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明日の除隊式で履いていく革靴を丹念に磨き終えて、ジーンズにポロシャツとブルゾンを羽織ったラフな服装で、自宅を出発してマイクの家へ向かう。
しかし、手ぶらで夕食を御馳走になるのも幾ら気心が知れているマイクと言えども気が引けるので、マイクの自宅へ向かう途中でスーパーへ立ち寄り330ミリリットル入りの缶ビールが6本纏まっているパックを2つ購入して手土産代わりに持って行くことにする。
一軒家に住んでいるマイクの自宅に着いてドアをノックすると
「ジョージか?開いているから入って来いよ」
相変わらずの大声でマイクが叫んでくる。
苦笑いをしながら玄関のドアを開けて室内に入ると、リビングルームから満面の笑みを浮かべながらマイクが出てくると、俺が右手に提げているレジ袋を見付けて
「ジョージ、その右手に提げるレジ袋は何だ?」
目を丸くして聞いてくるので
「いやぁ、夕食の誘いを受けて単に飯だけ食べに来るのも悪いと思ってビールを2パック買ってきた」
と言ってレジ袋を掲げて見せる。
マイクは、満面の笑みだったのが苦笑いに変化すると
「ジョージ、お前は本当に気を使い過ぎなんだよ。気軽に飯を食わせてくれと言って来ても良いんだぜぇ。でも、そろそろビールが切れる頃だったから助かるよ」
優しい微笑みに変わって俺の右手からレジ袋を受け取り
「さぁ、ジョージもリビングへ来いよ。実は、お前以外にもメンバーを呼んでるんだ」
と言って俺をリビングルームへ連れて行く。
マイクの言われるままにリビングルームに足を踏み入れると、そこにはセルジオとスティーブがソファーに座って笑顔で俺を迎えてくれた。
それを見た俺は
「何だ、セルジオとスティーブも呼んでいたのか?」
と言って振り返りマイクを見る。
「そうだよ、こうして4人で揃うのも最後からもしれないから、4人で集まってセルジオのデルタ卒業祝いをしようと思ってな」
笑顔で説明してくれるが、マイクの話を聞いたセルジオは
「おいおい、卒業祝いだなんて俺は30代後半なんだぞ。それに、3人のうち1人でも除隊することになれば俺も必ず慰労会に参加するんだから、卒業祝いだなんて止めてくれ」
明日にも除隊するセルジオは、去っていく寂しさを微塵にも感じさせない明るさでマイクが説明した「卒業祝い」という言葉に異議を挟んで苦笑いを浮かべる。
セルジオの隣に座っているスティーブも笑顔を絶やすことなく
「ジョージが帰還してくる前に、偶然にもマイクと同じタイミングで上官室を訪ねて来客用ソファーに座っている時にマイクから、セルジオの慰労会を今夜やろうと提案されていたんですよ。当然、俺も賛成して盛り上がっている最中にジョージが上官室に来たというタイミングだったし、ジョージは帰国させられた理由を知らされていなかったので、その話題で盛り上がっているうちに今夜の企画を伝え忘れていたんです」
この集まりについて細かく説明してくれる。
それを聞いて、上官室で俺が2人に声を掛けた時に、不思議そうな表情をして見詰めてきた理由についても更に合点がいった。
それからは、マイクの奥さんが作る手料理を頬張りながら色々な話題で盛り上がって、気が付けば2時間近くがあっと言う間に過ぎてセルジオの慰労会はお開きとなる。
マイクの自宅の玄関を出た後、酔ってはいたものの少し冷静な感じになって
「セルジオ、除隊した後はどうするつもりなんだ?」
とセルジオに問い掛ける。
「明日の除隊式が終わったら、家族全員でニューハンプシャーへ引っ越すことになるんだ。上官からの口利きで第二の職場はニューハンプシャー州にあるSIGのアカデミーでインストラクターをすることが決まったんだ」
酔っぱらっているセルジオも冷静な表情を浮かべて答えてくれる。
確かに、セルジオなら優しいながらも大事なことは決して有耶無耶にすることなく伝えてくれるので、間違いなく良いインストラクターになれるだろうし、セルジオの性格を見抜いて米軍の制式サイドアームとなったSIG SAUER社の射撃アカデミーに上官が口利きしてくれるとは、なかなか抜け目ないと感心してしまう。
夜道をセルジオと一緒に歩きなが帰宅の方角が別となる交差点の別れ際に
「ジョージもミッションが終わって帰国した時には、是非ともニューハンプシャーまで遊びに来てくれ、事前に連絡をくれたら歓迎するぞぉ」
とセルジオが右手を掲げて家路へ向かう後ろ姿を暫く見送る。
