8-5 伝説
本日もよろしくお願いします。
トランプを楽しみ、お昼ご飯を食べ、再びトランプを楽しみ——という過ごし方をしたのは、ミニャたちではない。特にやることがない大人たちもずっとトランプをして過ごしていた。
ミニャたちも似たようなものだが、お昼寝を挟んだり、甲板に出て湖を眺めたりしたので子供の方が健康的。
さて、そんなこんなで夕食の時間。
「あっ、コンソメ味だ!」
夕食には、野菜とお肉が入ったコンソメリゾットが出てきた。
どうやら、ミニャンジャコンソメを手に入れた商人たちは順調に販路を広げているらしい。手に入れた料理人も工夫しているようで、この玉米リゾットは賢者たちが教えていないものだった。
長旅ではないし魔道具もあるためか、他の料理も保存食じみた物ではなく、新鮮な食材を使った割と豪勢なものだった。
「んっ、これ美味しい!」
「美味しいですね、ミニャ様!」
「うん!」
ミニャはアメリアと並んでもぐもぐ。その可愛らしい姿をテーブルに乗った賢者たちが激写激写!
そんなふうにミニャたちが楽しく食事をしていた時である。
【312、ジャパンツ:ミニャンジャ村より緊急報告! なんかわからんが、ニャロクーンさんが慌ててミニャちゃんのところへ向かったぞ!】
ニーテスト連絡板に緊急の連絡が入った。
【313、ニーテスト:なに? どういうことだ?】
【314、ジャパンツ:俺もわからん! 俺がたまたま近くにいて、なんかミニャちゃんの方に集中しろって言付けて消えていった! すぐに着くだろうから、詳しくはそっちで聞いてくれ!】
【315、ニーテスト:わかった。サバイバーはミニャとシゲンに備えさせてくれ。覇王鈴木は緊急アナウンスで注目とアラート要請をしてくれ】
【316、サバイバー:了解】
【317、覇王鈴木:わかった!】
【318、ニーテスト:竜胆はただちに私を召喚してくれ。万が一の際には『尊い犠牲』を連打する】
【319、竜胆:わかった】
【320、ニーテスト:ライデンはもしもの時に全体の指揮を執れ】
【321、ライデン:承知したでござる】
連絡を受けたニーテストは、すぐにネコ忍と強い賢者たち向けのクエストを作り、それと同時に覇王鈴木のアナウンスが賢者たちに流れた。
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『全体アナウンス:覇王鈴木』
『件名:船旅の方に注目してくれ!』
ニャロクーンさんが慌ててミニャちゃんの下へ向かった。内容は不明だが、何かあるようだから、全員、至急船旅関連の生配信を見てくれ。覇王鈴木かサバイバーかネコ太を見てくれたらいい。あと、アラートが鳴るまで一度ずつボタンを押してくれ。
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アラート機能は、一定数の賢者が緊急ボタンを押すと発動するもので、発動すれば全賢者に通知される。寝ていても気づけるので、有事の際には頼りになる機能だった。
これには雑談スレッドも大騒ぎ。
【151、名無し:アラートが鳴ったぞ。何かあったのか?】
【152、ナオマサ:事件!?】
【153、名無し:湖の強力な魔物とか?】
【154、名無し:護衛船にいる賢者って誰だ? そっちの生配信も見たい】
【155、名無し:水神王、霧雨、雷光龍、ブレイドあたりだな。船底の見張りはワンワンがしている】
【156、ユナ:護衛船の方はどうなんですか?】
【157、水神王:こちら護衛船だが、特に何も起こってないな】
【158、名無し:ニャロクーンさんが説明もほどほどに急行するって相当なことだろ。大丈夫かな?】
【159、名無し:とりあえず、いつでも出動できるように待機しよう】
賢者たちはミニャや護衛船が映っている生配信に注目し始める。その間にもサバイバーたちはやることを進めていた。
『サバイバー:ミニャちゃん、シゲンさん。ニャロクーンさんが緊急でこちらに向かっている。何かが起こる前触れかもしれない』
「にゃんですと!」
「っ! 承知しました。フォルガ様!」
「むっ、どうした?」
「ニャロクーン様が緊急でこちらに向かわれているようです。内容は不明です」
シゲンはミニャのそばから離れずに、少し離れた席のフォルガへ端的に状況を説明した。それだけでフォルガたちには伝わったようで、和やかだった食堂に緊張が走る。
サバイバーはミニャに人形倉庫からフィギュアを20体だけ出してもらい、精鋭たちを召喚していく。船内は狭いので、一気に大量に召喚とはいかないのだ。それよりも、シゲンやフォルガたちが動きやすいように足場を確保した方がいい。
そうこうしていると、ミニャのテーブルに丸い影が現れ、そこからニャロクーンが姿を現した。さすが闇魔法の女神の使徒だけあり、ニャロクーンは夜の闇を含め、影が続く限り相当な距離を短時間で移動できるのだ。
「わっ、ニャロクーンさん!」
驚くミニャだが、ニャロクーンは挨拶もなしにすぐに本題を切り出した。
「ミニャ殿。水龍クラウがやってくる」
「「「な……っ!?」」」
『覇王鈴木:嘘だろ?』
『ネコ太:だだだ大丈夫なの!?』
その場にいる大人全員が息を呑み、賢者たちも不安になった。
しかし、ミニャは違った。
