8-20 サーフィアス王家
本日もよろしくお願いします。
控室で待っていると、王族との対面の時間になった。
ミニャたちは別室に案内された。
そこはちょっとしたパーティが開けそうな広い部屋で、大きな窓からはすぐに中庭の庭園に出られるようになっている。
入室してきたミニャを、現国王一家が立って迎え入れてくれた。
その数……10人! さらに使用人も控えるため、普通の応接室に通されないわけである。
「ようこそ、ミニャ殿。私はマリク・サーフィアス。ミニャ殿に会えてとても嬉しく思うよ」
両手を大きく広げて迎えてくれたのは、顎髭を生やしている30代半ば程度の男性で、サーフィアス王。領主とよく似ており、イケメンである。
王様から挨拶を受けたミニャだったが、わずかに反応が遅れた。子供が7人もいて、その瞳が全て自分に向いていたからだ。
ミニャは大人なら割と対応できるが、子供に対しては『お友達になってくれるかな』という思考になりがちだ。ミニャと歳が近そうな子供は2人いた。残りの5人は年齢が上にも下にも離れていそうだ。
しかし、今日までにたくさんご挨拶をしてきたミニャに死角なし!
「ミニャはミニャです! 7歳です! 女神様の使徒で、ミニャンジャ村の村長さんです! お茶会に呼んでくれてありがとうございます!」
花丸である。
これには王様やそのそばにいる2人の女性も顔を綻ばせるというもの。
そう、王様は正室と側室がいた。
王妃は、オオカミ耳を持つとても真面目そうな女性。武人のような真面目さに見える。
側室は、キツネ耳を持ったやはり真面目そうな女性だった。こちらは、どこか研究者のような印象のある見た目だ。
【45、キツネ丸:この王様とは美味い酒が飲めそうだなぁ】
【46、ケモッチ:正直、滅茶苦茶に羨ましい】
【47、名無し:絶対にケモナーだよね?】
【48、名無し:ケモナーかつ真面目な女性が好きだと、俺たちにすらすぐに見破られる男】
【49、名無し:男の子は母親似の女性に惹かれるというぞ!? これ、大丈夫なのか!?】
【50、クライブ:はっ!? こちとらスーパープリティネコミミ幼女なんですが!?】
【51、名無し:王子様が婿に来たら一般的に大金星なんだよなぁ】
【52、名無し:これはミニャちゃんが大人になったら、近衛隊だけでお世話した方が良いわね】
【53、名無し:は? なんでそうなるんだよ。そんなのズルいぞ!】
生配信を注目している賢者の戯言はともかく。
王国近隣の国々は、奴隷制度を持つゴレモニアを含めて種族差別がない。差別は存在するが、それは国や地域などの所属に起因している。
これはかつて存在したフォロンダ帝国のおかげだと、賢者たちは分析している。この時代に多くの種族が交じり合ったため、現代ではどんな種族のペアからでも、隔世遺伝で異なる種族が生まれうるのだ。
ちなみに、髪の色も同じで、親とは違う髪の色になる子は割といた。アメリアなどがそうで、両親とは違う紫髪だった。
尤も、直近の遺伝子は強いため、両親祖父母の容姿に似る確率は高い。
こういった理由から、ケモミミやエルフ耳だろうと、王侯貴族になることは普通にあった。
王の子供は、普通の人族もいれば、オオカミ耳を持つ子やキツネ耳を持つ子もいた。2人の奥さんがいて、世継ぎが必要ということもあってか7人もいる。上は14歳くらいのお姉さん、下は3歳くらいの幼女だ。
「おにんにょうさん!」
幼女がパァーッと顔を輝かせて、オオカミシッポをパタパタさせた。ミニャのお姉ちゃんゲージがムクムクした。ちなみに、ミニャは3歳くらいの相手だとお友達になりたいという欲求よりも、『どぉれ遊んであげるか』みたいな思考になる。お姉さんなので。
一人一人の紹介がされ、ミニャはちゃんと全員分を覚えた。視聴中の賢者たちは『こんなの覚えられるか!』と諦めているのに。これが多くの人をまとめる村長さんと、ニートの違いである。
