8 魔法使いペイズリーあらわる
「う〜ん…会わせてあげたいけど、そのままだと、ラクラミキオアラの目にはペイズリーは見えないのよ。あなたがペイズリーに魔法をかけてもらえば、ペイズリーの姿が見えるようになるから、ペイズリーが来たら、わたしが頼んであげるね。ラクラミキオアラに魔法をかけて、って」
ドイナはそう言って、ラクラミキオアラに微笑みました。ラクラミキオアラはドイナに抱きついて、
「ドイナ、だいすき〜!!」
と叫びました。ドイナはおどろいて目を丸くしたあと、声をあげて笑いました。ラクラミキオアラの無邪気さが、おもしろくて、可愛くて、仕方なかったのです。口に出してはいませんでしたが、ラクラミキオアラがドイナと友達になれて喜んでいるのと同じくらい、ドイナもラクラミキオアラと友達になれたことを喜んでいました。
「じゃあ、また鳥になって、ペイズリーを呼んでみるから、ちょっとそのまま待っててね!」
そう言ってドイナは再び目を閉じ、きらきらした光につつまれ、鳥になりました。そして今度はさっきよりも高いところまでいって、ちー、ちー、と鳴きました。何度も繰り返し鳴いてから、ベンチの上におりてきて、光につつまれ、ドイナは人間の姿にもどりました。ラクラミキオアラが目をぱちくりさせていると、ドイナは、
「今、ペイズリーを呼んだから、少し待っていたら来ると思う。彼の心にテレパシーで伝えておいたから。来て、って!」
「テレパシー…って、なに?」
「言葉をつかわずに、直接、彼の心に言いたいことを伝える方法なの。妖精や魔法使いがもつ、不思議な力なんだよ」
「すごーい!!」
ラクラミキオアラは大興奮して、
「わたしもテレパシー、つかいた〜い!」
と言いました。ドイナは笑って、
「ラクラミキオアラは人間だから、ちょっと無理じゃないかなあ。でも、そのうち出来るようになるかもね。ラクラミキオアラなら、あり得るよ!すっごく無邪気だから!アハハハ!」
と言いました。ラクラミキオアラはとても嬉しそうに、
「ほんと!?やった〜!キャハハハハ!」
と大笑いしました。
そのときです。ドイナが、
「あ、来た」
と言いました。そのときドイナだけでなくラクラミキオアラの目にも、遠くの空に、銀色の、厚みのある円盤のようなものに乗って、くねくねと左右に繰り返し小さく曲がる曲線を描きながら、ものすごい速さでこっちに向かってくる少年の姿が見えていました。くねくね飛んでいるのは、真っすぐ飛びたいのに左右にゆれてしまっているわけではなく、曲げながら乗ったほうが楽しいし、かっこいいから、わざとそうしているのです。あと五十メートルほどのところまで近づいてきたとき、その少年の乗った円盤は地面に向かって角度をつけて、おりてきました。そして二人の前まで来ました。円盤はものすごい速さでくるくる回転しています。回転しているから少年は乗れないはずなのに、乗っているのです。そして少年はなぜか回転せずに、ずっと前を向いています。どういう仕組みになっているのか、ドイナにも、ラクラミキオアラにも、分かりません。円盤は激しく回転しているので、砂ぼこりが舞い上がるはずなのに、まったく舞い上がりません。少年は黒いシルクハットに白いシャツ、深緑のネクタイに、紺色のジレ、黒いスラックスという服装だったので、ラクラミキオアラは、まるで手品師みたいだと思いました。でも、ネクタイは蝶ネクタイではなく、普通の縦長のネクタイです。そのネクタイにはペイズリーと呼ばれる、細かい模様が糸でびっしり描かれていました。それが、彼が「ペイズリー」と呼ばれている理由なのです。彼はこげ茶いろのステッキを持っていて、そのステッキはスネークウッドという、ものすごく硬くて重い、珍しい木で出来ています。しかもただのスネークウッドではなく、伝説の魔法使いと呼ばれる彼のおじいちゃん「ペイズリー1世」から父が受け継ぎ、それをまた彼が受け継いだものなのです。つまり、彼はペイズリーと呼ばれていますが、正式には「ペイズリー3世」なのです。ラクラミキオアラには彼の姿がはっきり見えていました。まず最初に、思ったよりも年齢が近そうだと思いました。八歳から十歳くらいに見えたのです。でも魔法使いなので、もしかしたら百万歳だったりするかも知れない、と思いました。それからラクラミキオアラは、思ったよりもかっこいいじゃん、と思いました。でも、それを言ったら調子に乗りそうなタイプに見えたので、言わないでおこうと決めました。3つめに、かっこいいけど、結構おっちょこちょいかも知れない、と思いました。これは、ただなんとなく、そんな予感がしたのです。
「ドイナ、呼んだ?…あれ?その子、だれ?」
ペイズリーはそう言って、銀色の円盤からひょいと地面に飛び降りました。円盤には細かい彫刻がほどこされています。まんなかに顔になっている太陽があり、その周りに、蟹や、天秤や、羊などが見えます。ラクラミキオアラはそれを見て、星座のデザインなんて、すてき!と思いました。ペイズリーがステッキのさきっちょを空中でくるっと回すと、それまで地面にペタッと置かれていた銀の円盤が起き上がり、垂直になったところでピタっと止まりました。そのときにラクラミキオアラは、それが大きな懐中時計であることに気づきました。彫刻がほどこされている面の裏側は、白い文字盤の大きな時計になっていたのです。長い針も短い針も、くね、くね、と二回曲がってから数字を指すデザインになっています。針のさきっちょは矢印になっていますが、これまた真っすぐではなく、曲線で美しくデザインされた矢印でした。ペイズリーがもう一度、ステッキを空中で回すと、ペイズリーが乗ってきた巨大な懐中時計は光につつまれて一瞬で消えました。
「この子、ラクラミキオアラ。人間の女の子なの」
ドイナがそう言ってラクラミキオアラを紹介すると、ペイズリーは少しおどろいた顔で、
「やっぱり人間か。妖精とは違う感じだったから、そうだと思った。あんまり人間とはかかわるなっていう妖精のルールがあるのに、お前ってやつはちっとも守らないんだから、困ったもんだよ」
と言いました。ドイナは、
「ねえ、ペイズリー。この子、魔法使いと会ってみたいって言ってるの。あなたの姿は人間には見えないけど、魔法を使えば、見えるようにできるでしょ?ラクラミキオアラに魔法をかけてあげてくれない?」
と言いました。そのときです。ラクラミキオアラが、へいぜんと、こう言いました。
「え?見えてるよ?普通に。見えてる」
ドイナとペイズリーはものすごくびっくりして、同時に、
「え〜〜〜!!?」
と、大声で叫びました。




