【第六夜】 ヒドゥンウッドの迷子たち(2)
それはまるで、絵本のせかい。
紺色の空のした、かぼちゃ色のランタンが丸くまろくぶら下がっている。深緑の森のかげ、色とりどりの小旗がクモの巣みたいにあちらこちらと張り巡らされている。華やかな衣装の人たちが穏やかに談笑する。ぴかぴか輝く楽器が誇らしげに歌っている。
なんて賑やかな。
なんて華やかな。
見たことあるよね。ぼくがささやく。
絵本で見たよね。ぼくも声をひそめる。
だって。この賑やかな華やかなお祭り広場は、ぼくらにはまぶしくて。
まぶしすぎて。
だからぼくらはこっそりと、小さなやぶのかげで息をひそめていた。
せかいはぼくらの知らない姿に装い、ぼくらのことを忘れている。
いいえそれとも最初から、ぼくらのことなど覚えちゃいない。ぼくらのことなんか知っちゃいない。
いままで目をそむけていた疑いが、ぼくらの首根っこを鷲づかみした。
とうさんやかあさんのように。
うそだ、うそだ。そんなことない。
そんなはずない。
急に空々しく鳴る楽器の音に耳をふさぐ。安っぽく光る飾りから目をそらす。しげみの中にもぐり込み、小さくうずくまってぼくらはかくれた。
手のとどかないあこがれと、夢みることもできないきらめきに、せかいに忘れられたぼくらはせかいを忘れようとする。
小さくちいさく、小さくなって。せかいから消えてしまうように。
こんな暗い夜なんか、早く終わってしまえ。そう念じて。
だけど。
夜が明けたって、なにが変わるわけでもないんだ。
悲しくなって、ぼくらはもっともっと小さくなる。
ぼくらは消えてしまいたい。そうでなければ、いっそ。
いっそ、せかいよ消えてしまえ。
だから。
だから、誰かに覗き込まれてぼくらはひどくびっくりした。
道でであった犬みたいにフンフン鼻をならして、薄灰茶色の小さな子たちがやぶ越しにぼくらを覗き込んでいる。並ぶ黒い目はつやつやしてボタンみたいだ。
「おまえナニだ?」
ひとりが言うと、次々となにだなにだと輪唱をはじめた。
どうしよう、とぼく。
にげちゃおうか、とぼく。
しゃがんだまま後ずさりしたけれど、小さな手がぼくらをつかまえる。小さな鼻をこすりつけてにおいをかぐ。
「チガウぞ」
「でもオナジだぞ」
ちがわない。
でもおなじじゃない。
ぼくらはひどく悲しくなって、たくさんの手を振りほどいた。そのまま駆けて逃げようとしたけれど。
急にその子たちが飛び上がった。
「クルぞ」
「キタぞ」
口々に叫ぶと、天竺ねずみのようにくるくるっと回ってやぶに飛び込んでしまった。
「クロエがキタぞ」
クロエって、誰?