紹介された子たちは、全員がミニャを上に立てている様子だった。これは王妃たちも同じで、唯一対等なのは王様だけのようである。3歳の幼女は上下関係についてたぶんよくわかっていないので無敵だ。
「そして、明日の誕生会の主役となるセフィーロだ」
王様から紹介されて、セフィーロ王子が一歩前に出た。
「第2王子のセフィーロと申します。私の誕生祝いのためにミニャ様にご足労いただけて恐悦至極にございます」
セフィーロ王子はキツネ耳を生やした頭の良さそうな男子で、王家の人の例に漏れずイケメンである。ミニャにとってはかなりお兄さんなので、お友達になれるかな候補から少し外れる少年だ。
しかし、賢者たちはセフィーロからビリリと何かを感じた。
【68、名無し:みんな可愛かったりイケメンだなぁ】
【69、名無し:ワイ女子、こんな子が大人になって壁ドンしてきたら、抗えない確信がある】
【70、名無し:それ。超可愛い。同級生に居たら絶対に沼る】
【71、名無し:中学生女子です。年下ですけど少しドキドキしてしまいます】
【72、名無し:これだから女子は!】
【73、名無し:ちょっと待て。女子中学生とかほとんどいないはずだから誰だかバレるぞwww】
【74、名無し:でも、なんだかセフィーロ君から陰キャの毒電波を受信したのは、俺の願望からくるもの?】
【75、名無し:そりゃお前の願望だろwww ちゃんと挨拶できてたじゃん】
【76、名無し:陰キャでも業務に関してはちゃんと喋れるヤツっているだろ】
【77、名無し:いや、俺もなんとなく陰キャっぽいなって気がした】
【78、名無し:図書館の隅っこの席とか好きそう】
【79、名無し:えっ、俺はもしかしてセフィーロ様だった?】
【80、名無し:自認セフィーロやめろwww】
【81、名無し:こんな子が図書館の隅っこで本を読んでたら、文学少女の全員が夢を見ちゃうだろうが!】
【82、名無し:ただ単に緊張しているだけかもしれないし、様子を見ようぜ】
【83、名無し:ワイ女子。小学生時代にこんな子と一緒に秘密の図書館デートをする夢を見てた】
【84、名無し:ちょっと自重してもろてwww】
【85、名無し:夢女子やん】
だが、そんな賢者たちの予想は当たり、このセフィーロはとても大人しい子だと、この対談の中で見破られていくことになる。
「さて、私たちもアメリアを紹介させてもらおうかな。随分と小さい頃に一度だけ顔を見せたが、それきりだったからね」
王とはいえ兄弟だからか、領主はミニャと話すようなラフな言葉遣いでそう言った。
「アメリア・ランクスです。本日はこのような素晴らしい席にお招きいただけて、光栄にございます。改めまして、どうぞよろしくお願いします」
そんな挨拶をするアメリアを、ミニャは目を真ん丸にして見た。いつもとなんか違う!
賢者たちも子供なのに凄いとビックリである。
「固いな、おい。もっと砕けていいぞ」
「は、はい」
「だが、よく勉強しているようでとても偉いぞ」
「ありがとうございます」
王様から褒められて、アメリアははにかんだ。
「それにしても、すっかり良くなったようで良かったな。アメリア」
「は、はい」
「ミニャ殿、私からも礼をさせてくれ。一族の者の病を治してくれてありがとう」
「はい。アメリアちゃんが元気になって良かったです。今ではお友達になってくれて、とっても楽しいです」
ミニャがそう言うと、アメリアはもじもじした。
王族の挨拶が終わり、ミニャは賢者たちを紹介するために、王様たちにもウインドウが見られるようにした。いつもの如く、周りの執事やメイドも含めてしまっているが、いまさらである。
「おにんにょうさんの上になんか出た!」
「フレミア。静かにしてなさい」
「きゅーん……」
一番年下のオオカミ幼女はフレミアといい、年上のお姉さんに注意されて、しゅんぼり。近衛隊の遊んであげたい欲が急上昇した。
フキダシの可視化がされたので、テーブルの上に乗ったニーテストが挨拶をした。
