8-12 二度目の訪問
本日もよろしくお願いします。
休みなので連日投稿ということで。次は火曜日に投稿します。
ミニャはお見舞いイベントで大忙しの昼中を過ごし、あっという間に日が暮れた。
船はとっくに停泊しており、食事も早めに終えて、現在は、大型船の甲板でミニャが人形倉庫から人形を取り出して準備をしている。
船の縁にちょこんと指を掛けたアメリアが、キリリ顔でコクンと頷いた。
「ミニャ様、3番のお船にみんな着地しました!」
「わかりました! じゃあ次のグループ行ってくださーい! 次も3番のお船ねー」
助手のアメリアが観測してくれて、ミニャが指示を出す。
すると、待機していた賢者たちが空中にダイブして、スイーッと滑空していく。アメリアは重要任務だと言わんばかりに、船縁に指を掛けてキリリ顔で賢者たちの飛行を観測。
今回も600人の賢者が参加するので、昨晩と同じように軍船のスペースも使わせてもらう。現在はその移動中であった。
ミニャの指示もアメリアの観測もまったく必要ないのだが、そこはエンターテイナーの賢者たち。子供指揮官たちの指揮下に入り、任務を全うする。
ちなみに、移動した先で風属性の賢者はどんどん入れ替えられていたりする。この遊びのためだけに召喚された賢者もいるのだ。
「むっ、クラウが動き出したな」
ニャロクーンが教えてくれた。
「大変、みんな急げ急げーっ!」
途中でクラウが移動を開始したようで、子供指揮官は全軍突撃命令を出した。
クラウが来る前になんとか配置が終わり、ミニャとアメリアはふいーっとやり切った感。
「水底の輝きってどんなのかなー」
「楽しみですね!」
2人がワクワクして待っていると、昨晩と同じように湖が青く光り始め、まるで幻でも見ているかのように水龍の巨大な顔が忽然と湖面に現れた。
その巨体で普通に現れたら、発生する波で高速船は大きく揺れるだろうからありがたい登場ではあるが、来るとわかっていなければ大変に驚く演出でもある。
「クラウ様、こんばんは!」
『ほっほっほっ。うむ、ミニャよ。今日も元気なようでなによりだ』
「いっぱい寝たから元気です!」
畏れ知らずなこと幼女の如しだが、クラウは楽しげだ。
「クラウよ。水底の輝きは持ってきたか?」
『ニャロクーンよ。貴様は長き時を越えても相変わらず情緒というものがないな』
「ミニャ殿は水底の輝きがどんなものなのかワクワクして待っていたのだぞ。幼子の期待に応えるのも年長者の務めであろう」
『言いおるわ。まあ、楽しみにしてくれていたのならば、勿体ぶるのも意地が悪い。その大きな船の一部を空けよ』
「ミニャ殿、それならここに」
領主がすぐに判断して、スペースを空けた。
「クラウ様、あそこにお願いします!」
『うむ、承知した』
すると、湖から淡い光を放った大量の希少石が現れたかと思うと、空中を移動して、空けたスペースにゆっくりと着地した。
不思議なことに、水底の輝きは自ら光っているのに、見る角度でその光自体が、青、緑、紫の系統の色に変化した。水晶や宝石も光の屈折で色を変える場合はあるものの、あくまでもそれは外部からの光を頼っている。水底の輝きが見せているその現象は、賢者たちにもさっぱり原理がわからなかった。大きさは20cmから50cm程度とまちまちで、総じて非常に美しかった。
賢者が小さめの水底の輝きを運び、ミニャに渡した。
受け取ったミニャは、アメリアと一緒に覗き込む。
「ふぉおおお、ピカピカしとる!」
「わぁ、凄く綺麗ですね!」
「あっ、こっちから見ると青が濃くなる!」
「わわっ、こっちから見ると紫色っぽくも見えますよ!」
「ホントだ! にゃっ、こっちから見ると緑色っぽい!」
これを見た幼女2人は純粋に感動した。一方の大人たちは息を呑むが、クラウの手前、近寄りもしない。
