表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国を追放された第四皇子の俺は祖国を滅ぼし、全てに復讐ざまあします  作者: しぇりおん
第一章 帝国追放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/11

第6話 昼下がりのお茶会

 日が一番高く昇る頃。ハシムたちは中庭でお茶会を開いていた。

 ハシムの座る円卓には、色とりどりの菓子が並び、華やかに彩られている。


「殿下、何になさいますか?」


「コリー産の紅茶を」


 ライラが「かしこまりました」と応じ、華麗な手捌きで紅茶を淹れてハシムに差し出す。

 ハシムはその紅茶を手に取り、香りを確かめてから一口飲んだ。


「美味い。相変わらず良い腕前だな」


 ハシムに称賛されたライラは、嬉しそうにしながらも「メイドとして当然です」と返す。


「そうだな。お前なら大したことではないだろう」


 ハシムはそう言うと、ライラの淹れた紅茶を静かに堪能した。



 その一方で、カタリナとアンジェ、フウカの三人もしめやかに《《お茶会》》をしていた。


「どうぞ、アンジェさん」


 シシリーが、肉の乗った皿をアンジェに差し出す。


「ありがと、シシリー」


 アンジェは目の前の肉を一口分切り取ると、口に運び、その美味しさに笑みを浮かべた。


「あのさぁ……これ一応、()()()なんだけど」


 対面に座るカタリナが、呆れた様子で指摘する。

 しかしアンジェは気にする様子もなく、肉を頬張りながら返した。


「それが?」


「アンタ……お茶会って知ってる? お茶とお菓子を優雅に楽しむものなの!」


「だから、優雅に楽しんでるじゃん。そうだよね、フウカ?」


 カタリナの隣では、同じく肉を頬張っているフウカが、口を膨らませながら同意するように頷く。

 アンジェは追い打ちをかけるように、紅茶を口に含んだ。


「ほら、ちゃんとこうやってお茶も飲んでるし」


「あんたらは……」


 二人にツッコむ気力も失せるほど、カタリナは深く落胆した。


「まあ、そんなに不貞腐れるなって。肉をお茶請けにしているのにも、ちゃんと()()()な理由はあるんだよ」


「どんな理由よ……」


 アンジェは食べながら、その持論を語り始める。


「午前中に働いたら、その分お腹が減るでしょ? でもお茶会じゃお菓子くらいしか食べない。午後も働くなら力を蓄える必要がある! だから昼に食べるべきは、菓子ではなく肉が良いってこと!」


 力説するアンジェに、カタリナは呆れ顔を隠さない。


「それはつまり……一日三食が理想ってこと?」


 カタリナの問いに、アンジェがコクリと頷く


「一日三食は毎日働く労働者の習慣でしょ。私たちは皇子付きの従者なのよ。そんな平民みたいなこと、できるわけないじゃない」


「平民って……アンタも平民じゃん……」


 貴族ぶる平民のカタリナに、アンジェは呆れながら肉を食べ続けた



 一方もう一つの円卓でも、お茶会をする者たちがいた。


「ラル様、紅茶のおかわりはいかがですか?」


「ありがとうございます、シシリーさん。いただきますね」


 シシリーがラルに紅茶を注ぐ。その様子を、対面からヒューゴが羨ましそうに眺めていた。


「シシリーちゃん、こっちもお代わりほしいなぁ」


「ヒューゴ様は、ご自分でお願いしますね」


 軽くあしらわれ、落胆しながら自ら紅茶を注ぐヒューゴ。その姿を、肉を食べていたスレイが鼻で笑う。


「惨めだな、オッサン」


「あまりそういうことは言うべきではないぞ、()()()()()


