8-13 その頃のミニャンジャ村
本日もよろしくお願いします。
ミニャが旅行に出ても、ミニャンジャ村は普通に活動する。
子供たちは学校へ行き、大人たちはお仕事で、賢者たちのクエストも大量にある。
大人たちは普通だった。
大人になれば村長や上司がいない期間なんて体験するもので、慌てるようなことではない。慌てるとしたら何かが起こった時で、そうならないためにも普段通りにしっかりと過ごすのだ。
しかし、子供たちは違う。
子供たちのリーダーであり村長さんのミニャが出張するのは、特に年少組にとっては人生初と言っていいレベルの大事件で、普段通りとはいかなかった。
「ミニャお姉ちゃん、もう王都に着いたかなぁ」
イヌミミっ子のパインがそう言ったのは、ミニャが旅立った当日、お昼ご飯を食べている時だった。まだ4時間くらいしか経ってない。テーブルの上でそれを聞いていた近衛賢者は、キョトンとしてしまった。
「もう着いた?」
それを拾ったルミーは誤解して、嬉しそうにシッポをパタパタさせながら、周りのお姉ちゃんたちやテーブルの上の賢者へ、口元にチャーハンがくっついた顔を向けた。早く着けば早く帰ってこられると思っているのだ。
「え、もう着いたのー?」
クレアもぱぁっと顔を明るくして、ルミーと顔を見合わせた。良くない伝言ゲームである。
すると、双子兄弟のラッカが笑った。ラッカもまだ6歳だが、しっかり者なのでちゃんと理解している。
「王都は明後日に着くって教わったでしょ。だからまだまだ着かないよ」
「そっかー」
「クレアお姉ちゃっ、まだだってー」
「ねー」
しゅん!
当然、子供たちには王都までどのくらいかかるか教えている。
しかし、そこは子供。2泊3日は凄く長い旅でピンとこないし、凄く遠いと説明されてもグルコサよりも少し遠いくらいの感覚だった。
ご飯を食べ終わると、今日はおトイレ掃除の日。
このあとにどうせ遊ぶのでズボンタイプの作業着に着替え、おトイレ前に集合する。これをスカートでやると、年少組はスカートの裾を濡らしてしまうのだ。
「今日はスノーちゃん姉弟とロイ君、フラヴィちゃん、アイシャちゃんが男の子のトイレ掃除ね。残りの子は女の子のトイレを掃除してください。モグちゃんは賢者様と一緒に監督です」
「「「はーい!」」」
「もぐ!」
ミニャの代わりにシゲンの娘である最年長者のシャーリィが指示をして、お掃除が始まる。
「ミニャお姉ちゃっの分まで、ルミー頑張う! 賢者しゃま、モグちゃん、見ててね?」
『ホムラ:うん、ちゃんと見てるよ。お願いね』
「もぐ!」
「わふぅ!」
ふんすぅと気合を入れたルミーは、大好きなデッキブラシを武器にした。シャカシャカ鳴るし、手に伝わる感触もいいし、泡がもこもこするしでとっても楽しい。
「うんしょうんしょ!」
「わっ。ルミー、人の足下に向けてシャカシャカしちゃダメだよ。水が跳ねるから」
「わふ!」
お兄ちゃんのビャノから注意されて、ルミーは方向を変えてシャカシャカ。注意されちゃったけど、依然シッポはパタパタだ。デッキブラシの楽しさは凄いのだ。
【611、名無し:テラかわゆす】
【612、アオ:ミニャちゃんの分まで頑張って偉いなぁ】
【613、ナオマサ:子供たちの爪の垢を過去の僕に煎じて飲ませてやりたいものだ】
【614、名無し:お巡りさんこの人です!】
【615、ナオマサ:ま、待て、誤解が過ぎるよ!】
【616、名無し:うんしょうんしょシャカシャカ助かるぅ!】
【617、名無し:こんなん、うんシャカルミーや!】
【618、カレン:私も一緒にお掃除したいな。早く学校終わんないかなぁ】
【619、名無し:まずは学校の掃除をしっかりしてもろて】
【620、カレン:やってるよー。ミニャちゃんたちと一緒に過ごすようになって、これまで以上に真面目にさ】
【621、アオ:わかる。ユナやホクトちゃんなんて凄く真面目に掃除してるよ】
【622、名無し:真面目に掃除するギャルとか解釈一致じゃん】
【623、平和バト:僕の学校は丁度これから掃除なんですよ。ちなみに、今週の僕もトイレ掃除です。行ってきます!】
【624、名無し:行ってらー】
【625、ナオマサ:そうか、今の時間だと学校によってはそういうこともあるか。ずいぶん昔のことだから忘れちゃったよ】
【626、名無し:いま思うと、掃除の時間って割と楽しかったような気がするな】
【627、名無し:たしかに。特別な教室やトイレの掃除が楽しかったような気がする】
【628、名無し:俺は外の掃除が好きだったような気がする】
【629、名無し:全員『ような気がする』じゃねえかwww】
【630、名無し:そりゃ、美化した記憶だと思うし……】
お掃除が終わると、自由時間。
ミニャがいなくて遊ぶことに遠慮してしまうかもしれないと思った賢者たちは、いっそのことお仕事体験のイベントを催すことにした。とはいえ、ミニャちゃんがいない方が楽しいことや新しいことがある、みたいな認識になられても困るので、今までやったお仕事を再び体験する形だ。
本日はお人形さん作り。
陶器人形なんてなんぼあってもいいので、みんなに作ってもらう。完成まで数日かかるというのも連続性があっていい。
みんな陶芸なら体験したことがあるものの、フィギュア造りをやったことがあるのは最初に来たスノーたちとクレイだけだ。
「そうそう、フラヴィ、上手ねー」
「へへっ!」
「モコ、細かいところはしっかりと土を入れるんだよ」
「むずい!」
