8-16 王都邸
本日もよろしくお願いします。
ミニャを森守伯邸に送ると、旅の仲間たちは一時解散となった。
フォルガのパーティメンバーは執事のジゼを残して、各々がどこかへ行ってしまった。元々王都で生活していた人たちばかりなので、行く場所があるのだろう。
黒剣騎士団も邸宅警護の手伝いで数名が残って、他は通常業務に戻る中、団長のルファードだけは森守伯邸にお邪魔していた。
ミニャはまず、森守伯邸での部屋に案内された。
そこはリビングと寝室と従者用の部屋がセットになった客間で、床面積はかなり広い。洗面台とトイレ付だが風呂は館の物を使うようだ。夫婦が泊まることも想定されているのか、ベッドは2つあり、いずれもふかふかしている。
洗面台の水や部屋の光は魔道具が使われており、現代人でも不便なく過ごせそうな部屋である。
従者用の部屋はコーネリアが使うことに決まり、夜間や早朝の雑事に備えてもらう。また、従者用の部屋には湯沸かし用のコンロの魔道具があり、すぐにお茶を淹れられそうだ。
ちなみに、メイドとしての腕前はルカルカよりもコーネリアの方が優秀だ。ルカルカとシゲンは離れにある使用人用の宿舎に泊まり、昼中にミニャのお世話をすることになる。
「ミニャ様、どうですか?」
「とっても素敵!」
ミニャは、問うてきたアメリアに星5レビューをプレゼント。
「あのあの。王都にいる間に、このお部屋にお泊まりしていいですか?」
「うん、いいよー。一緒に寝よー!」
「わぁ、本当ですか! お父様にお願いしてみます!」
「うん!」
2人がそんな約束をするので、近衛賢者たちもワクワクした。
お部屋を確認したミニャは、アメリアと一緒に談話室へと向かった。
そこでは領主とフォルガ、そしてルファードが話をしていた。フォルガのそばには執事のジゼが立っている。
領主は昨晩にクラウの修行を受けたのだが、そこはホストだからか頑張っている様子である。
アマーリエは使用人たちにいろいろと指示を出しているようで、貴族夫人の大変さが窺える。
ミニャとアメリアはメイドさんに椅子へ案内されて、着席した。
王国にはまだソファがないので、脚付きのふかふかクッションの椅子である。サイドテーブルにはさっそくお茶が用意された。
「ありがとうございます!」
「おかわりの際は、なんなりとお申し付けください」
元気にお礼を言うミニャに、メイドは微笑んで頭を下げた。
ミニャはそのサイドテーブルに人形に宿ったニーテストを乗せ、自身のお膝にはネコ太を着席させる。さらに、隣に座ったアメリアにも近衛賢者を渡した。大人ばかりだった部屋のおままごと指数が急上昇である。
「ミニャ殿。部屋は気に入ってもらえたかな?」
「はい、すんごく良いお部屋でした」
領主にも大満足の星5レビューをプレゼント。
偉い人同士の会話だからか、アメリアはミニャの隣でニコニコして大人しくしている。
「ミニャ様。改めまして、ルファード・リオスターと申します。どうぞお見知りおきください」
「はい、よろしくお願いします。うんとうんと、ルファードさんは領主様の妹さんですか?」
「左様です」
「おー。やっぱりなぁ」
フォルガの娘とだけは聞いていたので、ミニャは自分の推理が正しかったことに喜んだ。
【800、名無し:賢い!】
【801、名無し:せ、せやろか?】
【802、名無し:私も賢いと思うな。私が子供の頃は大人の相関関係とかさっぱりわからなかったよ。さすがに親の兄弟くらいはわかったけど】
【803、名無し:俺も祖父母の兄弟になるとわからなかったな。正月に顔を合わせていたのに、たまに見る爺さんくらいの認識だったわ】
【804、名無し:俺にも、たまに家に来る謎のおじさんがいたけど、それが母親の弟だと知ったのは小学生だった記憶がある】
【805、名無し:子供の時分だと、別の場所で暮らしている兄弟って存在がピンと来ないんじゃない? 巣立ちと結婚を理解する必要があるわけだし】
賢者という生き物は、ミニャの言動ひとつで幼女学を考察し始める。
「ミニャ様、いまはルファードにクラウ様のことを話していたのです」
そう教えてくれたのはフォルガだ。
ミニャは自慢したいネタなので、ぴょんとお尻を跳ねさせた。
「すんごく大きかったんだよ! ねーっ、アメリアちゃん」
