8-19 王宮へ
本日もよろしくお願いします。
その夜は、来訪したフォルガたちと楽しく夕食を取り、寝る時はアメリアと一緒のベッドに眠った。
20時くらいからミニャのお部屋に入ってトランプやオセロで遊んだが、6歳と7歳の女子会である。21時くらいからウトウトし始め、一緒のベッドに入ってお話していると、どちらともなくコテンと眠ってしまった。とはいえ、お泊まり会は大成功と言えるだろう。
そんなこんなで、旅に出てから5日目。
本日は王宮へ行くことになっている。
さすがに誕生日会当日に初めて顔を見るわけではないようだ。ミニャもお誕生日会の主役にいつものご挨拶砲を放たなくて良いし、そんな相手に対してプレゼントを渡すという7歳児にとって摩訶不思議な展開にならずに済むので、助かるといえば助かることだ。
『ネコ太:ミニャちゃん、今日はお誕生日会じゃないからね?』
「明日だよね?」
『ネコ太:そう。今日は王家の人たちがどんな人たちかなってご挨拶に行くだけね』
ネコ太が念のためにそう教えておく。勘違いして、『お誕生日おめでとうございます!』などと言わないためだ。これにより、ミニャの脳内子猫の秘密基地にある大砲から、お祝いのカートリッジが完全に除外された。
『くのいち:ミニャちゃん、王子様のお名前は?』
「セフィーロ様!」
『くのいち:正解!』
「ミニャ、ちゃんと覚えてるもんね! でも、王子様かー。どんな人かなー」
話によると王子は明日12歳になるらしく、領主の長兄ソランと同い年だ。
ミニャからすれば大分お兄さんなので、お友達になれるかという考えはあまりないようである。
そんな確認をしつつお着替えが終わった。
本日のミニャは、以前のグルコサ訪問で貰った白いワンピースに緑色のロングベスト。このベストはおヘソの辺りから八の字に分かれており、子供らしさの中に上品さもある服だ。その上に船旅でも着ていたダッフル風コートを羽織り、大変に可愛らしい。
髪の毛も少しおめかしして、希少石で作ったお花がついたヘアピンで前髪を留めている。
「賢者様、ミニャ、お姉さんみたい?」
そんな可愛らしい質問に、賢者たちはみんなで大絶賛。それに大満足のミニャは、ぴょんと跳ねて、着地と同時に大の字を作る。意味はちょっとわからない。
領主たちの準備も整い、屋敷を出発する。
ミニャと同乗するのはシゲンとコーネリアで、ルカルカは、賢者たちと一緒に王子へのプレゼントの搬入に付き添うため別行動の手筈になっている。王宮なんぞに行くためルカルカは嬉々として別行動を承諾し、コーネリアは朝から緊張気味。
王都に来た時と同じように、馬車の護衛はルファードが率いる黒剣騎士団が担うようだった。
ミニャは窓縁にちょこんと指を掛けて、お外を眺める。
「王様が住んでいるところってどんなのかな?」
『ネコ太:楽しみだねー!』
「うん!」
中でそんな話をしている馬車だが、黒剣騎士団に護衛されているうえに、屋根にはお人形さんがたくさん乗っているので、王都に来た時と同様に大変に目立った。
馬車に揺られて10分ほどすると、石壁の城壁が見えてきた。
「おー、でっかー。これって町の壁?」
「いえ、これは王宮を守る壁ですね」
シゲンの回答に、ミニャはほえーとした顔で、ピンときてない様子。王宮がなんなのかわからなくなってきた。ミニャ的にはグルコサの領主館みたいな規模だと思っているのだ。
やがて馬車は大きな広場に入った。
その広場の周辺は、城壁と通り以外の場所を大きな建物が囲う形になっている。
「わぁ、人がいっぱいいる」
『ネコ太:ミニャちゃん、あっちに大きな建物がたくさんあるよ』
「むむむっ、ホントだ。あれが王宮?」
ミニャは逆側の窓の外を見た。
「いえ、あれは役所ですね。貴族街に住んでいる人の多くがあそこで働いて、王国のいろいろな問題をどのように解決しようか考えています」
「ふむふむ。ニーテストさんの専用掲示板みたいな感じか」
などとミニャに言われて、馬車に同乗しているニーテストはちょっと嬉しくなると共に、真面目に専用掲示板を運用しなくてはと思った。
ラノベを読んでいるような賢者たちも、実際に貴族がどうやって働いているかなんてほとんど知らず、賢者たちの生配信や博識な賢者の書き込みを見て、よく学んだ。
特にこういう昔の文化的なことだと、大学で民俗建築学を教えていた百太郎の話は大変にためになった。このお爺ちゃんをスカウトした孫娘のハナも、高校で授業を受けながら鼻高々だ。
「それよりもミニャ様、城門が見えてきましたよ」
「にゃんですと!」
ミニャは慌てて先ほどまで見ていた窓に指先をちょこん!
