8-18 スレイザー夫人
本日もよろしくお願いします。
王都滞在中には空いている時間がいくつかある。
賢者がその予定をまとめてくれて、ミニャやランクス兄妹と一緒に、居間でどんなことをするか相談した。王都で生活していたシゲンやコーネリア、ルカルカもアドバイスしてくれる。
ミニャの希望は、王都での釣りと町の見学。
シゲンたちが安全な通りや見どころをよく知っているので、計画を立ててくれることになった。釣りポイントはさすがに知らなかったので、領主の力を借りることになるだろう。
どうやら、町では王子の誕生会で市民にお祭りが開かれるなんてことはないようだ。冬の女神の月があと1か月半であるため、無理もない。
ミニャちゃん議長は、賢者たちが作ってくれた白紙の冊子に、『釣り!』『町の見学』と書き込む。すかさずネムネムがお店のイラストを描いたので、ミニャも負けじとお魚のイラストを描き込んだ。そこにネムネムがササッと釣り竿を握るミニキャラミニャちゃんとアメリアを描いたものだから、子供たちは大はしゃぎ。
そんなことをしていると、本日の予定であるフォルガの来訪の先触れがあった。賢者貸し出しサービスは行なわなかったので、普通にフォルガの屋敷勤めの従者による先触れだ。どうやら、1時間後くらいに来るそうだ。
「アマーリエさん、お外で待ってて良いですか?」
ミニャにそう問われたアマーリエは、少し面食らった様子だが許可をくれた。
みんなで暖かい格好をして、お外へ出る。
『ラフィーネ:ミニャちゃん、何をするんですの?』
「うーん。縄跳びは朝やったからなー。じゃあアメリアちゃんと一緒にお空を飛びたい!」
『ラフィーネ:いいですわよ』
ミニャの提案を聞いたアメリアは喜びでぴょんと跳ねた。
というわけで、子供たちは賢者たちに飛行魔法をかけてもらって、お庭をふよふよと飛ぶ。これにはアメリアやソランもキャッキャである。
一緒に外へ出てきたアマーリエがちょっとやりたそうにしたが、これから旦那の両親が来るのでさすがに控えている様子。
慣れたら今度は花壇まで行って、お花の上をふよふよ。
そんなふうに遊んでいると、門の方でチリンチリンとベルが鳴った。
「むむむっ、なんか鳴った! フォルガさんたちが来たの?」
「ええ。来客の際には、詰所の門番がああしてベルを鳴らして家人や使用人に知らせるんですよ」
ソランが教えてくれた。
どうやら、フォルガたちが鳴らしているわけではないようだ。
ベルが鳴ると、外にいるメイドたちはすぐに整列し、アマーリエやアメリアたちも屋敷の前にスタンバイ。しかし、空飛びにゃんこは違う。
「すいーっ!」
来るのがフォルガや執事のジゼということもあってか、ちょっと気が抜けているミニャである。門の方へ飛んで行ってしまった。
アマーリエが慌てて止めようとするが、ミニャとフォルガは知らない仲ではないので、まあいいかと好きにさせた。
昨日のミニャたちもそうであったように、フォルガも門前で馬車を降りる。そして、門が開かれると、ウェルカムミニャちゃんがスイスイしていた。
「うおっ、ミニャ様」
「フォルガさん、ジゼさん、おはようございます!」
「おはようございます、ミニャ様。それにしても変わったことをしてますな」
「フォルガさんたちが来るって聞いて、お外で遊んで待ってたんだ」
「それは寒い中、ありがとうございます」
そこでミニャはフォルガの斜め後ろにいる女性2人に顔を向けた。
「フォルガさんの奥さんですか?」
「はい。ミニャ様、お初にお目にかかります。エメラダと申します。どうぞお見知りおきください」
そう名乗ったのは初老の女性で、フォルガの奥さん。つまり、元王妃。青紫色の髪をしており、上品な佇まいをしていた。
「私はルクレチアと申します。ミニャ様にお会いできて光栄にございます」
もう1人は立派な白いコートを纏った女性だ。領主の妹の1人であった。
