表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国を追放された第四皇子の俺は祖国を滅ぼし、全てに復讐ざまあします  作者: しぇりおん
第一章 帝国追放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/50

第21話 隣国の王子 #1

 

 帝国暦四九八年 五月。ハシムはいつものように目を覚ました。


「よう、殿下。よく眠れたか?」


 視界に入り込んできたヒューゴの顔を見るなり、ハシムは深いため息を吐く。


「どうした殿下? ため息なんか吐いて。悩みがあるなら俺が聞くぜ」


 得意げなヒューゴを無視し、ハシムはベッドの脇に立つシシリーに問いかけた。


「朝、最初に目に入るのが『おっさん』だった時の気持ち……お前は答えられるか、シシリー?」


「そうですねぇ……」


 少し考え込んだシシリーは、自信満々に断言した。


「ズバリ――『()()』! ではないでしょうか!」


「正解だ」


 満足げに頷くと、ハシムはベッドから出る。


「そんなひどいこと言わないで下さいよ。俺だって好きで野郎の寝顔を拝んでるわけじゃ……」


「ヒューゴさん、その言い方は不敬ですよ。メイド長がいたら吊るされていますよ?」


 シシリーの指摘に、ヒューゴは「確かにそうだが」と彼女へ向き直る。


「今日の朝当番は違うだろ?」


 その視線の先では、シシリーが立ち上がったハシムの着替えを手伝っていた。


「確かに今朝は私の担当ですが――『メイド長がいない』とは言っていませんよ」


 その言葉に、ヒューゴの身体が凍りつく。恐る恐る出入り口の扉へ目を向けると、わずかに開いた隙間から、満面の笑みを浮かべたライラがこちらを覗いていた。その姿に、ヒューゴはガックリと項垂れる。


「残念だったな、ヒューゴ。後で存分に絞られるといい……。だがその前に『それ』を渡してもらおうか」


 ハシムは着替えを終え、襟元を正しながら手を差し出した。ヒューゴは懐から一枚の紙切れを取り出し、それを手渡す。


「何処からだ?」


「速達ですよ。()()()()()()()()


 ハシムは紙切れを開き、中身を確認すると「なるほどな」と小さく呟いた。背後から覗き込んでいたシシリーが尋ねる。


「どんな内容ですか?」


 ハシムは無造作に紙切れをシシリーへ差し出した。その様子に、ヒューゴが「いいんすか?」と眉をひそめる。


「構わない。いずれ皆の耳に入る」


 ハシムがテラスへの扉を開ける傍らで、シシリーは「ふむふむ、なるほど」と納得したように頷いていた。


「それで殿下、これどうします?」


「処分しておけ」


「はーい」


 シシリーは机のロウソクから火を移すと、燃え上がる紙切れを暖炉へと放り込んだ。ハシムはそれを横目で見届け、テラスの手すりに手を置いて遠くを眺める。


 景色の奥、キャバリア山脈には黒雲が覆い被さり、嵐の予感を感じさせていた。



 その後、食堂で朝食を済ませたハシムが食後の紅茶を楽しんでいると、一人の使用人が慌ただしく入室してきた。


「失礼します、陛下」


 使用人はベイザルの側に寄り、何事かを耳打ちする。それを聞いたベイザルは、顔を険しくして立ち上がった。


「皆は、お茶会を続けるといい」


「どうされたのですか?」


 立ち去ろうとするベイザルを、ウルスラが呼び止める。


「いや……緊急というわけではないそうだが、ウェルシュのワルター大使がどうしても今、会いたいそうだ」


「ウェルシュの……」


 ハシムはそのやり取りを見逃さず、口を開いた。


「陛下、私も同席してもよろしいでしょうか?」


「殿下がですか……? 私は構わぬが、一応大使に確認せねば……」


「父上、私も同席させていただきたい」


 テオドールもハシムに続くように立ち上がる。


「テオドール、お前もか……。分かった、大使に確認しておこう」


 ベイザルは考え込んだ末に頷き、食堂を後にした。残されたハシムとテオドールは、互いの真意を探るように睨み合う。その張り詰めた空気を、周囲は複雑な面持ちで見守るしかなかった。



