7-33 フォルガの新築祝いと森イカ実食
本日もよろしくお願いします。
森イカ釣りは昨日の日が沈んで早くの時間に行なわれたが、実は本日の日が昇る前にも賢者たちが楽しんでいた。主役を間違えてはならない、それが賢者たちの鉄則なのだ。
なお、賢者たちの釣りの趣旨は、ミニャたちが釣った分では森イカが足りなさそうだったからである。
ここは稲穂銀行の現頭取・篠原の家。
朝も早くにパトラシアから帰ってきた篠原ことショージは、ベッドの上で目を覚ます。ミニャンジャ村と時刻がほぼ同じなので時計は見るまでもないが、予定通り6時だった。地球は夏時間なので、カーテンの向こうはすでに眩しいほど明るい。
これから仕事に行くショージだが、それを当たり前のことだと受け止めており、むしろ森イカ釣りをしたことで活力が漲っていた。仕事へ行く前にサーフィンをするようなものだ。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、あなた。楽しんできましたか?」
台所に立つ妻のミサキに帰宅の挨拶をすると、にこやかに迎えてくれる。
「いやぁ、楽しかったですよ。見てください、こんなに大きなイカを釣りました」
などと、ショージはスマホで自分の過去動画を開き、嬉しそうに報告する。人形目線で大きさを語っているので、化け物サイズである。
ちなみに、ショージは責任ある立場なのでクエストをあまり受けられず、まだ女神様ショップが解放されていない。妻と娘はすでに解放済みだ。特に娘のカナデは夏休みであり、治ったことを秘匿するために外に出られないということもあって、入れ込みようが凄い。
「新築パーティに参加できないのは残念ですが、ミサキさんは遠慮せずに出てくださいね」
「はい、私は料理当番で予定が入っていますから、そのまま参加するかと思います」
夫婦は穏やかに朝の会話を楽しみつつ、軽めに朝食を食べる。
そうしていると、カヨがリビングに入ってきた。期間限定で住み込みのお手伝い兼ボディガードをしてくれているネコ忍のお婆ちゃんだ。見た目は50代だが、実際には70代である。
「あら、旦那様。おはようございます。お戻りになられたのですね」
「ええ、おはようございます。おかげさまで楽しんできました」
そんな朝の挨拶を交わすと、カヨが言った。
「いま連絡がありました。獄松組が終わります」
それを聞いた篠原夫婦は目を丸くしてから、安心したように「そうですか」と息を吐いた。
獄松組は、篠原一家に不幸をもたらした存在だ。賢者たちが動かなければ、未だに悪夢の中にあっただろう。
「お手間をかけました」
「いえ、かの組織は今後邪魔になる可能性があったので、遅かれ早かれといったところです。世の中が騒がしくなれば、我々も動きやすくなりますしね」
「ははは、敵いませんね。しかし、そうすると関係する著名人も一緒に?」
「警察の動きを見るに、そちらは追ってという形になるかと思います。ひとまずは幹部以上の者たちを拘束し、全国にある資金源や隠し財産を押さえることになるでしょう」
「わかりました。そうすると、こちらも忙しくなりそうですね」
篠原が頭取をする稲穂銀行は、メガバンクの一角だ。
断罪される著名人たちの多くも、表向きの預金をしているに違いない。裏取りのために金の流れが調べられるだろう。一人二人ならともかく、大勢となると忙しくなりそうである。
「旦那様は少し忙しくなるかもしれませんが、お二人が何かを心配するような必要はありません。奥様はどうぞクエストを頑張ってください」
「は、はい、わかりました」
その日の昼、獄松組の幹部たちが一斉に拘束され、日本各地にあるアジトや系列店の一斉家宅捜査が実行され、メディアは大変な騒ぎになるのだった。
しかし、それはそれっ!
今日のミニャンジャ村は新築パーティで、ミニャちゃん陛下はワクワクなのである!
