8-11 お見舞い
本日もよろしくお願いします。
土日なので連投します。
『覇王鈴木:ミニャちゃん。メリアランさんとクリスタさんが目を覚ましたみたいだよ』
「にゃんですと!」
フォルガたちの中でまず目を覚ましたのは、メリアランとキツネお姉さんのクリスタだった。
「こうしちゃいられないよ! みんな急げーっ!」
ミニャは大事件だとばかりに、すぐにお見舞いへ駆けつける。
すると、クリスタはベッドの上で座禅を組んで座っており、「こぉおお」と深呼吸していた。
ドアを開けたミニャは賢者たちと共に「はえー」とした。ちなみに、女性の部屋なのでシゲンは部屋の前に待機。
「クリスタさん、もう大丈夫なの?」
「こうじゃないわ……ふぅううう……そう、この段階までは……くっ、難しいわね……」
クリスタは、そう問いかけたミニャの声にも気づかないほど、何かに集中している。
すると、ミニャの足下でニャロクーンが言う。
「あれはしばらく話にならんだろう」
クリスタは研究者肌のため、ニャロクーンに半ば師事しているような形だ。だから、ニャロクーンもクリスタの性格をよく知っていた。
「クリスタが悪いね、ミニャ様。コイツは夢中になると周りが見えなくなるからね」
「あっ、メリアランさん!」
隣のベッドで寝ていたメリアランがそう言って、起き上がった。
「大丈夫?」
「ああ。本調子じゃないけどもう大丈夫だよ」
メリアランはそう言って立ち上がると、二丁斧がついたベルトを腰に巻いた。
それを見て、看病していた賢者が慌てた。
『リラン:メリアランさん、まだ動くには早いですよー』
「大丈夫。ちょっとだけ、ちょっと確認するだけだから」
結局、メリアランもクリスタと何も変わらなかった。このストイックさがあるからこそ、冒険者として成功しているのだろう。
少し怪しい足取りのメリアランを追って、ミニャも部屋を出る。
すると、フォルガが剣を持って廊下を歩いていた。
「あーっ、フォルガさんも起きてる! もう大丈夫なの?」
「これはミニャ様。情けないところをお見せした。賢者殿の看病もあって、もうすっかり回復しました。感謝いたしますぞ」
「はえー、でもフラフラしてるよ?」
「まあ、本調子ではありませんな」
「はえー」とフォルガの顔を見ていたミニャだが、剣を持っていることに気づいて首を傾げた。
「お外に行くの? 大丈夫そ?」
ミニャは足下にいる回復属性の賢者、後ろで困り顔になっている領主のメイドと兵士に向けて問うた。フォルガに尋ねないあたり、ミニャは賢かった。
ちなみに、フォルガは従者がパーティメンバーなので、こうして息子である領主からメイドを借りていた。兵士については、修行で弱っているから部屋の前に領主が勝手につけた形である。
「一振りだけ。一振りだけです」
フォルガもメリアランたちと何も変わらなかった。
まあ、それぞれ良い大人なので好きにさせることにして、せっかくなのでミニャたちも見学させてもらうことにした。
フォルガたちは、先ほどまでミニャたちが縄跳びをしていた遊覧スペースで、それぞれが武器を構えて集中し始めた。
正眼の構えをしていたフォルガがゆっくりと剣を振り上げ、ゆっくりと振り下ろす。
一振り。先ほどの言葉を守るなら、これで終わりである。
しかし、フォルガは目を瞑り、また剣を振り上げる。約束は当然のように破られた。
メリアランも似たようなものだ。
メリアランは、エルフという儚げな印象の種族だが、その頭にアマゾネス系とつく。様々な魔法を器用に使うがそれらは補助的な運用であり、最も得意なのは筋肉属性で、それを体現するように武器は二丁斧。
筋肉属性は冗談のような名称の魔法属性だが、その人気は極めて高い。肉体を強化する身体強化の魔法が多くの職業で有用だからだ。ミニャが覚えた異なる属性を同時発動する技術も、主に身体強化と組み合わせることが多かった。
広い場所ではないので、一歩踏み込み、一歩後退するという足運びをしながら、ゆっくりと二丁斧を振る。
「うーん!」
ミニャは縄跳び紐を持った手で、腕組みをした。後方腕組み幼女である。
「ミニャ様、もしや何かわかるのですか?」