「これはまた随分と持ってきたな」
ニャロクーンが言う。
『貴様以来、水底の輝きを欲する者がいなかったからな。随分と生えていた』
「ほう、剣王とやらは欲しなかったのか?」
『存在自体を知らんかったよ。あやつは陸で生きた男だったからな。我と会ったのも2度だけだった。それに、鱗を貰った手前、新たに何かを求めるようなこともなかった。貴様とは違ってな』
「人聞きが悪い。我だって交換条件だったではないか」
『ええい、我は貴様と話しに来たのではないわ。ミニャと話しに来たのだ』
「ニャロクーンさんはクラウ様と仲良しなんだねぇ」
なんだか仲良しの気配を感じて、ミニャが言う。
ニャロクーンは、『別にそんなことないし』と言わんばかりにプイッとそっぽを向いた。姿がネコだけあって、そんな仕草をすると本当にネコっぽい。
『ミニャよ。渡した半分ほどで女神様の像を作って欲しい。加工方法はそこのネコが知っている。残りは好きに使ってくれて良い』
「半分もくれるの? それに、女神様の像を作る代わりに修行してくれたんじゃなかったっけ?」
『ほっほっほっ。ミニャよ、女神様の像を作ってもらうというのはそういうことだ』
「それは我も同意だ。ミニャ殿、受け取っておけ。それに、水底の輝きを加工するのは大変なことだ。これは、それに見合った報酬だぞ」
「そっかー。じゃあ貰います! ありがとうございます!」
『ほっほっほっ、素直な娘だ』
そこで、ミニャの足が工作王にぺしぺしと叩かれた。
ミニャは工作王を抱っこしてフキダシを読むと、女神像の製作について質問があるようだった。ミニャは通訳した。
「ミニャンジャ村の女神様の像は、祠とお花も作っています。それを作るために水底の輝きを使って良いですか?」
『もちろんだとも。ミニャの従者たちの赴くままに作ると良い』
「あと、クラウ様の像も作りたいって言ってます。良いですか?」
『ほう、我の像か。なるほど、昨晩に我の姿が見たいというのはそういうことか。ならばぜひ作ってくれ。ただし、決して女神様の像よりも大きくしてはならん』
「あとあとー。賢者様は水底の輝きを加工したことがないから、製作日数がわからないみたいです」
『気長に待つから構わんとも。完成し、湖に出てくれたらこちらから赴こう』
生産属性たちは話をよく聞き、頷いた。人ではないがクライアント。クライアントの望みを間違えてはならない。特に大きさの仕様はきっちり守る必要がありそうだ。
「クラウ。賢者殿の話を聞く限り、制作するためには半分を随分と超えてしまうだろう。ミニャ殿の報酬が減ってしまうから、受け渡しの時に少し補填してくれ」
『ふむ、確かにその通りだ。よかろう』
ニャロクーンがグイグイと交渉してくれるおかげで好きな物が作れ、たくさん報酬を貰えるとあって、生産賢者たちはぴょんぴょんと喜んだ。
仕事を承り、手が空いている賢者が水底の輝きをせっせと船室へと運ぶ。あまり外に出しておくのは目に毒だから、早いところ中に入れてしまった方が良い。
そこからは昨日と同じように修行が始まった。
ミニャの船や軍船にいる賢者たちと、昨日参加しなかった人たちが水球に閉じ込められた。
「みゃー、賢者様が!」
「あーわわわわ、お父様とクレイお兄様が……」
本日のミニャとアメリアは見学モード。
自分たちがやっている時は夢中だったので外からどう見えていたのかなんて考えもしなかったが、実際に外から見るとなかなか心配な光景だった。
ミニャはブンブンと手を振るい、そこでペカッと豆電球。
「頑張れ頑張れ賢者様、ふぅ! フレッフレッ、シゲンさん、ふぅ! 頑張れ頑張れクレイ君、ふぅ! ずんずくずんずく、ルカルカさん、ふぅ!」
とりあえず、応援しておいた。
