7-22 賢者たちの巣立ち 後編
遅れて申し訳ありません。
本日もよろしくお願いします。
新人賢者の研修所に、賢者たちの親や兄弟姉妹が降り立つ。
家族に打ち明けた者もいれば、打ち明けなかった者もいる。
どちらを選択したにしても、そこにはよく悩んだ理由が様々ある。
打ち明けなかった者の理由で一番多いのは、自分の居場所を二度と失いたくないというもの。
自分の親が実際のところどのような性格をしているのか、子供の目線からはなかなかわからないものだ。どれほど口が軽いか、ミニャや仲間たちにどんな言葉をかけてしまうか、クエストで出しゃばってクエストリーダーから反感を買わないか。
最強女神教団として大切なこの時期に、万が一自分の親が変なことをしてしまったらと思うと、誘うのを躊躇らわせるには十分だった。
次点で多いのは、心配をかけたくないというもの。
最終的に打ち明けるにしても、自分がちゃんと働いていると知ってもらってから話しても遅くはないと考えたのだ。
逆に打ち明けたのは、家にこのまま住むことにした賢者たちである。
心配をかけたくないのはもちろんのこと、隠れて活動することにそろそろ限界を感じつつあったからだ。召喚されると地球から本体が消失するのは、メリットもあればデメリットもあるのだ。
さて、というわけで、ここにいるのは打ち明けられた家族たちである。ひとまず、お試しで20名が賢者に迎えられている。
『鈴キング:えぇええええ……!?』
『ヒメコ:ひぇええええ……』
誰もが驚愕のフキダシを頭上に作る姿はいつものそれ。『人死に以外で茫然や驚愕の究極形が見たかったら新人研修を見ろ』とはスレッドでよく言われる言葉である。
『覇王鈴木:ようこそ、異世界パトラシアへ』
『ヒメコ:ちょ、ちょっと、これはどういうことなのサトル!』
『覇王鈴木:だから名前を言うんじゃねえって!』
『ヒメコ:あっ、そうだったわね! ごめんね?』
『鈴キング:おい、覇王鈴木ぃ! こんな凄いこと、なんでもっと早く言わないんだ!? 俺だってミニャちゃんのために働きたかったのに!』
『覇王鈴木:うぐぅ……! 親から覇王鈴木と言われる日が来るとは……っ』
『ホクト:どっちやねん』
本名を言われたら怒り、賢者名を言われたら微妙な気分になる。変わった名前にしてしまった始まりの賢者たちの悲哀である。
こんな家族の様子を、賢者たちは様々な想いで見学していた。
【455、名無し:説明しなさいサトル!】
【456、名無し:サトルしっかりしろよ!】
【457、名無し:ていうか、親子揃ってどんなネーミングセンスしてんだよwww】
【458、名無し:身内を連れてくるのって怖いんだな……】
【459、名無し:むしろ俺の想定している親を連れて来た時のリアクションまんまだわwww】
【460、名無し:まあ、若くても興奮して名前を言っちゃうヤツはいるしさ。これは仕方ないよ。異世界だもん】
【461、名無し:ニートを許容してくれていた親なわけだし、あまり責めるべきではないと思うぞ】
【462、名無し:親に言おうか迷ってるけど、どうしよう……】
【463、ショージ:親の立場から言わせてもらいますが、親も所詮は人ですよ。君たちと同じように新しい世界を見たら心躍ります。だから、あまり責めないであげてください】
【464、名無し:まあそうだよなぁ】
【465、ニーテスト:とりあえず、いまは見守ってくれ】
【466、名無し:まあ、言うて大体は社会人だからな。人と関わることをやめていた俺たちニートができたんだから、ある程度は上手くやるだろうさ】
鈴木親子でそんなアクシデントはあったものの、無事に研修が終了して新人賢者たちは帰っていく。当然、それぞれの家庭では家族会議である。
鈴木家。
そこには幼女のようにはえーとしたオッサンとオバサンが爆誕していた。
「楽しんでもらえたかな?」
覇王鈴木がそう問うと、父親の鈴キングがハッとして言った。
「なんでこんな大切なことをもっと早く言わないんだ!」
バチギレである。
聞けば息子が賢者になったのは3月28日のことだという。それだけあれば、どれだけ楽しめたか。休日なんていつもスマホをポチポチして虚無な時間を過ごしていたのに、息子は異世界でキャッキャしていたのだ。そんなことってある?