終始、笑いの絶えなかったセルジオの送別会だったので、俺も少し調子に乗って飲み過ぎたかもしれないが、明日は戦友の大事な除隊式なので遅刻や式典の途中で居眠り等という失態を犯してはいられない。
俺も家路を急いで一刻も早くベッドに潜り込んで充分な睡眠を取らなければならないが、明日の朝食になりそうな物が全くと言って良い程、何も入っていない冷蔵庫を思い出してコンビニエンス・ストアへ向かい朝食の買い出しを行う。
昨夜、多少とも飲み過ぎた割には朝の目覚めは爽快で寝不足といった状態ではないようで、これであれば最後まで戦友の除隊式を見届けることができそうである。
ベッドから起き上がると真っ直ぐに洗面所へ向かい、水道水で顔を何度も洗いサッパリとさせてから、フェイスタオルで顔に着いた水分を拭き取る。
それから、キッチンへ向かい冷蔵庫から昨夜に購入した野菜ジュースのペットボトルとミックス・サンドイッチの包み、そして1人用のヨーグルトのカップを取り出してキッチンのテーブルで朝食を摂る。
朝食を摂り終えて使った食器といってもマグカップだけなのだが、流し台でマグカップを洗って再び洗面所へ戻って電気カミソリで髭を丹念に剃る。
顔や首元の髭を全て剃り終えた頃に、便意を催してきたので歯を磨く前にトイレへ駆け込んで、充分に排便をして腹をスッキリとさせる。
排便を済ませてトイレを出て、再び洗面所へ向かい歯ブラシを取りチューブ入りの歯磨き粉を歯ブラシのブラシ部分に盛り付けてから、丹念に歯を磨いて口を濯いでフェイスタオルを濡らして軽く絞り顔を拭う。
顔を拭いたファイスタオルを蛇口から流れ出る水で充分に洗い、強めに絞ってタオル掛けに干して、ヘアブラシを手に取り頭髪を整えて洗面所を離れてクローゼットへ向かう。
昨日のうちにチェックしておいた白いワイシャツをハンガーから外してから、寝間着代わりのスエットシャツとスエットパンツを脱いで、取り出したワイシャツに袖を通し襟は立てておく、首元のボタンは昨日の段階では閉めた時に若干だが息苦しく感じたが、今朝は身体の方が少し慣れたのか苦しくは感じなくなっている。
黒っぽいネクタイを手にしてから襟を立てていた首回りに手にしたネクタイを掛けて、立てていた襟を元に戻してフォアインハンドノットに結んでから鏡を見ながら結び目の位置を調整する。
それから、クローゼットのハンガーに掛けているネイビーグリーンのパンツを取り出して履き黒皮のベルトで締める。
クローゼットの引出しから黒い靴下を1足出してから、近くにあるスツールに腰掛けて履いていたスニーカーを脱いで取り出した靴下を履く。
その後、クローゼットへ戻りパンツを掛けていたハンバーに吊るしていたネイビーグリーンの4ボタンのジャケットを取り出して羽織り全てのボタンを閉めてみるが、昨夜に飲み食いをした割には腹回りがきつくないので、安心して黒い革靴に履き替える。
クローゼットの一番上の棚に置いていた制帽を取り出すと、暫く使用していなかったせいか薄く埃が付着していたのに気付いて、近くにあったタオルを使って埃を払って綺麗な状態にする。
これで、戦友にも恥を掻かせることなく除隊式に参列できるように身支度ができたので、あとは時間に遅れることなくデルタの基地内である第一部ルーフィング・ルームへ赴けば良いだけとなった。
部屋の時計を見ると時刻は、8時を少し過ぎてきたので遅刻するよりはと思い、部屋を出て施錠すると徒歩で基地へ向かうことにする。
下手に急いで、汗を掻いてワイシャツの襟に汗沁み等は作りたくはないので、比較的ゆっくりとした歩調で基地を目指す。
制服を着用して基地へ赴くのは何年ぶりのことだろうか、セルジオの除隊式に参列するような状況となったので久しぶりに制服を着用したが、それがなければ更に制服を着用する機会はなかったかもしれない。
基地のゲートでは、CIAが作成した偽造されたIDカードではなく、本来の自分の名前と階級等が示されているIDカードを門衛に提示して基地内へ入る。
昨日、上官から伝えられた第一ブリーフィング・ルームへ赴くと、除隊式の会場準備を行っている隊員達から離れた場所にスティーブが1人佇みソワソワしているのを見付けたのでスティーブに近寄り
「別に、今日の式典は俺達が主役というわけじゃないから緊張せずに落ち着いたらどうだ」
と声を掛けてやる。
少しだけ目が潤んでいるようなスティーブは
「そうですね、セルジオ先輩を笑顔で送り出さなきゃいけませんもんね」
と言ってぎこちなく作り笑いの表情を見せてくる。




