8-14 王都到着と黒剣騎士団
本日もよろしくお願いします。
船旅3日目になると、フォルガたちもすっかりと体調を戻した。その代わりに、2日目に修行を行なった領主や一部の従者がよれよれになってしまったが、本人たちも覚悟の上のこと。これは賢者たちにも言えることで、修行1日目の賢者と2日目の賢者が入れ替わるようにしてダウンしていた。
森守伯というかなり偉い立場の領主が、担がれて王都入りするのはまずいので、入港する時間を少し遅くしてもらうことになった。風に大きく影響を受ける旅なので、そのあたりの対応はかなり柔軟だった。
トランプや縄跳びで遊んで過ごし、昼少し過ぎになって領主が目を覚ましたので、いよいよ王都へ入港する運びとなった。
「ミニャ様、そろそろ王都が見えてくるそうですよ」
コーネリアに教えてもらい、ミニャたちは甲板へと出た。
ミニャとアメリアは船縁にちょこんと指を掛けて、湖を見る。
「コーネリアさん、たくさんお船がいるね。なんで動いてないの?」
王都が近づいたためか、周りの水域には遠くにたくさんの船が停泊していた。
「あれは順番待ちですよ。船が港の近くで待っていたら他の船にぶつかられてしまう確率が上がるので、ああして港から結構離れた場所に停泊して順番を待っているんです」
「そうなんだー」
ミニャは船の進行方向を眺める。
「王都はまだ見えないね」
「見張りは船の高いところから見ていますからね。甲板からはまだ見えないんですよ」
コーネリアが教えてくれて、ミニャはマストの上にいる船乗りを見上げ、「にゃるほーね」と納得。
「ミニャ様。あれをご覧ください」
コーネリアが領主の船を指さす。
ミニャはすぐに違いに気づいた。
「旗が立っとる!」
全てのグルコサの高速船がランクス森守伯家の紋章を掲げているのだ。
周りで船が順番待ちしている中、この船団が停まらずに港に向かっている理由はこれである。森守伯の船は順番待ちがないのだ。
「ミニャ様、ミニャンジャ村の船も揚げるみたいですよ」
「にゃんですと!」
ミニャの期待する声を合図にして、ミニャのお船で賢者たちが重大任務を始めた。
『水神王:よっしゃー、村旗を掲げろーっ!』
『ジャパンツ:ミニャちゃん陛下の旗を揚げろーっ!』
『タカシ:うぉおおおお!』
それは、円を描く花々を2体の人形が支え、その真ん中で緑色のネコがお座りしている紋章が描かれた旗であった。
もちろん、これらには全て意味が込められている。
円環の花々は、ミニャが女神に花冠を渡したエピソードをモチーフにしており、ミニャと女神の出会いを象徴している。そして、この旗の下で多くの人が花開き、縁が結ばれる意味も持つ。
円環を左右から支えている人形は当然、賢者。円の真ん中にいる緑毛のネコはミニャである。
「にゃー、ミニャンジャ村の旗が揚がった! カッコイイ!」
「わぁ、あれがミニャンジャ村の旗なんですね。素敵です」
自分のところの旗が揚がり、ミニャはえっへん!
「あっ、アメリアちゃん、見えてきた! ほら、賢者様も見えてきた!」
「あっ、本当です!」
ミニャは足元の賢者をむんずと掴み、見せてあげた。
水平線に王都の街並みが見えてきた。
グルコサもかなり大きな町だが、王都はそれよりもずっと大きな町で、前方に見える陸地は西から東まで見える範囲で町が途切れることはなかった。
船は、どうやら港の西側に入るようだ。
港が近づき、港に面した建物の詳細が見えるくらいになると、大型船が停泊して入港の準備を始めた。やはり出発した時と同じように、入港の時も牽引してもらうのだ。
「大きなお船は大変なんだなぁ」
ミニャは船乗りさんたちのお仕事を見て、また1つ人の生活ぶりを学んだ。
日本のフェリーなどに乗ったことがある賢者からすると、かなりゆっくりとした入港だ。しかし、ミニャたちには面白いようで、高速船や人々が力を合わせて大型船を接岸させる様子を楽しそうに見ていた。
さて、そんな港だが、黒いコートの上に黒い鎧をつけた騎士たちが整列していた。
「ミニャ様、あれが王都を守護する黒剣騎士団です」
「むむむっ、賢者様が教えてくれたヤツ。ふぉおおお、カッコイイ」
昨晩に修行を受けて、現在は復活したシゲンが教えてくれた。シゲンは若干、顔が青いものの、休んでいる場合ではないと頑張っている様子。
賢者たちは王都の暮らしぶりで重要なことを、あらかじめミニャに教えていた。黒剣騎士団もそのひとつだ。とはいえ、賢者たちもフォルガやシゲン、領主たちから教えてもらったことをミニャに教えているだけだが。
「並んでいるけど、これからお船でお出かけするのかな?」
「いいえ、あれはミニャ様をお迎えにきたのです」
「にゃんですと! じゃあご挨拶しないと!」
そうこうしていると、港にタラップが渡された。ギリギリに接岸しているわけではないので、結構長めのものだ。
それを見たミニャはワクワクし始めた。ミニャは子供らしく、こういう橋を渡るのが好きだった。
賢者たちが先んじて港に整列する。その数、200名。
この日のためにお揃いの衣装が作られ、美形のフィギュアたちに着せられていた。
人形の材質は、希少石やダンジョン産の鉱石。宿る者によっては、水蛇の幹部すらぶっ飛ばせるスペックの人形たちだ。
さらに、ミニャの周りにはサバイバーを筆頭にして精鋭の賢者たちを配備。彼らも同じ衣装を着ているが、近衛賢者たちだけはメイド服を着ていた。
そこにシゲンやコーネリア、ルカルカが加わる。
