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ミニャのオモチャ箱 ~ネコミミ少女交流記~  作者: 生咲日月
第8章

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特別編 書籍発売直前 特典SSサンプル

本日もよろしくお願いします。


■この物語は、賢者たちがミニャと出会った頃の話です■

今回の話は、応援してくださった皆様に向けて、書籍1巻のサンプルのSSです。


 ◆とある男の異世界デビュー


 土曜勤務。

 平安時代には怒養禁夢とも書かれ古来より忌み嫌われていたその労働に、男は従事していた。


 仕事内容はピッキング作業。要は物流の倉庫で配達物を仕分ける仕事だ。

 カートに荷物を大量に乗せ、バインダーに挟まれた指示書通りに仕分けをしていく日々。一日に歩く距離は十㎞に及ぶこともあるが、難しい作業ではないし、企業の看板を背負って他企業のお偉いさんと会うわけでもないので、男は気楽に仕事ができていた。


 三月二十八日、土曜日。

 この日も男は朝六時から仕事をしていたのだが、今日はなんだか様子がおかしかった。


「さっきからなんだ?」


 胸ポケットに入っているスマホが何度も震えて着信をお知らせしてくるのだ。

 ピッキング作業は広い倉庫内でラックが並んだルートに沿って行なわれていた。指示書を見て、そのラックにある箱に品物を入れていくわけだ。

 さすがにこれだけ電話が来るのは異常なので、男はルートから外れてスマホをチェックすることにした。後ろでピッキングしていた年配の作業員がチラッと見て追い越していくが、スマホを短時間見るくらいは大目に見てくれる職場なので、特に何も言われない。


 まだ朝の十時前だというのに、中学以来の友人から十数件もの電話と、二件のチャットメールがきていた。


『いま仕事か? 大至急連絡してほしい』


『緊急の用事だ。可能な限り早く連絡をくれ』


 二件のメールにはそれぞれそう書かれていた。

 こうしてメールができているし、少なくとも命に関わる事態ではないようだ。

 あと少しで十時になれば小休憩があるので、その時に連絡しようと考えて男は業務を再開した。


 十時になり、倉庫から休憩室に人が移動する中、男はすぐに友人に連絡を取った。


「もしもし? どうし」


『大変なことが起こったぞ!』


 電話口で友人が言葉を被せて、叫ぶようにして言った。声の調子から、どうやら悪いニュースではなさそうだったが、いかんせんその声はうるさく、思わずスマホを耳から離した。


「おいおい、落ち着けよ。宝くじでも当たったか?」


『そんなちっぽけなもんじゃねえんだ!』


「はははっ、大きく出るじゃん。日本一の金持ちの巨乳美少女令嬢がお嫁さんに来たか?」


 そんなジョークを飛ばすと、一緒に働いている女性社員が丁度目の前を通り過ぎ、ゴミ虫を見る目を向けてきた。男はしゅんとした。一方で、友人は興奮をそのままに言う。


『おい、いいか。いますぐ仕事を早退しろ』


「は? いや、無理だって」


『バカ! 本当に一生後悔して暮らすことになるぞ! このあとすぐに早退して、俺の家に全力で来てくれ! これを逃すと、ガチのマジで絶対に死ぬほど後悔することになるから、いますぐに早退しろ。絶対だ。絶対だぞ⁉ 本当に取り返しがつかない可能性があるからな!』


 その剣幕に、男は思わず息を呑んだ。

 友人はフリーターとニートを行ったり来たりするヤツだったが、少なくとも、遊んでもらうために他人に早退しろなどと言う非常識さはなかった。そんな友人がこれだけ必死になって捲くし立てるのは、ただ事ではなさそうだった。


「一体何があったんだよ。まずはそれを教えてくれよ」


『電話越しに話せるようなことじゃないんだ』


 そんな不確かな内容で早退させるのかと思いながら、男は眉根を寄せる。そんな男の表情を実際に見ているかのように、友人は最後にこう言った。


『それじゃあ、十二時まで俺は家で待ってるから。俺も自分のことで手一杯だから、それ以降は悪いが、お前がどんなに後悔しても全部スルーさせてもらう。いいな、これは冗談でもなんでもなく、本当にお前の人生の分岐点だ。こっ恥ずかしくてお前のことを親友なんて呼んだことはないが、あえて言う。中学からの親友として忠告するぞ。ガチで早退しろ。十二時だ。十二時まで家で待つ』