『ニーテスト:初めまして、サーフィアス陛下。そして、ご家族の皆様。お会いできて光栄です。我々は主であるミニャを助けるための存在で、女神パトラ様より賢者と名付けられる栄誉を賜りました。どうぞお見知りおきください』
ニーテストはそうフキダシで言ってお辞儀をすると、ミニャのそばまで下がった。いつもはふてぶてしいニーテストだが、ミニャの顔に泥を塗らないために、本日はちゃんとしていた。
「うーむ、素晴らしい魔法ですな」
王様は挨拶をするニーテストを見ただけで唸り、ミニャはえっへんとした。
剣王という個の力に特化した女神の使徒の子孫だが、ミニャが授かった魔法が個に特化した力ではないからといって、侮っている様子ではなさそうだ。
挨拶も終わり、ミニャは王様からグルコサ防衛のお礼などをしてもらった後に、ここ数日で何度も話している女神との出会いを語った。
【211、名無し:セフィーロ君、凄く興味津々じゃん】
【212、名無し:だけど、俺は見逃さなかったぞ。他の兄弟姉妹が『わぁ!』って声に出したところを、セフィーロ君だけ口の形を『わぁ』にしただけだった】
【213、名無し:クソッ、こんなにイケメンなのに、めっちゃ共感できる……っ! 俺の喉からは出ねえんだよ、『わぁ!』が!】
【214、名無し:わかる。なんなんだろうね、これ】
【215、名無し:慣れだ】
女神の話を終えると、最近の出来事の話題になった。
「ミニャ殿が乗った船に水龍様が会いに来たようだね」
「知ってるんですか?」
ミニャはコテンと首を傾げた。
「もちろんだとも。父……フォルガだが、父が来てさんざん自慢してきたからね」
ミニャはぽわぽわーんと想像した。港や王都邸でもフォルガは自慢していたので、その姿は容易に想像できた。
「町の方でもそこら中で噂されているようだよ」
「にゃー。フォルガさんが自慢してるんですか?」
「はっはっはっ、いや、さすがの父も町に出てまで自慢は……たぶん、してないだろう」
フォルガはダンジョンに潜る冒険者だ。シゲンやコーネリアと知り合いだったように、他にも知り合いがいるはずだ。王様の反応から、そういった人に自慢をしに町へ出ている可能性があるようだ。
「そうではなく、船乗りたちが自慢しているのさ。水龍様に出会い、ましてやお声を聞けるなど船乗りたちにとっては大変な出来事だからね」
「そっかー、クラウ様は凄かったもんなぁ。はっ、そうだ。王様にもクラウ様を見せてあげます!」
「ほう、父が言っていたものだね。ぜひともお願いしたい」
【250、名無し:ミニャちゃんがクラウ様の動画を見せるぞ!】
【251、名無し:近衛隊、セフィーロ君の反応を映して! それで確定させるから!】
【252、名無し:意地でもイケメン少年を陰キャにしたい情けない大人たちがこちらです】
今回は、水龍クラウと出会う3分ほど前から一連の流れを全て上映することになった。しかも、ウインドウを相当に拡大してファミリー向けの小映画館のよう。
「こ、これが水龍様……伝承にあった通りだ……」
「なんと神々しいお姿なの……」
「なんて羨ましい力……」
王様や王妃は息を呑み、子供たちや使用人たちも目を真ん丸に開いて固まっている。キツネ耳の側室はどちらかというと、水龍よりも映像を残す能力の方に興味があるようだった。
注目のセフィーロは、賢者たちが睨んだ通り、口の形だけ『わぁ!』として映像を見ていた。感動しても大はしゃぎできないタイプである。
そんな中、最年少のオオカミ幼女のフレミアが椅子から降りて、隣の椅子に座るキツネ耳のお姉ちゃんの足に縋りついた。水龍を見て怖くなっちゃったらしい。
お世話係のメイドはもちろんのこと、縋りつかれたお姉ちゃんも無意識に頭を撫でる程度で、映像に夢中になってそんなフレミアに気づきもしない。それだけ、ミニャが見せたものは衝撃的だったのだ。
周りが見えているのは、ミニャが見せるものに耐性のあるシゲンや領主ファミリーだけである。
これは自分たちの出番だとばかりに、近衛隊がフレミアに突撃した。