ルクレチアは昨日に会ったルファードと双子ということだが、二卵性双生児なのか顔はまったく似ていない。ルファードが青髪なのに対して、ルクレチアは薄い赤髪をしており、2人共別系統に綺麗な人物であった。
2人はロイヤルファミリーなわけだが、フォルガと同様にミニャを上に立てている様子だ。今のところ、ミニャのことを『ミニャ殿』と呼ぶ大人は、ニャロクーンと一番難しい立ち位置の領主だけである。
ミニャはふよふよモードを終えて地上に降り立つと、2人を見上げてご挨拶。
「ミニャはミニャです! 7歳です! 女神様の使徒で、ミニャンジャ村の村長さんです! よろしくお願いします! あとこっちは賢者様です!」
ミニャがぺこりと頭を下げ、足元の賢者たちも同じようにする。
「まあ、これはご丁寧にありがとうございます」
エメラダが微笑むので、ミニャは「にゃふぅ!」とやり切った感。しかし、そこでハッとした。
「ハッ、こういうところで話してちゃダメなんだ。案内します! ささっ、あっちあっち!」
ミニャは得意の『ささっ』と使い、まるで自分の家のように一行の前を歩いて屋敷へ向かった。
そこでは、領主たちやメイドが待っていた。にゃんこを自由にさせたのが悪い。
フォルガたちは領主ファミリーとも挨拶を交わし、一行は談話室へと向かった。
その際に、アメリアたちがエメラダをお婆様と呼んだことで、ミニャは、『たしかにそういう関係だ!』と、ひっそりと気づいた。
談話室は昨日に見た椅子とサイドテーブルという装いとは少し変わっており、テーブル席が用意されていた。
ミニャはアメリアと隣り合って座り、同じテーブルにはエメラダやルクレチア、アマーリエが座っている。つまり女性席である。
一方、男子の方には領主やフォルガ、ソラン、クレイが。この席では、さっそくクラウの修行の話をし始めている。
従者枠のシゲンやジゼ、コーネリアたちは立っている。
「あったかい麦茶だ。美味しい!」
王国は、紅茶もあるが麦茶や薬草茶などをよく飲む。地球の歴史のように紅茶貿易に熱狂はしておらず、身近な物で茶を作っているのだ。
お外で遊んで多少冷えているミニャは、麦茶を飲んでポカポカした。
「ミニャ様には、グルコサの防衛に協力していただいたことのみならず、アメリアの体まで治していただいたと聞き及んでおります。本当にありがとうございます」
エメラダがまずはそうお礼を言う。
「はい。アメリアちゃんが元気になって良かったです。あと、グルコサの町が無事で良かったです!」
ミニャが「ねーっ!」とすると、アメリアも「はい!」と元気に答える。
「まあ、本当に元気になって。良かったわね、アメリア」
「はい。今ではミニャ様と一緒に釣りだってできるんです」
「あら、アメリアも陛下と一緒に森イカ釣りをしたのですか?」
エメラダはどうやら、対外的にフォルガのことを陛下と呼ぶようだ。
「いえ、森イカ釣りには参加できませんでした」
森イカの話題が出て、アメリアは少ししゅん。アメリアが体験したのは昼の湖釣りで、魚拓などを取って遊んだものだ。森イカ釣りには参加していない。
というか、フォルガはどうやら森イカ釣りも妻に自慢しているらしい。
「でも、アメリアちゃんはこーんな大きなベゴサを釣ったんだよね!」
「はい!」
「でも、あの日はジゼさんが釣ったのが一番大きかった! こーんなだった!」
「あれは大きかったですね。凄かったです!」
「まあ、ジゼまで」
などと暴露されるが、ジゼは澄ました顔で立っている。
「陛下……フォルガはミニャ様にご迷惑をかけていませんか?」
近くではフォルガが息子や孫たちとクラウの修行について話し合っているが、その様子は子供のようである。しかし、妻から自分の話題が出たということもあってか、少し嫌そうな顔をする。
