第12話 Goodbye -俺達-
「お、おい!おろせ聖刃っ!オレの事はいいから…っ!」
お姫様抱っこをされている愛が恥じらいからなのか怒っているからなのか、又はその両方なのかはわからないが顔を赤らめながら言う。
聖刃は愛の言葉を無視し続け、隊員達が放つジューメツの弾を避けながら施設の外へと向かう。
もう少しで外、と言った所で目の前にリーダーと舞が立ちはだかった。
「ブレート!…リーダー…!?あんたまで…!」
「さぁ、その刀を返してもらおうかしら。」
リーダーは聖刃に手を差し出す。聖刃は愛をお姫様抱っこすると両手が塞がってしまうので、愛に刀を持たせている。
そもそも口調が変わっていることに違和感を覚えたが、ブレートという寄生生命体がこの世にいるのだ。恐らくリーダーもブレートの仲間とやらに寄生されているのだろう。
「…愛、立てるか?」
「最初っからおろせって言ってんだろーが…全く」
聖刃ははいはい、と適当に返しながら愛を下ろし、刀を返してもらった。
一瞬、愛はまだダメージが回復してないのか倒れそうになったが、自身で体勢を立て直した。
そして、愛はジューメツを、聖刃は鞘を抜き血濡れた刀を構える。
「…聖刃と愛を殺せェエエエエエ!!!!!!」
舞のその声と共に銃声が鳴り響いた。
愛は、ジューメツの能力を利用し、聖刃の盾となる。
聖刃は舞とリーダーとの距離を詰め、刀を振り下ろす。とはいえ刀の扱いなど慣れてもいなければ今まで持った事もロクに無いので呆気なく避けられる。しかし、それでもがむしゃらに刀を振りまわしては避けられ、を繰り返した。
「全く、刀の扱いがまるでなってない。素人よりも駄目ね。」
「素人以下で悪かったな!」
しかし聖刃の目的は殺す事ではなかった。
目的を果たせた聖刃は攻撃を受け続けている愛に合図を送り、愛はそれを承諾したのち、聖刃の元へと走り出した。
「…あ。」
「おい桜智夜…扉から離れたら逃げられるでしょうが。」
「あら、ごめんなさい?」
聖刃は扉を破壊し、愛を連れ外へと逃げ出したのだった。しかし舞一行は追いかけるような事はしなかった。何故なら、こんな廃坑した世界でどこへ逃げても結局は果てていくのだから。
施設から外へ出て、自宅へと逃げ込んだ聖刃と愛は、聖刃の部屋で休憩する事にした。
「…これからどうするんだ、オレ達。」
「わからない。もうGGG.sは俺達の敵になっちまった。ブレートって奴の罠に俺がかかっちまったから。」
「なぁ、そのブレートってのは何なんだ?あん時に舞に入っていった変な気持ち悪い虫みたいなヤツの事か?」
聖刃は愛にブレートについて、今回の一件について全てを話した。
ブレートという生命体が未来に寄生していた事。
聖刃を罠にはめて人殺しに仕立て上げた事。
その他色々な事。
「…そうか。なんつーか…とんでもなくバカな作戦に引っかかったんだな、オマエ。」
「やめてくれ…その結果こんな展開になってんだから…」
「まぁ、オレもあんま話したくはねーけど、何があったかを話してやるよ。」
聖刃が研究室へと向かった直後。
「クソ、オレ一人はやっぱキツいっての!」
愛は一人で格闘戦でゾンビ達を圧倒する。
舞は物陰に隠れ、聖刃とワクチンを待っていた。
そんな時、舞はふと愛に近づく小さな影を目撃した。その影は急速に愛に接近したので、舞は意を決して愛を庇った。
「愛ちゃん!危ない!!あぐぅっ!?」
「舞!?」
愛は舞の声が聞こえたので、振り返ると、舞の中に気味の悪い虫が侵入していき、舞の体が痙攣しているのを見てしまった。
その虫が舞の中に完全に入りきった後、大丈夫かと舞の体を揺さぶる。直後、舞は意識を取り戻し、愛にジューメツを放った。
攻撃を食らった愛はその場に倒れ込む。
「…私はお前の身体に入ろうとしたんだが…まぁ…この身体でも良いかァ…」
そういうと、舞は顔を引き攣らせ、自身の体を摩ったり、弄ったりし始める。
愛は改めて、これは舞では無いと確信する。
「テメェ…!舞の体に…触れるんじゃねぇ…っ!」
「あ〜ぁ?私はもう舞なんだよ?この身体で何しようが私の自由でしょ?」
「黙れっ…うぐっ!?」
反論する愛の顔を舞は足で踏みつけた。
そしてそのままジューメツを腹部に放った。
「五月蝿いんだよ…私が何しようと私の自由でしょ…おい、ゾンビ達。愛ちゃんの相手をしてあげて。」
そう言うと舞は何処かへと行ってしまった。
その後愛はゾンビ達に抱きつかれ、体の至る所を触られ、噛まれ、舐められ、屈辱的行為をされた後、ワクチンを投げ込まれゾンビ達は沈静化した。
そして舞は笑いながら愛にとある映像を見せつける。
「見て、これ。聖刃さんがァ…未来ちゃんを殺してる映像♡」
「…」
「ま、これ私が仕組んだんだけどねー、これをみんなに言って、聖刃さんを敵にしようかなってさー」
「何が目的だ」
「…リーダーへの復讐も兼ねた単なる私のお遊び、だよ?…愛ちゃん♡」
そう言うと舞は愛の頬を舐める。
その後、舞の話を信用したのか、仲間であるはずの隊員達は愛を縛りつけ、引き摺りながら何処かへと運んでいった。
「…それで俺と遭遇って訳か。」
