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【第六夜】 ヒドゥンウッドの迷子たち(3)

 子ねずみのすばやさで身を隠してしまった子たちを、やぶの中から見送っても。

 ぼくらはそのまましゃがみこんでいた。

 取り残されたさびしさに、ひかりに背を向けてうつむいてしまったぼくらをだれかが呼んだ。

 だあれ?

 ふりかえったぼくらは、見覚えのある影を見上げた。

 きてくれた?

 一瞬そう思った。だれを期待していたのか、ほんとうはわからなかったけれど。

 でもきっと、ぼくらは彼女のことをわすれていた。

 こんばんは、ひさしぶりね。黒衣の看護婦がほほえんだ。

「こんばんは」

 ぼくらはあいさつを返したけれど、彼女をどう呼んだらいいのか迷ってしまった。だって彼女は黒かったのだ。黒かったけれど看護服を着ていなかったのだもの。看護婦さんじゃなかったら、なんて呼んだらいいのか知らないのだもの。

 彼女の顔を見上げ、足元に目を落とし、なやむぼくらに彼女は瞳を細くして笑いかけた。

 わたしはクロエ。

 耳ではそう聞いたはずなのに、その音は幾重にもぶれて、ぼくらのなかで雨の日の水たまりのようにちがう心象をいくつも描いた。

 さっきの子たちもクロエがキタと言っていたけれど、あれは彼女のことだったのかしら。そう思い出して見まわしたけれど、猫をみつけた子ねずみみたいに、あの子たちのすがたはちっとも見えなくなっていた。

「あれはネの子。ここに来るにはまだ早いのだけれど」

 なにかを考えるように、それともなにも考えていないように。かすかに首をかしげ目を細める彼女の表情は、聞き分けのない患者を前にした看護婦さんとおなじにみえた。

 けれどそれもほんのわずか、つばを飲み込むほどの時間。

 彼女はふいと背中を向けて明かりのほうに一歩踏み出し、思い出したようにぼくらに手招きした。

「いらっしゃい。あなたたちには資格がある」

 シカク? シカクってなにかしら。

 彼女に招かれるままに、ぼくらはにぎやかな広場に踏み込んだ。

 その途端。

 たのしげな歓談の声が消えて、楽器の音だけがむなしく鳴っていた。かすかなかすかなざわめきが、広場の向こう側からさざ波のように寄せてきて、ぼくらの足をすくませる。

 彼らがなんて言ったのか、ぼくらにはどうしてか聞き取れなかった。ただぼくらは拒まれているのだと、不思議なくらいに確信していた。そしてそれはとても――かなしかった。

 ぼくらは小さくなって、もっともっと小さくなって立ち止まる。

 クロエはほんの少し振り向いた。ほんの少し足を緩めて、けれど緩めただけだった。ぼくらは彼女について行くために、歩かないわけにいかなかった。

 華やかな照明、楽しい音楽、大勢の人たち。

 こんなに騒がしくにぎやかなお祭りの夜に。

 どうしてぼくらはこんなにも孤独なのだろう。

 どんなに思い返しても、こんなに悲しい夜は初めてだった。どれだけたどってみても、こんなにさびしい夜は初めてだった。

 旅に出てから、ぼくらはちっともさびしくなんかなかったのに。


彼女が自ら名乗りました。

だから彼女がクロエなのは間違いないのです。

でも彼女は、名前しか教えてくれませんでした。

だから彼女が何者なのか、わたしも知らないのです。

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