8-17 王都の朝と今後の予定
本日もよろしくお願いします。
王都に到着した翌朝。
ミニャはふかふかベッドでぐっすりと眠り、朝も早くに起床した。
「おはようございます、ミニャ様」
「コーネリアさん、おはよー!」
メイド服を着たコーネリアに朝のご挨拶をする。
初日にクラウの修練を受けたコーネリアだが、もうすっかり体調も良さそうである。
ミニャはベッドから降りて、さっそく洗面台へ。
「賢者様、ガラガラするヤツある?」
『ラフィーネ:はい、これがそうですわ』
近衛賢者がすでに洗面所に用意してあるビンを指さした。
ミニャはそれをコップに注いで水で割り、ガラガラし始める。
ミニャンジャ村の人たちは、賢者特製のうがい薬を使っている。
子供たちにとってあまり好きな味ではないのだが、うがい後はとてもさっぱりする。ミニャも、もう普通の水でうがいするだけでは物足りない体になっていた。
準備を整えたミニャは、賢者やコーネリアと一緒に庭へと出た。賢者から連絡があったようで、シゲンとルカルカも寮から出てきてミニャに挨拶する。
庭の一画はむき出しの地面となったスペースだ。
そこはやはり鍛錬スペースとなっており、すでに領主とソランとクレイが素振りをしていた。
「領主様、おはようございます! クレイ君とソラン君もおはようございます!」
「ミニャ殿、おはよう。よく眠れたかな?」
「はい、いっぱい眠れました!」
「「ミニャ様、おはようございます」」
「うん、おはよー。みんなで素振りしてたの?」
ミニャがクレイに問う。村で一緒に暮らしているので、なんだかんだ一番話しやすいのだ。
「素振りもそうなんですけど、クラウ様からつけていただいた修練の復習をしています」
ソランは初日組だったが、領主とクレイは2回目に修行を受けていた。2人はその翌日、つまり昨日に目を覚まして、その後あまり時間を空けずに王都に到着してしまったため、フォルガたちのように甲板で自分の変化を確認できなかったのだ。だから、こうして朝稽古の時間に確認していたのである。
「そっかー。ミニャも朝の体操するんだー。端っこ使っていーい?」
「はい、もちろんです。俺もお付き合いします」
というわけで、ミニャは賢者を整列させ、クレイやシゲンたちと一緒にいつもの体操を始めた。
「それじゃあ、いきまーす! まずは手を上げるヤツからー。イチニサンシッ、ゴーロクシチハチッ!」
ミニャの号令で体操が始まる。
みんな体をよく動かすので、日本の学生のようにダラダラとはやらない。体の各部位にちゃんと効くようにしっかりとほぐしていく。
ミニャは幼いので可愛らしさが勝ってしまうが、シゲンやコーネリアたちの体操はアスリートのような迫力がある。賢者はこうやって動くオモチャ感が凄い。
領主やソランにとって、剣術の型や腕立てなどならともかく、ウォーミングアップを全員が揃って行なうのは珍しい光景のようで、興味深そうに見ている。
体操が終わると、ミニャの脳内子猫がスタンプカードにペッタンとハンコを捺し、ミニャはしゃっきりとした。
「それではミニャ様、俺は朝食まで素振りに戻ります」
「うん。ミニャもご飯まで縄跳びしてるね」
クレイと別れ、ミニャはスペースの端っこで持ってきた縄跳びを始めた。ミニャは船で走り回ったりできなかったため、運動欲が高まっている様子。
「シュバババババッ、うにゃにゃにゃ! シュバババババッ、うにゃにゃにゃ!」
自分で効果音を口にしつつ、凄い勢いで縄跳び紐をぶん回す。ちなみに、『うにゃにゃにゃ』のところで三重跳びやハヤブサ跳びをしている。
この旅では激しく運動する機会が少ないだろうと予想して持ってきた縄跳び紐だったが、賢者たちは持ってきて良かったと思った。
「ふいー!」としたミニャは、ふとコーネリアの視線に気づいた。メイド役なので微笑ましく見守っている。
「コーネリアさんもやる?」
ミニャが首を傾げてそう問うと、賢者は、他の人も使うかもしれないと思って持ってきた縄跳び紐をコーネリアの足下へ運んであげた。賢者は用意が良いのだ。
「えっ」
「コーネリア、ご一緒させてもらいなさい」
「えっ」
ミニャが一緒に遊びたいのだろうと判断したシゲンからそう言われ、退路は断たれた。
賢者から縄跳び紐を受け取ったコーネリアはメイド服で縄跳びを始めた。それを横で見ているルカルカは抱腹絶倒。
コーネリアも子供たちと一緒に縄跳びをしたことはあるが、貴族の家の庭でメイド服を着て、友人に笑われながら跳ぶとなると、顔を赤くし始める。