そこには門扉が開け放たれた立派な城門があった。
門の左右には白い革鎧を着た2人の騎士が正面を向いて立っており、ミニャの馬車が近づくと両手をサッと背中に隠した。
「わぁ、白い騎士さんだ。強そう!」
『ニーテスト:おー、VIP待遇だな』
『ネコ太:ひゃっふー、くるしゅうないぞ!』
さすがに城門前で馬車から下ろされることはないようで、そのまま城壁の中へ。
城壁の中は非常に広く、ちょっとした町の一区画なら入ってしまいそうなほどだった。
石のタイルの道を真っすぐに進むと王宮があり、広大な庭の右手には大きな館が、左手には意外にも林があった。ミニャは右側に座っていた都合、進行方向である正面は見えず、右手の大きな館に注目した。
「あれが王様のいるところ?」
「いえ、あそこは式典ホールです。なんらかのパーティがあると使用されます。例えば、明日の誕生パーティもあそこで行なうはずですし、女神の月にも使用されます。大きな貴族が借りることも稀にありますね」
「ミニャンジャ村の広場みたいな感じ?」
「そうですね。屋根こそありますが、やることは大して変わりません。宴会の時にミニャ様がやられているように、誰かが挨拶をして、みんなでご飯を食べたり、踊ったり、談笑したりするのです」
シゲンは貴族家の出身なので、かなり詳しい。
「ふむふむ。あっちの林は?」
ミニャは左側に林があることを発見して問うた。
「王族が森を知らないのは不味いですからね、森というにはほど遠い規模ですが、ああして木々を残しているのだと聞いたことがあります。うーん、年に何度か、貴族の子弟があの林を散歩できる機会があるのですが、王族がどのように使っているかは私もわかりません」
「ほえー。王様は森をあんまり知らないの?」
「王になる前に女神の森へ入るようですが、それ以降で入ったという話は聞きませんね。王都の人は森を見たことがないという者も案外いるんですよ」
「にゃんと、森を知らない人なんているんだ」
人生で森ばっかり見てきたミニャにはかなり衝撃的なことだった。しかし、ミニャンジャ村の子供たちだって、村に来て初めて森に触れた子ばかりだったりする。
町の外へ出ればたちまち自然豊かな大地が広がっている王都だが、町の中は日本の都会以上に自然が少ない。大きな根を張る街路樹はそれだけで建物を傷めるリスクとなるためほぼ存在せず、そんな中で林を持っているというのはかなりの贅沢なのかもしれない。
もちろん、これはあくまでも樹木の話で、町にだって雑草はよく生えているし、花を育てている人もいる。ミニャンジャ村の子供たちがバッタなどの昆虫を知っていたのは、こういった雑草に潜んでいたからだ。
『ニーテスト:ミニャンジャ村もあの林は残した方が良いかもな』
『ネコ太:村をもっと広げても、計画的に林を点在させた方が良いかもね。あとは、川沿いに木々を残すとかさ』
賢者たちは王都からミニャンジャ村の開発方針を煮詰めていく。
王宮に近づくと、白剣騎士たちが左右に一定間隔で整列してミニャのために道を作っていた。その中を馬車がゆっくりと走っていく。
「おー、白い騎士さんだ」
『ニーテスト:なあ、シゲン。話によると白剣騎士は近衛隊や城壁警備の隊長のようなことをしているんだよな? なんかずいぶんと気合が入ってないか?』
「あれは黒剣騎士団と競っているのでしょう。城壁の内側は基本的に白剣騎士団の管轄になっていますからね」
『ニーテスト:あー、そういう感じか』
要するに、城壁内部は白剣騎士団の管轄なのだから、黒剣騎士団ばかりに良い格好をさせたくないのだろう。
「歓迎しているというのは間違いないでしょうが、これ見よがしですと、なんともお恥ずかしい話です」