200名+精鋭たちは、ミニャの全兵力の10分の1にも満たない数だが、かなりの迫力があった。黒剣騎士団はよく訓練されているようで驚く素振りはないが、港で働く人たちはざわざわである。
注目を集めているなんて知らないミニャは、楽しそうにタラップを渡る。キッズである。
一方、その後ろについてきていたアメリアはちょっと怖そうにした。それを見たミニャは、アメリアと手を繋いで一緒に降りてあげる。その王としての器の広さに近衛賢者は足をガクガクさせるが、今はそういう時じゃないので気合を入れた。
仲良く港に降りたミニャは、領主に呼ばれて、領主やフォルガと並んで立った。
その前には黒剣騎士団が整列しており、全員が両腕を背中に回した最敬礼を行なっている。
騎士たちは男性もいるし女性もいる。全員が精悍な顔をしており、とっても強そうだ。
騎士たちの黒い装備はどうやら革鎧のようだが、この世界は魔物素材があるので決して侮れないと生産属性の賢者たちは分析する。なによりも、非常にカッコ良かった。
そんな黒剣騎士団の前には、一人の女性が立っていた。
歳は20代半ばほどか。ショートカットの青い髪がとても似合う美人である。
その女性が軍人らしいはきはきした声で言う。
「ミニャ様のお迎えにあがりました。黒剣騎士団団長ルファード・リオスターと申します。これより、黒剣騎士団がランクス森守伯王都邸宅まで護衛をいたします」
それを聞いたミニャの頭の中で、脳内子猫たちがエネルギーゲージを確認する。充填率100%! ミニャが、よしと頷き、一歩前に進み出る。その間にもエネルギーゲージは溜まっていき、充填率は120%!
「ミニャはミニャです! 7歳です! 女神様の使徒で、ミニャンジャ村の村長さんです! よろしくお願いします!」
女性騎士に負けず劣らずはきはきした声で、王都の港にご挨拶砲が炸裂する!
「ハッ、お会いできて光栄にございます」
これを真正面から受けてしまった女性騎士は片膝をついて礼をし、少し離れてメイドのふりをしているコーネリアとルカルカがギュッと唇を噛んだ。
『水神王:可愛すぎか』
『タカシ:見ろよ、ミニャちゃんの可愛さに女性騎士が屈したぜ』
『闇の福音:ミニャちゃん、王都上陸3分でキリリ系女性騎士さんをわからせてしまう』
『ラグーン:ていうか、この人も綺麗だな。パトラシアすげぇ』
『ダーク:だけど腹筋バッキバキだぞ。たぶん』
そして、賢者たちは騎士たちからフキダシが見えないのをいいことに、整列しながら言いたい放題。だが、列は一切乱さない。賢者たちもミニャが恥をかかないようによく訓練したのだ。
「ミニャ様、こやつは拙者の娘でもあります」
「にゃんですと! フォルガさんの娘さんなの!? はえー、だから強そうなのかー」
そう、この女性騎士は黒剣騎士団の団長であり、フォルガの娘だった。つまり、領主とも兄妹ということになる。
剣王の本家筋だけあって、ルファードも非常に強いのだろう。
【222、名無し:話には聞いていたけど、本当に娘さんが騎士団長なんだな】
【223、名無し:ソシャゲで最高レアとして登場しそうな美人さんだな】
【224、名無し:あまりよくわかってないんだけど、騎士団長に王族を据えるってありなのかな? クーデター的な意味で】
【225、クラトス:サーフィアス王家は基本的に王様になりたくない連中ばっかりなんだよ】
【226、名無し:そうなの?】
【227、クラトス:剣の才能が凄まじいから、本当は剣に生きたい連中が多いみたいだな。これはグルコサの領主もそうだし、現国王もそうらしいな。だから、王家の直系ならクーデターを起こさなくても、王になりたいならなれるそうだぞ。まあ、ダメなヤツだったらその限りではないだろうけど】
【228、名無し:マジか。よくそれで国がもつな】
【229、クラトス:フォルガ様や領主を見ればわかるが、根本的にサーフィアス王家の人間は真面目なところがあるからな。あと、趣味が剣だから国を傾けるような散財をしないのだろう】
【230、名無し:派閥争いをしている貴族が苦労しそうな話だなぁ】
生配信を視聴する賢者たちがそんな話題で盛り上がる中、ミニャたちの方でも話は進む。
「おい、ルファード。この船旅で、余は水龍クラウ様から修行をつけてもらったぞ」
いきなりフォルガが自慢を始めて、ルファードが思わず「えっ」と顔を上げた。ちなみに、フォルガはミニャに対しては『拙者』、他の人には『余』という一人称を使う。
「クラウ様、すんごく大きかったよねー!」
「あのお姿は神々しかったですなぁ! ミニャ様が全体のお姿を見せてくれるようお頼みくださって、本当に良い思い出になりました。いやぁ、あのお姿はきっと祖王陛下も見たことがなかったでしょうな」
「皆様は水龍様とお会いになられたのですか?」
「ルファード。ここで話すようなことではない。任務を続けろ」
「こ、これは失礼をいたしました」
兄である領主からピシャリと言われ、ルファードは任務を思い出した素振り。フォルガの方から気を散らすようなこと言ってきたのに、凄く可哀そう。自慢したいジジイが全部悪い。
200人の賢者を人形倉庫に収納し、ミニャは用意されていた馬車に乗り込んだ。その馬車の中や屋根の上に精鋭賢者が乗って護衛する。
こうして、ミニャちゃん陛下がついに王都入りをするのだった。
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