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午前10時となり、セルジオの除隊式が開始される時刻となる。
最初に、前回のミッション遂行時に名誉負傷となったセルジオに名誉勲章授与及び昇任式が執り行われる。
司会から名前を呼ばれたセルジオが、ひな壇に登壇すると名誉勲章が授与されたのに加えて昇任の辞令が交付され、晴れてセルジオは准尉に昇任して下士官となった。
今日で、軍隊を去るセルジオが下士官に任命されるのは知らない人間が耳にすれば、当然に違和感を感じるかもしれないが除隊前に昇任しているかどうかは、除隊した際に支給される退職金の算出根拠が除隊直前の基本給をベースとするので、今回の場合のように除隊直前であっても昇任して基本給が上がるかどうかは除隊者にとって大きな違いとなる。
辞令を受け取りセルジオは一旦ひな壇から降壇して席へ戻ると、司会が改めてセルジオ准尉の除隊式を挙行する旨をアナウンスする。
再び名前を呼ばれたセルジオがひな壇に登壇すると、フォートブラック基地の司令官が「アメリカ陸軍における任を解く」と言った除隊の辞令を読み上げてセルジオへ交付し、辞令を受領した時点でセルジオはアメリカ陸軍の軍籍から離れて一般市民となるのだ。
辞令を受領して振り返るセルジオの表情は、アメリカ陸軍の軍籍から離れる寂しさよりも何処か晴れやかな感じがする表情をしており、そんなセルジオがひな壇を降りて来る姿を目に焼き付けるように見詰めるが、隣の席に居るスティーブはセルジオがひな壇に登壇する頃から声を噛み殺して泣いているようで、しきりに手の甲で涙を拭っているようである。
本来なら小声で
「折角、五体満足な状態で除隊の日を迎えたんだから笑顔で送り出してやれ」
と叱咤激励するところだが、過酷なスナイパー課程を終えてデルタ・フォースのスナイパーとして配属されたばかりのスティーブの教育係を兼ねた相棒となったセルジオの除隊なので、除隊式が始まる前に忠告した以上の事は言わないことにした。
除隊式のセレモニーが全て終了してセルジオは花束を贈られて会場を退出するのを拍手で送り出す。この後、恐らくセルジオは司令官室へ案内されて暫し司令官との懇談を行ってから基地の車両で自宅まで送迎して貰えるはずだ。
式典が終了して会場を出た俺とマイク、それにスティーブは基地の車両で送迎されるセルジオを最後に見送るために基地の正面ゲートへ向かい、基地の車両に乗ったセルジオが現れるのを待つ。
正面ゲートに到着してスティーブの泣き顔がやっと晴れやかな笑顔に戻った頃に、徐行するようなスピードで正面ゲートに向かってくる車両を発見する。
少しずつ近付いてくる車両の後部座席に注目していると左側後部ドアの窓が下がり始めて、開いた窓から笑顔のセルジオが顔を見せて手を振っている。
それを見た俺達3人は、右腕を車両の方へ突き出して握った拳から親指だけを突き立てて「お疲れ様」を意味した合図をセルジオに送る。
それに気が付いたセルジオも開いた窓から右手を出して親指を立てながら
「みんな、今日はありがとう」
と大声で叫んでくる。
俺とマイクは
「元気でなぁ」
と声を掛け、今にも再び泣きそうなスティーブは
「本当に、お世話になりましたッ」
と言って顔をクシャクシャにして手を振っている。
その横をゆっくりと通り過ぎるセルジオを乗せた車両は、正面ゲートで一時停止をすると一度だけクラクションを鳴らして正面ゲートを通過して走り去って行く。
これで親しくしていた戦友の1人が居なくなってしまったが、唯一の救いは親族に額に入った写真を抱えられて基地を去って行くのではなくて、間違いなく生存して晴れやかな笑顔を見せて去って行ったことで、これからも時間さえあれば何時でもセルジオの笑顔に会いに行くことができる。
基地から出た車両が見えなくなるまで見送っていると、正面ゲートの門衛が俺達の背後から
「デルタの司令官から、至急3人とも司令官室へ出頭せよとの言付けであります」
と言ってくる。