ミニャンジャ村でいつも子供の面倒を見てきた近衛隊のあやし能力は高い。フレミアの周りに集まってズンズクズンズクと踊り、フレミアがそれに気づいたらすかさず1名が抱っこしてもらう。
その圧倒的なおままごとヂカラに3歳の幼女が抗えるはずもなし。
フレミアはそのままお姉ちゃんの足下の床、テーブルクロスの下に座り込み、お人形さんと遊び始めた。水龍さんとかまったく興味がない模様。
いろいろなシーンを経て上映会は終わった。
1時間まではない映像だったが、使用人を含めて、場にいる人たちは衝撃的な時間を過ごして、ドッと息を吐いている。
「きゃっ! ふ、フレミア!? あなた、何をしているの!?」
そこに来て、やっとキツネ耳のお姉ちゃんが足元で賢者たちと遊んでいるフレミアに気づいた。すっかりご機嫌なフレミアは笑って答えた。
「おにんにょうさんと遊んでましゅ!」
「だ、ダメでしょ。申し訳ありません、ミニャ様。い、妹が賢者様に大変なご無礼を、はた、働きました……」
どうやら、妹が勝手にミニャの人形と遊び始めたと思っているようだ。お姉ちゃんは自分のキャパシティを超えてしまっているのか、じわっと涙目になり始めた。なにせ、このお姉ちゃんもまた、まだ6歳であった。
ミニャはニコパと笑った。
「ううん、賢者様が遊びに誘ったんだよ。ねーっ、賢者様?」
ミニャが問うと、ニーテストはうむと頷いた。
「だから怒らないであげてね。リリエルちゃんも気にしないで、賢者様と遊んでくれたら嬉しいな」
「は、はい。寛大なお言葉、感謝いたします」
キツネ耳のお姉ちゃんことリリエルはそう言うと、フレミアを自分の席に座らせた。フレミアはしっかりとお人形さんをキープしており、1体を胸に抱え、テーブルに2体乗せている。
それを見たリリエルはちょっと羨ましそう。なにせまだ6歳なので。
「ミニャ殿、娘が失礼を働いてしまってすまなかったね。我々もすっかり夢中になって、まったく気づいていなかった」
「ううん、大丈夫です。賢者様もフレミアちゃんと遊べて楽しかったって言ってます」
「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう」
王様も王妃たちも夢中になっていたので、少しばつが悪そうにした。
とはいえ、それはミニャが凄いものを見せたことの証明でもあった。
すると、ニーテストがミニャに聞いてほしいことを要望した。
ミニャは頷いて、王様に言う。
「初代の剣王様は、クラウ様から鱗を貰いましたか?」
「ああ、貰っているよ」
「うんとー。何に加工したんですか?」
「残念ながら加工の仕方がわからなかったらしくてね。現在もそのままの形で残っている」
「そうなんだー。わかりました。ニーテストさん、だって」
すると、キツネ耳の側室が問うてきた。
「ミニャ様。もしや、賢者様は水龍様の鱗の加工の仕方をご存じなのでしょうか?」
「うんとー。賢者様じゃなくて、ミニャンジャ村にいるニャロクーンさんが知ってます」
「闇の女神の使徒という方ですね。ああ、なんと羨ましいことでしょう」
さすがにニャロクーンの存在は知られているようだ。
ミニャは「羨ましい?」と首を傾げた。それに対して、王様が答える。
「彼女は元々、研究者や職人を多く輩出している家の出でね。失われしフォロンダの知識を多く持つニャロクーン殿に興味があるのさ。もちろん、さまざまな知識を持つ賢者殿にもね」
「賢者様とニャロクーンさんは、学校でいろいろなことを教えてくれるんです。ねーっ!」
ミニャは無邪気にそう言うが、やはり多くの報告が上がっているのだなとニーテストは思った。
読んでくださりありがとうございます。
6月20日に本作の書籍が発売されました。
たくさん新しいエピソードや小ネタを書きましたので、まだお手元にない方はぜひ!
また、次回から以前と同じくらいのペースで投稿したいと思います。
5日ごとくらいのペースになるかと思いますが、引き続き楽しんでいただけたら幸いです。




