7-23 大規模オフ会1 ハーレムパーティ
本日もよろしくお願いします。
訂正
※少し内容を書き直しています。
訂正前→お盆休みの始まり
訂正後→お盆休み中
といった感じです。本筋にはあまり関係ありません。
8月15日、土曜日。
東京に向かう電車には、たくさんの人が乗っていた。
本日8月15日は、世間では大きなイベントで一部界隈に注目が集まっていた。
それは、とある戦場で行なわれる大規模同人販売会だ。そのため、戦人の顔をした人たちが、美少女キャラが映ったスマホを見つめながら静かに電車に揺られていた。遊びじゃねえんだ。
電車が鎌倉駅に到着すると、3人の美少女が乗り込んできた。
ギャル系女子高生、スポーティ女子高生、闇ドレスコスプレ女子である。
この車両に乗っているオタク君たちは、そんな美少女たちの登場にドキドキ指数が急上昇。一人なんて闇ドレスを着ているし、黒い日傘が刺さったゴシック調のキャリーケースを持っているし、なによりも一人称は『我』だし、目的地が一緒の同好の士に違いない。ならばワンチャンあるのではないかと。ない。
『次はぁ戦天神~、戦天神~。お出口は左側ぁ。お降りの際は足元にお気をつけください』
人が乗り降りすれば美少女たちの位置も変わる。もし、自分の近くに来たらどうしよう。電車の発車時に自分に向けてよろけてきちゃったらどうしよう!
戦天神町の駅に着き、ドアが開く。
そこからオタク君たちは驚愕の光景を目の当たりにすることとなる。
「あっ、ナナセ、レイ、サトルさん! こっちこっち!」
ギャル系女子高生が笑顔で呼んだ先には、美少女2人のおかわりがドンッ!
しかし、無情なるかな。そこには男キャラというノイズが1匹……っ!
「みんな、おはよう」
「「おはようございます!」」
「ん。おはよ」
男キャラの挨拶に当然のように返ってくる3人の挨拶。
さらに、会話は途切れることなく、男キャラへの好感度を表すように即座に広がる。
「今日はすっごく楽しみです!」
「ああ、俺も楽しみにしてたんだ。みんなどんなヤツらだろうな」
「兄貴みたいな人たちばっかりでしょ」
「なに言ってんのよ、ナナセ。お兄さんみたいにカッコイイ人なんてなかなかいないよー」
「ちょ、ユウナちゃん、声がでかいって。恥ずかしいからやめて」
「うふふっ、サトルお兄ちゃん照れてるの?」
「あはは、サトルさん、可愛い!」
しかもツンデレっぽい妹がいることが発覚し、明らかに慕っているとわかる発言をするギャル、立ち位置が気持ち男キャラに近い大人しそうな女子、ニコニコするスポーティ女子、ちょっと何を考えているかわからない系の闇ドレス女子。その誰もが美少女! そして、その中心にいる男キャラぁ……っ!
常軌を逸した男の格差!
喉の奥から慟哭が這いあがってくるような邪悪な光景っ!
こんなのリアルでやっちゃダメなことだろうがよ……っ!
しかも、この男はオタクに理解があるような面をして、美少女を侍らせて物見遊山さながらにこれから自分たちの戦場に来るのである。侮辱だ。冒涜だ。これを邪悪と言わずになんと形容しようか!