「えーっ、迷惑なんてかかってないです。フォルガさんはねー、いつもこーんな大きなお肉をたくさん取ってきてくれたり、クレイ君と一緒に朝に素振りをしたりねー、おウチを作るのも手伝ってくれたりします!」
「まあ、陛下が家を作る手伝いをしているのですか?」
「はい。フォルガさんは屋根の瓦を並べるのがとっても上手です」
ミニャから高評価を得たフォルガは、うむうむと良い気持ち。そんなフォルガの席では領主が静かに麦茶を飲んでいるが、果たして、7歳児から褒められてとても満足そうにしているジジイにどんな感情を抱いているのか。
エメラダが楽しそうに聞いてくれるので、これはいっぱい褒めなくてはならないと使命感を覚えたミニャは、続けた。
「あとね、冒険者さんをまとめてくれたりねー、ミニャたちの修行をたまに見てくれたりねー、冒険者さんと鉄棒でカッコイイ技を見せてくれたりねー、ジゼさんのお茶碗が羨ましくてミニャと一緒に陶芸したりねー、あとねあとね、チャーハンも大好きなんです! んっ!」
褒めているのか謎な情報も混じっているが、とにかく、ミニャがフォルガのことをよく見ていることは伝わった様子。
村では元国王としてのスキルはあまり使わないフォルガだが、いるだけで物凄く役に立っている人物である。フォルガがいるだけで、王国の商人や貴族は舐めたことを決してできないのだ。
さらに、フォルガがミニャを上に立て、賢者を同列程度に扱っているので、誰も7歳児であるミニャのことを下に見ないし、冒険者たちはダンジョンに連れて行く賢者を粗雑に扱わない。
もちろん、ミニャはそんなことには気づいていない。
「そうですか。ご迷惑でないのなら良かったです」
なにはともあれ、エメラダは少しホッとした様子だ。
温かい麦茶を飲んでニコニコするミニャは、ふと大人しく座っているルクレチアを見た。
貴族だけあって、会話にも順位のようなものがあるのだ。アメリアやクレイたちもこれを気にするタイミングがよくあった。ミニャはこれを気にすることなく自由である。
「ルクレチアさんはルファードさんと双子だって教えてもらいました」
ミニャが話題を振った。
「はい。ルファードは双子の妹になります。妹は黒剣騎士団を任されているように、私は白剣騎士団の団長を任されております」
「びゃっけんきしだん! 強そう」
ミニャは黒剣騎士団と同様に、白剣騎士団の名前も事前に聞いていた。賢者たちが王都のことを調べていたので事前に簡単なことは教えておいたのだ。
王都は黒と白の騎士団で守られている。
ルファード率いる黒剣騎士団は、主に市街地の守護や、湖を含めた王都外の見回りの指揮官を任されている騎士団である。あくまでも指揮官や隊長格であり、部下には兵士がつけられて運用される。
だから、ミニャが黒剣騎士だけで構成されたメンバーで港から屋敷まで護衛されたのは、実のところ凄いことだった。
一方、ルクレチア率いる白剣騎士団は、王宮警備や城壁警備の指揮を執るなど、近衛隊に近い任務に就く騎士団だった。フォルガのパーティメンバーであるガロードは、この白剣騎士団の元団長だった。
この2つの騎士団は、仲が悪い。険悪というほどではないが、お互いに自分たちの方が強いと思っており、自分の管轄に踏み込まれるのをかなり嫌っていた。そして、黒剣のルファードと白剣のルクレチアは、幼い頃からいつも競い合っている双子だった。
「ミニャ様、どうか女神様と出会った時のことをお聞かせ願えませんか?」
ルクレチアが言うので、ミニャは「いいよー」といつもの気軽な調子で返事をする。
ミニャが身振り手振りを加えて話す様子を見ながら、掲示板ではいつものように雑談が展開されていた。
【335、ナオマサ:ミニャちゃんの話は何回聞いても楽しいな。独り身の心に沁みるぜ】
【336、名無し:めっちゃわかる。遊んでいるのもいいけど、ずっとお喋りしている動画も好き】
【337、ジャパンツ:それにしても、ミニャちゃんは女神様の話をするのが上手になったなぁ】
