154
100メートル先のスチールターゲットに近寄って見ると、白い塗装が剥がれている3発の弾痕跡は1インチ以内に密集しており、何発目の着弾なのかは定かではないものの1発は確実に狙っていた狙点に着弾している。たった3発だけの試射ではあるのだが、この着弾状況であればスコープのゼロインが完了したとを確信しても良さそうである。
少しは安堵できる状態となった俺は、改めてゼロイン作業を始めているマイクとスティーブへ視線を送ると、マイクに支給された銃器は7.62×51ミリメートルNATO弾薬を使用するSCAR‐17Hアサルトライフル銃にショートスコープとバイポッドが装着されているメインアームで、スティーブの方はマイクと同じ弾薬を使用するSR‐25ライフル銃に専用のスコープとバイポッドが装着されているメインアームのようだ。
マイクは、スティーブがレーザーボアサイタ-でのゼロインが済むのを待っているようでSCAR‐17Hアサルトライフル銃のバイポッドを立てて木製テーブルにマズルをスチールターゲット方向にして置き、ボックスマガジンに7.62×51ミリメートルNATO弾薬を装填しながらスティーブの作業状況を見守っている。
一方のスティーブは、レーザーボアサイタ-でのゼロイン調整作業が完了したようでチャージング・ハンドを後方へ引き、チャンバーからレーザーボアサイタ-を取り出している。
SR25アサルトライフル銃のエジェクション・ポートから弾き出されたレーザーボアサイタ-は、スティーブがチャージング・ハンドを引く際に力を加減して優しく後方へ引いていたので、エジェクション・ポートから勢い良く弾き出されるというよりも頼りない感じで木製テーブルに落ちて「ゴトッ」という音を立てている。
木製テーブルの上に落ちたレーザーボアサイタ-を拾ったスティーブは、隣の射座で待っているマイクへ渡すと、直ぐに自分の射座へ戻って空のマガジンに7.62×51ミリメートルNATO弾薬を数発装填し始める。
それを見た俺は、スチールターゲットから離れて射座へ戻ってボルトを後退させたままの状態にしているカスタム・ライフル銃からボックスマガジンを外して、後退しているボルトを前進させてボルト・ハンドを元の位置へ戻す。
その後立てていたバイポッドの脚を前方へ倒して、スコープの対物レンズと接眼レンズに着けられているプラスチック製の保護キャップを嵌めてからカスタム・ライフル銃を強化樹脂製ケースへ仕舞う。
更に、木製テーブルに出していた6.5クリードモア弾薬が入った箱をバックパックへ詰め込んでから、射撃レンジに居る指導教官の詰め所へ向かい白色ペンキのスプレー缶を借りに行く。
指導教官から白色ペンキのスプレー缶を借りて射座に戻って来ると、スティーブは小気味よいテンポで3発を連射している。
何と言ってもスティーブが使用しているSR‐25アサルトライフル銃は、セミオートマチックなので俺が支給されたボルトアクション・ライフル銃よりも当然に速射性能は各段に上となり、この3連射の結果を視認したスティーブ自身が納得できたのならSR‐25アサルトライフル銃のゼロインも完了したことになり、残るはマイクのSCAR‐Hアサルトライフル銃に装着しているショートスコープのゼロインだけとなる。
マイクは、SR‐25アサルトライフル銃のチャンバーにレーザーボアサイタ-を使ってショートスコープのレティクル修正を行う為に、エレベーション・ダイヤルとヴィンテージ・ダイヤルを弄って調整している。
その間に、スティーブが試射結果を確かめるためにスチールターゲットへ向かうと叫んだので、俺は白色ペンキのスプレー缶を持って自分のスチールターゲットへ向かい、6.5クリードモア弾が着弾したことで白色の塗装が剥げてしまったスチールターゲットへスプレー缶から白色ペンキを吹き付けて補修する。
金属の地が見えてしまった着弾跡の補修を終えたところで、隣でスチールターゲットの着弾跡をチェックしていたスティーブに
「試射してみた結果はどうだった?」
と聞いてみる。
「まぁ、こんなもんですかねぇ」
と満更でもないような表情で答えてくる。
