62 それぞれの物語
ペイズリー3世とバズムはブランの森の上空を通過し、家々が立ち並ぶラスノフの上空に差し掛かりました。そのころには高度を下げ速度も落として飛行していたので、地上を眺めていたラクラミキオアラは自分の家を通り過ぎてしまったことに気づきました。
「あっ!いま公園が見えた!てことは、わたしのお家、通り過ぎちゃってるよ!」
ラクラミキオアラの身体は魔法でとても小さくなっているうえ、飛行中で風の音もおおきいので、彼女の声は普通の状態であれば3世の耳に届くはずはありませんでした。しかし3世は三人を魔法で小さくしたときに、声が届くようにする魔法もかけていたので、ラクラミキオアラの声をしっかり聞き取ることができました。
「えっ!?通り過ぎちゃったの?そういえば、ラクラミキオアラの家を空から探すときに目印になるものとか、きいておくの忘れてた!!」
3世が目を丸くしてそう言うと、ラクラミキオアラも、
「わたしも、言うの忘れてた!!」
と言って、二人は爆笑しました。ドイナとエレナも一緒になって笑いました。
「上から屋根を見て見つけようとしても、ほとんどの家が同じような赤茶色だから、無理だよ!それに着陸した後、魔法で身体のおおきさを元に戻したりしなきゃいけないでしょ?いきなりお家の前に着陸するより、一度別の場所に降りて、そこからお家に向かう方がいいと思う。昨日待ち合わせた、ラスノフの公園でいいんじゃないかな。あ、昨日って言っても、こっちの世界では"今日"だけどね!」
ラクラミキオアラはそう言って、笑いました。
「了解っ!!じゃあ、とりあえず少し戻るか…Uターンするよ!」
ペイズリー3世はそう言って、ゆるやかなカーブを描いてターンしました。バズムもその後を追ってターンしました。
「公園、公園…」
3世は視線を地上に向け、公園を探しました。
「あっ!あった!あれだよね!」
3世の人差し指は地上の一点に向けられていました。
「うんっ!あれっ!あの公園っ!」
「よしっ!真っすぐ降下しないで、たくさん円を描く感じで高度を下げていくからね!昔じいちゃんに教わった、螺旋降下っていう方法なんだ!」
3世は説明した通り、いくつもの円を描くように、ゆっくりと降下していきました。うつくしい石畳の通りを歩く人たちの姿が、だんだんおおきく見えるようになってきました。肩を寄せ合い、手を繋いで歩く老夫婦。抱っこ紐を使って赤ちゃんを抱きかかえている若い女性。ネクタイをしめて、一人で少し寂しそうに歩いている男性。楽しそうにはしゃぎながら歩く中学生くらいの男の子たち。様々な人たちが同じ空の下で、今という同じ瞬間を生きていました。
"一人ひとりの心の中に、かけがえのない過去、忘れたい過去、悔やんでいる過去、輝いている過去があり、おそれている未来、夢見ている未来、どうしてもつかみたい未来…そして、無限の未来がある。一人ひとりが、それぞれの物語を大切に抱きしめて、いっしょうけんめい生きているんだ"ラクラミキオアラは通りを歩く人たちを眺めながら、そう思いました。




