俺とスティーブが

「一体どうした?ちょっとと言った割には結構な時間が掛かっていたが」

とマイクに聞く、するとマイクは苦笑いのような表情を浮かべ蟀谷の辺りを掻きながら

「いやぁ、目が覚めた時に思い出した事があったんで、取り合えず艦長に伝えておこうかと思って話したら、予想外に大事になってしまって面食らっちまったよ。終いには海兵隊遠征隊チームのリーダーまで呼び出しになって驚いた」

と大げさなジャスチャーを交えてマイクが説明する。

しかし、マイクが何を思い出して艦長に伝えた結果として、大事にまで発展したのか一向に埒が明かないので

「マイク、一体何を思い出したんだ?」

と俺がマイクに詰め寄る。

「何って、そりゃ昨晩の出撃で輸送用ヘリコプターに乗り込む際に、飛行甲板の下からイランの陸側へレーザーのような赤い光が一瞬だが見えたってだけの話だよ」

とマイクが平然と答える。

それを聞いていたスティーブは

「えっ、そんなの見えましたっけ?」

と疑問を投げ掛けるがマイクは

「だから、一瞬だよ。それに、スティーブにしたって出撃前で緊張していた時だろうから、一瞬の赤い光線なんて気にも留めていないんだろう?」

とマイクはスティーブの指摘に反論する。

前夜の出撃前でCH‐53シースタリオンに乗り込む段階では、確かに俺にしても緊張感というか一種の高揚感があったのは事実で、出撃に直接関係があるとは思えない出来事に注意を払ってはいられなかったかもしれない。

それに、一緒にCH‐53シースタリオンへ搭乗した海兵隊遠征隊のチームリーダーも、その場に居合わせていたので艦長が確認のために海兵隊遠征隊のチームリーダーを呼び出したという話にも合点がいかないわけじゃない。

こうして3人での会話は一旦纏まったところで

「そろそろ、昼飯を食いに行こうぜぇ」

とマイクが言い出して部屋のドアを開けに行く。

当然、俺とスティーブも腹が減っているのでマイクの言葉に依存等あるわけもなく、マイクに続いて部屋のドアへ向かい食堂へ移動する。

食堂は大半の乗員が昼食を終えた頃なのか、室内には疎らにしか食事をしている者しか居ないので、お陰で俺達3人は余裕のある空間でゆっくりと食事ができる。

食事中は、部屋での会話について一応の決着がついているのと、未だ食堂に食事をしている他の乗員も居る手前、敢えて部屋での話を話題にもすることなく食べていると

「お食事中のところ、誠にすみませんが艦長がマイク准尉に艦長室へ来るようにとの伝言であります」

とベンジャミン二等兵が直立不動で敬礼をして告げてくる。

それを聞いたマイクは

「おいおい、未だ昼飯も終わってねぇのに」

とウンザリとした表情を浮かべて、皿に残っていたソーセージを右手で掴むと口の中へ放り込んで席を立つ。

マイクの皿に残っていたのが食い掛けではなかったソーセージだったので、未だ口の中で咀嚼しているマイクに向かって

「何なら俺が変わりに艦長室へ行ってやろうか?」

と声を掛けてやる。

マイクはソーセージで一杯の両頬を膨らませながら

「いや、大丈夫だ。それに、ジョージだって未だ喰い終わっちゃいないだろう」

と言ってテーブルを離れて食堂から艦長室へ向かって歩き出していくが、側に直立不動で控えていたベンジャミン二等兵には、一緒に来なくても大丈夫だとジェスチャーで示すので、ベンジャミン二等兵は手持ち無沙汰な感じとなっている。

残された俺とスティーブは、それでも急いで昼食を済ませて割り当てられている部屋へ戻ることにした。

俺とスティーブが部屋に戻って、艦長に呼ばれたマイクを待っていると血相を変えたマイクがドアを開けて入ってくきて

「やはり、昨夜の襲撃で完全に保管されている全爆弾ドローンの破壊が成功していなっかたようで、再度だが今夜20時00分に海兵隊遠征隊チームの後方支援として出撃となったぞぉ」

と言ってくる。

やはり、海兵隊遠征隊のリーダーが言っていた事は充分な確認が取れていなかったのだろう。

しかし、情報漏洩については未だに犯人を突き止めていない状況なので、その対策を施さないうちに出撃しても大丈夫なのだろうか。

確かに、昨夜の作戦が失敗したばかりなので、敵の方にしても俺達が直ぐに攻撃してこないだろうと油断してないわけではないと思うが、内通者から今夜の出撃情報を漏らされたのでは前回と同様に対策を施されて、昨夜以上の被害を被る事態になりそうな気がする。

その辺が気になってマイクに問い掛けると

「その点は気になるところだそうだが、何よりも敵が保有している爆弾ドローンの排除を行わないと、昨夜の襲撃に対する報復攻撃をホルムズ海峡を航行している船舶に実施される方がマズいということらしい。ただし、今回のミッションでは俺達以外に追加の後方支援としてAH‐1Zヴァイパー攻撃ヘリコプター2機も参加させるそうだ」

マイクが説明してくれる。

マイクの説明を聞いても完全に納得できているわけではないが、投入予定の火力から判断する限りでは昨夜の状況よりも戦力として整えられているので、昨夜のような事態になったとしても多少はマシな対応が出来そうではある。

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