教師役はエルフ姉のレネイアとドワーフっ子のシルバラ。
2人は自由時間にいつも物作りをしているので、手先がとても器用だ。賢者たちのお仕事も手伝っているので、こういった物の工程をよく把握していた。
教えている子が型枠に特製粘土を詰め終わると、シルバラが生産魔法でサッと乾燥させる。いつもは賢者たちがやっていた作業も、少しずつシルバラができるようになってきた。とはいえ、魔力を使うとお腹が減るので回数は少ない。
乾燥させると型枠から外せるようになるので、教えてもらっている子たちはワクワクしながら型枠から粘土人形を取り出す。
「わぁ、ちゃんとできた!」
「ちゃんとお鼻がある!」
初めて作った人形に子供たちはテンションを上げた。
細かな仕上げを賢者たちが行ない、とっても良い感じの人形になった。
「これで完成?」
イヌミミキッズのククリが首を傾げる。
「ううん、こっから焼くんだよー」
それをエルフ妹のマールが教えてあげる。
一度作った子たちはみんな、大体の工程は覚えているようで、それを教えた生産賢者たちはほっこりである。
そんなふうに昼休みを過ごし、無事に夕方となり、お風呂に入り、夕食の時間。
その頃になると、賢者たちが何やらわたわたとし始めた。
賢者たちがウインドウで連絡を取り合っているのは村民さんならみんな知っている。なにやらパタリと倒れてはまた起き上がり、慌ただしい。つまり、賢者の中身の入れ替えが緊急で行なわれているのだ。
「賢者様、何か忙しそうにしていますけど、どうかしたんですか?」
シルバラが、夕食の並んだテーブルの上にいる賢者に問うた。
問われた近衛賢者はニーテストに回答して良いか問うてから、返答した。
『ヴィヴィ:落ち着いて聞いてくださいね。実はミニャちゃんのところに水龍さんが尋ねてきたんです』
「え、えーっ!?」
「な、なんだって!?」
説明のフキダシを読んだシルバラが顔を青褪め、一緒のテーブルで食べていた女性冒険者のセラが勢い良く立ち上がる。
2人の声に反応して、近くの子供たちはぴょんとお尻を跳ねさせて、遠くのテーブルの大人たちも何事かと注目する。さすがの腹ぺこエルフっ子たちも、お口をもぐもぐさせながら顔を上げる。
『ヴィヴィ:心配しなくて大丈夫ですよ。水龍さんはミニャちゃんとお話をしたくてやってきたみたいです。ニャロクーンさんも船の方に来てくれたので、本当に大丈夫です』
「そ、そうなんですか? 良かったー」
「くぅううう、一緒に行けばよかった……。それで今も水龍と話しているんですか?」
そう説明されるとシルバラはホッとして、セラは悔しがり始めた。
「ねえねえ、シルバラ。何があったの?」
もぐもぐゴックンとしたレネイアが、何事かとシルバラに問うた。
「もーっ、レネイア、賢者様の言葉を読まなかったの? ミニャさんが水龍と会っているんだよ」
「えーっ!? だ、大丈夫なの?」
「うん、ミニャさんとお話したいだけなんだって」
「良かったぁ」
これにはエルフっ子も飯食ってる場合じゃねえと、ご飯へ割く意識の割合を10割から5割まで減少させた。
「お姉ちゃっ、しゅいうーってなぁに?」
トレンドについていけないルミーが、ほっぺにお米粒を付けながらスノーに問うた。
スノーは興奮気味に答える。
「この前、寝る時に絵本を読んでやっただろ? 剣王様が会った伝説の水龍だよ。ミニャさんがいま会ってるんだって!」
「わふぅ、しゅにぇー!」
この話はすぐに伝播して、夕食の席はその話題一色になった。
特にザインやバールたち冒険者の悔しがりようは大変なものだ。王都に行くつもりはさらさらなかったのだが、『知っていたら一緒に行ったのに』という不毛な悔しがり方である。やはり冒険者は好奇心が強いようだ。
ウインドウで生配信を見せてあげられる賢者も中にはいるが、そういう賢者は総じて重要な役割を持っているので、いまこの場に召喚できる状況ではなかった。
だから、賢者たちは村民さんや冒険者たちから質問攻めになったが、下手なことは言わない。
剣王が水龍から鱗を貰ったというのはおとぎ話で語られているため、水龍からミニャが何かを貰っただろうという予測はつく。だから、この点は嘘を吐かない。船乗りたちだって目撃しているわけだし、後日にバレると信頼を失う。
しかし、水龍の鱗や水底の輝きをニャロクーンが村に移動させることは村民さんたちには教えず、ミニャが船旅にそのまま持っていったと誤認するようにした。『いま鱗はどこにあるのか?』なんてことはわざわざ聞いてこないので、言わなければ問題ない。
問題は、コーネリアたちが修行を受けたことだ。
兵士たちも受けちゃったし、船乗りも目撃しちゃったし、これも隠しようがない。
「おいらも行けば良かった……っ!」
バールが冒険者たちを代表するようにして言う。
実はこの場にいる者も修行を受けられるチャンスが1度だけあるのだが、まだ方針が何も決まっていないため、この点に関しても賢者たちは迂闊なことを言わなかった。
一方で、大人の村民さんは修行については別に。それよりも伝説の水龍の姿を見たいという想いの方が強いようだ。
こうして、ミニャンジャ村はミニャが旅だって初日から、ミニャの珍道中の話題で一色になるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
いよいよ発売まで1週間を切りました!
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