「あぁ…あん時の事…思い出すだけで嫌になる…」
「無理に話さなくてもよかったのに」
「…。」
愛は自身を抱きしめる。その顔は、恐怖で満ち溢れていた。
そんな様子の愛に対し、聖刃はどうしようもできず、ただ話を聞く事しか出来なかった。
「怖いんだ…ゾンビに噛まれちまった時から…オレもアイツらみたいにゾンビになって…聖刃を…!」
「愛…。」
「嫌なんだよ…!また…兄貴ん時みたいに…無意識に大切な人を殺しちまうんじゃないかって…!」
愛はもう限界だ、と涙を流した。
聖刃は何も言えなかった。多分、何かを言っても逆効果になってしまうような気がしたからだ。
そんな時、愛は聖刃をベッドに押し倒した。突然の出来事に困惑する聖刃だったが、愛は聖刃に四つん這いになり、耳元で囁いた。
「でもよ…どうせゾンビになっちまうんなら…したい事くらい…しても良いよな…?」
「…え?ちょ、何言ってんだ…?!」
そう言うと愛は服を脱ぎ始め、下着が露わになる。
聖刃は愛の裸を見ないようにと目を隠した。
しかし愛は自身を見て欲しい、と聖刃の手を退かし、手首を掴み拘束する。
「…マジで何するつもりだ…愛!?」
「オレ…実はお前の事が好きなんだよ…でも…好きなヤツを傷つけたくない…だから…」
「んぅっ?!」
そう言うと愛は自身の唇と聖刃の唇を重ね合わせた。突然のキスに驚く聖刃であったが、それ以前にゾンビになる危険性がある愛との濃厚接触は聖刃自身すらもゾンビになりかねない。
「んんっ…はぁ…はぁ…」
「はぁっ…はぁ…愛…お前知っててわざと…!」
「…うん…だってもう…オレ達はどう足掻いても結局死んじまう…だったらいっその事…一緒にゾンビになってさ…二人で一緒に行動して、一緒に誰かを襲って、一緒に殺されよう…?」
愛が諦めてどうする、と反論する聖刃であったが、組織は敵となり、これから先どう生きるかの当てもない…正直絶望的だった。
だったら…愛の思う通りに…ゾンビになってしまっても良いのかもしれない。仮に片方だけがゾンビになってしまったら、どちらかが殺さなくてはいけない。ワクチンがあれば良い話だが、聖刃達にそんな技術は無い。
…もう、諦めよう。
「…わかった、愛…。一緒にゾンビになっちまおう…」
「ありがとう聖刃…大好き…だぞ…。」
聖刃と愛はもう一度キスをした。さっきよりも長く、濃厚に、絶対にゾンビになってしまう程に。
お互いの熱を感じながら、ベッドで一夜を明かし、寒い朝をお互いで温め合い、体がゾンビと果てるまで時を待った。
最初に変化が現れたのは案の定愛だった。
突然苦しみ出したと思いきや、体が次々と腐食していった。聖刃も追うように苦しみ出し、体が腐食していった。
「よ、ようやく、だな…聖刃…」
「あぁ…長かったんだか短かったんだかもうわからねぇな…」
「でもこれで…やっと…!」
「あぁ…そうだな。」
聖刃と舞は最後にお互いの顔を認識し、キスをして、人間として別れの言葉を告げた。
「さよなら、聖刃…オマエに出会えてオレは嬉しかった…。」
「あぁ…俺も…一緒に最後を迎えられて嬉しいさ…さよなら…愛…。」
そして、二人は人間を辞め、本能の赴くままに動いた。
どうやらその2匹のゾンビは、ずっと二人組で離れる事はなかったと言う。
「…。」
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。
まだ1日しか経っていないのか、1週間経ったのか、或いは1ヶ月、いや、もしかしたら1年以上経っているのかもしれない。
1匹のゾンビは、莉里聖刃として起き上がる。
「…ここは?」
そこは、ただ広い空間だった。
辺りを見渡すと、ガラス越しにこちらを覗いている人々がいる。しかしどれも見たことの無い人達だった。そこまで人の顔を憶えられている訳では無いが、少なくともここがGGG.sでは無い事は確かだった。
「目を覚ましたようだね。01(ゼロワン)。」
振り返ると、そこには白ずくめの女性がいた。
01、と言うのはどうやら自分のことらしい。
「君の名前は何かな?」
「…莉里、聖刃。」
「ほう…セイバ、か…なるほどねぇ…」
女性はクリアファイルに何かを書き始めた。おそらく自身の…聖刃の名前を記入しているのだろう。
名前と、最後を共にした人物だけは憶えている。
でも、それ以外はまったくもって思い出せなかった。
「あの…俺は一体…」
「君達は、謎にコンビネーションが抜群なゾンビだった。だから君達を捕獲し、我々が分析した結果、君達だけには理性があった。だから、ワクチンを投与し、人間に戻してあげたのさ。」
「…そうなんですね…。ところで、愛は…?」
「愛?もしかして、君と一緒にいたもう一人の女の子かい?」
「そうです。彼女は…?」
すると女性はとても言いづらそうな顔をした。
しばらく沈黙が続いた後、女性は小声で誰かと通話を始めた。通話はすぐに終わり、聖刃に服を投げつけた。
「服を着たら、私に付いて来て。」
服を投げつけられ、自分が全裸だということに気付き、投げつけられた服に着替え、女性について行った。