 スレイは「万年二位」という言葉を聞いた瞬間、食べる手を止めて立ち上がった。


「オッサン! どこでその言葉を!」


「さあ、どこだろうな? 密偵をやっていると、情報源は無限にあるからなぁ……」


 とぼけるヒューゴを見て、シシリーが不思議そうに尋ねる。


「万年二位……とは、どういった意味合いでしょうか?」


「そ、それは……」


 答えに窮するスレイを余所に、ヒューゴが勝手に解説を始めた。


「簡単な話だよ。こいつは帝国の士官学校出身なんだけど、入学してからある時期まで、すべての成績が二位だったんだ」


「おい! オッサン! 勝手に話すな!」


 睨みつけるスレイを無視して、シシリーが「すべての……」と呟く。


「二位というのは……つまり、その……」


 弁明しようとするものの、苛立ちで言葉が詰まるスレイ。見かねたラルが助け舟を出した。


「スレイさんは士官学校の出身だったんですね。才覚に溢れている理由が今わかりました」


 ラルの擁護に少し落ち着いたのか、スレイは椅子に座り直して一呼吸置いた。


「別に隠していたつもりはない。ただ……あまり思い出したくない時代だったからな」


「そうでしたか……。軽率に聞いてしまい申し訳ありません、スレイ様」


 シシリーが頭を下げると、スレイは「謝る必要はない、悪いのはこのオッサンだ」と、再びヒューゴを睨みつけた。当の本人は、悪びれる様子もなく紅茶を啜っている。


「しかし、スレイさんほど優秀な方が二位で居続けるなんて……一位の方はどのような方だったのでしょうか?」


「それは……」


 ラルの当然の疑問に、今度はヒューゴが即答した。


「スレイが二位になってしまうのも仕方ないことさ。一位があの()()()殿()()だったからな」


 予想外の事実にラルとシシリーは言葉を失い、スレイは聞かれたくなかったのか俯いた。


「殿下が、士官学校に?」


「ああ、一年ほど在籍したあと、自主退学したそうだ」


「初めて知りました……。でも、自主退学というのは……」


「おそらく、例の初陣の件で責任を取らされたってところだろう。実際、あの初陣のあと、殿下は追放されるように大陸諸国を放浪していたしな」


 ヒューゴの言葉に、シシリーは納得したように頷いた。



 冷静さを取り戻したスレイに、ラルがさらに問いかける。


「ところでスレイさん。士官学校時代の殿下は、どのような感じだったのでしょうか?」


 スレイは複雑な表情を浮かべつつ、当時のことを話し始めた。


「……すごく優秀だったよ。本来なら十五歳から入学できるところを、特例で十四歳から入学して、実技も座学も共に一位を取り続けるくらいにはな」


「さすがは殿下だ。どこぞの()()()()を上回るとはな」


 ヒューゴが皮肉を込めて茶化すが、スレイはそれを聞き流した。面白くないヒューゴはさらに言葉を重ねる。


「しかし良かったな、スレイ。殿下が自主退学したことで、ようやく一位を取り戻せたんだろ?」


「ああ、そうだな」


 スレイは冷静に返し、続けてヒューゴを牽制した。


「なあオッサン。また怒らせたいなら、別の方法を試した方がいいぞ」


「そうか。なら言葉通り、別の話をしようか」


 ヒューゴは表情を改め、核心を突く問いを投げかけた。


「なあスレイ……お前、なんで()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()


 スレイが微かに身を強ばらせる。


「なぜ……そんなことを聞く」


「あ、それは僕も気になっていました!」


「私もです。殿下を好敵手と思っていたのなら、どうしてその配下になられたのですか?」


 ラルとシシリーの追及に、スレイは「どうでもいいだろ」とはぐらかそうとする。


「どうでもよくはないだろ。ここにいる誰もが、殿下に対して何かしらの思いを持っている。士官学校の同期だったお前が、何も思っていないわけがない」


 鋭い指摘に、スレイは沈黙する。


「偶然配属された、なんて言うなよ。成績上位者は配属先を選べるはずだ。ハシム第四皇子旗下の近衛なんて、()()()()()配属されないぞ?」


 ヒューゴの追及は止まらない。ラルも「理由もなく志願するなんて、普通ありませんよね……」と疑いの眼差しを向ける。

 そこでヒューゴは、トドメの一撃を放った。


「なら、残る可能性は一つだ。スレイ、お前、()()()()()()()


 その言葉にラルとシシリーが息を呑む。スレイは半笑いで返した。


「密偵? 一番ありえないだろ」


「なら合理的に説明してくれよ。なぜ殿下の近衛を選んだのかを」


 沈黙を貫くスレイに、ヒューゴは何かを思い出したように声を張り上げた。


「俺としたことが、もう一つの可能性を見落としていたわ!」


「もう一つの可能性……ですか?」


 ラルが尋ねると、予想外の答えが返ってきた。


()だよ」


「えっ」


 絶句するラルと、ありえないという表情のシシリー。


「スレイさんに関わる女性となると……」


 しばらく考え込んだ二人は、顔を見合わせて同時に声を上げた。


「あっ……」


「まあ、そういうことだ」


「ち、違う! 隊長は関係ない!」


 スレイが慌てて弁明するが、ヒューゴは容赦なく畳みかける。


「違うなら、合理的な理由を言ってみろよ、()()()()()()


「僕は……」


「なるほどなぁ、アンジェか……。真面目君も意外と()()()()()()()だったんだなぁ」


「スケ……違う! 僕は……!」


 シシリーが軽蔑の眼差しを向け、ラルが困惑する中、ヒューゴはさらに煽る。


「だめだよスレイくん。上官に劣情をぶつけては……」


 我慢の限界に達したスレイは、立ち上がりざまに抜剣し、剣先をヒューゴへ向けた。

 ヒューゴも対抗するように立ち上がり、二本の短剣を構える。


「おいおい、図星だからって剣を抜くことはないだろ」


「散々煽っておいて、これもあんたの望み通りだろ!」


 円卓を挟んで睨み合う二人。ラルは落ち着かせようとしたが、シシリーに「放っておきましょう」と制止され、半分諦めた様子で座り直した。


「オッサン、あんたが剣技で僕に勝てると思っているのか?」


「勝とうなんて思っちゃいないさ。この短剣じゃ勝負にならないだろうしな。だが、人には得意な領分というものがあってな……そこに持ち込めば、五分五分くらいにはいけるさ」


 ヒューゴが不敵に短剣を振り回し、スレイも剣を構え直す。


「止めなくて、いいのかな……」


「大丈夫ですよ。いざという時は殿下の命令で、ライラ様が止めに入りますから。それよりラル様、おかわりはどうですか?」


「あ、いただきます」


 四人の賑やかな(?)お茶会は、まだ続くようであった。



 それぞれのお茶会の様子を、ハシムは遠くから眺め、時折頭を抱えていた。


「殿下、()()……致しますか?」


「必要ない。好きにやらせておけ」


 ハシムはライラの淹れた紅茶を一口飲み、小さく息を吐いた。


「まったく、阿呆どもめ……」


 中庭の円卓では、その後もそれぞれの「お茶会」が賑やかに続いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