表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

【第二夜】 自動人形の夜(1)

夜の自動人形館に迷い込みます。

……?

考えてみれば、ホラーかサスペンスか肝試しなシチュエーション。


 ぼくらはぼくらだ。

 ぼくらはひとりだがふたり、ふたりだがひとりだ。

 生まれた朝から、いままでずっと。

 ぼくらが石畳の道を歩いていると日が暮れた。

 あのおれんじ色がなかったな、とぼくらが考えていると、冷たい固いものが額を打った。

 夕立だ。

 雨宿りの場所を求めてあたりを見回す。と、遠くに黄色い灯が、雨に滲みながら燃えている。

 あそこだ、とぼく。

 あそこに行こう、とぼく。

 ぼくらは手をかざしながら灯りのほうへ走った。とても速く走ったので、ひとりきりのぼくらの影とひとつきりの足音が、びちゃびちゃ濡れてしまうまえに、ぼくらは屋根の下に辿り着いた。

 古くて大きな洋館が建っていた。

 黄色い灯はその玄関を照らし、木製の扉を照らし、扉に架かった飾り板を照らしていた。

「自動人形館」

 陶器の輝きがてらてらして、ぼくらは知らず扉に近づいていた。

 ぎいという音すら立てずに扉は両側に開いた。どこかでちかちかと何かが光ったかと思うと、温かい風が吹きつけた。

 ぼくらの背後で扉が閉じる。あたりは一瞬、真っ暗になった。

 と、灯が点る。

 ぼくらのすぐ左前で一つ。

 遠くのほうで、一つ。

 灯の増える早さがどんどん早くなり、気がつくとぼくらは明るい広間に立っていた。

 ぼくらの目の前には止まり木が一本立っていて、緑色のオウムが止まっている。白いシャツに赤い蝶ネクタイ、黒い上着とオペラハットをまとっていた。

 オウムは円い眼を開き、おもむろに喋り始めた。


 “Welcome, Little boy. Can I help you?

(いらっしゃいませ、小さなお客様。どうなさいました?)

  You can watch,Some,some AUTOMATA.Some,some,some …….

(ここには非常にたくさんの自動人形がおります。それはそれはたくさんの。)

  Please, go ahead!”

(さあどうぞ、お進みください!)


 そして、ぱっと黒い袖に包まれた緑の翼を広げた。思わぬその大きさに一瞬、ぼくらはたじろいだ。

 けれどオウムは、翼を閉じ、眼を閉じた。生き生きとしていたそれは、ぼくらの目の前で人形に戻る。

 Automaton――自動人形。

 足元がぺかりと大きな矢印に光る。あとは自分で見て回れということだろう。

 ぼくらは同時に一歩踏み出した。


 Automatonは美しい。

 Automatonは哀しい。

 最も美しい一瞬を留めたまま、次へ移る動きを待っている。

 美しい一瞬に凍りついたまま、更に美しい次の一瞬を待っているのだ。

 舞台に飛び出す直前のプリマドンナ。第一声を喉に溜めた歌姫。楽譜どおりにヴァイオリンを奏でる少女。大きな玉の上でトンボをきる道化。円い線路を走る汽車。牧場を跳ね回る仔馬。賑やかに鳴る自動風琴。

 すべて、ぼくらが彼らの前に立ったときだけ生命を得る。そしてひととおり生命ある動きをしてしまうと、彼らは再びきれいなだけの人形に戻っていった。

 きれいだね、とぼく。

 うん、とぼく。

 きれいだけど、さみしいね。

 うん、さみしいね。

 広い広い、広い人形館は、ぼくらの足をうんざりさせた。けれど座って休めるところが見つからない。人形の傍では人形たちが動き出す。

 あきらめてぴかぴかの床に腰を下ろした。床はひんやりとして、なんとなく気持ちいい。

 ふいに、ぼくらの目の前に扉があらわれた。でも扉なんて出たり消えたりするものじゃないから(だってそうだったら困るでしょう?)元々そこにあったに違いない。疲れて見ていなかったのだろう。

 この扉は、これといった飾りもない、ただの木の扉だった。隅には埃が積もっている。真鍮のノヴだけがきれいに磨いてあった。そのあまりのさりげなさにぼくらは扉を見落としたに違いない。少なくとも、めくるめく夢を構成する人形たちとは一線を画するものだった。だからぼくらは何の気なしに扉を開けられたのだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