「あー、お泊まりすっごく楽しみ!」
「サトルさんサトルさん、今日の夜は修行に付き合ってください!」
「はははっ、ユウナちゃんも頑張るね」
「だって体をたくさん動かすの凄く気持ちが良いんだもん!」
もう頭が狂っちまうよ。
一行にほど近い場所に座る男がしょんぼりと見つめるスマホの中では、毎日毎晩、寝る間も惜しんで修行をつけている美少女たちがモーションアニメで揺れていた。服から零れんばかりのおっぱいがたゆんたゆんと揺れる様も、今日はなんだか色褪せて見えた。
さて、そんなメンタルテロをまき散らしている一行——覇王鈴木、ホクト、ルナリー、闇人、ユナ、アオ。男1人に女5人という、思春期の男子中高生がゲームの中でこっそりと作るような狂った構成。
「なんか今日は人が多くない? お盆休み中だからかな?」
「そういえばそうかも」
ホクトがそう言い、アオも首を傾げる。
それに対して、オタク度が高いルナリーが言う。
「今日はコミフェスがあるんだよ」
「あー、コミフェスか。道理でね」
その瞬間、周りの戦士たちは心の中で「お前らも行くんじゃねえのかよ!?」と総ツッコミを入れた。闇人の存在が完全にミスリードを誘った形だ。
知らぬ内に電車の中の人たちの心へダメージを負わせた6人は、電車を乗り継ぎ新宿へ。
新宿駅構内を歩きながら、覇王鈴木が闇人に言う。
「そういえば、闇人とこうして話すのは初めてだな」
「ん。よろしく」
「ああ、よろしくな」
妹やレイという年下の幼馴染がいる覇王鈴木は、普通に女子と話せるタイプの人間であった。それに、同じ探索委員会の覇王鈴木と闇人は、一緒にダンジョンへ潜ったり、ネコ忍から厳しい修行を受けたりと活動が被ることが多いので、覇王鈴木的にはとても話しやすかった。
「改めて、あの時は助かったよ、ありがとう」
「うむ。まあ気にしなくていい。狂いし者を滅するのも高貴なる闇の務め」
「滅してはいないよね? あ、そうそう! 見たぜ、例の動画。超カッコ良かったな」
「うむ。我も失われていた本来の力を取り戻しつつある」
「ははっ、そうかよ」
すでにパトラシアで似た会話はしているが、フキダシと生の声だとやはり感覚は違う。
「っと、連絡がきた。向こうも新宿に着いたみたいだぜ」
待ち合わせ場所に急ぐと、まだ目当ての人物は来ていない。
6人でウインドウを見たり、話したりしながら待っていると、1人の人物がやってきた。
ワイシャツに革のベスト、ベルトがやたらとついたズボンにロングブーツ。頭はゴーグルをつけてオールバックにし、顎には無精ひげ。
「スチームパンクって!」
「ギャルゲのパッケージかよ!?」
覇王鈴木にそう言い返したその人物は、工作王。34歳。今日はこの日のために作ったスチームパンク風衣装で決めてきていた。
一回りほど歳の離れた2人だが、お互いに始まりの賢者、それもナンバー4と5である。向こうで散々一緒に活動したからか、出会った瞬間には仲良くなっていた。
「えっ、どうしたのそれ。もしかして自作? あと客観的に見るとそう見えるかもしれないって俺も思っているが、俺はギャルゲの主人公じゃない」
いや、完全にギャルゲの主人公だろという言葉を呑み込み、工作王は質問に答える。
「これ? そうさ、手作りだよ。ワイシャツはさすがに市販だが、ベストとパンツは剣鹿製。ブーツは市販品をちょっと改造してるんだ」
「へえ、さすがに器用だなぁ。めっちゃカッコいいじゃん」
「だろ? あっ、ルナリーちゃんだな。いつも一緒に働いているけど、こっちじゃ初めましてだな」
「はい、初めまして。こっちではレイでお願いします」
「おっと、じゃあレイちゃんな。俺はコウサクで頼む」
「コウサクさんですね。わかりました」
「闇人とみんなも、よろしく頼む」
そんなふうにすぐに打ち解ける工作王は、闇人に言う。
「闇人の服も手作りだろ。オーダーメイドか?」
「我が作った」
「えーっ! 闇人さん、服も作れるんですか!?」
闇人ファンのユナの尊敬度が高まった。
「我、服飾系の学校に行ってた」
「へえ、そうなの? その割には生産クエストをあまり受けないじゃん」