午前中に、領主の子供であるソランとアメリアがやってきた。
本日の主役であるフォルガは祖父にあたるため、領主の代行としてソランがやってきたのだ。アメリアはおまけだが、地元に友達がいない系幼女なので、ミニャに会えてニコニコだ。
アメリアたちが来ると護衛もついてくるわけだが、彼らへのふるまい料理の代金が領主から貰える。超大金というわけではないが、収入はなんぼあっても良いのでありがたい。
フォルガの案内で、ミニャと3兄妹は新築の家を見学した。
ミニャの家よりも多少小さいという遠慮があるものの、パーティメンバーと話せるような居間もあるし、個人専用の風呂、トイレ、キッチンも完備しているのでなかなか良い家だ。
さらにこだわりポイントとして、ミニャの家にもある障子の部屋が造られており、縁側からはちょっとした素振りができそうな庭に繋がっている。素振りをして縁側で休むような用途が想像できる素敵空間だ。
元国王が住むには小さいが、フォルガはダンジョンに頻繁に入るので、これで十分な様子。
さて、見学を終えた頃には新築祝いの準備も整った。
「今日はねー、森イカが出るんだよ。楽しみ!」
ミニャがアメリアに教えてあげる。
「わぁ、ミニャンジャ村でも森イカを獲ったんですか?」
「そうだよ。昨日の夜にみんなで釣りに行ったんだ。フォルガさんもねー、いっぱい釣ってた!」
「えーっ、いいなー!」
アメリアも大変に可愛らしい子なので誘ってあげたい賢者たちだが、よそのお宅の子供である。相手の家の都合を考えずに誘うわけにはいかず、これが親になることかとしみじみと思う賢者たちであった。
ミニャちゃんハウスの時と同じように、家主であるフォルガも儀式を執り行う。
この地方の竣工式は端的に言えば『女神様や森の精霊とのお食事会』である。家主であるフォルガの役目は、村長であるミニャと一緒に女神たちの席に料理を運ぶことだ。女神を信仰する国だからか、フォルガはかなりしっかりと儀式を行なっていた。
ミニャはまだまだお遊戯会みたいで可愛らしい感じではあるが、もっとお姉さんになればフォルガのように厳かな雰囲気で儀式をするようになるのかもしれない。
儀式が終わり、いよいよ宴会も直前だ。
各テーブルには賢者たちが作った卓上コンロが置かれ、ワクワク感は上昇中。
主役であるフォルガが若干お堅い挨拶をし、続いてミニャの番。
「みんなのおかげでフォルガさんのおウチが完成しました! 今日はそのお祝いです。昨日はフォルガさんと一緒に森イカをいっぱい釣ってきたので、いっぱい食べてください! それじゃあコップを持ってください」
楽しかった森イカ釣りのことも盛り込みつつ、可愛らしくご挨拶。
「かんぱーい!」
「「「乾杯!」」」
ミニャの音頭に続いて、村民さんや冒険者たちが乾杯する。
本日のミニャはフォルガやアメリアたちと一緒の席。
並んでいる料理の数々にミニャはニコニコだ。そんな中でもコンロセットの存在は特にミニャをワクワクさせる。
調理場で半ばまで調理された森イカが、執事のジゼの手によってコンロの網に乗せられた。さすが王家に仕えている人物だけあって、この爺さんの器用さと便利さは異常である。
酒蒸しされ、醤油が塗られた森イカが、網の上でさらに醤油を塗られる。
「ふぉおお、良い匂い!」
「わぁ、初めての食べ方です!」
森イカとお醤油が焦げる香りに、子供たちの期待度はどんどん上がる。
それはフォルガも同じで、チャーハンを食べながら森イカの行く末を見守っている。
「ジゼさん、もう食べれる?」
「そうですね。あと少しだけお待ちください」
「わかった!」
ミニャはステイ。
その間にチャーハンを取り分け、スタンバイ。