メイドさんが問うてきた。やめてほしい。絶対にわかっていない。
「うーん、ゆっくり動いてる! んっ!」
そのまんまだった。
その代わりにニャロクーンが答えた。
「クラウの修行で体験した魔力門の開放を再現しようとしているのだ。魔力に関わる事柄を再現する際に激しい動きなど不要だ。むしろ、ああして己が何度も繰り返してきた動作や瞑想などを丁寧に行なって、魔力の動きに集中した方が良い。そうして徐々に、実戦に向けた速度で運用できるようにするのだ」
「だってさ!」
「そうなのですね、勉強になりました。ありがとうございます」
なんか動きがあまりなくてつまらないので、ミニャは端っこで縄跳びを始めた。自由過ぎる。
シュパパパパッ、シュパパパパッとその場で駆け足跳び。まるでボクサーのようにリズム感のある跳び方である。
「おっふねの上でー、ぴょぴょぴょぴょん。おっとなの人はのーろのろ。ミニャちゃんの方がシューバシュバ。ぴょぴょぴょぴょん。ぴょぴょぴょぴょん」
ミニャの謎の縄跳びソングを聞き、そばで待機してくれているシゲンや、その場を離れられずに退屈な鍛錬を見守っているメイドさんと兵士は唇をギュッと噛んだ。
当然、生配信を見ている賢者たちは遠慮なく爆笑である。
【510、名無し:くっそwwww】
【511、ナオマサ:笑っちゃいけない従者始まってるやん】
【512、名無し:ミニャちゃんに隙を見せたフォルガさんたちが悪い】
【513、名無し:電車の中で声出して笑っちゃったよ!】
【514、サガ:ミニャちゃんの方がシューバシュバでジュース噴き出した】
【515、名無し:この温度差よw】
【516、ハナ:でも、ミニャちゃんの行動は私も覚えがあります】
【517、ジャスパー:僕もあるなぁ。母親が友達と話している時に、よく一人で遊んでたっけ】
【518、名無し:誰でもあるんじゃないか? 子供あるあるだよ】
【519、雷光龍:目を覚まして即座に笑ったわ。これ、どういう状況だよw】
【520、名無し:おっ、雷光龍じゃん。大丈夫か?】
【521、雷光龍:18時間も寝たのは生まれて初めてだわ。体の方は大丈夫。他の連中は?】
【522、名無し:ちょいちょい起き始めてるよ】
【523、雷光龍:そうか。たぶん17時くらいには交代できると思う。それまでロムってるわ】
【524、名無し:まあ交代要員はまだまだいるから、17時と言わずにゆっくりしてくれや】
【525、名無し:しかし、フォルガさんもメリアランネキもストイックだよなー】
【526、名無し:自分がバージョンアップされたとなれば、早く試したいものだろうよ】
【527、名無し:まあ、俺たちだって女神様ショップが解放された日は寝ずにお祭り騒ぎだったしな】
ミニャがぴょんぴょんしていると、元騎士団長のガロードと執事のジゼ、そして斥候冒険者のギィがやってきた。全員が本調子ではなさそうだが、それぞれが武器を持ってきている。凄腕の人というのは、ある種のバカさが必要なのだろう。
大勢で武器を振るうには狭い場所なので、ミニャの縄跳び遊びも終了。
丁度、コーネリアが目を覚ましたと賢者から報告が入り、ミニャはお見舞いへ向かった。ニャロクーンはフォルガたちに乞われて、少し話をするようなのでその場に残った。
さて、コーネリアは領主のメイドたちと一緒の部屋だ。
2段ベッドが3台あり、テーブル席もない。着替え用のスペースにはメイドたちの荷物と、休憩用なのかクッションのない椅子が2つあった。主人の部屋との差に、賢者たちは旅のリアルを感じた。
ベッドの下段に2人のメイドが物凄く気怠そうに座っている。
領主のメイドの中には護衛を兼任している者もおり、そういう人を中心に昨晩の修行を受けていたのだ。魔法が根付く社会なので貴族が強くなる意味は大きいが、彼女たちのような従者こそ敵から主人を守るために魔法に長ける必要があった。
コーネリアは着替えのスペースで、操り人形を入れた自分のカバンを開けていた。起きて早々にそんなことを始めるあたり、やはりコーネリアもフォルガたちとあまり変わらなかった。
「あら、ミニャ様」
そう言ったのは、椅子に座っていたルカルカ。
