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帝国を追放された第四皇子の俺は祖国を滅ぼし、全てに復讐ざまあします  作者: しぇりおん
第一章 帝国追放編

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第17話 王女誘拐

 

 ハシムがライラを連れ、アンジェと大使の送迎について話していると、スレイが足早に近づいてきた。


「殿下、少しお耳を……」


 ハシムはスレイの様子に頷き、その報告に耳を傾ける。だが、次の瞬間、彼は絶句した。


「それは……本当なのか?」


「はい。確定ではありませんが、おそらく……」


 深刻な表情を浮かべるハシムを見て、周囲の者たちも事態の異常さを悟った。


「まだ近くに居るかもしれない。大使の護衛は一時中止だ。全員で捜索に当たれ」


 ハシムの指示に、スレイは「分かりました」と即座に応じ、その場を去る。


「殿下? 何かありましたか?」


 ライラが恐る恐る尋ねると、重苦しい沈黙の後、ハシムが口を開いた。


「ソフィア様が行方不明になり、護衛の兵士が殺された。……おそらく誘拐されたのだろう」


「そ、それは……」


 ライラが声を漏らし、アンジェが叫ぶ。


「大変じゃないですか! 今すぐに捜索しないと!」


「分かっている!!」


 ハシムが珍しく声を荒らげた。


 普段は冷静な彼が感情を露わにしたことに、ライラとアンジェは困惑を隠せない。


「ふう……すまない。一旦冷静にならねばな……」


 ハシムは一度深呼吸し、再び指示を出す。


「アンジェ。スヴェン大使とゼインに事態を説明し、人手を借りられないか頼んでくれ」


「わかった、すぐ動く!」


 アンジェを見送ったハシムは、立ち尽くしたまま思案に耽る。


「殿下……」


 ライラが声を掛けるが、ハシムは短く返した。


「ああ、分かっている。……だが今は一人にさせてくれ」


 ハシムはその場を離れ、ライラは一礼して彼を見送った。



「舐め腐りやがって……!」


 一人になったハシムが、誘拐現場と思われる場所で考え込んでいると、背後から聞き慣れた声がした。


「大変そうだね、ハシム」


 いつの間にか現れたフウカが、ハシムの前に回ってしゃがみ込む。


 地面の血痕を観察し、「背後から音もなく、って感じだね」とフウカが呟く。


「そうか」


 ハシムの返答は素っ気ない。


「ねぇ、これもハシムの仕込みなの? わたしは聞いてないけど」


「お前が聞いていないなら、それが答えだ」


 フウカは「ふーん」とだけ返し、立ち上がってハシムを覗き込んだ。


「本当に?」


 ハシムは彼女を鋭く睨みつける。


「……確かに、あの姫に何か仕掛けようとは思っていた。だが、少なくとも今日今この瞬間ではない……。それに、誘拐させるなら不測の事態に備えて、ライラを同行させる」


「ああ、確かに。ハシムならそうするね」


 フウカはわざとらしく手を叩き、納得した様子を見せた。



「ハシム、ここにいたのか。お前までいなくなったかと思ったぞ」


 今度はゼインが声を掛けてきた。いつの間にかフウカの姿は消えている。


「ゼイン、状況はどうなっている?」


「大使には話したよ。全面協力してくれるそうだ」


「そうか。大使には頭が上がらないな」


「それで、どうする」


 ハシムは周囲に目を向け、冷静に分析する。


「おそらく以前から計画されていた作戦だ。もうこの近くには居ないだろう」


「やはりそうか」


「これが誘拐なら、目的は達した。次はおそらく……」


 ハシムが言い掛けた時、二人の前に一人の男が現れた。


「初めまして殿下。誘拐犯です」


 男が名乗るや否や、ゼインが素早い動きで背後から組み伏せた。ハシムは剣を抜き、その喉元に突き付ける。


「……言っていい冗談ではないと、分かっているな?」


「ええ、もちろん分かっていますとも」


 男は組み伏せられながらも、飄々とした様子で答える。


「立たせろ、ゼイン」


 ゼインは男を立たせながら、ハシムに問う。


「信用できるのか?」


「信用はしない。ただ知っていることを喋らせるだけだ」


「そうか。なら俺に任せろ。()()()()()()()()()