覇王鈴木はそれをスルーして、懐から通帳を取り出した。
「たぶん、俺は父さんの扶養に入っていると思うけど、それから外してほしい」
鈴キングは眉間にしわを寄せつつ、恐る恐る通帳を開いた。
パラパラと素早くめくるだけでわかるほど、最初の方は我が子ながら情けない戦闘力が並んでいたが、最終ページで超覚醒!
「な、なんでもっと早く言わないんだ! そうすれば俺だって仕事を辞めるよ!」
「いや、辞めんなよ!」
「ニートだったお前が偉そうな口を利くんじゃない! 会社員だって早期退職して農業を始めるヤツはいるんだぞ!? それと一緒で、こうやって収入が得られるのなら普通にあり得る選択肢だろうが!」
「う……っ」
「俺だって辞められるなら辞めるよ! 満員電車に乗らなくていいなら二度と乗らんわ、あんなクレイジーな乗り物!」
悲しき争いが始まった。会社員のラッシュの力強さに、覇王鈴木は今までニートだった手前やや劣勢。
「ま、まあ、それは置いておいて」
これは旗色が悪いと思った覇王鈴木は、両手でお話ボックスをテーブルの上から移動して軌道修正した。このままだと、本当に辞めそうで家庭の危機を感じ取ったのだ。
「2人共、ミニャのオモチャ箱の件は絶対に誰にも言ったらダメだ。普通に命を狙われる。俺たち家族がみんな死ぬくらいなら、まだ自業自得の範疇だ。だけど、俺の家族が原因で他の賢者が不幸になるようなことがあったら腹を切っても詫びきれない。だから、どんなに親しい相手でも絶対に言わないでくれ」
「そ、そんなに危険なの?」
母親のヒメコが心配そうに問うた。
「特に回復属性が危ない。現状でも最上級の使い手はほぼ全ての病やケガを治せる。一段階下だと治せない病もあるみたいだけど、それでも多くの病を治せるんだ。金に目がくらんで拉致ろうとするヤツだって現れるだろう。そこで何らかの旨味を得たなら、次に狙われるのは別の属性だ」
「警察には頼れないの?」
「母さん、警察内部にも悪党はいるよ。権力者の一声で悪党を捕まえない方向へ流れる場合だってあるだろう。この前の立て籠もり事件みたいなシンプルな悪党なら警察は張り切って捕まえてくれるだろうけど、政治と金と面子が関われば、信頼度はガクッと落ちると思っておいた方が良い」
大日本ニート組合会長が知ったようなことを言った。
しかし、会社員の鈴キングも先ほどの矛先を収めて、それには深く頷いて同意した。
「ああ、それはそうだろうな。母さん、これはサトルが正しい」
別に賢者たちは警察嫌いというわけではない。普通にこれから頼ることもあるだろう。
「いま俺たちの仲間が地盤を固めるために奔走している。父さんたちが想定している100倍凄いヤツらだから、まあ良い感じにまとめてくれるはずだ。そのあとなら警察に頼ることもできるだろうけど、今は絶対にダメだ。場合によっては、警察から後ろ暗い人間に情報が渡されてしまう可能性がある」
覇王鈴木の真剣な眼差しを受けて、ヒメコは心配そうにしつつも頷いた。
「まあ、そんなに心配しなくていいよ。何があっても、賢者は生きてさえいれば空間転移で逃げることができる。母さんたちを賢者にスカウトしたのも、その機能を使えるようにするためなんだよ」
「そうだよ。心配するよりも、これからどんなふうに楽しむか考えた方が良いと思うな」
ホクトもそう言った。
それを聞いて、鈴キングはハッとする。
「ミニャちゃんやルミーちゃんとはいつ会えるんだ?」
「今は夜だから、明日以降になるかな」
「有休を取るか……」
即決である。