 謁見の間。ハシムは、ベイザル王とワルター大使の謁見に同席していた。対面にはテオドールがおり、相変わらず鋭い視線をこちらへ向けている。


「それでワルター大使、一体どのような用件だ?」


 玉座に座るベイザルが、肘を突きながら問いかけた。


「ベイザル王陛下。まずはお忙しい中、急な謁見に応じていただき感謝いたします」


 ワルター大使が深々と頭を下げると、ベイザルはそれを手で制した。


「よせ大使、知らぬ仲ではあるまい。頭を上げよ」


「ありがとうございます、陛下……。実は今朝方、本国から連絡がありまして」


 ワルターは時折言い淀みながらも、本題を告げる。


「親書を携えたカーチス第一王子が、レークランドに来訪されるとのことです」


「な、何だと……?」


 ベイザルが困惑の声を漏らす。


「大使、それは本当か? イリーナとの結婚式は七月、まだ一月以上先のはずだが」


「はい。本国にもそのように伝えておりますが……王子がどうしてもと聞き入れず……」


 ベイザルは額に手を当て、深く俯いた。


「続けて申し訳ありません、陛下。実は――既に本国を発ったとの知らせが届いております」


「何だと!!」


 ベイザルが思わず玉座から立ち上がる。そこへ、ハシムが冷静な口調で追撃を加えた。


「陛下。既に発っているとすれば、国境への到達も時間の問題かと」


「それはまずい……。国境門で隣国の王子を足止めさせるわけにはいかぬ」


 ベイザルは小声で呟き、短く思案した。


「テオドール! 今すぐ国境門へと向かい、王子の送迎を頼む!」


「分かりました、父上」


 命を受けたテオドールは、足早に退室していく。ワルター大使が「申し訳ありません」と重ねて詫びる中、ベイザルは玉座を降りて彼の肩を労うように叩いた。


 事前に情報を掴んでいたハシムは、その光景を眺めながら、口元を隠して密かにほくそ笑む。その様子を、去り際のテオドールが疑わしげに見つめていた。



 夕暮れ時、王城前では隣国の王子を出迎える準備が整えられていた。テラスからその様子を眺めていたフウカが、手すりに腰掛けながら尋ねる。


「いいの? 出迎えしなくて」


「ふっ、俺は帝国の皇子だぞ。ウェルシュの王子を出迎える義理などない」


 ライラが淹れた紅茶を一口すすり、ハシムは冷淡に言い放った。


「噂の王子ってどんな奴だっけ?」


 アンジェが菓子をつまみ食いしながら問うと、本を読んでいたカタリナが答える。


「さあ? 噂では典型的な『バカ王子』だとか」


「そのような者が次代の王になるとは。ウェルシュもいよいよ終わりですね」


 ライラが淡々と紅茶を注ぎ足すと、ハシムも同意するように頷いた。


「ああ。帝国領ウェルシュになるのも、そう遠くなさそうだ」


「でも、その王子がいる間は無理なのでは?」


 カタリナの疑問に、ハシムは不敵な笑みを浮かべる。


「ふっ、一国の王子を王座から引きずり降ろす方法など、()()()()()()()


 その悪辣な言葉を聞いても、周囲の面々は「いつものことだ」とばかりに動じる様子を見せなかった。




 やがて、王城前に一台の豪華な馬車が到着した。扉が開くと、中から肥満体の男が降りてくる。男は目の前に立つベイザル王と握手を交わした。


「あれが噂の王子……」


「まるでブタだね」


 フウカの毒舌に、アンジェも思わず吹き出す。


「はは、確かにあれはブタだな」


「失礼ですよ。仮にも一国の王子なのですから」


 ライラが釘を刺すが、ハシムは突き放すように言った。


「ライラ、あのような者に敬意を払う必要はない。民が困窮する国で、自分だけ肥え太るような『()()』をする輩に、払う敬意などない」


 ハシムの言葉に、ライラは「はい、殿下」とだけ返した。


「ねぇ、見てよあれ……」


 アンジェが指差す先では、レークランドの三姉妹が王子に跪き、その手に口づけをしていた。


「ねぇ、あれって正しい礼節マナーなの?」


 カタリナが苦々しく首を振る。


「いえ、明らかに違いますね。手への口づけは敬意や愛情を示すもの。あのように強制されるものではありません」


「姫様たちが可哀想……。あんな奴に敬意を払わなきゃいけないなんて」


 アンジェが同情を寄せ、フウカも嫌悪感を露わにする。


「ここからじゃ見えないけど、きっとゲスな顔してるね」


 ハシムは不快そうに、ソフィアが口づけを強いられる光景を黙って見届けた。



 その夜、王子歓迎のささやかな夕食会が開かれた。ハシムもその場に呼び出され、食堂へと赴く。


「初めまして、王子。アンダルシア帝国第四皇子、ハシムと申します」


 ハシムが手を差し出すと、カーチスは傲慢な態度でその手を取った。


「そうか、お前が噂の『異邦の血が混じった』皇子か」


「我が名はカーチス。よく覚えておくとよい。いずれ大国の主になる男だ」


 カーチスはそう宣言し、握ったハシムの手を強く締め上げる。


「ええ、こちらこそよろしくお願いします」


 挑発的な力に対し、ハシムは顔色ひとつ変えずに応じた。


「さあ、お二方の親睦も深まったところで、会食と参りましょう」


 ベイザルが割って入り、使用人たちに料理を運ばせる。二人は手を離し、それぞれの席に着いた。


「王子の急な訪問ゆえ、ささやかな料理しか用意できませんでしたが、どうかご賞味あれ」


 ベイザルの促しに従い、カーチスは肉を一切れ口に運んだ。そして咀嚼するなり、吐き捨てるように言った。


「なるほど、それなりですね。我が家の料理人であれば、もっと美味しく作れるでしょうが」


「はは、そうですな。誰しも我が家の味が一番でしょう」


 ベイザルは笑って受け流したが、隣に控える料理人に何かを囁き、退室させた。ハシムはその料理人が去り際に見せた、暗く曇った表情を見逃さなかった。


「さあ皆、食事を続けよう」


 ベイザルの号令で食事が再開されるが、カーチスの一言で食卓は冷え切っていた。食器が触れ合う音だけが響く中、カーチスを除く全員が確信していた。


 この王子が、この国に波乱を巻き起こすであろうことを。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