表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国を追放された第四皇子の俺は祖国を滅ぼし、全てに復讐ざまあします  作者: しぇりおん
第一章 帝国追放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/51

第28話 進軍の途

 

 帝国暦四九八年、八月 。


 要求が跳ね除けられたことを受け、ウェルシュ王国は一ヶ月の準備期間を経て、八月某日に挙兵した 。

 ウェルシュ王国は四万の軍勢を率いて越境 。そのうち三千を別働隊として山岳道へ向け、本隊は前進を開始する 。

 エドワード王が本隊を率い、別働隊はヘルマン将軍が指揮を執り、カーチス王子が同行していた 。


 国境侵犯の報を受け、レークランド王国も二万五千の兵を挙げ、迎撃のため王都を発った 。

 ハシム率いる近衛師団五百は、レークランド軍千五百と共に、山岳道を進むウェルシュ軍を阻止するため、山林の中を進軍していた



「いやぁ……、どこを見ても木ばかり。嫌になってきません、殿下?」


 馬上のアンジェがそう声をかけるが、同じく馬を進めるハシムは、気にする様子もなく淡々と答えた 。


「俺に話を振るな、阿呆」


「そんな冷たいこと言わなくてもいいじゃないですかー」


「そんなに話したいなら、後ろの者に声をかけろ」


 ハシムの言葉にアンジェが振り返ると、その視線の先には、慣れぬ手つきで手綱を握り、悪戦苦闘しながら馬に乗るカタリナの姿があった 。


「そうです、あまり手綱を強く引かずに、緩やかな感じで……」


 スレイがカタリナに並走しながら指導している 。アンジェはその光景を見ながら、二人の騎馬へと横付けした 。


「いやぁ、殿下に厄介払いされちゃった。やっぱりライラがいないと不機嫌になるのかな?」


 スレイは困ったように応じる 。


「知りませんよ、そんなこと……」


 カタリナは、話しかけてきたアンジェに不満げな視線を向けた 。


「ちょっとアンジェ、気を散らさせないでよ。今は集中したいの」


「あのさぁ……。カタリナ、ついてくるなら馬に乗る練習くらいしておきなよ」


 呆れるアンジェに対し、カタリナは必死に弁明する 。


「わ、私はこの陣営の軍師なんだから、ついていかないとアンタ達も心配でしょ」


 しかし、スレイをはじめ、周囲の反応はあまり肯定的ではなかった 。


「またそれか……。軍師を自称する割には、今回の作戦は殿下の独断に見えるけど?」


 アンジェが鋭く突っ込むと、カタリナは狼狽えた 。


「ぐっ……、それは……」


 思わず手綱を握る手に力が入ってしまったのか、馬が激しく嘶く 。


「力を抜いて! 締めたら駄目ですよ!」


 スレイが慌てて馬を落ち着かせる 。その様子を見て、アンジェは肩をすくめた 。


「大変だねぇ、アンタもお守りなんて……」


「そう言うなら代わってくださいよ……」


 スレイがぼやくと、アンジェは「いやだ」と一蹴し、再びハシムの方へと馬を駆け出させた 。


「まったく、あの人は……」


 スレイが溜息をつくと、カタリナも同意するように言った 。


「ホント、身勝手なんだから……」


「今のアナタも大概ですよ」


 スレイがすかさず釘を刺す 。


「うっ……。それは分かっているけど、私も何かしたいの……」


 俯くカタリナに、スレイは厳しい口調で諭した 。


「気持ちは分かりますけど、()()()()()も大概にしてください」


「ぐ、軍師ごっこって、アンタねぇ……」


「何か違うのですか?」


 スレイは淡々と話を続ける 。


「そもそも、近衛師団は非正規軍なので、アナタが指揮しても問題ありません 。ですが、帝国正規軍となると、軍属でもましてや士官学校出身でもないアナタには、指揮なんて到底出来ませんよ」


 その言葉に、カタリナは衝撃を受けたように目を見開いた 。


「え……」


「そんなことも知らずに軍師を自称していたのですか……」


 スレイの容赦のない指摘に、カタリナは何も言い返せず、黙り込むしかなかった 。



「いやぁ……。カタリナも大変だねぇ……」


 戻ってきたアンジェが呟くと、ハシムは辛辣な言葉を浴びせる 。


「何故、戻ってくる」


「何故って……。それはアタシが、殿下の犬だから、ですかね?」


「はぁ……。お前を飼ったのは失敗だったか……」


 ハシムがぼやくと、アンジェはわざとらしく膨れてみせた 。


「そんなひどいこと言わないでくださいよー 。アタシは忠犬ですよ? 噛みついたことなんて一度も無いでしょう?」


「噛みついたことが無い? 最初に出会った時、俺を()()にしたのは誰だったかな?」


 ハシムの指摘に、アンジェはムッとした様子で対抗する 。


()()()()()()()()ってイカれた命令する方も、大概だと思いますけどね」


「はっ、これ以上は不毛か」


 ハシムが少し懐かしむように笑うと、アンジェも笑みを浮かべた 。


「ええ、そうですね」


「あ、不毛と言えば、なんでカタリナの同行を許したんですか? 後ろでスレイに色々言われてますけど」


 アンジェの問いに、ハシムは「ああ、アイツか……」と呟き、前を見据えたまま話し始める 。


「まあ……、()()()()()というやつだ」


「それ言ったら、本人ブチギレますよ……」


 呆れるアンジェに、ハシムはふっと口元を緩めた 。


「ああ、分かっている 。だがそもそも、俺はヤツを《《軍師》》として陣営に入れたつもりは無い」


「それ言ったら、もっとブチギレますよ……」


「はは、そうだろうな」


 ハシムは半笑いの様子で応じる 。


「ヤツには悪いが、アイツの活躍の場は戦場じゃない 。もっと別の……、相応しい場所を用意している」


 アンジェは少し真剣な表情になり、恐る恐る尋ねた 。


「それを本人には……?」


「言っていない」


 ハシムは短く返した 。


「はぁ……、殿下の考えることが時々分からなくなります……」


「ふっ、それが正常だ 。俺の考えること目指していることは、()()()()()()()()()()()()()()()()


