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デルタのスナイパー  作者: 二条路恭平


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遠征先へ出発する朝、比較的早く起床して遠征準備を始める。

何と言っても、午前10時に原子力空母エイブラハム・リンカーンへ向けて出発するというのでは、支給される装備品のうち銃器であるライフル銃等に装着されているスコープのゼロインを行う時間を確保して的確な照準ができるようにしなければ、いざミッションに従事しても敵を狙撃することすら実現できない。

それならば、せめて基地へ8時くらいに向かい備品管理係の担当官には嫌われるかもしれないが、直ぐにでも装備品の支給を受けて基地の射撃レンジでゼロインを実施しておきたい。

確かに、原子力空母エイブラハム・リンカーンに乗船していても各種のボアサイタ-を使って簡易的ではあるにせよゼロインが行えないこともないが、やはり簡易的なゼロインを行った後に実際の射撃によって着弾の状況をチェックしておかねば実践での使い物にはならない。

幾らテクノロジーが進歩したとしても、最終的に不確定要素の塊と言える人間が使う道具である以上、必ず使用する人間が実際に試してみないことには本当に信用できるレベルに調整できているのかを確認しなければ信頼して扱えない。

そのための時間を作るのは個人の責任において工面しなければならないので、少しくらい睡眠時間を削ったとしても銃器という道具が信頼して扱える状態にしてこそ、戦場において自らの命を守ることにも繋がる。

8時少し過ぎに備品管理係のカウンターへ赴くと、担当官は目を丸くして驚きの表情を見せて昨日中に用意された必要書類を差し出してくる。

その時、差し出された書類に記載されていなかったレーザーボアサイタ-が、借用できないかを尋ねると担当官は怪訝そうな表情を見せながら

「確かカツラギ准尉は、本日中に空母エイブラハム・リンカーンへ向かいますよねぇ、流石にレーザーボアサイタ-を遠征先まで持って行かれるのは困ります」

と言ってくる。

それを聞いた俺は

「それは俺の説明不足だったが、借用するレーザーボアサイタ-は至急される銃器に添装着されているスコープのゼロインを空母エイブラハム・リンカーンへ出発する前に、この基地の射撃レンジで使用するだけで必ず出発前には立ち寄って返却するから貸し出してくれないか?」

と担当官に懇願してみる。

俺の話を聞いた担当官は多少とも渋い顔付きのまま

「そう言うことなら貸し出さないこともありませんが、必ず出発前に返却してくださいよ」

と言って、俺が書類に受領サインを記載したのを確認すると、奥の部屋へ向かい装備品と一緒にレーザーボアサイタ-1個を持って来てくれた。

装備品とレーザーボアサイタ-を担当官から受け取った俺は

「ありがとう感謝する。出発前には必ず立ち寄ってレーザーボアサイタ-を間違いなく返却するから」

と言ってカウンターを離れて、急いで基地の射撃レンジへ向かう。

射撃レンジでは、指導教官が今日の射撃訓練に備えて、射撃レンジ内の清掃や着弾によって白い塗装の剥げたスチールターゲットに白いペンキのスプレー缶を使って補修作業をしている。

俺が射撃レンジの入り口から大声で指導教官に声を掛けると、驚いた表情を浮かべた指導教官が近付いて来て

「どうした?こんな朝っぱらから、貴様は10時00分にアラビア海で展開中の空母エイブラハム・リンカーンへ遠征するんじゃなかったのか?」

と聞いてくるので

「ええ、そうですが、そのタイム・スケジュールでは支給された装備品の銃器に装着されているスコープのゼロインを行う時間がないので、こうして早朝の射撃レンジに来たしだいです」

と敬礼をしながら指導教官に答える。

「そうか、そう言う事なら100メートルレンジを使え、あそこはスチールターゲットの補修を終えたばかりで白いペンキで再塗装しているから、ペーパーターゲットを使うよりも便利で時間が掛からんだろう」

と言ってくれる。

今日の射撃訓練に備えて、整備を終えたばかりのスチールターゲットに着弾位置を明示させるために白い塗装が剥がれてしまうのは多少とも心苦しいが、遠征先である空母エイブラハム・リンカーンへ向けての出発時間までの残り時間を考えると、手間を承知で100メートルレンジの使用を許してくれる指導教官には感謝するしかない。

俺は指導教官に

「ありがたく、使わせて頂きます」

と礼を言って100メートルレンジの射座へ向かう。

100メートルレンジの射座にある木製のテーブルに、ライフル銃が収納されている強化樹脂製のケースと支給された弾薬箱等を入れたバックパックを置いてから、強化樹脂製ケースを開くとボルトアクション・ライフル銃にスコープとバイポッドが装着された状態で収納されている。

ただし、そのモデルは今までに見た記憶がなく全体的にはレミントン700モデルに似ていなくもないが、バレルの長さは20インチ(約50.8センチメートル)を少し超えるくらいの長さで、ストックもマクミラン社製の強化樹脂で成形されているものが取り付けられ、スコープを覗く際に頬を載せるチークピースやトリガーから腕の付け根に当たるLOPレングス・オブ・プルはアジャスタブル仕様になっている。

また、装着されているスコープも見た事のないメーカーのモデルのようで、スコープ本体を見るとMarch‐FX 5‐42×56ミリメートルと記されている。

これまでに見たことのないカスタムのようなライフル銃ではあるが、基本的にボルトアクション・ライフル銃であることには変わりなく操作自体に大きく異なるような作りにはなっていない。

俺自身も、一刻も早く射撃レンジでゼロイン作業を始めたい一心であったために、備品管理係の担当官から支給させる装備品の説明を受けることなく飛び出してきたが、バックパックに突っ込んでいた弾薬箱にも記載されているのは、308ウィンチェスター弾薬や338ラプアマグナム弾薬ではなく当然に50BMG弾薬でもない6.5クリーモアと記載されている。

確かに、USSOCOM(アメリカ特殊作戦軍)では近年になって制式採用されているセミオートスナイパー・ライフル銃であるSR‐25ライフル銃のアッパーレシーバーのみを6.5クリードモア口径にコンバートしたとの情報は知っていたが、狙撃用のボルトアクション・ライフル銃の使用弾薬についても6.5クリードモア弾薬を新たに追加したほか、その弾薬を使用するボトルアクション・ライフル銃も準備したのかもしれない。

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