「いまの我はかつての力を取り戻すのに夢中」
要するに、服飾よりもやりたいことが見つかったのだ。決して珍しい話ではない。
スチームパンク野郎をハーレムパーティに迎え、再び電車に乗る。
オフ会開催地である八鳥村に近づくにつれて、人はどんどん少なくなっていった。東京都民でさえその存在を知らない人が多数いるくらい田舎なので、無理もない。
【340、名無し:ヤバい、乗る電車を間違えたっぽい!】
【341、名無し:だからあれほど気をつけろと】
【342、名無し:だってお前らみたいなのがいっぱいこの電車に流れ込んだんだもん!】
【343、名無し:それはコミフェス行きだと言っただろうが!】
【344、名無し:覇王鈴木発見! 美少女ハーレムパーティすぎてワロタwww】
【345、名無し:だいたい面子の想像はつくな】
【346、鈴キング:ちょっと聞き捨てなりません。それはどういうことですか?】
【347、名無し:お宅の息子さん、女の子5人に囲まれてますぜ!】
【348、鈴キング:そんなことってある? 俺の息子だよ?】
【349、名無し:もっと自信を持てwww】
【350、覇王鈴木:おい、誰だ、誤情報を言ってんのは。あと鈴キングはクエストしてろよ】
【351、名無し:やべ、見てた!】
【352、覇王鈴木:あと、工作王も一緒にいるからな】
どこからかそんな情報がリークされる。目的地が一緒なので、八鳥村に近づくにつれて同じ電車に乗る賢者も増え始めたのだ。
覇王鈴木たちの乗る車両にもウインドウを浮かべている者はいるが、お互いに接触はまだしない。他にも乗客がいるため、接触しても話せる内容に限りがあるからだ。賢者たちにとって最強の話題は言わずと知れているわけで、これが封じられると賢者たちの会話力は弱いのだ。
車窓がいよいよ東京なのか疑問に思う景色を映し始めた。
「なあコウサク。これ、群馬に向かってたりしないよな?」
「埼玉はどこ行った。せめて山梨だろ。だが、言いたいことはわかる。俺もこの路線に乗るのは初めてだから凄く不安」
コンクリートジャングルはすでに見る影もなく、夏の日差しを受けて水田に植わった稲が青々と輝いている。そんな光景を見ては、覇王鈴木たちが入り口の上にある経路図を2度、3度と再確認するのは仕方のないこと。
各車両に乗っている賢者たちを不安に思わせながら、電車はついに八鳥村最寄りのキララギ駅に到着した。
【560、名無し:キララギ駅だ! みんな、降りろ!】
【561、名無し:ナビ助かる。久しぶりの電車で凄く不安だった】
【562、名無し:移動でもう疲れちゃった(´・ω・`)】
【563、名無し:めっちゃわかる。森歩きやダンジョン行とは違った疲労感があるよな】
【564、名無し:今日はコミフェスで電車が滅茶苦茶混んでたからなぁ。なおさらヤバかったな】
【565、名無し:もう着いてる人もいるの!?】
【566、名無し:9時半枠だろ。自分の集合時間に間に合えば大丈夫だ】
到着した電車からぞろぞろと人が降りてくる。その多くが自身の前にウインドウを浮かべていた。
「おー、見ろよ、鈴木。なかなか壮観だな」
「異世界ファンタジーなはずなのに一周回ってSFだよな。ていうか、結構な人数が同じ電車に乗ってたんだな」
「まあ集合場所のひとつだしな」
他人のふりをして改札を出ていく賢者たち。もちろん、友達と一緒に来ている賢者もいるが、一人で歩く者もいる。その中には、工作王や闇人のように、奇抜な格好をしている賢者もいた。
覇王鈴木たちが改札を出ると、ロータリーの外れにマイクロバスが2台と数台の車が停まっていた。
「俺たちは1号車だな」
「誰が乗ってるかな」
覇王鈴木たちは指定されているマイクロバスに乗る。二十名ほどは乗れそうな大きさだ。
ここから一般人のふりは終わりである。
「覇王鈴木です。今日はよろしくお願いします」
「ロッコウだ。よろしくな。好きなところに乗ってくれ」
運転席に乗っていたのはネコ忍の男性、ネット関連に強いロッコウ。
健康そうな50代男性に見えるが、その実、70歳近い。