唐突に始まったお姉さんの辱めに、生配信を見ながら朝食を食べている男性賢者たちは、朝ご飯がとっても美味しく感じた。
ルカルカは笑っているが、冒険者だけあってコーネリアの腕前は非常に良い。体を安定させながら片足ずつリズムを刻んで跳び続ける。大きく跳ねないので、ロングスカートが捲れることもない。
「やっぱりコーネリアさんは上手! ミニャもそれやろうっと」
ミニャも負けじと縄跳びを再開する。しかし、今回は派手な技を使わずに、コーネリアの真似をして小刻みに跳ぶように心掛けた。ヒュンヒュンヒュンヒュンと、風を切る気持ちの良い音が鳴り始めた。
「見事なものだな」
領主も見学に来て、シゲンの隣で言う。メイドさんの辱め縄跳びを評価しているわけではないはずだ。たぶん。
「コーネリアはなかなか腕の良い冒険者ですからね、これくらいは。しかし、それを言うのでしたら、クレイ様も剣の修練を続けているだけあって安定して跳びますよ」
「ほう」
クレイの村での成績を教えられ、領主は満足気。
すると、ミニャがおせっかいをした。
「クレイ君もやる?」
「えっ。では、少しだけお借りします」
なんだかそういう雰囲気なので、クレイは、ミニャの縄跳び紐を借りてコーネリアと並んで跳び始める。これにより、ミニャが止めたのにコーネリアは止められないという恐るべき状態に突入した。
「ほう、確かに安定しているな。しかし、やはりコーネリアの方が無駄なく跳んでいる」
領主は厳しく評価した。
ちなみに、初めて領主と会った時に、ミニャはアメリアたちに縄跳びを布教している。そのため、領主もこの遊びを知っているし、ソランはアメリアと一緒に遊んだことがあった。しかし、ソランはスポーツ的な縄跳びは知らず、あくまでも遊びである。
「皆様、朝食の支度が整いました」
そこへメイドがやってきて、縄跳びイベントが終わった。
朝から運動してミニャはにっこり。コーネリアは、まあ褒められたからいいかと納得しておいた。
食堂に行くと、すでにアマーリエとアメリアが着席しており、ミニャたちを待っていた。
「アマーリエ様、おはようございます」
「おはようございます、ミニャ様」
「アメリアちゃんもおはよー!」
「おはようございます、ミニャ様」
「どったの?」
いつもはニコニコして挨拶してくれるのに、今日のアメリアはちょっとしょんぼり気味。それを一発で見抜いたミニャは、隣の椅子に腰かけつつ首を傾げた。
すると、アメリアはもじもじしながら言った。
「あのあの、明日から私も朝に体操と縄跳びをご一緒して良いですか?」
どうやら一緒にやりたかったらしい。
朝起きて、窓から楽しそうなことをしているミニャや父親たちの姿を見て、愕然としちゃったアメリアちゃん6歳である。
「ホント! じゃあ明日から一緒にやろう!」
「は、はい!」
決着!
これにより、アメリアのしょんぼりはニコパに変わった。
そんなことがありつつ、さっそく朝食が始まった。
朝食は玉米ご飯に野菜たっぷりコンソメスープ、焼き魚、女神の恵みの浅漬けのようなもの。
「むむむっ、コンソメスープだ」
「ミニャンジャコンソメはいろいろなところで飲まれてますね」
アメリアに言われて、よくミニャンジャコンソメを作るお手伝いをしているミニャは誇らしげ。
「王都ではミニャンジャコンソメをよく飲むのか?」
領主がこの屋敷付きの執事に問うた。
「はい、大変に人気です。現在は、主に貴族の屋敷でお食べになっています。庶民の間だと、豪商や一部の食堂で使用しているようです。そこまで高価な物ではありませんが、貴族でも予約をしなければまず買えないほど人気があるようです」
執事の返答を聞いて、賢者たちはふむふむ。
ミニャンジャコンソメは、グルコサの商業ギルドからかなり催促が来る。グルコサの人たちで消費してくれたらいいな、ぐらいの気持ちで取引していたが、国中に運んでいるとなると、さもありなん。
【312、名無し:ミニャンジャコンソメ、大人気じゃん】
【313、トマトン:予想以上にヒットしたね】
【314、ナオマサ:病床の折に何度かご馳走してもらったけど、あの美味さは高級フレンチで出てくるコンソメ系統の料理を凌駕しているよ】
【315、ロバート:ああ、私も食べさせてもらったけど、あれは美味しかったね。コンソメ系だと人生で一番美味しかっただろうな】
【316、名無し:ナオマサ氏とロバートさんが言うなら本物じゃん】