それを聞いて、気怠そうにしていたメイド2人が慌てて立ち上がる。
「無理しちゃダメだよ。座っててください」
ミニャがそう言ったことに、賢者はちょっと驚いた。あまりこういった経験はなかったはずだが、自分のために立ってくれたのだと理解したのだ。
メイドさんたちはお言葉に甘えて休ませてもらった。
「ミニャ様。随分寝てしまったようで、申し訳ありません」
コーネリアが謝りつつ、開こうとしていたカバンを閉めた。
「ううん、フォルガさんたちもいま起きたばっかりだよ。もう大丈夫なの?」
「ええ、すっかり良くなりました」
「良かったー。お人形さん使うの?」
「え。えーっと、少し確認させてもらってよろしいですか?」
「うん、いいよー。見せて見せて!」
いつもはあまり遠慮しないお姉さんだが、依頼を受けた任務中だからか、ちゃんとメイドらしくしていた様子。ちなみに、どちらかというとルカルカの方が不真面目なメイドである。
許可を得たコーネリアは人形を出して、操り始める。
賢者よりも大きなこの人形は、暗器が搭載されていたり、コーネリア自身が使える魔法を使えたり、かなり強い。腰を360度回転することなどもできるので、賢者にはできないトリッキーな戦いをする。
コーネリアは自身の変化を探るようにして、操り人形を動かす。
「相変わらずおっきいねー」
『乙女騎士:本当ですねー』
まあ賢者からすれば他の人たちが大きすぎるので、むしろ小さく感じるのだが。
「コーネリアさん、何か変わった?」
その場の全員が知りたいことをミニャが問うた。
「はい、明らかに魔力の通りがいいですね」
「はえー、凄そう」
「ミニャ様はどうだったんですか?」
「ミニャ、違う魔法を2つ同時に使えるようになった!」
「それは凄いですね。私が魔法の同時使用を覚えたのは、たしか13くらいでしたよ」
褒められたミニャはえっへんと胸を張った。
「アンタ、早いわね。あたしは冒険者になってしばらくしてだから、17、8だったわよ」
「私は師匠がいたからね」
「で、魔力の通りがよくなっただけなの?」
ルカルカが続きを促した。
「いいえ、それだけじゃないわ。なんというか、喉元まで出ているんだけど……」
「なによそれ」
「アンタも今日、水龍様の修行を受ければわかると思うけど、水球の中で不思議な感覚に陥るわ。魔力を自在に操っているようなそんな感覚。あの中でならできたのに、今はできそうでできない」
コーネリアの話を聞いて、護衛をしていた覇王鈴木が言った。
『覇王鈴木:ニャロクーンさんの話だと、あの水球の中で体験した感覚は魔力門というものを大きく開いている状態だそうですよ』
「魔力門の開放!? 魔法の極意じゃないですか!」
「極意っ、強そう!」
「ええ、ミニャ様、とっても強いですよ」
「ミニャも極意を覚えたいなー」
「女神の使徒は極意を作る側ですよ」
「そうなの?」
「はい。剣王様も極意をたくさん作ったそうですからね」
ミニャは「そっかー」と足元の賢者を抱っこして、睨めっこを始めた。この賢者の目を通して生配信を見ている者は、その眼差しを受けて腰を抜かした。
「魔力門の開放か。噂くらいは聞いたことがあるけど、そんなに凄いの?」
ルカルカが問う。
極意と聞いて賢者たちがテンションを上げているが、マイナー知識あるいは流派の知識らしく、ルカルカはあまり知らなさそうだ。
王国近辺の国々は徒弟制が主流である。それゆえか、魔法という暮らしに根付いた事柄でも人によって知識量が違うのだ。
「凄いわよ。師匠が言ってたもん。魔力門を自在に開けられると、使える人形の数が増えるのよ」
「へえ、凄いじゃん」
『覇王鈴木:その感覚を忘れずに鍛錬を続けると魔力門が開いていくそうですよ。あの水球はその感覚を体験するための、スピリナの修練という魔法だそうです』
「なるほど、そういうことでしたか」
「まあ、訓練は今度やって、今は休んでね。夜になったら交代だから」
「え、ええ。わかってるわ」
いまのコーネリアは任務中である。大人しくメイド任務を再開するのだった。無念無念。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




