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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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艦長室を退出すると、廊下で副長のチャーリー中佐が待っており今度は俺達が滞在する部屋まで案内してくれる。

しかし、相変わらずチャーリー副長の歩く速度が速いのと艦長室から離れると廊下を往来する人が増えてくるので、意識して早歩きで追い掛けないとチャーリー副長の姿を見失ってしまいそうになる。

俺達3人は、何とかチャーリー副長を見失うことなく俺達に割り振られた部屋にまで辿り着くと、部屋の前には水兵の制服を着た二十歳前後の若い黒人男性が1人立っている。

チャーリー副長が黒人の水兵を目にすると

「ここが割り当てた部屋になります。詳しいことは、ベンジャミン二等兵に聞いてください。それでは、私は本来の職務に戻りますので」

とチャーリー副長が言って、足早に立ち去る。

チャーリー副長から紹介されたベンジャミン二等兵は俺達に敬礼しながら

「それでは部屋の中を案内いたします」

と言って部屋の中へ入って行くので、俺達3人も後に続くが正直なところ過去に従事したミッションで海軍の艦船には何度も乗船したことがあるので、改めて部屋の案内をされなくても概ねのことは分かるのだが、それでは俺達への説明役を仰せつかっているベンジャミン二等兵の立場がなくなってしまうだろうから、3人で大人しく説明を聞いている。

一生懸命に説明をしてくれるベンジャミン二等兵が、凡その説明を終えたところで

「ところで、シーツ等の洗濯物は何処に出せば良いのかと新しい替えのシーツは何処に置かれているのかを教えてもらえないか?あと、個人の洗濯物を洗うランドリーは何処で、何曜日の何時から何時まで利用できるのかを教えて欲しい」

とマイクが質問する。

正直に言えばマイクが質問した内容さえ分かれば充分であり、それ以外の事は艦長が言っていた2カ月間も戦闘状態が継続するようなら、都度近くにいる人間に聞けば充分だと言えるし、2カ月近くも艦内での生活を送るようになれば自然と分かるようにもなる。

ただ、俺達の案内係となったベンジャミン二等兵は若いだけあって真面目なのか細かく答えてくれているので、俺達も真面目な顔をして付き合ってやる。

一通りの説明を聞いた後にマイクが笑顔を見せて

「ありがとう、本当に良く分かったよ。最後に1つだけ教えて欲しいことがあるんだが」

と頭を掻きながら言う。

真面目なベンジャミン二等兵は直立不動の姿勢で敬礼しながら

「はい、何でありましょうか?自分が分かる事でしたらお答えしたします」

と勢い良く聞いてくるので流石のマイクも彼の勢いに圧倒されながらも

「いや、そんなに大層な事じゃないんだが、この部屋から艦の食堂へ最も短時間で行けるルートがあれば教えて欲しいと思ったんだよ」

とマイクは笑顔を絶やすことなくベンジャミンに言う。

その途端、緊張によるものと思うのだがガチガチ状態だったベンジャミン二等兵の表情も緩んだ表情に変わって、廊下に出て食堂までの近道と思われるルートを詳細に説明してくれる。

マイクは、その説明を真面目な表情で聞きながら所々で、階段の位置と上り下りの順番を確認しながら頷いている。

こうしてベンジャミン二等兵から必要な艦内の説明を聞いて礼を述べると、再び緊張したような表情と態度となって挨拶と何か不都合な事があった場合に聞いて欲しいと告げて部屋を出て行った。

割り当てられた部屋は、4人用となっているが充分な広さがあるとは到底思えず、その辺はハミル艦長が言っていた通りなのだが幸いなのは4人用の部屋を3人で使うことになるので、1人分のスペースだけ余裕があるため空いているベッドに3人のメインアームが収納されている強化樹脂製ケースやバックパックを置いて置くのに使い、お陰で各自が使用するベッド周りは比較的スッキリとした空間が確保できて落ち着けそうな雰囲気となった。

俺達3人は、各自のベッドに仰向けになって休息していると部屋のドアがノックされるのでマイクが返事をすると、先程まで緊張しながら艦内の説明をしてくれたベンジャミン二等兵が再びドアを開けて

「失礼します。お休み中のところ恐縮ですが、チャーリー副長がブリッジの司令部まで御足労願いたいとのことであります」

と相変わらず緊張した態度で敬礼しながら伝言してくる。

この原子力空母エイブラハム・リンカーンのブリッジは3層構造となっており、最下部が司令部で、その上に航海艦橋のセクションがあって、最上部が飛行甲板を離発着する航空機の発着管制室となっている。

ベンジャミン二等兵に案内されてブリッジの司令部へ赴くとチャーリー副長が

「待っていました。すみませんが、ドアを閉めてもらえますか」

と神妙な顔付きで言ってくる。

最後に司令部へ入室したスティーブが後ろ手でドアを閉めると

「海兵隊遠征隊の出撃内容については基本的に極秘事項となっていますので、艦内の人間であっても内容が漏れて外部へ流出させる可能性もありますから3人も充分に注意してください」