それを見たアメリアもふんすぅとした。
「が、頑張れ頑張れ、お父様! フレッフレッ、お兄様!」
【421、名無し:おいおいおい、デュエットだと!?】
【422、名無し:えーっ、いいなーっ! 俺も今日参加すれば良かった!】
【423、名無し:でも、水球の中に効果を及ぼすのか?】
【424、名無し:知らんけど、不都合があるのならクラウさんが止めるだろう】
【425、名無し:ミニャちゃんとアメリアちゃんはこんなに仲間や家族を心配しているってのに、近衛隊はよぉー!】
【426、名無し:ミニャちゃんたちをめっちゃ激写してるwww】
【427、名無し:まあ、そのおかげで我々はミニャちゃんのオンステージを見られるわけだがな。良い仕事してるぜ!】
ミニャとアメリアが頑張って応援する中、フォルガたちは興味深そうに水球を眺めていた。
「はぁー、なんて美しい魔法なのかしら……」
特にキツネお姉さんのクリスタは、ルカルカが入っている水球を見てうっとりしている。
【433、名無し:クリスタさんも大概やべえよな】
【434、名無し:一見すると水死体製造魔法なのにな】
【435、名無し:まあ、さすがにどういう魔法なのか知っているからこそだろ】
【436、名無し:あ、クレイ君が終わっちゃった!】
【437、名無し:まあ一番年下だし、今日は新人の賢者もいないからな。しゃーない】
【438、名無し:いつもたくさん頑張っているし、この修行で何か得てくれるといいなぁ】
水球が割れ、クレイが出てくる。
すぐにアマーリエが膝枕をして労わり、ソランやアメリアも駆けつけた。なお、領主はまだ頑張っているわけだが、放置である。
メイドさん、兵士、賢者とどんどん修行を終えていく。
そして、賢者の中で最後まで残ったのは、始まりの賢者の生産属性たち。本日は覇王鈴木や闇の福音など有名な賢者も多く参加したが、工作王やふともも男爵など、毎日魔法を使いまくっている生産属性のリーダー格も参加しているため、さすがに勝てなかった。
ちなみに、始まりの賢者の生産属性でも、受けていない者はいる。特にネムネムやルナリーなど、造形よりも絵を描く方が得意な者は3回目の機会に受けるようだった。
参加者全員の中で最後まで残っていたのは、グルコサ最強の剣士である領主と上位冒険者であるシゲンだった。最終的に、ほぼ同時に終わることになった。
「ふぉおおお、シゲンさんすっごーい」
「お父様、お疲れ様ですぅ!」
などと子供たちはキャッキャとしているが、当の本人たちは気絶しそうなほどよれよれである。
修行が終わり、ニャロクーンと話していたクラウが言う。
『ミニャよ』
「はーい!」
呼ばれたミニャは、シゲンたちのお見舞いをやめて船の端に駆け寄った。
『これでひとまずは2度の約束を終えた。次は再び会った時だ』
「はい、ミニャたちも女神様の像を頑張って作ります!」
『うむ、よろしく頼むぞ。さて、それでは我は立ち去るとしよう』
「ありがとうございました!」
ミニャがお礼を言うと、フォルガたちが膝をついて頭を下げる。それに倣って、今日参加しなかった全ての人が同じようにした。王国を形作る広大な湖の主であり、伝説の存在なので、元国王や元騎士団長だろうと関係なく頭を下げるようだ。
『健やかに育て、幼き女神の使徒よ』
そんな王国民とミニャや賢者たちに見送られ、クラウは昨晩と同じようにその巨体の全てを見せてから、湖の中へと消えていった。
「あやつ、自分の像が作られると知って喜んでおるわ」
ニャロクーンがそんな暴露をして、雄大で神秘的な別れを台無しにした。
こうして、伝説の水龍との邂逅は終わるのだった。
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