ホクトは、兄がニートをしていたのは遺伝なのではないかと疑った。
「それと、これは最重要なことなんだけど、俺たち賢者はミニャちゃんのためにある。最優先はミニャちゃんだ。次に優先するのはミニャンジャ村や子供たち。だから、パトラシアにいる時は俺やホクトのことを息子や娘と思わないでほしい。家族として行動されると俺たちにとって迷惑だ」
鈴キングは、元ニートの息子を立派になったものだという目で見た。
親子で同じ職場に勤める人もいるが、通常は親子関係などあまり匂わせずに働くものだから、鈴キングは息子の言っていることをよく理解できた。しかし、覇王鈴木が求めているのはそのレベルの覚悟ではない。
「人形状態の俺たちは死んだとしても、本体が死ぬことはない。だから、例えば、ミニャちゃんと人形状態の俺の命が天秤に乗っている状態なら、絶対にミニャちゃんを優先してほしい。まあそんなことは起こらないだろうけど、そういう覚悟で活動してほしいんだ」
兄の言葉に、ホクトもうむうむと大きく頷いた。
そんな覇王鈴木だが、ホクトを妹だと考えて行動している節がある。子猫の命を救うために火事場に飛び込んだ時も、ホクトのことが心配でたまらなかった。
「あと、父さんに言っとくけど」
「なんだ?」
「八菱のトップの平賀さんを知っているか?」
「八菱? まあ名前くらいは」
「あの人も賢者だから」
「……嘘だろ?」
「本当。毎日ちょっとずつクエストを受けて、カラクリ用の歯車を作ってるよ」
八菱グループは鈴キングが勤める会社の親会社であった。というか、超巨大企業なので多くの企業とどこかで関わりがある。
「ほ、他に伝えておくことはあるか?」
「カスミ製薬の社長の霞薬刃さん、稲穂銀行の頭取の篠原さん、ニコチューブのCEOのロバートさんやナオマサさんも賢者だな」
「お、お前らは日本を牛耳ろうとしているのか?」
錚々たる企業名を聞き、社畜一般兵な父は震えた。なお、企業名は知っているが、さすがに人物名までは知らない。
「ていうか、なんでその面子でニートのお前が幹部なんてやってるんだ? 四天王の最弱枠みたいな感じか?」
「違うわ! ただ単に、暇人共の代表みたいな扱いになってるからじゃない? 賢者はニートが多いし」
悲しいかな、賢者は24時間いつでもクエストを受けてくれるニートが非常に重宝される。大日本ニート組合会長である覇王鈴木は、そんなニートたちの旗頭なのだ。両親は泣いていい。
それから鈴木兄妹は両親に細かなことを教えていく。
スマホに映るミニャのオモチャ箱は他人からは見えないことは、勤め人である2人にとって重要だろう。何も映っていないスマホをジッと見て笑っていたら、病院を勧められてしまう。
この説明の際には立て籠もり事件の過去動画が視聴され、両親は今日何度目かわからない驚愕に包まれた。息子が半端じゃなく強い件。
こんなふうにして、鈴木家両親や他にも数組の家族が賢者として迎えられた。
そして、説明の最後に覇王鈴木は言った。
「今月の15日から俺とナナセは、賢者たちの大規模オフ会に行ってくるから。よろしく」
これにはさすがに両親もついていきたいとは言わなかった。まだ新人賢者なので行っても仕方ないと思えるし、なによりも口ぶりからして友達と会う感じのオフ会だと認識したのだ。
しかし、その認識は間違いで、賢者たちにとってはかなり大きなイベント。
いよいよ大規模オフ会が始まろうとしていた。
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