「にゃんですと!? 水龍様が来るの?」
お目々をキラキラさせて、まるでやってくることを喜んでいる様子。
『ネコ太:み、ミニャちゃん、怖くないの?』
「ほえ。怖いの? どうして?」
ミニャはキョトンとした。
「ミニャ殿、それでいい。賢者殿も他の者も気を張るな。竜族は基本的に人など食わん。ただ女神の使徒を見たいだけだろう。かつて我がこの湖に居を構えた際にも、湖に出ると時折会いに来た。敵対しなければ害を与えてくる存在ではない」
「ミニャ様と我々はどうすればよろしいですか?」
シゲンが問う。
「ミニャ殿と我は甲板へ行く。そうしなければ騒ぎが収まらんだろう。クラウを見たい者はついてくればいい。ただ、決して攻撃をするでないぞ。攻撃してもヤツは揺るぎもしないが、気分を害すれば一隻くらい沈められるかもしれん」
「じゃあ、ニャロクーンさん、早く行こう!」
「う、うむ……ミニャ殿は豪胆だな」
「急げー!」
ミニャは賢者たちとニャロクーンを連れて、ててぇと食堂を出ていった。
それをシゲンとコーネリアたちが慌てて追い、さらに顔を見合わせた他の面々がぞろぞろと甲板へと向かう。
【258、名無し:圧倒的、豪胆!】
【259、ナオマサ:これが王の器……っ!】
【260、名無し:ニャロクーンさんもちょっと引いてるじゃんwww】
【261、名無し:いや、草生やしている場合じゃねえぞ! 本当に大丈夫なの!?】
【262、名無し:俺もちょっと不安なんだが】
【263、名無し:他の護衛船に攻撃しないように周知させないと!】
【264、名無し:この水龍って、この前、近衛隊の誰かがミニャちゃんへの読み聞かせで読んだ物語の水龍だよな?】
【265、ルナリー:ユナちゃんが読んでました。いま、護衛船クエストを受けていると思うんですが、大丈夫かなぁ】
【266、名無し:まあ、攻撃するような状況じゃないはずだし、大丈夫だとは思うが】
【267、名無し:伝説をなぞらったような展開になってねえか? なんでだ?】
【268、クラトス:生前のニャロクーンさんも会っていたようだし、おそらく女神の使徒が近くにいるとわかるんじゃないか?】
【269、名無し:剣王のおとぎ話って何百年も前の話だろ? もしも性格が変わっちゃってたらヤバくないか?】
【270、名無し:その時のためにもサバイバーたちやニャロクーンさんがいるわけだし、逃げるだけならどうにかなるだろう。とにかく見守るぞ】
【271、名無し:護衛船の賢者が騒ぎ出したぞ!】
【272、名無し:来たか!】
【273、名無し:ワンワンの生配信を見ろ! 水中に何かいる!】
甲板に出たミニャを見ながら賢者たちがハラハラしていると、護衛船に乗っている賢者がそれを察知した。
ミニャたちの護衛船は、船体の前方と後方にガラスで作った水中見張り台がついていた。その中で見張りをしていた賢者が、投下されたライトの魔法の光に照らされるその存在を発見した。
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『緊急アナウンス:ワンワン』
『件名:水龍を目視!』
水中に水龍と思しき影を目視! 信じられないほどデカいぞ!
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「にゃんですと!」
緊急アナウンスは当然ミニャにも届くので、それを見てぴょんと跳ねた。
「ミニャ様、いかがされましたか?」
シゲンの問いに、ミニャがわたわたと手を動かして答えた。
「賢者様が水中に水龍様がいるって! 凄くおっきいって!」
そう答えたミニャは船の縁に手をかけ、湖を覗き込む。
シゲンとニャロクーンもミニャの両隣で湖を見下ろす。シゲンは何かあった時のために、すぐミニャを庇えるようにしてくれているのだ。
ネコ忍や一部の賢者たちも船縁の狭い足場に器用に飛び乗った。船縁が賢者の背よりも高いため、こうしなければ湖の状況を見られないのだ。
船の周りでは多くのライトが上がり、それが波に反射して水面下は見えない。
だが、すぐに、反射する光よりもずっとたくさんの青い光が水面下で輝き始めた。
その輝きはパトラシア人に畏怖の感情を宿らせる。
「な、なんて魔力なの……っ!」
「これが、竜族か……っ!」
言葉を絞り出したコーネリアやフォルガと同じように、パトラシア人たちはその魔力の強大さに息を呑む。
それは彼らだけではなかった。その場にいる賢者はもちろんのこと、遥か遠い地球で生配信を見ている賢者たちですらも冷や汗を流すほどの感覚に陥っていた。
だが、そんな中でケロッとしている存在が2人。
ミニャとニャロクーンである。
「み、ミニャ様はこの魔力の中にいて平気なのですか?」
シゲンの言葉に、ミニャは「ほえ?」とキョトン顔。
「シゲンよ。ミニャ殿と我はこんなものとは比べ物にならん圧倒的なお方と会っている」
ニャロクーンがそう言った時である。
『こんなものとは失礼なネコだ。それは、女神様と比べたら我など小魚のようにちっぽけなものであろうよ』
そんな声と共に、湖の主である伝説の存在が姿を現した。
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