『ニーテスト:まあミニャの前で喧嘩しないのなら好きにしてくれと言ったところだな』
「彼らもさすがにそれはしないでしょう。それは王の顔に泥を塗ることになりますから、叱責程度では済まない事態になり得ます」
ニーテストとシゲンがそんな話をしていると、ミニャが首を傾げる。
「黒の騎士さんと白の騎士さんはあんまり仲が良くないんだっけ?」
ミニャは黒と白の騎士団について、この程度までは教えられていた。
「そうですね。表で喧嘩をするようなことはありませんが、何かにつけて競い合い、相手方に負けるのを酷く嫌います」
すると、ミニャは腕組みをしてお姉さんの構え。ミニャは、ルミーやパインが姉妹喧嘩をすると、「コラーッ、喧嘩しちゃダメでしょー!」と止めることがあるのだが、今もそんな感じの気配がする。
ミニャは「うーん!」と何やら考えて、言った。
「一緒に王都を守ってるのに、変なの」
『ニーテスト:ミニャ、大人も誰かから褒めてもらったりお礼を言ってもらいたいのさ』
「そうなの? ニーテストさんも?」
『ニーテスト:ああ、もちろん私もだ。そうだなぁ、ミニャが村のみんなにお給料を渡した時に、どんな仕事をしてくれたか一言添えて渡したから、みんな嬉しそうな顔をしただろう?』
「してたかも!」
『ニーテスト:黒と白の騎士団も同じだ。彼らは似たような仕事をしている相手の騎士団よりも頑張っているのだと、みんなに見せたいのさ。だから、自分たちが守っているところに相手の騎士団が入ってくると良い顔をしないわけだ。自分たちがしっかりと守っているのだと、誇りを持っているからな』
「そっかー。大人も褒められたいのかー」
やがて馬車は緩やかにカーブをして、王宮の前で停車した。
「どうやら着いたようですね」
シゲンの言葉に、ミニャは「んっ!」とキリリとした。
シゲンと賢者たちが降りた後に、ニーテストを抱っこしたミニャが馬車から降りる。
今までの馬車の乗降には黒剣騎士が道を作ってくれていたが、本日は白剣騎士たちがそれを行なっていた。その先には、横に長い立派な王宮が聳えている。
「にゃー、おっきーっ!」
ミニャは目を真ん丸にして王宮を見上げる。
高さ自体はそこまでではないが横幅はかなりのもので、それゆえに大きく感じるのだ。
すると、ミニャは周りをキョロキョロと見回して、ててぇっと馬車の裏側に行ってしまった。そこには任務を終えて整列している黒剣騎士団の姿があった。
そして、ピシッと最敬礼しているルファードに言う。
「送ってくれてありがとうございました!」
ニーテストとの先ほどの話を受けて、そのような行動を取ったのだろう。
言われたルファードは一瞬面食らった顔をしたが、すぐに誇らしそうにした。
【799、名無し:可愛すぎかな?】
【800、名無し:これはもう人心掌握SSSランクやろ】
【801、名無し:こんなの黒剣騎士さんがみんなミニャンジャ村に来ちゃうよ!】
【802、名無し:ゴブリンを倒した後に、ミニャちゃんが俺たちを褒めてくれた時のことを思い出すなぁ】
【803、名無し:賢者様は凄いっつってな。いまも過去動画をよく見て元気をもらっている】
【804、名無し:いいなー。俺もミニャちゃんから褒められたい】
ミニャはそれだけ言うと、またててぇと走り、待っていた領主たちの下へ向かった。
ミニャとはこういう存在だと慣れ始めている領主は、何事もなかったように言った。
「ミニャ殿、ここがサーフィアス王国の王宮だ」
「すんごくおっきいです!」
そんな感想に領主は口角を上げて微笑む。
すると、そばに控えていた白剣騎士団団長のルクレチアが言った。
「ミニャ様、ようこそお越しくださいました。ここからは我ら白剣騎士団が護衛をさせていただきます」
「ルクレチアさん。よろしくお願いします!」