俺は、スティーブに近寄ってスティーブが試射した着弾痕が残っているスチールターゲットを覗いて見るが、3発の着弾痕は確実に1インチ以内に纏まっているように感じる。この程度に着弾が纏まっているのであれば、スティーブが使用するスコープもゼロインが完了したと判断できるので
「このグルーピングなら充分にゼロインができた判断できそうだが、更に試射してみるのかい?」
とスティーブに確認する。
「ジョージさんも見て、そう判断するのなら追加の試射をしなくても大丈夫でしょう。右手に持っているスプレー缶を寄越してもらえるなら、スチールターゲットの補修は自分でやりますよ」
そう言ってスティーブは、俺から白色ペンキのスプレー缶を受け取ると自らが使用したスチールターゲットにスプレー缶から白色ペンキを噴霧する。スティーブが使用したスチールターゲットの補修作業も終えようとした頃に
「今から、試射を行うぞぉ」
というマイクの大声が聞こえてくるので、俺とスティーブは慌てて射座へ引き返す。
スティーブがレーザーボアサイタ-でゼロイン作業をしている間に、マガジンへ7.62×51ミリメートルNATO弾薬の装填を終えていたマイクは、直ぐにマガジンをSCAR‐Hアサルトライフル銃に叩き込んでチャージング・ハンドを勢い良く後方へ引きマガジン最上部の弾薬をチャンバーへ送り込んでから、セレクターレバーを「SAFE」から「SEMI」の位置へ移動させるとスティーブよりも早いテンポで3連射を行うと、ほぼ1発分の発砲音にしか聞こえなかった後に「ガンッ、ガンッ、ガンッ」とスチールターゲットに着弾した金属音が聞こえてくる。
その音を聞いたマイクは、直ぐにSCAR‐Hアサルトライフル銃のマガジン・キャッチボタンを押してマガジンを取り出すと、チャージング・ハンドを引いてチャンバーに残っている弾薬を弾き出し、エジェクション・ポートから飛び出した7.62×51ミリメートルNATO弾薬を拾いうとマガジンへ再び戻し、ショートスコープの対物レンズと接眼レンズに保護キャップを取り付けて片付けを始めている。
それを見ていたスティーブが
「マイク、試射した後の着弾状態を確認しなくても大丈夫なんですか?」
と不思議そうな顔をしてマイクに尋ねると
「片付けが終わったら確認するが、俺の場合はジョージやお前さんのように精密な狙撃を行うわけじゃないから、この射程距離でスチールターゲットにヒットするくらいの精度があれば充分で、3回もスチールターゲットにヒットした音が聞こえたんだから、俺が求めている精度が確保できると判断できたなら出発時間までの残りも少ないし、直ぐに次の行動に移らなければ間に合わなくなるだろう」
マイクは手を動かしながらスティーブの問いに答える。
確かに光学照準器を使っての射撃ならば高い精度での命中に拘るのは、決して悪いことじゃないし理想としては精度が良い状態で銃器を発砲したいと思うのは当然ではあるが、だからと言って必要以上に精度を追い求めてしまえば際限がなくなってしまい、調整や修正に時間を掛けた割には期待していた精度結果が得らないケースもある。
結局は、手にした銃器の使用目的に応じた目安としての精度があるので、必ずしも狙点に毎回命中するくらいの精度が必要とされるわけではない。
俺やスティーブの場合ならば、支給されている銃器の使用目的は狙撃という事になるので、ある程度狭い範囲へピンポイントで着弾することを求めることになるが、マイクが支給されているSCAR-Hアサルトライフル銃では中遠距離での使用を目的にはしておらず、ボルトアクション・ライフル銃等で狙撃を実行する際に敵と遭遇した場合での迎撃を主なる目的としているので、この100メートル射撃レンジで使用した半径3インチ(7.62センチメートル)の円形ターゲット内に着弾するようであるならば充分に必要する精度を確保していることになり、それ以上の精度を追及するような拘りは必要ない。
そんなマイクの説明に関心しているスティーブを余所に、俺はマイクが使用を終えたレーザーボアサイタ-を手にして
「それじゃ、俺は自分の荷物を持ってレーザーボアサイタ-を返却したら、輸送機の格納庫前へ直行する」
とマイクとスティーブに伝えて射撃レンジを出て備品管理係のカウンターへ向かい、貸し出してもらったレーザーボアサイタ-を返却しに行く。




