第3話:信じた正しさの影で
星が煌めき始めたころ、
近くの倉庫から何やら騒がしい声がする。
数人の男が、しゃがみ込む女に声をかけていた。
「ちっ、仕方ねぇな」
そう呟くと、アルは彼らに近づき、肩で大きく息を吐く。
そして、ひょいと男たちを覗き込んで、声をかける。
「どうかしました~?」
「いや、女の人がしゃがみ込んでて……」
男たちは少しバツが悪そうに口を濁す。
アルは女の方をちらりと見つめる。
「あ!この子探してたんですよ。知り合いなんで送って帰りますね!」
そう言うと、笑顔で男たちに手を振った。
男たちは釈然としなさそうに、ぶつぶつ言いながら去ってゆく。
「ちょーっと、わざとらしすぎたかねぇ」
頭をガシガシ掻きながら、男たちが見えなくなるまで手を振り続ける。
見えなくなると、アルは女に振り返った。
しゃがみ込んでいた女は立ち上がり、無言でこちらをギョロリと睨んでいた。
「よくも、ジャ、マ……ヲ」
「悪かったな。さっさと帰らねぇと、もっとお邪魔しちまうぜ」
アルは真紅の瞳で睨みつけ、すぐそばの歪みを顎で指す。
女は、淀んだ空気を放ち始め、アルめがけて飛びかかる。
アルはポケットに手を突っ込んだまま、ひょいと後ろに飛び退いた。
既に異形へと戻った女は、アルをジロリと見ると目を見開いた。
「オマエ、ハ……
コロセ……コロス……コノ……ニオイ」
アルはその言葉に舌打ちをする。
「ちっ……あいつのか」
そして、腕を振りあげる。
異形の肩に赤い線が走る。
焦げた匂いとともに、異形は跡形もなく消え去った。
アルは肩で軽く息を吐く。
「なんか用か?」
背後に立っていた彼に問いかける。
「いえいえ、男の方たちがこちらを気にされながら出てこられたので、少し気になってしまい」
そう言うとニコリとアルに微笑んだ。
「見てただろーが」
アルはジトリと彼を見つめ、小さく呟いた。
「……お前には、できないこーと」
両手をポケットに突っ込んだまま、ひょいと塀に飛び上がる。
「しっかし、こんな時間に暇なのかよ」
アルは塀の上から彼を見下ろす。
「有給休暇中なのですよ」
彼は微笑みながら言い返す。
アルはその言葉に彼をジトリと見つめる。
「……ったく、ホワイトだな」
「当然です」
彼は、そう受け流す。
アルは苦虫を潰したような顔で彼を見つめた。
◇◇◇
アルがいつものベンチへ来ると、既に彼が座っていた。
両手をポケットに入れ、口にタバコを咥えている。
アルは背後から彼に声をかける。
「お前でも吸うことあるんだな」
「真似をしてみただけです」
彼はアルにニコリと笑う。
タバコには、火はついていなかった。
アルは横に座り、タバコを咥える。
桜が彼らのそばで、静かに舞い始めていた。