 先ほどまでの興奮した声とは裏腹に、友人はどこか唇を震わせているような声で告げた。それは男が間違った選択をした未来を想像したのかもしれない。

 通話が切れたスマホを見つめ、男はちょっと嬉しくなった。親友だったんだぁと。乙女か。


 ここまで言われたら早退しないわけにはいかない。だって、親友なんて初めて言われたから。

 しかし、男は体調よし、顔色よし、熱もなし、早退するには元気すぎる。だから、仕方ないので、死んだ爺ちゃんに危篤になってもらうことにした。親友のためなのだから、爺ちゃんもあの世で笑って許してくれるだろう。

 幸いにして、男は真面目に勤務していたので、職長からの覚えもよく、割とすんなりと早退させてもらえた。ただ、先ほど通り過ぎた女性社員だけは半眼で見ていたが。


「早退したぞ」


『よし! すぐに家に来てくれ!』


 駐輪場で友人に電話をすると、先ほども言っていたようにそう指示があった。

 男はママチャリに飛び乗り、全力で漕いだ。会社の敷地から大急ぎで出ていく男の姿を女性社員が窓から見下ろし、本当に重大事なのかもしれないと考えを改める。


 会社から実家まで自転車で十五分、現在ニートの友人の実家までは二十分といったところ。


「おせーよ! 待ちくたびれたぞ!」


「これでも急いだわ」


 玄関が開くなり、文句を言ってきた友人に男も言い返す。

 友人の部屋へと入り、男は問う。


「それで、何があったんだ?」


「勿体ぶりたいところだが、もしかしたら時間がないかもしれないから、単刀直入に言おうか」


「その前置きも十分に勿体ぶってるぞ」


「茶化すな。いいか、聞いて驚くなよ。異世界に行けるサイトを発見した」


「ぶん殴っていい? こっちは早退してんだぞ」


「待て、落ち着け、拳を下ろせ。ガチなんだよ。ひとまずこれを見てくれ」


 友人はそう言うと、パソコン画面を見せてきた。


「信じられないかもしれないが、これが全部、リアルタイムで起こっていることなんだぜ?」


 友人はそう言ってドヤ顔を見せてきたが、男は困惑するばかり。なにせ、パソコンの暗い画面はキモオタカットインをするばかりで、何も映っていなかったのだ。

 しかし、友人が自分のことを担いでいるようには見えなかった。瞳は何かを追うように動き、何かに反応してとても自然に笑い、そして、「この子はミニャちゃんって言うんだぞ。滅茶苦茶可愛いだろ?」などと言う。


 異世界に憧れすぎて、精神を病んでしまったのではないか。男はそう心配した。


「何も……映ってないぞ?」


「は?」


 友人はキョトンとして、男と画面を見比べた。


「冗談だろ? これが見えないのか?」


「あ、ああ。見えないよ……何も……見えない」


 いよいよ男は泣きそうになりながら、異世界に行ったらアレしたいコレしたいと語り合った日々を思い出す。あれは、現実に疲弊した友人の心の悲鳴、見逃してはならないサインだったのではないかと。


「嘘じゃなさそうだな。ミニャちゃんを見て、お前がそんな顔できるはずないしな。ちょっと待ってくれ。それじゃあこの画面は?」


「それは見えるよ」


 友人はパソコンのホーム画面を見せてきた。そこには炎を纏ったカッコイイ美少女キャラを背景にして、多くのファイルが並んでいた。

 その中にある『世界の神話』という賢そうな名称のファイルは、お互いにどちらかが死んだら、死んだ者の尊厳を守るために、残った方が速やかに消去すると取り決めをしている秘密の宝物入れだった。男は、本当にこのファイルを自分の手で消す日が来るかもしれないと、辛い気持ちになった。