元から半分調理されていたので、そう時間を空けずに、森イカの醤油焼きが仕上がった。
フォルガにはまるまる1杯、ミニャと3兄妹には頭とゲソを半分ずつの割合で配られた。森イカは割と大きいので、子供が1杯も食べれば他が食べられなくなるという配慮の配分。
「ふぉおおお、柔らかそう!」
ミニャがお箸で頭を突っつくと、もにゅっと弾力がある。突っついたのは頭だが、ひとまず食べやすそうなゲソを箸で取ると、はむっと食らいついた。
「もむもむ、んー!」
ミニャは口をもぐもぐさせながら、お目々をペカーッと広げてアメリアを見る。見られたアメリアもワクワクした顔で次なるミニャの言葉を待った。ここで一緒に食べないあたり、育ちの良い幼女である。
もぐもぐゴックンしたミニャは、宣言する。
「うまーい!」
とっても美味しかった。
「ふーむ、たしかにこれは絶品ですな!」
一方、フォークを使って身を切りつつ食べていたフォルガも、お世辞ではなく称賛した。醤油はまだミニャンジャ村でしか作られていない調味料なので、元国王の舌も満足させているようだ。
海のイカは水槽に頭をぶつけて自分の体を傷つけてしまうような繊細さをしているが、森イカは湖だけでなく狭い川にも生息する場合があるためか、そこまでの繊細さがない。そんな生態なので、森イカは海のイカよりも若干の身の丈夫さがあった。
料理番賢者たちは日本のイカ焼きの知識を応用し、酒蒸しをすることでこの問題を解決。少しの弾力を残しつつも柔らかい噛みごたえに仕上げることに成功したのだ。
「んーっ、本当に美味しいです!」
「ねーっ!」
酒蒸しして複雑化した旨味が噛むたびにジワリと出てくる。その旨味が焦がし醤油と混ざり合い、ミニャたちのお口の中を幸せにする。
「こんなに美味い森イカは初めて食ったな!」
「ちょっとグルコサに行って森イカを仕入れてくるか?」
「おう、行こうぜ。そろそろ道具の整備も必要だからな」
「うまうまうまうま!」
「おい、コーネリア! てめぇ、それ俺のだろうが!」
村民さんや冒険者たちにも大好評。冒険者は職業柄か一般人よりも少し荒っぽい。森イカを巡って喧嘩を始めそうな人気ぶりだ。
もちろん、自分たちで釣ったキッズたちもニコパの嵐である。
「もきゅもきゅしてる!」
「美味しい!」
「パイン、足が好き!」
「クレアは頭が好き!」
イヌミミ娘たちは揃って尻尾をブンブンさせて全力でもぐもぐし、エルフ娘たちは鬼気迫る勢いでガツガツ。キッズ席は冒険者席とは違ってすこぶる平和。
『ネコ太:ミニャちゃん、美味しい?』
「うん、すっごく美味しい!」
ミニャは口の端を焦がし醤油でメイクしてニコパと笑った。
こうして、フォルガの家の新築祝いは美味しい森イカが添えられて、大成功に終わるのだった。
>>>>>>>>>>>>>>>>>>>
【8月22日】雑談スレ
862、名無し
森イカうまそー!
863、名無し
頑張って釣ったかいがあったぜ。
864、名無し
俺ももきゅもきゅしたい!
865、ブリザーラ
あっ、ククリちゃんが食べてるのオイラが釣った森イカっす! 尻尾フリフリ可愛いっすーっ!
866、名無し
ホントかよ。
867、名無し
絶対に気のせいだぞ、それ。
868、ブリザーラ
いいや、あれはオイラが釣ったのっすね! オイラにはわかるっす!
869、名無し
なんだよ、その謎の自信はwww
870、名無し
誰のだっていいだろ。
871、名無し
釣って楽しい、食って美味しい、子供も喜ぶって、これもうバグだろ。
872、名無し
全部人間の都合で草。
873、名無し
森イカさん<おのれ人間めぇ!
874、リッド
ラディッシュー! 森イカオフ会しようよー!
