160
襲撃に出たのが、逆に反撃を受けて負傷者が出たものの死者を出すことなく原子力空母エイブラハム・リンカーンへ帰還すると、海兵隊遠征隊のリーダーは直ぐに艦長室へ呼び出されたようで、CH‐53シースタリオンが着艦すると隣にいる部下に負傷者のサポートを頼んで真っ直ぐにブリッジへ向かって行く。
俺達3人は、CH‐53シースタリオンから降りると割り当てられた部屋へ直行してバックパックや銃器は、空席となって使用する者がいないベッドへ纏めて置いて各自のベッドで着替えを始める。
3人が着替えを終えてベッドへ仰向けとなって横になろうとした瞬間、部屋のドアがノックされるのでマイクが半ば気の抜けたような声で
「開いているから、入っても良いぞぉ」
と声を掛ける。
すると、ドアが勢い良く開いてベンジャミン二等兵が
「お疲れのところ申し訳ありませんが、艦長がブリッジの司令部へ3人とも来るようにとの伝言であります」
と敬礼した直立不動の姿勢を保って言ってくる。
それを聞いたマイクは
「分かった、今すぐに向かう」
と言ってベッドから起き上がる。
当然、俺とスティーブもベッドから起き上がって部屋のドアへ向かう。
廊下に出るとベンジャミン二等兵は、俺達3人を司令部へ案内しようと控えているが、既に一度は案内されている司令部なのでルートを覚えていることもあり
「大丈夫だよ、前に案内されて道順は覚えているから3人で間違いなく司令部へ赴く」
と笑顔でマイクがベンジャミン二等兵へ言う。
「しかし、艦長から3人をお連れしろと命令されておりますので」
戸惑いながらベンジャミン二等兵が答えるが
「本当に大丈夫だよ、お前さんだって他の用事が色々とあるんだろう?だったら、そちらの用事を片付けに行ってこいよ」
マイクが笑顔を見せてベンジャミン二等兵の右肩を軽くポンポンと叩くと
「では、お言葉に甘えて失礼します」
と再び直立不動で敬礼をすると踵を返す。
立ち去るベンジャミン二等兵の後ろ姿を見送りながら
「やれやれ、艦長から何を聞かれるのやら」
と笑顔から戸惑いの表情に変ったマイクが、俺とスティーブへ視線を向けてくる。
確かに、今回のミッションは明らかに失敗したのは間違いなく、海兵隊遠征隊のリーダーが保管されていた爆弾ドローンの破壊には成功したと強がっていたが、それとて如何なる確認をしたうえでの話なのか疑問が残ることにはなるが、その点について艦長から聴取されたとしても実際に現場近くには居なかった俺達には答えられる材料がない。
そのため俺とスティーブは、マイクからの問い掛けに両肩を竦めて見せる以外の答えがなく、3人揃って首を傾げながら艦橋下部にある司令部へ向かう。
司令部のドアの前に到着するとマイクがドアをノックしながら
「マイク准尉以下2名、司令部に入ります」
と比較的大きな声で言う。
司令部内からの返事となる声が聞こえてこない代わりに、突然ドアが開いて副長のチャーリー中佐が現れて
「艦長が待っていますので、直ぐに入ってください」
と深刻な表情を浮かべて俺達3人を招き入れる。
司令部の室内では作戦等を打合せするためのテーブルに、艦長と海兵隊遠征隊のリーダー2人も厳しく深刻そうな表情で立っている。
司令部に入室して直ぐに、俺達3人が艦長に対して敬礼をしていると
「ご苦労、早速だが諸君等からも話を聞きたくて呼び出したんだが、余り離れていては話もできないから、こちらへ来たまえ」
僅かに微笑んだ艦長が、テーブルの空いているスペースを指差す。
艦長の示したスペースに俺達が近寄ると