「はい。お船よりもずーっと大きくて、とても綺麗でした」
アメリアにも話を振ってあげる。
「伝説の水龍様を見られるとは、羨ましい限りですね」
「あっ、そうだ! ルファードさんにも見せてあげる!」
ミニャはペペッとミニャのオモチャ箱のシステムを操作した。ウインドウを可視化できるのは多くの人にバレている能力なので、隠すほどのことではないと、ニーテストは好きにさせた。
ただ、見せる人は考えた方が良いので、そこら辺はあとで話し合うことにした。なにせ、ミニャはこの部屋にいる全員が見えるようにしてしまったからだ。ルファードの他にも、屋敷勤めの執事やメイドもいるのだ。
ルファードが目を見開く。ミニャや賢者たちの周りに浮かぶウインドウが見えるようになったのだ。
「こ、これは……」
「その視覚を得たのなら、賢者殿と話すことも可能だ」
「なんと、まことですか」
そうやってルファードが仕様を教えてもらっている間に、ミニャはニーテストに教えてもらって動画をセットした。
さらに、ミニャはウインドウを53インチテレビくらいの大きさに広げた。
ウインドウは拡大することもできる。視覚的に非常に邪魔なので普段はやらないが、ミニャが夜に動画を視聴する際などに利用している。パトラシア初の動画っ子であるミニャの指捌きは慣れたもので、ススイッと拡大しちゃう。
「こんな感じでした!」
そう言って、ミニャは動画をスタートした。
夜の闇の中、青く煌めいた水面から天へ昇るように姿を現した水龍。パトラシアにはまだ存在しない動く映像、それも初視聴が伝説の龍ということもあって、ルファードは大きく口を開けてぽかーんとした。ついでに、壁際にいる執事やメイドもぽかーんとした。
キャッキャしているのは、ミニャとフォルガとアメリア。領主は昨晩に修行を受けているので、少し反応が鈍いところがある。
動画は水龍が水の中に消えたので終了した。
「はっはっはっ、言葉を失っておるわ」
フォルガが自分のことのように自慢げに言う。
それを聞いたルファードはハッとした。その瞳は瞬く間に煌めきだす。
「何から驚いていいかわからないほど素晴らしいです」
女神の使徒の能力と水龍クラウの姿。どちらから評価を口にしていいかわからずに、素直にその気持ちを感想にした様子だ。
「ミニャ様はクラウ様から修練を受けたのですよね?」
「はい。フォルガさんも領主様もアメリアちゃんもメイドさんも、みんな受けました」
「あ、アメリアとメイドまで」
あの中で受けていないのはニャロクーンと船乗りだけである。
そこでルファードは、思い出したようにアメリアを見た。
「そういえば、アメリアの体はすっかり良いのかい?」
ミニャについての報告の中に、その件も書かれていたのだろう。ルファードにとっては姪にあたるので、耳に入っていたようだ。
「はい。ミニャ様と賢者様が治してくれました」
「そうか、良かったなぁ。遅ればせながら、ミニャ様、私からもお礼を申し上げます」
「ううん、アメリアちゃんはお友達だからね」
ミニャがそう言うと、アメリアはテレテレもじもじとした。
読んでくださりありがとうございます。
■御礼申し上げます■
6月20日、本日ミニャのオモチャ箱の書籍が発売されます!
改めまして、これも皆さんの応援があってのことです。ありがとうございます。
また、いつも誤字報告をしてくださる方々のおかげで、書籍化の作業を円滑に進ませることができました。重ね重ねありがとうございます。
いただいた感想によると、すでに届いたという方もちょっと遅くに届くという方もいらっしゃるようですが、お手元に届いた方は楽しんでいただけたら幸いです。
書籍版は、2巻を出す前提で物語を再構築し、かつミニャをもっと活躍させるというコンセプトで書かれています。そのため、ミニャと賢者が出会った時点から大きく変更した点があります。
こういった理由から、相当な文字数を加筆しました。もちろん、書きおろしストーリーやささやかながらあとがきも収録しています!
注目ポイントは上述の加筆の多さに加え、にもし先生の可愛いイラストです。本作の様々なシーンを彩っていただけたので、どうぞご堪能ください。
それでは、ミニャのオモチャ箱が皆さんに良い土日をお届けできると祈って!