【317、名無し:いいなぁ。俺もミニャンジャコンソメを持ち帰ろうかな】
【318、名無し:それよりも、村が儲けるチャンスじゃない?】
【319、名無し:村民さんのキャパを超えるから、増産するとしたら夜間の賢者のクエストになるだろうな。あとは村民さんが増えてくれたらいいんだけど】
【320、名無し:なんにせよ、増やす手立てを考えるべきだろうな】
ミニャンジャコンソメのブームに賢者たちは商機を見出し、盛り上がる。
さて、食事も終わり、領主がミニャに言った。
「ミニャ殿、これからの予定だが」
ミニャは居住まいを正して「はい!」と答えた。別にそんなに気張る必要はないのだが。
「今日はこのあとに客人が来る。私の父と母、そして、妹だ」
「うんとー、お父さんはフォルガさんで、お母さんはフォルガさんの奥さん。妹はぁ……ルファードさん?」
「いや違う。ルファードの双子の姉だ」
「にゃんと。ルファードさんは双子なんだ」
「ああ。まあ、そういうわけで、少し会ってやってほしい」
「わかりました!」
「明日の午前は王城へ行って、王や王子と顔合わせをしてほしい。午後は特に予定は入っていないが、この顔合わせがいつまで続くかわからないので、ひとまず予定は入れないでほしい」
「王様と王子様かー。緊張するなぁ」
ミニャがそう言うと、領主は少しだけ「えっ」みたいな顔をした。ミニャが緊張しているところなど見たことがなかったからだ。
しかし、賢者たちは、知らない人と初めて会う時のミニャが相応にドキドキしていることを知っている。
「まあ、私やアメリアたちも同席するから、そこまで緊張しなくても大丈夫だよ」
「わかりました!」
「それと、この日は誕生会のプレゼントの搬入があるので、賢者殿やシゲンたちでも構わないからそれに同席してほしい」
「ふむふむ。賢者様、はんにゅーだって」
『くのいち:オッケー、それはシゲンさんと話し合ってこっちでやっておくよ』
「お願いします!」
「明日はそのようになっているが、明後日の夕刻に王子の誕生会となる。午前中に予定はないが、午後は準備等あるので予定を入れないでほしい」
ミニャは「ふんふん」と頷きつつ、テーブルに乗った賢者をチラッと見る。賢者もちゃんと聞いているので、忘れちゃっても大丈夫!
「その翌日から3日間は特に予定はないのだが、こういう日は誰かと会う想定をしておいてほしい。例えば、誕生会で親しくなった人が、後日にお茶をしたいと申し入れがあった場合に使うような感じだね。だから、午前あるいは午後にだけ予定を入れるようにするといい。何かしたいことがあれば、遠慮なく言ってくれてかまわないよ」
ミニャと賢者たちは、ふむふむ。
自由な日なのに自由ではないということに、賢者たちはちょっと驚いた。しかし、理由は尤もなので、納得である。貴族は大変だ。
「帰りの船は6日後になる。グルコサに着くのはその2日後を予定している」
「わかりました! 賢者様もわかった?」
『くのいち:うん、大丈夫だよ』
ミニャは、うむぅと頷いた。安心!
まとめると。
・1日目、2日目は船旅、3日目に王都到着。これはすでに終わっている。
・4日目の本日はフォルガと奥さん、領主の妹と会談。
・5日目は午前中に王家の人たちと顔合わせ。午後は未定。
・6日目に誕生パーティ。
・7、8、9日目は自由行動、ただし、誰かと会うかもしれない。
・10日目に帰りの船に乗り、12日目にグルコサ到着予定。おそらく、そのままミニャンジャ村へ帰還。
これを基にして、ミニャの部屋の待機している賢者たちは、さっそく旅のしおりの制作を始めた。修学旅行のノリである。
『乙女騎士:ミニャちゃん、それではあとで空いている時間に何をするか決めましょうね』
「うーん。ミニャ、王都の港で釣りをしてみたいな!」
釣り好きミニャちゃんはさっそく希望を言った。賢者たちはメモメモ。
すると、アメリアが仲間に入れてほしそうに見ていることに気づいた。
「アメリアちゃんも一緒に決める?」
アメリアはパァッと顔を明るくして、両親に顔を向けた。
領主から許可を貰い、アメリアも一緒に決めることになった。
読んでくださりありがとうございます。
6月20日に書籍が発売されました。
たくさんの方からご購入や到着待ちの報告を頂いて、とても嬉しく思います。
この場を借りて御礼申し上げます。
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