小声で言って、背後の壁にある小さな扉のダイヤル錠を廻して蓋を開くと中からA4版の用紙を三つ折りしたくらいが入れられる白い封筒を取り出すと、1枚の紙片を抜き出して広げて俺達に中身を見せてくる。

「今も言った通り作戦内容は極見扱いとなりますので、このメモは3人であっても渡すことができません。この場で内容を見て覚えてください」

とチャーリー副長は言って、暫くメモを広げていたが数分も経過すると直ぐに折り畳んで封筒へ折り畳んだメモを入れると、最初に取り出した金庫タイプの戸棚に仕舞いダイヤル錠を出鱈目に回しから、俺達の方へ振り返って

「見た通り、海兵隊遠征隊の第一段出撃は今夜9時に本艦を出発することになりますので、3人も間に合うように準備をしておいてください」

と言うので俺達も黙って頷いてから静かに司令部を退出する。

割り当てられた部屋へ戻る途中で、マイクが普段通りの調子で

「少し時間が早いが、今のうちに食堂へ寄って夕食を食べちまおうぜぇ」

と早目の夕食を摂ることを提案してくる。

確かに、これから出撃するであろう海兵隊遠征隊の連中も夕食を摂りに来れば、唯でさえミニマムな空間でしか設計されていないことで、艦内の各所が狭くなっているのと同様に圧迫感に包まれた食堂で食事を摂るよりも、多少でもユッタリとした空間で食事が摂れた方が精神的にも気楽に食べられ消化にも良さそうだ。

俺とスティーブも、マイクの提案に異存はなかったので一緒に食堂へ向かった。

食堂に着いてみると、時刻が5時前という事もあり閑散として食事をしている者は誰一人としていない。

提案者のマイクは、閑散としている雰囲気等には全くお構いなしに食堂内へ入室して行くと、厨房で料理の仕込みや調理の最中で慌ただしく働いている隊員達は一斉に入室してきたマイクへ「決められている食事時間でもないのに何しに来た」といった怪訝そうな表情を見せて睨んでくる。

そんな雰囲気も、まるで気にする事なく厨房のカウンターへ近付いたマイクは

「今夜、作戦行動が予定されているんで今のうちに夕食を摂りたいんだが」

と厨房内に声を掛ける。

すると、厨房内でリーダーらしい黒人男性が

「おたく達、名前は?」

と聞いてくるのでマイクが俺とスティーブを含めた名前を告げる。

それを聞いた個人男性は頷きながら、厨房室内の壁に設置している艦内電話の受話器を取り上げて何処かへ電話をしている。

暫く、電話で遣り取りをして受話器を壁のフックに戻すと

「デルタ・チームの3人だな、確認できたから夕飯を食っていっても良いぞぉ」

大きな声で言うと、マイクが持っているトレーに給仕係が料理を盛り付けた皿を置いてくれ、その後に続くスティーブや俺のトレーにも皿に盛り付けた料理を載せてくれ、その後は小皿に載せたパンや飲み物等がトレーに置かれていく。

ただし、当然なのだが出撃前ということもありビールであってもアルコールの提供はされない。

通常ならば夕食でビールを飲みながら食事を摂るマイクであっても、出撃前の食事にビールが提供されないことに対しては一切文句をつけることはない。確かに、ビールくらいの低アルコール飲料くらいならばラージサイズのビールジョッキで4杯以上も飲めば確実に酔っぱらってしまうが、500ミリリットルくらいの量であれば酔いによって判断力が低下するような事態にはならないとしても、直前に飲酒をしたことで判断力が鈍るようなことになっては、自分だけではなく味方である仲間さえ危険に巻き込む可能性があるので、その点に関しては楽天家のマイクであっても分別は充分に持っている。

狭いと言ってもエイブラハム・リンカーンに乗船している大勢が食事を行う食堂で、俺達3人だけが食事をしているので全くと言って良い程に狭さを感じずに食事が摂れたのだが、3人共が食事を終える頃になると一緒に出撃する海兵隊遠征隊の連中が食堂に来て、入れ違いとなるが俺達3人が席を立つ際も目で挨拶する程度で何等かの会話をすることはない。

迷子になることなく割り当てられた部屋に戻った俺達は、そろそろ出撃のための準備を始める。

ただ、厄介なのがマイクやスティーブが使用するメインアームにはゼロインを行ったスコープの前に暗視用のカメラを取り付けることが可能になっており、事実2人の強化樹脂製ケースの中には暗視用カメラが用意されているが、俺が使用するカスタムボルトアクション・ライフル銃にはゼロインを行ったスコープに暗視カメラ等を取り付けられるようにはなっていないので、今夜の出撃に携行してはいくものの精度の高い狙撃には使用できない。

夜間であっても決してスコープが使えぬわけではないが、昼間と違って光量が不足するので倍率を上げてしまうと極端に解像度が悪くなり、精度の高い狙撃を要求されたとしても確実な照準が行えない。

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