表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

【第四夜】 ゼーレのともし火(2)

 だれかがそばに立った。灰色の頭巾を深くかぶり、長い杖を突いて、高いところからぼくらをじっと見下ろした。

「あなたはだあれ」

 わたしはゼーレさ。

 おじいさんかと思ったけれど、頭巾の下からこたえた声は、なんだかもっとわかく聞こえた。

「どこからきたの」

 ずうっと遠くさ。

 しゃあん、と。

 また鈴が鳴る。遠くとおく、細くかすかにこだまを残して。

 その音に導かれるように進んでいくひかりの列。

「たくさんいるね」

 いくさがあったからね。

「いくさって、なあに」

 よくないものだよ。

 頭巾がふわりとゆれた。わらったみたいに。

 いくさを知らないのはよいことだ。

 それは災厄の連鎖。悪意の応酬。報復の車輪。始めることはいつでもできる。だが、避けることも終えることもできない。

 頭巾の下でそのひとは、小さくちいさく首を振った。

 さあ、わたしたちはもう行くよ。この道のりはまだ長い。この旅路はまだ遠い。

 そう言って、ゼーレはまた杖の鈴を鳴らした。

「どこへいくの」

 ずうっと遠くさ。

「いつ帰ってくるの」

 帰ってこないよ。

 ずっとずっと遠くへ行って、新しくやってくるものさ。

 遠くとおくを見るように、頭巾のかたちがちょっとだけかわった。

「ぼくらもいっしょに連れて行ってくれる?」

 そうたずねたぼくらに、ゼーレはゆっくりと首を振った。

 おまえさんにはまだ早い。そらご覧、おまえさんはあのあかりを持っていないだろう。まだその順番ではないということだ。

 とおり過ぎて行くひとたちはみんな小さな灯を手にしている。小さな灯はかげろうの翅のような薄い火屋(ほや)を透かして、かれらを色とりどりに照らしていた。かすかな光に照らされて、だれもかれもがおだやかに微笑んでいる。

 おとなもこどもも赤ちゃんも。

 だれもが幸せそうに微笑んで、ぼくらの前を過ぎていく。

 ぼくらをここに置き去りに。

 あれがゼーレだ。

 見送るだけのぼくらに、ゼーレは言った。

 これは、生まれる前に決めた順番なのだ。先に来て先に行くものもあり、あとに来て先に行くものもある。その岐路は多く、途は長く、来し方は忘れ行く手は見えぬ。けれど誰しも、同じところから来て、同じところへ帰っていくのだ。

 その話は、ぼくらにはむずかしすぎてわからなかった。わからなかったけど、ぼくらはとてもかなしくなった。

 ぼくらはここに残される。

 ゼーレはうつむくぼくらの頭に手を置いた。

 さあお別れだ、わたしのぼうや。

 このままお行き。せかいはおまえを待っている。

 ふりあおぐぼくらの目に一瞬映ったのは。

 大きな弧。

 頭巾の下の。


 まばたきしたあいだに、すべては通り過ぎていった。

 遠くとおくにあかりがまたたき、ゆれながら消えていく。

 遠くとおくに鈴の音がひびき、風のあいだに消えていく。

 あれが(ゼーレ)だ。

 ぼくらは泣いた。

 かなしくて泣いた。

 なにがかなしいのか、そんなことさえわからないまま。



多分このおじいさん?は、時の翁なんでしょう。

生まれる前も逝くときもお世話になるらしいです。

でも出会うのは、ちょっと…


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