 男がそんなことを思っていると、友人が何もない場所にカーソルを合わせて言う。


「じゃあ、このアイコンは?」


「そこにアイコンなんてないよ。すまん……俺、お前が辛いのに気づいてやれなかった」


「頭がおかしくなったと思ってらっしゃる⁉ 待て待て、違うから!」


「わりぃ、こんな時って、どうすればいいのかな……」


 男はくしゃりと顔を歪ませ、友人は大きく仰け反った。


「と、とりあえずだ。スマホを出して、最強女神スレッドって検索してくれ」


 上手く思考が働かない男は言われるままに行動した。

 沈んだ気持ちなのでその手の動きは遅く、友人は少しイライラ。


 それでも目当てのページが出てきたので、友人に言われるままURLをタップして、サイト登録を始める。

 全ての登録が終わるとどうだろうか、先ほどまで何も映っていなかった友人のパソコン画面に色が宿ったではないか。

 それは、サイト登録画面にも画像で出てきた少女で、友人のパソコン画面の中では森の中でたくさんの人形に囲まれながら元気に働いていた。


「え?」


「その顔を見るにビンゴか。見えるようになったな?」


 ニヤリと笑う友人だったが、格納していたタブを表示すれば良いだけのことなので、男は懐疑的だ。しかし、マウスはテーブルの上にあり、触れたようには見えなかったが……。


「よし、それじゃあこのサイトのことを説明する。わかっていると思うが、このサイトの名前はミニャのオモチャ箱。コミュニティツールにして、異世界に行けるサイトだ。実際に俺もさっき行って、ミニャちゃんと一緒に働いてきた」


 友人から説明を受けた男はすぐ夢中になった。

 異世界に行けることについては信じていなかったが、可愛らしいネコミミ幼女が人形たちと働く姿を掲示板のみんなとワイワイしながら眺めるサイトのコンセプトは、とても楽しかった。


 そして、男にも召喚を体験する時が訪れる。

 おウチ作りを体験して一時間の召喚が終わった男は、巨大な森の中から見知った友人の部屋に戻ってきた。


「ガチで異世界に行けるサイトじゃねえかよ⁉」


「だから最初から言ってるだろ。それでどうだった?」


 勝ち誇った友人の顔は憎たらしかったが、それに文句をつけられるはずがない。逆の立場なら自分だって盛大にドヤ顔をするだろうから。


「ミニャちゃんは可愛いし、全部巨大だし! あぁ、ダメだ! 何を言ってもチープに聞こえる! とにかく最高だった!」


「そうだろう」


「そんなことよりも次の召喚を狙うぞ!」


「ああ、もちろんだ!」


 それから男たちは夢のような召喚を何度か体験した。

 夕方になり、全ての賢者に通知があった。曰く、三百人の賢者が登録したので、先行登録が打ち切られたということだった。


「三百人で打ち切りだったのか」


「あ、あぶねえ……っ」


 男はその事実に冷や汗をかいた。

 下手をすれば、友人が言っていたように、本当に死ぬほど後悔していたかもしれない。先行登録と書かれているので、いずれは登録できたかもしれないが、それは一体どれほど先のことなのか。それに、この不思議なサイトの第一陣という称号を手に入れられたのは、かけがえのないものに感じられた。


「お前の言ったとおりだった。マジで説得してくれてありがとう!」


「おう、これで俺はお前の命の恩人だな。二度と俺に足を向けて寝るなよ」


「わかった。お前んちに向けて五体投地しながら寝るわ」


「ただのうつ伏せで草」


 そんな冗談を口にして笑い合い、二人は再びミニャのオモチャ箱へ没頭していく。

 明日は日曜日で男も仕事は休み。さあ、パーティの始まりだ!


 これは友人同士で三百人の賢者になった、とある男たちの始まりの物語。


読んでくださりありがとうございます。


■宣伝■

6月20日(土)にいよいよ書籍が発売されます!

いくつかの書店さんで、購入特典SSが付きます。その数、8種類……っ! ※特典の配布については条件が異なる場合があるかもしれないので、詳細は書店様HPよりご確認ください。


各書店さんの購入特典SSのタイトル情報を貼っておきます。

また、下部フッター『オーバーラップ情報局 ミニャのオモチャ箱1巻特典情報』に詳細がございます。『霊峰シッポうねうね山』や『掲示板 ミニャちゃんベストショット大会』など8種類ありますので、ぜひぜひ、どんな特典があるのか見てくれると嬉しいです。


それと、X(旧ツイッター)でも特典情報が投稿されていますので、いいねやRTをしていただけると嬉しいです。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
昨日の帰りにもう店頭にあったので思わずゲット、すでに二冊予約済みだが我慢できなかったのでしょうがないね。
ご報告、19:06にメロンブックスさんからコンビニ番号メール来たんで、風呂上がってまったりしてたけど光の速さでコンビニ行って支払ってきたなう。早く来ないかな~♪
親友だったんだぁって感想がかわいい。 始まった瞬間、どっぷり浸かって職を失うんだよ……。じいちゃんが危篤になって心神喪失でオモチャ箱で活動すると収入が得られるようになっていって強く健康になって職場復帰…
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