【338、クライブ:それな。出会った頃はみんなで考えて内容をまとめたものだけど】
【339、名無し:新人ですけど、すんなりと理解できますね】
【340、ジャパンツ:頑張ってお勉強している成果だな!】
【341、名無し:いや、俺も頑張って勉強したけど、別に話し上手じゃないんですが】
【342、名無し:会話のセンスを育むのは、勉強よりも多感な時期に良い人に巡り合えるかが重要だと思う。楽しそうに聞いてくれる人に出会うと話し上手になりやすいし、つまらなそうにする人に出会うと自信を失う。繊細な人間ほどそうだと俺は思う】
【343、名無し:俺には、そもそも出会いがなかったから話し上手ではないということか……】
【344、ジャパンツ:ま、まあ、ミニャちゃんという特大の良縁をゲットしたんだから良しとしようぜ?】
【345、名無し:ていうか、やっぱりミニャちゃんからお話を聞きたい人って多いんだな】
【346、クライブ:ガチの神様に会ってるわけだし、そりゃ聞きたいだろ。俺たちだってミニャちゃんにお願いして話してもらったんだし】
【347、名無し:あっ、ミニャちゃんがエメラダさんたちも仲間にした!】
女神の容姿の話になり、ミニャはエメラダとルクレチアにもウインドウが見られるようにした。
いきなり視覚情報が変わったことに2人は目を真ん丸にして驚いた。ミニャはもちろんのこと、周りにいる人形たちもウインドウを出して活動しているのだ。
「お婆様、そうしていただいたら、賢者様とお話ができるんですよ」
「ま、まあ、そうなのですね」
アメリアが説明している横で、ミニャはウインドウを操作する。
図鑑に収蔵されているネムネムが描いてくれた女神のイラストをウインドウに表示したのだ。
「女神様はこんな感じでした! すんごくすんごーく綺麗だったの!」
ネムネムが初めて女神パトラを描いたのは、子供たちを救出して、グルコサを牽制するために女神像が必要になった時だ。
ネムネムは、生産属性として器用さに極振りされて成長しているので、女神のイラストは何回か更新されていた。今回ミニャが見せたのは最近描いたもので、その描写には若干のアニメタッチが残っているものの、どのような声なのか想像を掻き立てるほどに美しいものだった。
「ま、まあ! な、なんということでしょう……」
「……っ」
エメラダとルクレチアが息を呑む。
ついでに、そんなイラストを持っているとは知らなかったアメリアやアマーリエも驚き、男性陣もわらわらと見に来た。さらに、壁際に待機しているコーネリアやルカルカもふらふらぁと見に来た。自由か。
それに対して、すでに昨日の段階でウインドウを見られるようにしてもらっている屋敷付きのメイドたちは真面目で、凄く見たそうにしているが、待機場所から離れない。
「これはネムネムさんが描いてくれたんだよ。ねーっ!」
『ネムネム:ねーっ!』
ミニャはテーブルの上にいるネムネムと、『ねーっ!』と体を傾けあった。
一同の反応に、ミニャは『賢者様は凄いんだかんね!』という気分になりつつ、そういえば新しいイラストがあったことを思い出す。
「そんでねぇ、クラウ様はこんな感じだった!」
それもネムネムがつい先日に描いたものだが、全員が体をぶるりと震わせる迫力があった。
「おぉおおお、なんと見事な絵だ……」
そう言ったのはフォルガ。
テーブルの上にいるネムネムは『えっへん』と胸を張って、調子に乗った。
「わぁ、もしかして、これもネムネムさんが描いたんですか?」
『ネムネム:そうだよー』
「凄いですぅ!」
アメリアに褒められて、ネムネムはとっても良い気持ちになった。
こうして、ミニャや賢者を中心にしてお茶会は楽しく進むのだった。
読んでくださりありがとうございます。
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