「はっ、お任せください」
昨日は立派な白いコートを着ていたルクレチアだが、本日は他の白剣騎士と同様に白い革鎧をつけていた。
ルクレチアが先導し始めたところで、ミニャは背後を振り返った。どうやら、白剣騎士団は他に4名だけが護衛につき、他はついてこないようだった。
ミニャは道を作ってくれていた白剣騎士たちに向かって、言った。
「歓迎してくれてありがとうございました! 凄くカッコ良かったです! んっ!」
ミニャはそう言うと、領主たちと並んで王宮の中へと入った。
ミニャに抱っこされているニーテストは、これを訂正するべきか物凄く悩んだ。
【831、名無し:んぎゃわぃいいい!】
【832、ジャパンツ:こんなん白剣騎士団もミニャンジャ村に来ちゃうよ!】
【833、ダーク:そして、騎士団が去った王都が残るのだった……】
【834、ナオマサ:ミニャちゃんはほんま魔性の女やでぇ】
【835、ニーテスト:私はこれを訂正した方が良いと思うか?】
【836、名無し:やめろやめろ! 必要なし!】
【837、名無し:このまま育ってほしい!】
【838、名無し:マジレスすると、立ち振る舞いはある程度学んだ方が良いと思う。舐めてかかるヤツが出てもおかしくないし】
【839、名無し:上の立場でお礼が言える人間は魅力的に見えるけどな】
【840、名無し:スマートさを学ぶってのは重要かもしれないね】
【841、ニーテスト:まあ、今日の定例会議で話すか】
封建社会において上に立つ人間はどういう態度で周りの人に接するべきか、賢者たちは考えるのだった。
「おー……おウチ?」
一方のミニャは、王宮の中を見てコテンと首を傾げた。ここで人が暮らしているのか疑問に思えたのだ。何か自分は勘違いしちゃっているのではないかと。
異世界だけあって見たことのない建築様式をしているが、その造りは非常に美しく、豪華なものだった。賢者たちも、こんな場所に人が住んでいる様子を正確には想像できなかった。
「ここは役人貴族や他国の使者なども入る場所だから、あまり人が生活をしているような雰囲気は感じられないだろうね。奥の方が王族の生活している場所になっているのさ」
「ふむふむ、そっかー」
領主がそう教えてくれた。
『ニーテスト:ミニャもお客さんが家に来たら、良い感じの場所を見せたいだろう?』
「うん、障子のお部屋を見せたい」
『ニーテスト:そうか。じゃあ障子の部屋はいつも綺麗にしておきたいよな』
「うん」
『ニーテスト:ここは障子の部屋よりもずっと広いが、そんな感じで人に見せるために作られた場所なんだよ』
「にゃるほーね」
そんなふうに教えてもらいながら、ミニャは王宮を進んでいく。
「アメリアちゃんもここに来たことがあるの?」
「はい、小さい頃に一度だけあるようですけど、全然覚えてないです」
「そうなんだね」
今も十分に小さいのだが、もっと小さい頃なのだろう。1度だけというのは、ミニャと出会う前のアメリアは体が弱かったため、王都自体に1度しか来たことがなかったのだ。
ミニャはあくまでも来賓なので、そこまで奥へは行かず、ひとつの部屋に案内された。
そこは控室のようで、領主たちと一緒に少し待つことになった。とはいえ、元国王ですら気を使うミニャなわけで、この控室に通された理由は、王家側というよりもミニャの準備を整えてもらうためであった。
こうして、王家との顔合わせが始まろうとしていた。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想ありがとうございます。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