大切な戦友を見送り、一時の感慨に耽っていられるのは、ここまでとなりデルタのオペレーターである以上は、何時如何なる時に新たなミッションが与えられるか分からないだけでなく、与えられたミッションは誠実かつ的確に遂行しなければならない。
その新たなミッションを受けるために俺達3人は振り返って司令官室へ向かい歩き出す。
司令官室の来客用ソファーに腰掛けて、対面のソファーに腰掛けている司令官から新たなミッションが告げられて俺達3人はホルム海峡近くのアラビア海に展開している原子力空母エイブラハム・リンカーンへ派遣されることになり、出発は明朝10時ということであった。
現在、中東を中心にして展開しているイスラム武装組織の幹部暗殺作戦によって、イスラム武装組織の一部が中東の反米過激派勢力と結託して幹部暗殺に対する報復措置の意味合いでホルムズ海峡を航行する船舶に対してドローン攻撃を実施しており、その影響は直接アメリカをターゲットにした攻撃という目的ではなく、多くの同盟国へ海上物資輸送が滞る事態を招くことで国際的なアメリカの評判を貶めようとしている。
特に厄介なのは攻撃の手段が空中と海上からのドローン攻撃のみを展開していることで、攻撃してくる兵器そのものが小さいためにレーダー等ではなかなか把握し難く、更にドローン自体の移動可能距離が、比較的短いために攻撃対象の近くまで車両や小型船舶で運搬することが可能となり、その意味では神出鬼没で厄介な兵器と言える。
その攻撃を防ぐためには2つの勢力が幹部等の隠れ家等をドローン兵器の保管場所として利用しているのだろうが、そのような施設は中東各所に点在しているのはCIA等の情報によって把握はしているものの、その保管場所に対してアラビア海に展開させている空母打撃群からのミサイル攻撃を安易に実行すれば、中東における同盟国や同盟国以外の国について領空侵犯をしていることにも成り兼ねずドローンを保管している施設のみをピンポイントで巡航ミサイルによって破壊することもできない。
そうなると地上作戦によって襲撃者を排除せざるを得ず俺達3人は、その地上作戦に加わりホルムズ海峡を航行している船舶への攻撃を行う連中やドローン兵器が保管される施設への排除攻撃を担うことになった。
実際のミッションでは、地上作戦を展開する実行部隊に組み込まれた形で行動することになるので3人がチームとなって独自に行動できるわけではなさそうでる。
司令官から一通りの説明を受けて司令官室を退出し、アラビア海への遠征するための準備を行うために3人揃って家路に着くが、3人揃って道を歩いている時にはセルジオとの別れに涙顔となっていたスティーブも表情はすっかりと叩く男の顔へと変貌を遂げている。
各自の自宅がある方向へ別れる交差点で、一緒に行動するミッションとなったが気を引き締めて、明日また基地で会おうと言って別れて自宅を目指す。
自宅に入ると、とにかくクローゼットへ向かい制服を脱いでラフな服装に着替える。脱いだ制服は、皺にならぬようハンガーに掛けるのだが果たして再び制服を着用する機会があるのか疑わしい。
Tシャツにジーンズという普段通りの服装になって、漸く落ち着ける状態になって遠征のための荷物を纏めるが、自分の荷物を収納するバックパックには大方の荷物を入れており、今回の帰国に際しても特段に中身を出したりしていないので、改めて収納するとすれば着替えとなる下着類くらいということになる。
ただ、帰国前までのミッションで使用済みとなった下着類はバックパックから取り出して洗面所脇にある全自動洗濯機に洗剤と共に放り込み洗濯はしておかねばならない。
洗濯機が洗濯を行っている間に、バックパックには洗濯物を干しためのハンガーから干しっ放しになっている下着類を外して、簡単に畳んでからバックパックに収納する。
そうしている間に、洗濯機は洗濯物の脱水まで終了したことを知らせるアラームが鳴るので、脱水の終えた洗濯物を取り出して下着類を干してあったハンガーに掛けて室内に干す。
明日の朝には、新たなミッションに従事するため自宅を留守にするので洗濯物を外に干しておくことはできない。第一、下手に外干しした洗濯物を何時になったら取り込めるのかも分からい。