「諸君等も今夜のミッションは失敗だったというのは、恐らく共通認識だと思うが問題は敵が恰も襲撃してくるのを何時の時点で知っていたのかということになる。諸君等には副長から出撃直前に今夜の襲撃について説明を受けてもらったが、そもそも今夜の襲撃に関する情報は機密扱いとしていたので外部に漏れる可能性がないよう細心の注意を払っていたのだが、今夜の襲撃を実行したチームのリーダーであるマッケイン准尉の話では明らかに敵は事前に海兵隊チームが襲撃してくるのを察知していただけでなく、暗視ゴーグルを着用していることも分かったうえで目くらましの閃光弾を起爆させたようだ。そこで、諸君等に聞きたいのはチャーリー副長から今夜の出撃情報を聞いてから輸送用ヘリコプターに乗り込までの間の行動を教えてもらいたい。ただ、決して諸君等を内通者として疑っているのではなく諸君等の行動のなかで、情報が漏れた可能性を探る検討に資するためだ」
と艦長が説明してくる。
確かに今夜の出撃は贔屓目に見ても明らかな失敗と言え、しかも数人の海兵隊遠征隊のメンバーまでが負傷したことを踏まえれば、今回の作戦遂行に関する現場責任者である艦長としても原因究明という名の基に、出撃情報をリークした犯人捜しをしないわけにもいかないということなのだろう。
そこで一番に情報の出所として疑われたのが、俺達3人からの情報流出というわけだ。
仕方のないことだとは思うが、こうして改めて疑われているのだと思うと正直なところ不愉快な感じは拭えない。
しかし、マイクは感情を一切表には出さずに
「自分達3人は、チャーリー副長から出撃の情報を聞いた後は、直ぐに食堂へ向かい早目の夕食を摂っておりました。夕食を摂り終えた後は、3人で部屋へ戻って出撃の準備をしてから真っ直ぐに飛行甲板へ向かっております」
と神妙な顔付きをして艦長の疑問に答える。
そのマイクの答えを聞いた艦長は
「食堂で夕食を摂っている際に、大声で出撃に関する話をしてはいなかったのか?」
と聞いてくるので
「いえ、食事中に3人で出撃に関する話はしておりません。ただし、早い時間に食堂へ入ったものですから、食堂の調理長から聞かれたので夜の出動があるので早めに夕食を摂りたいといった旨を伝えはしました」
と引き続きマイクが答える。
それを聞いた艦長が
「もし、情報が漏れたとしたら食堂での遣り取りか」
と言葉を漏らすが、だが空母であれば夜間飛行訓練等があるのだから夜の出動という言葉だけで、海兵隊遠征隊の出撃が想像できるとは到底思えない。
それは、独り言のように言葉を漏らした艦長も気付いたようで
「マイク准尉から聞いた話くらいでは、今夜の出撃情報が漏れたとまでは言えんなぁ」
と再び独り言を漏らす。
そこへ海兵隊遠征隊のリーダーが
「我々もデルタの3人が夕食を終えた後、出撃する全員が食堂で夕食を摂りましたが、食事中は誰一人として出撃の話をしてはおりません」
と艦長に力説している。
それを耳にした艦長が苦笑いを浮かべて
「スミス准尉の部下を思いやる気持ちも分からないわけではないが、私が問題にしているのは何処から情報が漏れたのかということで、情報を漏らした犯人捜しをしているわけではないから、そのつもりでいたまえ」
とリーダーであるスミス准尉を戒める。
艦長から戒められたスミス准尉は、自らが率いているチームに犯人が居ないことを力説し過ぎたことに気が付いたのか、先程よりは大人しくなって口を慎んだ。
確かに、艦長が疑っている通りに今回の襲撃に対する敵の反応は余りにもタイミングが良過ぎるし、使用した閃光弾をセレクトしたのも都合が良過ぎており偶然として片付けるには少々出来過ぎて、余程事前に情報が入手できなければ出来ない反撃と言える。
その点を踏まえて、今後の作戦遂行を順調に行うためには情報の漏えい原因を突き止めて対策を施しておかなければ、本国で臨んでいる戦果を得ることは難しくなるだけでなく、今後の中東地域における各種の作戦を遂行するうえでも大きな支障となることは間違いない。
何れにしても艦長は犯人捜しを否定はしていたが、結局的には敵の内通者となっている犯人を捜していることには違いない。