覇王鈴木に続いて乗車した工作王も挨拶をし、妹たちもどんどん乗り込んでいく。
「よう、覇王鈴木!」
「リアル覇王鈴木だ!」
「マジでギャルゲーの主人公みたいで草ぁ!」
「やかましいわ!」
などと、すでに乗っている陽キャ寄りの賢者たちから歓迎の声で迎えられる。陰キャ寄りの賢者も声こそ出さないが、『わぁ!』といった感じの楽しげな顔を覇王鈴木に向けている。咄嗟にキャッキャした声が出ないように訓練されているのが陰キャなのである。
仲間たちに歓迎され、マイクロバスの中ほどの席に工作王と並んで着席。
どうやら奥の方は女子ゾーンのようで、そちらではルナリーたちが迎えられてキャッキャとし始める。傾奇者である闇人の人気が特に高い様子だ。
すぐに前の座席の青年が椅子の上から顔を出して、声をかけてきた。
「覇王鈴木ぃ」
「おう、久しぶり!」
「なにが久しぶりか。誰だかわかってないだろ、タカシだよ」
「お前、タカシか!? めっちゃ想像通りだわ!」
始まりの賢者にして同じ雷属性のタカシは平凡そうな26歳男子。
ただ、平凡そうに見えてどこか魅力的。その秘密は、『境界超越:魂』である。
ネコ忍の修行を受けてから『境界超越:魂』を定期的に使っている賢者の共通点として、体が超人として最適化されていく傾向にあった。
姿勢や筋肉はもちろんのこと、呼吸の入り口である鼻や口、力を漲らせるための歯並びなど、顔の容姿にも表れる。なによりも、ミニャや異世界に夢中になっている彼らは目の輝きが違う。キラッキラだ。
ホクトやルナリーが急に綺麗になって同級生男子をドキドキさせているのも、これらの理由からである。
修行を熱心に行なっているタカシも例外ではなく、平凡そうなクセに、結構な割合の女子が『あり』と答えるであろう魅力があった。
「そっちは工作王か?」
「おー、よくわかったな」
「もう雰囲気が全力で工作王してるしな。ところで、敬語の方がいい?」
「いらんいらん、やめてくれ。俺たちはそういうのじゃないだろ」
「まあそうだよな。まとめ役からして不遜だし」
まとめ役とは、ミニャではなくニーテストのことである。ミニャはボスだ。
「つーか、お前なんなん? あの女の子たちを連れて電車に乗ってきたの?」
「いやいや、工作王もいたし」
「俺は新宿からだ。それまではあの面子だっただろ。俺もせっかくスチームパンク衣装で驚かせようと思ってたのに、逆に度肝を抜かれたわ」
「そりゃ度肝も抜かれるわ。あのね、覇王鈴木君、今日ってコミフェスなんだぞ。そんなの見せられたらオタク共も草枯れるわ」
「いやまあ、確かにさ、俺が闇人たちと合流して電車の空気が変わったのには気づいた」
「あー、闇人はコミフェスに行くって完全に勘違いされていただろうな」
その時、唐突に背後からキャーッと黄色い声がし、「可愛い」といったような声が相次ぐ。それに少し遅れて、覇王鈴木たちも揃って笑う。
ウインドウの中では、学校が始まる前のミニャンジャ村で、ミニャが年少組に九九の詠唱を踊りながら教えていた。その様子は大変に可愛らしく、女子も黄色い声を上げるというもの。
本日のミニャンジャ村は通常運行。
賢者がオフ会を開くので、イベントを行なえないというのもある。
とはいえ、オフ会に行く賢者たちが本日はずっとミニャンジャ村に行かないわけではない。ミニャのオモチャ箱がコンテンツとしてぶっ壊れているところの一つは、一瞬にして異世界に行けること。オフ会中でも、仲間を誘ってクエストに行けてしまうのだ。
ミニャや異世界が大好きな賢者たちなので、当然、そんな計画をしている者がほとんどであった。
「おーい、みんな聞いてくれ。1号車は全員揃ったから出発するよ」
運転手のロッコウがそう言うと、誰からともなくパチパチパチと拍手が始まった。ノリが完全にコミフェスの開催宣言の時と同じである。
賢者たちを乗せたマイクロバスは、いざ八鳥村へ!
読んでくださりありがとうございます。
ブクマ、評価、感想、大変励みになっています。
誤字報告も助かっています、ありがとうございます。




