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【第三夜】 アクアリウムの人魚(1)

夜、灯りを落とした水族館。

そこはきっと、海の中にも似ていることでしょう。

 夜の水族館(アクアリウム)はとても静かだ。

 昼間はあんなに明るくて、騒がしくって、さかなたちはきらきら泳いでいるのに、明かりが消えると青いさかなも赤いさかなもみんな同じ色になって、こちらを見ながらゆうらりと浮かんでいる。

 眼を開けたまま眠っているのかしら。眼を開けたまま眠ったら、どんな夢をみるのかしら。

 ぼくらはふたりでひとりだけれど、ひとりが眠るとふたりで眠ってしまう。

 ぼくらはひとりでふたりだから、ひとりで眠るとふたりで眠っている。

 だから、眼を開けたまま夢をみたことがない。

 さかなって、ゆっくり眠れるのかしら。眼を見開いたままでもぐっすり眠れるのかしら。

 きらきらと、ゆらゆらと。

 あおい灯りに踊るさかなたち。

 水族館の夜は静かだ。

 たまに、寝ぼけたらしいちいさなさかながぴちりと跳ねて、またすぐに潜って行く。

 ねがえりをうつみたいに、おおきなさかながぐるりと一回転する。

 いつまでも眺めていたいのに。ぼくもぼくもあくびが止まらない。

 さかなみたいに眼を開けたまま眠れたら、ずっと見ていられるのに。

 ちょっとだけ。ちょっと眼を閉じるだけ。ほんのちょっとだけ眠ろうかしら。

 冷えたゆかに座り込む。

 ぼくほんのすこし眠るから、あとで起こしてくれる?

 ぼくも眠ってしまうから、朝になってしまうかも。

 そうだよね。ふたりともとっても眠いんだもの。

 でも、ほんのすこし……。


 だれかの声がした。

 ねえ、きいて。

 わたしの声をきいて。

 だれでもいいから返事をして。

 ――誰か。

 だれの声なのか。どこから聞こえてくるのか。

 あたりを見回しても、暗い水槽に光る泡、眠りながら泳ぐさかなたちばかり。

 ううん。

 水槽のなかでぼくらを見ている。目を覚ましてぼくらを見ている。

 一匹の、赤いちいさなさかな。

 さかなが喋る。

 わたしを見て。わたしの声をきいて。

「きみは、だあれ?」

 赤いさかなにぼくらはきいた。

 わたしは人魚。

 さかなが答える。

 青い海、広い海、南の海から来た人魚。

「でもぼくらには、赤くてきれいな小さなさかなにしか見えないよ」

 だってここは狭いのだもの。

 そうしてさかなはくるくる回った。

 わたしがもっと小さなときは、珊瑚礁で泳いでいたの。おおきな網がわたしをつかまえた。ちいさな硝子の壺に詰められて、遠くとおく運ばれてきたの。

 赤いさかなが小さな泡をぷくぷく吐いた。泡はゆらゆら登っていって、上のほうでぱちんと弾けた。

 お願い、わたしを海に返して。


「赤い」と「人魚」の組み合わせだけど、「ロウソク」はありません。

ありません、が…

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