 ゼインが不敵な笑みを浮かべると、男は慌てて弁明した。


「必要ありませんって!旦那方! 話します、話しますよ! 俺は要求を伝えるため『だけ』に送られたのですから」


 ハシムはその『だけ』という言葉に引っかかりを覚えたが、ひとまず要求を促した。



「要求は何だ?」


(かね)です」


 男の答えは簡潔だった。


「金? それだけのために王女を誘拐するのは、釣り合いが取れないだろう……」


「そんなの俺に聞かれても……。『下っ端』……なんでね」


 ゼインの問いに、男はヘラヘラと笑う。


「分かった……。要求を飲む。金ならいくらでも用意しよう」


「いいのか、ハシム?」


 驚くゼインに、ハシムは静かに頷く。


「だが条件がある。金を渡す前に、姫の無事をこの目で直接確かめさせてもらう」


 男はしばらく沈黙した後、「いいですよ」と承諾した。


「ですが、武装解除した()()()()()()()でお願いします」


「おい、ふざけるな!」


 ゼインが男を背後から突き飛ばした。


「誘拐犯と丸腰で交渉なんて出来るわけないだろう! ふざけやがって!」


 殴り掛かろうとするゼインを、ハシムが制する。


「待て、ゼイン」


「ハシム、分かっているだろうが()()()()()。帝国の皇子が丸腰で行けば、お前が新たな人質になるだけだぞ!」


「ああ、分かっている……」


「それでも行くのか?」


「ああ」


 ハシムの決意が固いことを察し、ゼインは頭を掻いた後、溜息をついて拳を降ろした。



「話はついたようですね」


 男が合図を送ると、路地からさらに二人の男が現れた。


「お仲間というわけか」


 ゼインが吐き捨てると、男は「ええ」と頷く。


「じゃあ、行ってくるよ、ゼイン」


「気をつけろよ、ハシム」


 路地から出た男たちはハシムの剣を奪い、目隠しをして拘束すると、そのまま奥へと連れ去って行った。


「さて、お前には改めて話を聞かないとな」


 ゼインが残された男を睨みつけると、男は「どうぞ、お手柔らかに」と相変わらずの調子で返した。


「隊長、追跡しなくてよろしいのですか?」


 部下の問いに、ゼインは平然と答える。


「大丈夫だ。あいつの配下が動くだろう。それよりも俺は、大使に叱られることの方が怖いよ」


 そう言いながらも、ゼインの心中は友の安否で一杯だった。




 目隠しをされ拘束されたハシムは、馬車で揺られることおよそ三十分。目的地に到着した。


「着いたぞ、立て」


 乱暴に馬車から降ろされる。


「おい、大事な交渉人様だぞ。もっと丁寧に扱え」

「へいへい」


 ハシムは(かしら)と呼ばれる男の前に引き出され、跪かされた。


「目隠しを取ってやれ」


 光が差し込み、目が慣れたハシムが辺りを見回すと、そこは野盗たちの根城のようだった。禿げ頭の男がハシムを覗き込む。


「よう、皇子殿下」


「あんたが代表者でいいんだな?」


「ああ」


「交渉する前に、人質の確認をしたい」


 頭はしばらく考え、「いいだろう。連れてこい」と指示した。

 古い教会から、手を後ろで縛られたソフィアが姿を現す。


「ソフィア様!」

「で、殿下!」


 互いの姿を捉え、名を呼び合う。ソフィアの背後には、同じく拘束されたキュリーの姿もあった。


「本物だ。悲鳴も聞くか?」


 頭は懐から短剣を取り出し、ソフィアの頬に当てる。


「っ……!」


 ソフィアが言葉にならない声を漏らす。


「どうだ、分かったか?」


「ああ、分かったよ。……あんたたちが最低だということが、特にな」


 頭はニヤリと笑い、彼女たちを再び教会へ戻させた。



「さて、確認は済んだ。そろそろ交渉と行くか?」


「交渉するなら、まず私の拘束を解け」


「そいつは無理だ。あんたを野放しにしたら何を仕出かすか分からねぇ」


「暴れるつもりはない。……あんたらが()()()()()()()()()()()


 ハシムの怒気を含んだ声に、野盗たちの間で嘲笑が漏れた。


「おいおい。ここに来た時点で、あんたは交渉人じゃなくて『人質』なんだよ!」


 跪くハシムに、男たちが一斉に言葉を浴びせる。


「つまり、交渉する気はない。ということか?」


「当たり前だろ! 皇子さんよ、清廉潔白を地で行くのは勝手だが、この状況でそれは間違いだぜ」


 頭の言葉に再び笑いが巻き起こる。そんな中、ハシムは沈黙した。


「俺たちは金さえ手に入ればそれでいい。大人しくしていれば、愛しの姫様と一緒に解放してやる。双方に死人も出ない。良い話だと思わないか?」


 頭はさらにゲスな笑みを深める。


「まぁ、あのメイドに身代金は付かないだろうから、今夜あたりに慰み者になるかもしれないが……」


 男たちの下卑た笑い声がハシムの頭の中で反響する。


「おやおや、絶望しちゃったか?」


 一人の男が顔を覗き込もうとしたとき、ハシムが静かに口を開いた。


「ずっと考えていた。……あんたたちを、どうするのが一番良いのか」


「それで、答えは出たのか?」


 頭の問いに、ハシムは怒りを孕んだ声で答えた。


「ああ。……皆殺しだ」


 その瞬間、ハシムの目から光が消えた。

 そのあまりに冷酷な気配に、男たちは一瞬、息を飲んだ。


「は、はは! 何ふざけたこと言ってやがる!」

「手を縛られて何が出来るってんだ!」


 一人の男が背後からハシムに殴り掛かった。

 だが、ハシムは瞬時に縄を解いて立ち上がり、背後の男の腹部へ肘打ちを叩き込む。


「がはっ!!」


 崩れ落ちる男の腰から、ハシムは奪われていた己の剣を抜き取った。


「て、テメエ! どうやって拘束を!」


「世の中には『抜けやすい縛られ方』というものがある。知っておくべきだったな?」


 ハシムは手に残った縄を投げ捨て、鋭い眼光を男たちに向ける。



「……どうやら本気のようだな。手足の一本くらい無くさないと、理解できないらしい」


 頭は吐き捨て、教会の方へと戻っていった。


「適当に相手してやれ」


 ハシムを囲む男たちが口々に罵声を浴びせる。


「帝国の皇子だからって、この人数を相手に何ができる!」


「人数など、大した問題ではない」


 ハシムは剣を構えた。


「テメエ……ちゃんと目が見えてんだろうな! 数も分かんねぇのか!」


 ヘラヘラと笑う男たちに、ハシムは冷徹に言い放つ。


「数は数えられる。……後でお前たちの、()()()()()()()()()()


 逆鱗に触れたハシムの言葉に、激昂した男たちが一斉に襲い掛かった。


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