()()()()()()()()()()()……ですか?」


「ああ、そうだ」


 アンジェは心配そうな視線をハシムに送る 。


「やっぱ無謀ですよ…… 。アタシが代わりにやったとしても、成功率はそう変わらないのでは?」


「だからこそだ」


 ハシムは静かに、しかし威圧感のある声色で告げた 。


「この作戦は、俺自ら成し遂げることで意味が生まれる 。お前では駄目だ」


 その言葉の重みに、アンジェはそれ以上何も言えなかった 。



 同じ頃、ウェルシュ軍三千も山岳道を進んでいた 。

 先頭では、カーチス王子とヘルマン将軍が馬を並べている 。


「景色が変わらないというのは、これほどまでに退屈なのだな、将軍」


「はは……、もしよろしければ休息いたしましょうか? お誂え向きの小川もありますし……」


 ヘルマンの提案を、カーチスはにべもなく退けた 。


「不要だ」


 そのまま先へと進みながら、カーチスは不敵な笑みを浮かべる 。


「先程から休息……、その話ばかりだな 。まるで私を()()()()()()()()()()()()()


「そ、そのようなことは……」


 見透かされたヘルマンは言葉を濁した 。


「まあよい…… 。おぬしと父上の企みなど知らぬ 。このまま王都を我が手で攻め落としてくれる」


 自信満々に語るカーチスに対し、ヘルマンは恐る恐るといった様子で、上機嫌な王子に水を差すように口を開いた 。


「それですが王子……」


 カーチスは露骨に不機嫌な表情を浮かべる 。


「よい、話せ」


「恐れながら…… 。この先、レークランドも兵を忍ばせているでしょう 。たとえ突破できたとしても、我ら三千で王都を落とすのは困難となります 。王都の包囲に専念しても、陛下の主力が到達するまでに、敗走したレークランド軍に挟まれ、窮地となるでしょう……」


 ヘルマンの説明を聞き終えると、カーチスは怒気を含んだ声で返した 。


「つまりは……、この行軍には何の意味も無い 。そう言いたいのだな? 将軍」


「そのようなことは……」


 弁明しようとするが、カーチスには聞き入れる気がなさそうだった 。


「まったく……、くだらぬ茶番に付き合わされたようだな」


「王子……、そのようなこと仰らず……」


 ヘルマンが宥めようとするが、カーチスの不満は収まらない 。


「おぬしも父上も、過保護過ぎるのだ 。この程度の戦争で私が命を落とすと思うか?」


「け、決してそのようなことは! 我が身を賭してお守りいたします!」


 力強く答えるヘルマンに、カーチスは満足げに頷いた 。


「分かった……、ならば任せたぞ」



 それからしばらくすると、前方から騎乗した斥候が戻り、報告を入れた 。


「報告します! この先に村を二つ確認しましたが、敵影は確認できませんでした」


「そうか……、ご苦労だった 。この先も警戒を怠るな」


 ヘルマンの言葉に斥候は一礼し、再び走り去っていった 。

 カーチスはその報告を聞き、何かを企むように顎に手を当てて考え込む 。

 その様子に気づいたヘルマンが声をかけた 。


「王子? 何か?」


「いやなに、少し考え事をな…… 。ところで将軍、この戦争の名目と目的は何だったかな?」


 急な問いかけに、ヘルマンは記憶を辿りながら口を開いた 。


「当初の要求は、我が国を侮辱したことに対するレークランド王家の謝罪と、それに伴う賠償金の要求です 。ですが、それが実現しないと分かったため、軍事的な行動を起こした……そうなりますが……」


「そうだ、その通りだ将軍」


 カーチスは満足げに頷く 。


「この際、謝罪はもういいとしよう 。だが、そうなると賠償金はどこから捻出すれば良いと思う?」


「それは……、王族方の個人資産を……」


「そうだな、たしかにそれが()()()()


 カーチスの言葉の裏にある不穏な気配を察し、ヘルマンの顔色が変わる 。


「ま、まさか王子! それはなりませぬ!」


 慌てて諫めるヘルマンを余所に、カーチスは悪びれる様子もなく言い放った 。


()()()()王族から徴収する必要はなかろう?」


 冷酷な眼差しを前方に向け、カーチスは言葉を続ける 。


「この先には、敵国の村があるのだ 。そしてこれは戦争……、焼き討ちなど珍しいことではなかろう?」


 絶句するヘルマンを他所に、カーチスは無慈悲に命令を下した 。


「村を焼き払え」



 戦争の劇的な結末により、後世に語られることは少ない 。しかし、この戦争において、確かに二つの村が焼かれたと伝わっている 。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