875、名無し
それが開かれるのなら俺も行きたいんだが。
876、ラディッシュ
この前やったばかりじゃねえか。さすがにもう少しお仕事ポイントを貯めさせてくれ。
877、名無し
まあ、一回開くのに結構かかりそうだしな。ダンジョンの物より、地上の物の方がお土産代が高い傾向にあるし。
878、リッド
わかったよ、じゃあ僕が3割出すから!
879、名無し
全部出せやwww
880、名無し
お前の図々しさはたまに凄いなって思う。領主館のメイドさんに抱っこされたりさ。
881、ロバート
私はまた森イカ釣りをしたいなー。
882、ブリザーラ
わかるっす。めっちゃ楽しかったっすよね。
883、名無し
いいなー、俺もクエスト取りたかった。
884、名無し
ニーテスト、はよ第二回目を企画してくれ!
885、ニーテスト
漁業関連は私じゃなく、漁業委員会だ。釣りっぽか水神王に言え。
886、名無し
レスポンス早っ、ニーテストもよう見とるな。
887、名無し
ニーテストが私って書くと未だに違和感がある。
888、ニーテスト
まだたまに俺って書く時があるからな。
889、名無し
可愛い。
890、ネムネム
あたしの方が可愛いし(*’▽’)なっ?
891、ニーテスト
ほう? よく言えたもんだな?
892、名無し
喧嘩か!?
893、名無し
八鳥花園館にネムネムも引っ越したんでしょ?
894、名無し
八鳥花園館www
895、ニーテスト
変な名前を付けるのはやめろ。ガチで住みづらくなる。
896、名無し
釣りっぽ見てるか? 次はいつ森イカ釣りするの?
897、釣りっぽ
ひとまず個体調査をするから、ここまで大規模な漁は当分やらないぞ。
898、名無し
個体調査って言っても、この湖の女神の森の接地範囲ってめっちゃ広いじゃん。ここだけで調査しても意味なくない?
899、釣りっぽ
言いたいことはわかるが、やらないよりはいいだろう。このあたりにどのくらい来るのかわかれば、全体の数も朧気だけど見えるわけだし。
900、名無し
うお、久しぶりにテレビを点けたんだけど、大事件が起きてるじゃん。
901、名無し
おい、スレチだぞ。
902、名無し
いや、ここは雑談スレなんだがな。まあ、流れが読めてないのはその通りだけど。
903、名無し
なにかあったのか?
904、名無し
獄松組の幹部がどんどん逮捕されてる。なんか、いろいろな業界が関与している疑いがあるって。
905、名無し
ガチで大事件じゃんwww
906、名無し
うわ、マジだ。エグイ捕り物になりそうだな。
907、ロバート
話題がよくわからないんだけど、日本のヤクザかい?
908、名無し
そうそう。かなり大きなヤクザだよ。どういう業界が関与しているかはわからないけど、下手をすると日本株に影響が出るレベルの事件になるかもしれないね。
909、ロバート
それほどか。ちょっと注意しておくよ。ありがとう。
910、名無し
最強女神教団は大丈夫? 関与しているヤツとかいないよね?
911、名無し
親戚や知人となるとわからんけど、本人で関与はないだろう。女神様フィルターに弾かれる。
912、名無し
まっ、正直、一般人からすると『へえ』くらいだよな。
913、名無し
大体の日本人はそうだろうね。ネットでキャッキャしているヤツらもそんな感じでしょ。
914、リッド
話を戻すけど、僕も森イカ食べたい!
915、名無し
そこまで戻すなwww
——多くの賢者たちは知らない。
獄松組を潰すための情報をリークしたのが、自分たちが所属する組織の暗部だということを。
関係者にバレたら大変なことになるので、ニーテストも篠原一家も、当然ネコ忍も、この大事件の当事者だと誇ることはない。ひとつの大組織が潰れていく様子を、ただ静かに見物するのだった。
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




